2021年3月26日(金)に、いよいよ公開を迎えるハリウッド実写映画『映画 モンスターハンター』。同作には、『モンハン』シリーズの開発陣も企画の段階から深く関わっているため、ゲームファンにも刺さる要素を随所から垣間見ることができる。
今回は、長年にわたり『モンハン』シリーズを手掛けてきた藤岡要ディレクターにインタビューを実施。本作に込めた思いや見どころ、具体的にどのような助言を送ったのか? などを、たっぷり語ってもらった。
藤岡要 氏(ふじおかかなめ)
カプコン所属、『モンスターハンター』シリーズディレクター。(文中は藤岡)
人間とモンスターとの関係性など、世界設定に関するこだわりが凝縮
――『映画 モンスターハンター』の製作はどのように始まったのでしょう。
藤岡じつは映画化に関するお話は10年ほど前からいただいていました。ですが、タイミングや製作の規模感などがなかなか合わず……。世界設定を始め表現で気をつけている部分も多いので、それらをひとつずつクリアーにしていき、ようやく「この座組ならいける」という形が見えたところで映画化に漕ぎつけたという流れです。
――10年前ということは『モンスターハンター:ワールド』が発表される以前からですよね?
藤岡そうなります。なので、いちばん最初にもらった企画書は、当時、最新作だった『モンスターハンター4』の舞台設定を意識したものでしたね。その後、発表された『モンハン:ワールド』がグローバルで幅広い地域に展開できたのもあって、先方から「最新作の世界観にしたいです」と打診があり、いまの形に近いプロット案になっていきました。
――『モンハン4』がベースだったころは、どのようなプロットだったのですか?
藤岡いまよりもいろんな要素が満載で、ストーリーの展開も複雑でした。その後、プロットを練り込む中で、ストーリーをシンプルにする代わりにひとつひとつのディテールを丁寧に見せたほうが映画好きの方にも『モンハン』ファンにも喜んでいただけるのでは? ということになり、詰め込む要素を絞りこんだ現在の方向性になっていきました。
――それは、より“ハンターとモンスターの対峙”の部分に焦点を当てたストーリーに?
藤岡そうですね。ファンタジー世界の物語となると、どうしてもその世界ならではのルールを説明しなければならないし、盛り込む要素が増えれば増えるほど、テンポよくそれらを説明するのは困難になってしまう。なので、『モンハン』の本質的な部分のみを残して、より観やすい形になっていった感じです。
――プロットの段階から、カプコンもかなり深く関わっていたのですね。
藤岡監督が大の『モンハン』ファンであることは承知していましたが、世界観やモンスターの生態など、ゲーム内では語りきれない部分であったり、開発側のポリシーなどもありますので、そこは初期段階から共有させていただきましたね。単に“モンスターを討伐するだけの映画”にはしてほしくないとお伝えしていました。
――確かに、モンスターのほうから悪意を持って襲い掛かって来るわけではないですしね。
藤岡『モンハン』の狩猟・討伐は、よくある“主人公と敵対する存在だから打ち倒す”という構図とはちょっと違っていて。あくまでもこの世界では、人間とモンスターは“共存”という関係性であって、争いは“お互いのテリトリーに接触することで起きるトラブル”という位置づけになるんです。
――モンスターだけど“敵”ではない。現実世界の野生動物とか“害獣”に近いイメージですかね。農作物を荒らすイノシシやシカ、クマみたいな。
藤岡シンプルに“敵”と考えて作ってしまうと、ゲームの『モンハン』世界とは別物になってしまいます。生き物というふうに考えてほしい。たとえばディアブロスもものすごく攻撃的なモンスターだけどじつは草食で、敵対する相手を食い殺すようなことはしない。そういった、モンスターたちの生き物としての生態、性質的な部分をゲームでは大切にしているので、そこはしっかりと伝えて、ニュアンスも理解していただきました。
――ゲーム画面以外にある設定や、開発者が抱いている『モンハン』の世界観を伝えていったと。
藤岡そうなります。とはいえ、ベースとなるシナリオであったり、“映画”として見せるうえでもっともおもしろくなる表現手段に関しては、監督たちの方が専門家なので。そういった部分は特に、口出しすることもなく、すべて監督たちにお任せしました。
――数々の大作を手掛けてきた監督ですからね。ほかにも、カプコン側から提案された要素はありますか?
