2020年9月23日にオープンサービスを開始した『ロストアーク』は、PC用オンラインRPGとしては近年にない盛り上がりを見せているという。だが、新型コロナウィルス感染症の終息がいまだ見通せない中、オフラインイベントが開催できないなどの理由もあり、運営サイドの声があまり聞こえてこないのが実情だ。
そこで、ゲームオンにて同作の日本運営プロデューサーを務める嶋田真人氏にインタビューを実施。絶好のスタートを切ったいまの気持ちと、人気の要因について語ってもらった。
また、それらの内容とは別に聞いてみたいこともある。期待のハック&スラッシュ(※)MMORPGとして2014年頃から情報が出始めた本作ではあるが、正直なところ、そういったファンからの評判はあまり聞かない。嶋田氏にこの点を直撃すると、
「『ロストアーク』はハクスラゲームじゃないから、ある意味それは当然」とのこと。どういうことだ?
※ハック&スラッシュ(ハクスラ):戦闘の爽快感を追求したゲームジャンルのこと。戦闘で経験値やアイテムを獲得して強くなっていくことから、アイテム集めの楽しさも重要とされる。代表的なタイトルはBlizzard Entertainmentの『ディアブロ』シリーズ。
嶋田真人(しまだ まさと)
『ロストアーク』日本運営プロデューサー。2012年6月から2016年12月まで『レッドストーン』の日本運営プロデューサーを担当。国内ファンと開発元のあいだをつなぐ架け橋の役目を担っている。文中では嶋田。
運営プロデューサーが語る『ロストアーク』のおもしろさ
――9月23日にオープンサービスがスタートしてから約3週間が経過しました(インタビューは10月14日に実施)。まずはいまの手応えからお聞かせください。
嶋田たくさんのお客様にプレイしていただけています。まずはこの場をお借りして、プレイヤーの皆さんにお礼の言葉を述べさせてください。ありがとうございます。滑り出しは順調。私たちとしては、むしろここからがスタートになります。
かつて私が日本運営プロデューサーを務めた『レッドストーン』の当時と同様に、『ロストアーク』を通じて、何かおもしろいことや楽しいことを皆さんといっしょに作り上げていきたい思いが強いです。精一杯運営を続けていきますので、ぜひご期待ください。
――『ロストアーク』というゲームに初めて触れたとき、嶋田さんは何か光るものを感じられましたか?
嶋田私が『ロストアーク』をプレイしたときの第一印象は、“何も考えなくてもふつうにおもしろさが伝わるゲーム”です。もともと私はコンシューマー系のRPGもたくさん遊んできたので、いちプレイヤーの視点で見てもすごくおもしろいですし、ゲームとしてもよくできていると思いました。
――具体的に、どのあたりに魅力を感じられましたか?
