加藤正人(かとうまさと)
シナリオ・演出。代表作に『クロノ・トリガー』、『ファイナルファンタジーⅪ』など。
江草天仁(えくさたかひと)
アートディレクター・キャラクターデザイン。頭に備長炭を乗せた女の子、“びんちょうタン”の生みの親。
竹嶋大輔(たけしまだいすけ)
ディレクター・マッププランニング。フィールドマップ担当。2020年半ばからディレクターを引き継ぐ。
チェー・シンウ(ちぇーしんう)
メインキャラクターデザイン。韓国から日本の美術大学に進学し、グリーに入社。
去る2021年4月12日にサービス4周年と第2部の完結を迎えた『アナザーエデン 時空を超える猫』。スマートフォンで楽しむRPGながら、フレンド機能や時限のイベントなどを廃し、ひとりで黙々と冒険に向き合えるこの作品について、週刊ファミ通2021年4月29日号では特集を展開した。その特集にて掲載した、リリース初期から作品を支え続けている開発スタッフの皆さんに4周年を迎えた感慨、これまでの製作過程で込めた想い、そしてこれからの展望などを尋ねたインタビューをこの記事では増補。『アナザーエデン』の核にあるものは何かを探った。
すべてをさらけ出して「君ならどう思うか?」をぶつけています
――4周年おめでとうございます。まずは4周年記念イラストに込めた想いを教えてください。チェーさんのお仕事でしょうか?
チェー僕と江草ともうひとりでの合作です。アルドとフィーネを中心に、みんなが前に進んでいるようなイメージを見た皆さんに楽しんでもらいたい、という想いで描きました。
――みんな表情が明るく楽しそうです。背景色もカラフルですね。
チェー背景に関しては、運営が続いているだけコンテンツも蓄積されていて、色の数ぐらい「コンテンツが詰まっているよ」というのを表したかったのかもしれません。キャラクターが進んだ軌跡に、いろいろな色が残っているのはそういうことです。いま思いつきましたが(笑)。
一同 (笑)。
――キャラクターの軌跡も早4年。これだけ長く作品が愛される理由を、皆さんご自身で考察されるなら、どういう答えになるのでしょう?
竹嶋シナリオやBGM、アートだったりと、プレイヤーの皆さんそれぞれに「ここが好き」という部分があってくださって、それは開発スタッフがそれぞれ全力を尽くしている結果であり、その想いがキチンと届いているんだなといううれしい思いでいっぱいです。また『アナザーエデン』のように、配信ゲームでスタンダードなギルドやフレンドなどのオンライン要素を取り除いたシングルプレイRPGは、リリース当時はほぼなかったと思います。イベントに急かされず、更新があったら自分のペースで遊べるなど、昔RPGで感動した体験を持つ方に選んでいただけているのかなと。
――コラボのクエストすら、後からでも体験できるのはかなり特異だと思います。
竹嶋ですが、いつでも遊べるということは、後回しにされやすいということでもあります。ありがたいことに、刺さった方には長く遊んでいただけていますが、そういった方々にこれからも遊んでもらえるように、また、より多くの方に浸透するよう、今後もどうアプローチしていくか慎重に考えて、皆さんが楽しめる作品を提供していきたいです。
――アートの面からはいかがですか?