藤岡ゲームとしての『モンハン』らしさも随所に詰め込んでもらっています。たとえば、モンスターと対峙する際、単純に強力な武器を使って、武力で制圧するような戦いかたではらしくない。
ほかのモンスターから得た素材を利用することでアイテムを使うことで自分たちに有利な状況を作り出すなど、ゲーム的な攻略要素も盛り込んだほうがよりゲームファンにも楽しんでいただけるのでは? と相談させていただきました。
―― なるほど。受付嬢や料理長アイルーなどのキャラクターが多数登場しますが、これらもカプコン側から提案されたのですか?
藤岡登場キャラクターは監督からの要望なんです。実際に『モンハン:ワールド』をプレイして、仲間たちとの交流が印象的だったようで、「ぜひ映画にも取り入れたい」とのことでした。
とはいえ、実写の中にマスコット的なアイルーを溶け込ませるのは難しいのでは? と思い「実写画面になじまないようなら、無理に入れなくていいですよ」とも伝えていたのですが、強いこだわりを持って取り組んでくださったのがありがたかったですね。その結果、料理長はワイルドだけどそこが逆に愛らしいビジュアルに仕上がっているので、とても気に入っています
―― ゲーム内の動きをかなり忠実に再現しているシーンもありましたね。
藤岡自分たちがゲームで表現したものが映画でも同じように再現されるのはうれしいですね。ほかにも、ハンターがモンスターの肉を焼くシーンなどは、ゲーム内と同じ演出で役者さんたちが演じてくれ、作品への愛が伝わってきました。
また監督は、砂の上を移動する船など、ユニークな表現も気に入られたようで。なんとかして劇中にも砂上船を出したいということになり、舞台を砂漠に選ばれたそうです。
映画独自の設定や、モンスターの行動様式にまつわる裏話を直撃!
――ポール・W・S・アンダーソン監督とミラ・ジョヴォヴィッチのコンビということで、カプコンとしては安心感があったのでは?
藤岡映画『バイオハザード』シリーズで実績のあるおふたりですからね。“ゲームを映画としてアレンジし、さらに昇華させていく”という大事な部分は最初から信頼していました。
じつは、脚本の第1稿が上がってきた段階ではまだミラさんが主演するとは決まっていなかったんです。ですが、主人公の描きかたが“力強く勇敢な女性”だったので、我々のほうでは自然と彼女の姿をイメージしていましたね。主演が決定したのはもっと後になるのですが、ミラのアクションにはキレがあるし、なにより立ち振る舞いがかっこいい。映像の中にいてくれるだけで安心感があるので、我々としても大歓迎でした。
――ミラに加えて、ハンターを演じるトニー・ジャーも格好よかったですね。無国籍風でゲームの『モンハン』らしさも感じました。
藤岡監督としては、劇中に東洋のテイストも取り入れたかったらしくて。個人的にもよく映画は拝見させて頂いていたので出演が決まったときは興奮しました。ゲーム内でのハンターのアクションは、もうちょっと泥臭いイメージですが、トニーさんのアクションは華麗なうえに力強いので、あらゆる動きが絵になりますよね。
――細部まで監修された本作ですが、とくに入念にチェックした部分など、印象に残っているポイントがありましたら教えてください。
藤岡先の質問にもすこし被りますが、「“モンスターが人間を食い殺す”シーンを直接描くのはナシにしましょう」と話をしました。角で突くとか尻尾でぶっ飛ばすといった挙動はゲームにもあるので大丈夫なのですが、『モンハン』のモンスターは人間は食べない、と。 モンスターたちは食べることを目的として人間を襲うわけではないので、そのあたりの表現については何度もやり取りをさせてもらいました。
――あれ? でも、映画の中では飲み込まれていた人がひとりいたような……。
藤岡あのシーンも、その瞬間は映していないんですよね。それとなく想像させる場面はありますが、実際のところはわからず、といった感じにしていただきました。インパクトのあるシーンが必要だというのもわかりますから、意見を交換しながら、落としどころを見つけていった感じです。
――直截的に残酷なシーンを入れると、鑑賞可能な年齢にも制限がかかってしまいますしね。
藤岡せっかく公開するからには、幅広い年齢層の方に観ていただきたいですしね。その気持ちを伝えたところ、監督も「僕も子どもたちに『モンハン』を観せたいからね」と納得してくれて。モンスターとの戦闘はグロテスクにならないよう気をつけつつ、丁寧に映像化してもらいました。
――映像がかなり完成してから、「やっぱりこの表現じゃない」となったりしたことは?