嶋田当時は韓国版をプレイしていたのですが、韓国語がわからなくてもストーリーの流れが理解できるので、これはすごいなと。
――何となく映像を観ているだけで、「こういうことが起きているのだろうな」というのがわかったわけですね。
嶋田映像の表現手法が巧みですし、演出の作りもすごくしっかりしていました。運営として本作に携わるからとかは関係なく、これはきっと日本の皆さんも同じ思いを抱くだろうなと。
――実際にその通りでした。
嶋田ありがたいことに本作はMMORPGにさほど馴染みのないお客様も多くプレイしてくださっています。そういう方は国内にもっとたくさんいるはず。そうした方たちに対するケアがまだ足りないと思っています。
『ロストアーク』は、MMORPG市場という狭い視点にとどまらず、もっと大きな枠の中で新規プレイヤーを掘り起こしていくべきタイトルです。シンプルにゲームが好きな人が、新たにPCを購入したくなるくらいの勢いで、もっと外に広げていきたい。
――数年前のミドルレンジクラスPCでも快適にプレイできます。見過ごされがちですが、こちらも大きな特徴だなと。
嶋田『ロストアーク』は最新のRPGですけど、さほどスペックの高くないPCで動作するんですよね。これも特徴のひとつです。
ビデオカードはGeforce GTX460、メモリーは8ギガが最低ラインなので、要求スペックはかなり抑えられています。新しいものならノートPCでも遊べます。ハードルは低いと思いますね。
――個人的には、『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』(PUBG)の“ゲーミングPC特需”もいい方向に働いていると思います。『PUBG』のリリースは2017年12月20日。その頃に購入したPCなら、たいてい『ロストアーク』をプレイできるはず。
嶋田あのタイトルが大ヒットしたときに、「たまにはPCを買ってみるか」という人がたくさんいたようです。そういった好影響は、たしかにあると思います。Steam(Valve社が運営するPCゲームの配信プラットフォーム)の需要も高まっていますしね。そうしたところも含めて、タイミングよく『ロストアーク』を世に送り出せたと思います。
――ゲーム性はもちろん、リリースのタイミングも重要だったと。ちなみに初回プレイは、仕事として始めたわけですよね。
嶋田もちろんそうです。運営プロデューサーとして言ってはいけないことなのかもしれませんが、いままで携わってきた中でテストプレイ中に少しも苦しさを感じなかったのは『ロストアーク』が初めてかもしれません。ゲームとしてはおもしろくても、ストーリーがわからないとストレスになりますよね。『ロストアーク』はそれがなかった。
テストプレイで20回くらいキャラクターをレベル50まで育てましたが、いまなお飽きずに楽しめていますし、初めてプレイしたときのワクワク感はいまでも忘れられません。
――いま選べる上級クラスは12種類ですから、ひと通り遊んでいる感じですね。
嶋田業務であることを忘れて、ひたすらレベル上げしてます。私自身が感じたゲームとしてのおもしろさが皆さんにちゃんと伝わっているのか心配になった時期もありましたけど、現在の盛り上がりぶりを見ればそれは杞憂だったなと。
――プレイヤーへの伝わりかたに不安を感じたのは、やはり新型コロナウィルス感染症の影響が原因でしょうか?
嶋田はい。クローズドβテストや生放送などでコメントを拾い上げてはいるんですけどね。プレイヤーの方々との接点がほとんど作れていない状態なんですよ。
私たちゲームオンは皆さんの顔を見てご意見を聞き、直接触れ合うスタイルを貫いてきたんです。でもいまは、コロナ禍の影響でそれがまったくできていません。お問い合わせをいただくなどして細々とやり取りは続けているものの、皆さんが楽しんでいる顔がまだ見られていない。お客様の目を見て話して、「実際はどうなんですか?」とお聞きできないのが、ほんとに苦しくて……。
『ロストアーク』はオンラインゲームなので、インターネット経由でプレイヤーの方々とやり取りすればいいと思われがちです。でもですね、それは少し違うんですよ。
――お客さんと接するとスタッフのモチベーションが上がるとも言いますよね。
嶋田コミュニケーションの場を増やしたいので、動画を使った施策にも力を入れています。CM動画が300万回再生(※)を突破して、少しくらいは熱意が伝わったかな。いまのところはいい感じですね。
もちろん厳しいご意見も頂戴しますが、いまはプレイヤーの方々への感謝の気持ちでいっぱいです。1日も早く皆さんと顔を合わせて「ありがとうございます!」と直接言葉でお伝えできる日が訪れることを願っています。
※YouTubeでのCM再生回数:2020年10月23日現在の再生回数はおよそ440万回。CM関連動画の総計は476万回ほど。
MMORPGの興奮を呼び起こすCMの効果
――サービス開始前、嶋田さんご自身はいまの盛り上がりを予想していましたか?