江草ゲームのアートって、自分のやりたいことを出しすぎてしまうと、最初にプレイヤーの目に留まったときに、積極的に選んでもらえなくなることがあるんですよね。ですので、自分が開発に関わって初めに意識したし、求められたのは、多くの方に“嫌われないアート”でした。ただ『アナザーエデン』の開発って、ひとりひとりの能力を信頼し、尊重してくれるスタッフに囲まれていて、全員が持ち場の人間の裁量としてプレイヤーの皆さんに伝えたいことを全力で注ぎ、それを強い力でまとめる人がいる。つまり自由にやらせてもらえているんです。
――「嫌われない」というところから、次第に自由度が増していったと。
江草自分の姿勢が変わっていったと言いますか。たとえば、自分にとって加藤さんは雲の上の存在ですので、仕事では恐縮しないようにしていましたが、加藤さん自身がそういうことをまったく気にしない人だったんです。すると「こんな謎のキャラクターを作ったら、加藤さんやみんなはどう料理してくれるか?」と、掛け合いを楽しみながら作るようになれたんですね。作っている側が楽しんでいるそういう姿勢が伝わり、皆さんに愛されているのかもしれません。
――楽しんでいるのは作品から伝わってきます。
江草結果、売れ線を狙ったキャラクター作りをだんだん意識しなくなりました。少々土臭いキャラクターを作っても、プレイヤーの皆さんはすごく寛大に受け止めてくださいます。たとえば露出が高かったり、流行りのようなものを取り入れすぎたりすると、あまり受け入れられなかったりします。ソーシャルゲームとは思えないような愛されかたなんですよね。そういうプレイヤーの皆さんとのキャッチボールがあればこそ、『アナザーエデン』はこれだけ続いているんじゃないかと思います。
チェー僕が思うに、理由のひとつには、リリース当初から軸をブラさずにいることが挙げられると思います。『アナザーエデン』はひとりで遊ぶというスタイルも大前提ですが、夏なのに水着を出さなかったり、アートでは若干流行りを外したりなど、我が道みたいなものを守っているところがおもしろく感じていただけているのかなとも。また、キャラクターデザインに関しては、1体1体が主人公でもおかしくないくらいに愛されるものを目指しています。見た目も、冒険世界に溶け込みつつも目立つように、全員でがんばって作っているところなどですね。
――世界に溶け込みつつ目立つというのは相反するお話ですよね。目立たせるには、かつてない方向性のキャラクターを作るのだと思いますが、溶け込ませるにはどういう考えかたが必要になるんでしょう?
チェー時代も場所も幅広い物語なので、時代ごと地域ごとにデザインのテイストが変わります。ですので、「東方はだいたいこう」ですとか、「西方はこう」、「古代はこう」という大枠のようなものを、スタッフのあいだでざっくりと共有しています。まずはその範囲の中で溶け込ませつつ、ふつうのNPCだったり村人とは違った要素を取り入れることで、一風変わったキャラクターを作ることができているんじゃないかなと思いますね。
――共有事項には、何か明文化されたものがあるのですか?
チェーわりと感覚的なシンプルなものです(笑)。たとえばIDAスクールだったら、「まあ制服だよね」と共通項を設け、一方で「キャラクターの個性を出すためにはどんなアイテムを持たせるか」を考える。そういうことを広い範囲でやっています。
――なるほど。話が広がりましたが、加藤さんの考える“愛されポイント”はいかがでしょう?
加藤まずは自分の担当でもありますが、ストーリーに重点を置いて丹念に描いているところがほかのゲームとは違うのではないかと考えています。それもあくまで自分が作りたいものを全力を尽くして作り上げる、というやりかたで。作り手には、人の意見をうまく活かして作る人もいますが、僕は自分の「これをみんなに届けたい」という気持ちに正直でいたいと思っています。意見にひとつひとつ応え始めると自分の届けたいものの核のようなものがどうしても揺らぎ始めますので。するともちろん僕の思いが届く人もいるし、届かない人もいるでしょう。ですが届かない人には、いま届かないだけで、この先5〜10年後には理解してもらえるのかもしれない、そう希望を持って取り組んでいます。
――加藤さんが届けたいものとは?
加藤そうですね。人として嘘のつけない部分。日々の暮らしで僕がそのときどきに思っていることを裏表なく全部さらけ出し、「君ならどう思う?」という問いをプレイヤーの皆さんに対してぶつけるつもりでモノ作りをしています。それに対しての反応は、すべて受け止めて進んでいけばいい。あとは制作環境のよさがゲームのよさにつながっていると思いますね。
――制作環境?