藤岡それが、私自身もびっくりしたんですけど、「さすがにいまからじゃ、修正は無理だよな……」というくらい映像が完成した状態でも、相談したらすべて直してくれたんですよ。
チェック作業のときは、VFX担当のスタッフもつねに同席していて。「このシーンはちょっとイメージと違う。まだ残虐な要素が残っているので、もう少し緩やかな表現にできないか?」と伝えたら、嫌な顔ひとつせずに「ぜんぜんできるよ」といって、わずかな時間で直してくれたのには驚きました。
――まさにプロの仕事ですね。ところで、映画に出てくるモンスターって、ゲームよりも大きくないですか?
藤岡ディアブロスはほとんど変わりませんが、リオレウスは実際大きいんですよ。
―― やっぱり! アルテミスと対峙している画面で、かなり大きく見えたんですよ。
藤岡あれは通常とは異なる個体で、正式名称も“巨大リオレウス”といいます。ゲームのほうにも、映画とのコラボクエストで登場しますが、こちらもめちゃくちゃでかいです。「モンスターのサイズは印象が大きく変わらないのであれば、ある程度演出に合わせてアレンジしてもらっていいですよ」とお伝えしました。
現実世界とファンタジー世界、ふたつの世界を描いた理由とは?
――ストーリーについてもお聞きしますが、ゲームファン的に気になるのは、“現実世界の兵士たちが『モンハン』の世界に迷い込む”という設定だと思われます。これは、どういった経緯で採用されたのでしょう?
藤岡映画である以上、ゲームとは違う独自の設定が必要だということは我々も理解できるところでした。監督は最初から現実世界と“モンスターたちが生息する世界”がどちらも存在しているというアイデアを持っておられて、制作初期に見せてもらったコンセプトアートにもリオレウスと飛行機が取っ組み合いをしているイラストがありました。
――ああ、あれはゲームでは見られない、いいシーンですね(笑)。異世界設定にしたからこそ、現実の兵器も出せたというわけですか。
藤岡そこは監督ともお話をさせていただいたところなんですけど、架空の生物の強さを表現する方法って、なかなか難しいじゃないですか。たとえば、モンスターと架空の兵器ぶつけても、どちらも非現実の存在ですから、知らない人には強さを伝えるのが難しい。
そこで、飛行機や戦車といった現実世界の兵器を出して、それをモンスターたちが難なく破壊したら、彼らの強さがリアルに理解できますよね。そして、そんなモンスターに対抗できる唯一の武器が『モンハン』世界の剣や弓であり、それらを駆使するハンターたちはすごい存在なんだ……というところまで表現したいというのが、我々と監督の共通の認識でした。
――さすがにゲームでは、ヘリコプターは出せないですよね。
藤岡でも、ワクワクしますよね。ゲーム版では絶対にできない表現なので、映像として観たときにすごくおもしろいといいますか。装甲車とディアブロスの激突などは、私たちだけでは思いつきもしないアイデアでした。
――近代兵器も通用しないとなると、強さに説得力が出ますね。映画では、モンスターに襲撃されてヘリ型輸送機が墜落するシーンがありますが、ここもカプコンならではのこだわりで?
藤岡こういった演出は監督のアイデアです。全編を通して観ていただくと、そうしたふたつの世界の融合も違和感がないし、オリジナル要素を盛り込みつつも、しっかりと『モンハン』の世界が描かれているので、あらゆる層の方に楽しんでいただける作品に仕上がっていると思います。
作品概要
- タイトル:映画 モンスターハンター
- 公開日:2021年3月26日公開
- 監督・脚本:ポール・W・S・アンダーソン
- 出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ、トニー・ジャー、ティップ・“T.I”・ハリス、ミーガン・グッド、ディエゴ・ボネータ、ジョシュ・ヘルマン、オウヤン・ジン、山崎紘菜 and ロン・パールマン
- 原作:「モンスターハンター」(カプコン)
- 製作:コンスタンティン・フィルム、テンセント・ピクチャーズ、東宝
- 配給:東宝=東和ピクチャーズ共同配給
\\#モンハン映画公開おめでとう//
ハリウッド実写映画化された #映画モンハン もついに3/26本日公開!
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#ゲームでも映画でも一狩りいこうぜ!
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— モンスターハンターライズ公式 (@MH_Rise_JP)
2021-03-26 09:00:09