加藤スタッフがみんなプレイヤーで、みんないちファンとしてゲームを遊びつつ、泣いたり笑ったりしながら現場でモノ作りをしているんですね。そんな風に作り手の本気が空回りせず、うまい具合に歯車がガッチリ噛み合って動いているのが、じつはいちばん大きいんじゃないかと思います。
――スタッフがガッチリ噛み合っている。
加藤と言うのも、それぞれがすごい才能を持っていても、大勢でモノを作るときは、がんばってもチグハグしている感じがどこかに必ずあったりするんです。でも、このチームはいい人材が奇跡的に集まっていて、なおかつそれが噛み合っている。年齢性別関係なく、全員が同じ位置に並んで、「これカッコイイね」、「これはダメだからこうしては?」と、毎日言い合っている。そういうモノ作りは最高に楽しいし、うれしくてしかたがないよね。これほど機能しているチームって、僕の経験上そんなにないというぐらい、気持ちのいい環境なんですよ。まあ、チェーさんなどは、ニコニコ聞きながら、腹の中では「加藤がまた何か言ってるぞ、コノヤロー」なんて思っているかもですが(笑)。
チェーんなことはありませんよ! 加藤さんのファンだったということもあって僕は『アナザーエデン』のチームに入っていますから! ですから僕もやっぱり『アナザーエデン』の物語のファンとして、プレイヤーでありながら同時に作っている感じです。ですので、加藤さんがプレイヤーに問いを突きつけているといういまのお話は、とても共感できましたね。
届けたいものは変わらないけど、どうやって届けるかが少しずつ変わってきた
――なるほど。皆さんの作品に対する思いの強さが窺えます。そうした高い熱量で過ごされた4年間というのはどのようなものでしたか?
竹嶋あっという間でしたね。加藤さんに初めて会ったときのことを、明確に覚えているほどです。そして、僕がいまディレクターをしていることを不思議に思っています。
江草濃密でした。作品がいまも続いていることが誇らしいです。僕は会社員なのでほかにも仕事があるわけですが、『アナザーエデン』にはずっと関わっていたいと思っています。
チェー江草と同じく濃密な時間を過ごしていると感じています。キャラクターをリリースした後で、そのアナザースタイルを描くのですが、オリジナルのリリースがいつだったかわからなくなることも多くて(笑)。僕は新しいスタッフの教育係でもありますが、新卒だと思っていた人がもう3年目だったりして、びっくりすることがあります。
――加藤さんは、過去に関わられたさまざまなプロジェクトと比べていかがですか?
加藤本当に、苦労するところがあまりないんです。スタッフが若いことが大きいのでしょうね。20代も多くて、僕だけ異常にジジイで(笑)。ふつうだと上にエラい人がいて、その人の顔色を窺ったりなどしてスピード感が鈍るものなんですが、このチームはそれがない。僕がゲーム業界に入って最初に作ったのは、『忍者龍剣伝』というファミコンのアクションゲーム(1988年発売/現・コーエーテクモゲームス)だったのですが、当時の感覚を思い出すことがありますよ。みんながそれぞれ好きに進めて、仕上がってきたものがマズかったらツッコミは入れるけど、そこからまた自由に作ってよりいいものにして、というサイクルができている。先ほど「歯車がキッチリ噛み合っている」と言ったのはそういうことです。
竹嶋リリース以降、人員の入れ替わりはそれなりにあるんですが、じつはチームとしてはそんなに大きくブレていないと思っています。もともとフィールド制作を担当していたとき、プランナーはもちろんのこと、シナリオ、アート、エンジニア、サウンドまで含めていろいろなチームと接する機会が多かったのですが、それぞれのチームと話すと、「みんな向いている方向が同じだな」と強く感じる部分がありました。
――どんな方向でしょう?
竹嶋皆、「自分の担当パートが仕上がればいいや」というわけではなく、「プレイヤーの皆さんに届ける作品として、全体が噛み合ったいいものを作ろう」、「ワクワクするRPGを作ろう」という志が同じなんですね。会議でも、それそれが思ったことは言い淀まずに出し、それを全員で考え抜いたうえでリリースできています。そうやってひとつの作品として仕上げていけるところが、まとまったチームだなと思います。
――作り手の皆さん自身がプレイヤーであるところがすごく大きそうですが、4年間という時間が経ってなお、皆さんの心持ちが一貫しているわけですね。
竹嶋自分が昔RPGから得た楽しかった体験を、いまのプレイヤーの皆さんにも味わってもらいたい一心で、「何が楽しいのか」、「何をしたらこの冒険が楽しくなるのか」というところをブレずに考えて作っています。ただRPGって、最初は弱くてだんだんとレベルが上がり、武器を変えてどんどん強くなるのが楽しい部分のひとつなのですが、運営のあるRPGですので、続けているうちにそれが難しくなることをとても感じています。
――インフレが起きると。
竹嶋はい。さらに、リリース当初から楽しんでいただいている皆さんに支えられながら、より長く楽しんでいただくために、そこだけに向けた閉じられたコンテンツにならないように、新しい皆さんに向けたアプローチを考えるのですが、それがやっぱり難しいんですね。リリース当時はやらないと言っていたコラボを始めたのもその一環です。届けたいものは変わっていないけど、どうやって届けるかが少しずつ変わってきたという感じですね。
――現在4年分を順に追いかけてプレイしていますが、お話しされていることが実感できます。江草さん、アート面で4年間で変わった部分、変わらない部分などありますか?
江草まず「『アナザーエデン』とはこういうものだ」というものを、ゲームをプレイしたり僕らの姿を見たりして若手スタッフたちも学んでいるので、そういうところで統一感は取れているかなと思いますね。ただ、それぞれのスタッフの裁量に任せて新しいものを取り入れたいという思いももちろんあり、そこがキャラクターデザインなどにもじわじわとにじみ出ていたりすると思うんです。プレイヤーの皆さんも、同じスタッフが同じような調子で出してくるものをずっと見続けているよりは、新しい風に吹かれたいのではないかなと思いますしね。結論として、じわじわ変化はしていると思いますが、骨の部分は変わっていないんじゃないかなと思います。
これが『アナザーエデン』だ
――いまのお話にもありましたが、皆さんがそれぞれイメージしている“これぞ『アナザーエデン』だ”と思う部分があるとすればどういう部分でしょうか。
江草アート面から言うと、色味の暖かさでしょうか。実際に、大半のシーンでは暖色系のライトを当てるようにしています。この4年で新しいスタッフが入って、徐々に僕の仕事も引き継いでもらっていますが、それだけは守ってもらうよう、つねにお願いし続けています。
チェープレイヤー目線になりますが、たとえプレイをお休みしても、待っていてくれるのが『アナザーエデン』だと僕は思っています。「離れてもいいよ、焦らずに戻ってくればいい。みんな待ってるから」というスタンスで作っていますし、そうやってこれからも続いていくものだと思っています。
――皆さんを統括するディレクターとしてはいかがですか?
竹嶋僕は、新しい場所での冒険や仲間と出会ったうれしさを、惰性でなくゲームとしてきちんと描き続けているのが『アナザーエデン』だと思います。キャラクターそれぞれのストーリーが練られていて、すべてがちゃんと更新されていく。長く遊んでくださっている方に、「道は外れてないね」と感じていただけていれば、それがいちばんですね。
――そうした練られたストーリーは、加藤さんのカラーなんでしょうか。
加藤作品って、それを作っているスタッフそのものだと僕は思っています。その意味では自分を含め、いま手がけているスタッフのカラーがそのまま『アナザーエデン』なんだと思います。一方で、個人のカラーがなくてはならない作品は存在しないとも思っています。たとえ僕がいなくても、僕がいないなりに制作は続いていくものなので。スタッフそれぞれが、「これが自分の『アナザーエデン』だ」と思いながら本気を結集して作っていく。その気持ちの表れでいまが成り立っているのだと思います。
キャラクター頭身変更の衝撃
――この4年間で、もっとも印象に残っていることを聞かせてください。
竹嶋初期のことですが、僕が参加して1ヵ月目にキャラクターが3頭身に変わったのが衝撃的でした。テストプレイではいまとぜんぜんイラストのタッチが違っていて。あとは、もともと僕は品質管理や開発補助、それからアクションゲームのバランスを見たりなどの仕事が多かったのですが、『アナザーエデン』で初めて開発らしい開発になったんです。そういった中で、自分が作ったものに対して、たったひとりのプレイヤーの方のちょっとしたつぶやきだったのですが、「これいい!」というような反応を初めて見かけたときには感動しました。ちゃんと届いているんだなとわかってから、さらにいいものを作ろうという意欲が湧きましたね。
チェーいちばん記憶に残っているのは、リリースのときですね。夜の12時に、当時のプロデューサーの席に集まって、リリースボタンが押されるのをみんなで注視していたこと。ボタンを押す瞬間が強く記憶に残っています。その後、家に帰って朝まで、プレイしている人がいるのかどうかを気にしたり、皆さんの反応をずっとSNSで検索したりしたのがとても記憶に残っているし、ずっと忘れられないだろうと思います。
竹嶋確かリリースした直後はトラブルがあって少しバタつきましたが、1時間程度で解消されましたよね。
チェーそうですそうです。
加藤みんな終電がなくなるのに帰らず、タクシーで帰った記憶があります。お祭りみたいに盛り上がっていたよね。
江草まったく同じことを言おうと思っていました(笑)。そのタイミングは忘れられなくて。その後、プレイヤーの皆さんに受け入れられていく過程をとてもうれしく見ていました。でも同時に、信じられない感もあったり。というのも、自分が『アナザーエデン』のチームに入ったときは、先ほど話にあった、キャラクターの頭身が変わるタイミングでした。けっこうな変更ですから、チームの中でもざわついたり、不安に思った人もいたと思うんですよ。それがリリース後に受け入れられていくことで、報われていくというのを感じました。スーパーファミコンから皆がずっと慣れ親しんでいるゲームの要素をいろいろ詰め込んだのですが、それが有効と証明されていくのがたまらなかったんです。
チェー頭身の変更は、扉などの大きさも合わなくなるので、背景もそれに合わせてすべて描き直さなくてはならないんです。また、ソーシャル要素のないゲームですので、社内でも売り上げが立つのかと不安視する人も多く、リリース前は不安しかなかったですからね。
――大ベテランの加藤さんも不安になったりしていたのでしょうか?
加藤僕もやっぱり頭身問題ですね(笑)。僕がチームに入る前にもいろいろと試行錯誤はあったのですが、僕が入って具体的に動き始めて、それから配信までに時間をかけてある程度作り上げたものをそこで一度なかったことにして、そこからやり直すという大転換だったので。当時のプロデューサーが本気でがんばって、「これで大丈夫だ、いける」とわがままを通して作り上げたから『アナザーエデン』は配信されたわけです。
「こうあってほしい」というスタッフみんなの気持ちがアルドになっている
――シナリオやサウンドも魅力ですが、『アナザーエデン』の大きな魅力は、キャラクターがこれだけ豊富にいて、自分の仲間にできることにあると思います。過去にリリースされたキャラクターの中で、とくに気に入っているキャラクターを教えていただけますか?
チェーその時々の気持ちで変わりますが、やっぱりアルドにいちばん愛情を注いでいます。自分が最初にデザインしたのはアルドですし、どうしても女性キャラクターがパーティに多くなりがちなところ、アルドだけは、戦闘パーティーにいつも入れています。
――アルドはやっぱり人気なんですね。ただ、RPGの主人公ってプレイヤーの意思を反映させる相手でもあるので、じつは「いちばん好き」になりにくいような気がします。アルドはイヤミもなく、純粋さが鼻につく感じでもなく、なかなかいそうでいないキャラクターではないでしょうか。
加藤アルドは、田舎から出てきた純朴な青年みたいな感じで、「いい若者に」と意識して書いた覚えはないんです。僕は僕でアルドの苦悩なり悲しみなりを通じて、冒険の中で成長していく姿をメインストーリーで描いていますが、スタッフは、お人好しでいろいろなことに巻き込まれて苦労している彼も好きなんですよね。その「アルドはこうあってほしい」と思うみんなの気持ちが、愛されキャラを作ったんだと思います。僕ひとりで作っていたら、たぶんもっとイヤな奴になっていたと思いますよ。
一同 (笑)。
――江草さんは?
江草そうですね。当然アルドやヴァルヲなどは挙がるのですが……自分が描いたりデザインしたりしたものでいうと、ガリア―ドかな。加藤さんと話しながら細部をつめていきましたね。あとは、ぜんぜん別軸で考えるならイスカ。未来のIDAスクールという集団を作るときに、当時のディレクターと話しながら白い制服を着たイスカが最初にできたことがきっかけで、IDAスクールのイメージが広がりました。誰かと相談しながらデザインすると思い入れが深くなりますね。
――記憶に残りそうですね。竹嶋さんはいかがですか?
竹嶋プレイヤー目線になりますが、自分はリィカですね。リィカは、アルドが訳もわからず未来へ飛んでいったときに最初に仲間になりますし、古代にもついてきて、本当に頼りになる相棒です。理由があって若干ポンコツなところがありながらも、けっこうストレートな物言いをするキャラクターで個性的でもありますし、あとは加藤さんの手掛けた『クロノ・トリガー』でもロボに愛着がありまして。その流れを感じるのも大きな要因かもしれません。あとはアザミです。以前『ワールドアルティマニア』掲載用に好きなキャラクターのアイコンを使って各自のコメントを載せるとき、いちばん好きだったナギを先に江草さんに言われてしまい、2番目に好きなアザミで載せた経緯がありまして(笑)。いまではすっかり愛着が湧いています。ふたりともちょっと抜けていて、頼りにも癒しにもなります。
江草それは知らなかった。何気なく使ってしまって申し訳ない(笑)。
――(笑)。加藤さんはやっぱりアルドでしょうか。
加藤それだと当たり前なので、ここではセバスちゃんと。『クロノ・トリガー』に出てくるルッカもそうですが、ああいう異端で天才的な科学者の女の子にすごく思い入れがあるのかもしれません。スゴすぎてまわりから浮いてしまうがゆえに、自分なりにいろいろ抱えて生きているというような。それ以外だとリヴァイアちゃんですね。彼女絡みのエピソードとイベントは、かなり力を入れて作ったので。キャラクター性も際立っていると思います。
グッとくるエピソード
――ありがとうございます。同様に、この4年間にリリースされたメインストーリーで、もっとも好きなエピソードを教えていただければ。
江草先ほど挙げたガリアードと、付き添うヘレナのくだりが好きです。合成鬼竜が落ちていくところを支えるヘレナとか。「ヘレナはその状態でついてくるんだ!?」みたいなところですね。彼女は人間じゃないマイノリティー。マイノリティーである人たちが考えていることなどには、グッときてしまいます。
チェー僕もヘレナのシーンを話そうと思ったんですけど(笑)、そうでなければミグランス城が燃えるところです。RPGあるあるとして、お城か村が燃えないと!(笑)
一同 (笑)。
チェーミグランス城で魔獣王が変身するところは、かなり盛り上がります。もうひとつは、第1部のラスボス前からエンディングまで。クロノス一家の平和な光景が流れた後、突如戦闘に入るという。画面が砕け散り、そこからラスボスが登場するという演出がショッキングでした。
――竹嶋さん、加藤さんは?
竹嶋僕は物語の始まりのワクワク感が好きなんです。ですからバルオキーで平和に暮らしていたアルドが巻き込まれていく第1部の最初や、第1.5部で未知の島に降り立つ際や、第2部の最初の船出など。いずれも、これから新しい冒険が始まるんだというワクワク感を感じるシーンですね。それは開発をスタートするときの第一歩でもありますし、そこがまず大事だとすごく思っています。
加藤僕は自分で全部のスクリプトを打っているので、どのシーンも思い入れがあります。でもいちばん気持ちが入っているのは、やっぱり第1部のラストですね。アルドが生まれた村の外の丘の上で、フィーネとじいちゃんが話している。仲間に別れを告げて、丘の向こうから巨大な合成鬼竜がガーッと浮上して、遠景に遠ざかっていくという。あのシーンは締切の土壇場になって無理矢理作ってもらったものなんですよ。鬼竜を描いてくれたグラフィックのスタッフに感謝しています。じつは、あの鬼竜は胴体部分、つまり、画面に映るところしか作っていないんです(笑)。カメラワークなどかなり苦労しましたが、よくできたなと、感慨深いです。
キャラクターの数だけ人生がある
――さて、4周年を超え、その先へと続いていくうえで、遊んでくださっている方、これから遊ぼうと考えている方に伝える言葉があるとすれば何でしょう?
チェーちょうど最近、調整のために年間のスケジュールを確認していたのですが、作り手としても「こういうイベントが実装されたらおもしろそうだ」とワクワクするものがいっぱいありまして(笑)。プレイヤーさんが楽しめることは、間違いないと思っています。4周年で第2部は完結しますが、その後もメインストーリー、外伝ともずっと続きますので、そのワクワクを引き続き期待していていただければと思っています。
江草4年のあいだにさまざまな魅力を持つキャラクターがたくさん増えました。それらのキャラクターの数だけ人生が描かれています。加藤さんの描くストーリーは、「こういう人生もあるんだな」と気づかせてくれるものなんですよね。それらの生き様の中から自分が共感できるものを見つけるなどして、これからのプレイヤーの皆さんの人生に活きるものが得られるゲームであれたらいいなと思います。
――実人生に影響とは、ある意味究極ですね。
加藤第1部、第1.5部、第2部を通して描き続けてきたクロノス一家の物語が、今回キレイな形で完結し、自分としても感慨深いものがあります。きっと、これまでストーリーを追ってきてくださった皆さんにも、感慨深いものになっているんじゃないかと思うので、存分に味わっていただけたらうれしいです。そして、第3部が「時間帝国の逆襲」と公言されていますが…… 中身はどうしよう? なんて、いままさに考えている最中です。どうなるかを楽しみにしながら、第2部の余韻に浸っていただければなと思います。
――まずは第2部を噛み締めたいと思います。最後に竹嶋さん、ディレクターとしてのお言葉を。
竹嶋以前にプロデューサーが、「10年続くIPを」と言っていましたが、10年で終わりというわけではありませんよね。ですから『アナザーエデン』は、これからもどんどん進化し、変化していきたいと思っています。いまプレイをお休みされている方も、そのあいだに配信してきたコンテンツもたくさんありますし、昔よりレベル上げなどの面でより遊びやすくなっていますので、気軽に戻ってきて楽しんでいただけるとうれしいですね。いままでの部分も遊んでいただきつつ、これから5周年に向けてまたさらにどんどん進化していくものをいっぱい作っていきたいと思いますので、そこも楽しみにしていたただけるといいなと思います。