嶋田もともと韓国でかなりヒットした実績がありますので、『ロストアーク』は日本でもそれなりに盛り上がるだろうなとは思っていました。
しかし、ここしばらくのあいだ国内で大作MMORPGがリリースされていないですし、そもそもこのジャンルの人気自体がやや下降気味です。事前の予測では、厳しい面もあると覚悟はしていました。ですが、うれしいことにいただいた反響は想定以上。大勢のお客様が『ロストアーク』を楽しんでくださっていて、私自身も少しびっくりしています。
――初速としては上々ですね。こういうタイプの作品を求めていたプレイヤーが、もともと多く存在していたということなのでしょうか?
嶋田そうですね。オープンサービス開始直後からの動向を見ると、とくに男性のお客様により多く遊んでいただいています。
――そのあたりは想定通りと。
嶋田はい。当初から30代の男性の方が中心になるだろうと予測していました。
――おそらく、過去にほかのMMORPGのプレイ経験がある人たちでしょうね。
嶋田年代的にも、ここは想定通り。その一方で20代前半の方々にも多く遊んでいただいています。もしかしたら幼少期にこのタイプのゲームを体験していたのかも。若い方はYouTubeを好んで視聴しています。有名YouTuberの中には「昔はMMORPGを遊んでいた」という方たちもいるので、そのあたりの影響があったのかもしれません。
――『メイプルストーリー』(ネクソン運営)なんかを小学生の頃に遊んだ世代でしょうか。ゲームオン運営のタイトルでいうと、『レッドストーン』も当時から人気ですよね。
嶋田大人になったいまもMMORPGを遊んでくれているのだとしたらうれしいですね。少し意外だったのは「MMORPGのプレイは今回が初めて」というご意見がSNS上で多く見受けられた点です。“RPGは好きだけどMMORPGのプレイ経験はない”という方も多いようで。
――『ロストアーク』が本格的なMMORPGデビューという人は多いかもしれませんね。新作MMORPGのリリースが少ないこともプラスに作用して、テレビCMで「あのゲームは何だ、MMORPGって何だ」と疑問を覚えたのでは。
嶋田そういう一面はたしかにあると思います。「MMORPGのプレイ経験はないけれどこのCMで興味を持った」というご意見が目立ちました。そうした方々はおそらく、本作がMMORPGであることを理解したうえでプレイを始めてくれたのではないのかなと。
この世界は、青春みたいだ。
――ほかのオンラインゲームを十分楽しんでいる人からすると、新しくMMORPGを始める理由ってあまりないですよね。その意識を打ち破るきっかけのひとつとして、CMもうまく作用したような気がします。
嶋田CMがきっかけで始めてくれた方々の多くも、離脱することなくゲームに定着してくれています。
社内のテストプレイでは、30代のスタッフは「クォータービューは懐かしい」と話していたのですが、一方で20代前半の担当者は「新感覚!」みたいな喜びかたをしています。画面の見た目が『リーグ・オブ・レジェンド』に似ているので、そうしたところも好意的に感じてもらえたようです。
――最近のクォータービューの作品と言えば、『リーグ・オブ・レジェンド』ですか(笑)。
日本運営Pへの就任は「プレッシャーでした」
――すごく大きな質問になってしまいますが、プレイヤーの趣味や嗜好が目まぐるしく変化するいまのご時世にあって、どういった運営スタイルがベストだとお考えですか?
嶋田ほんとうに大きなご質問ですね……。
――申し訳ありません(笑)。ゲームオンさんみたいに、いろいろなMMORPGを運営しているパブリッシャーは珍しいですよね。どのタイトルも「失敗できない!」という意識のもとで運営がスタートするものですが、今回は久しぶりの大作だったこともあって、その度合いがとくに高かったのではないでしょうか?
嶋田うーん……。
――端的に言えば、プレッシャーでしたか?
嶋田ええ。それはもう(笑)。
――社内では、いつくらいに「嶋田で行くぞ!」という話になったのですか?
嶋田開発元とのあいだで調印式を行ったのが2019年7月4日で、社内でチームが立ち上がったのも昨年になります。
私は『レッドストーン』の運営を数年間担当し、そこからモバイル系や音楽系タイトルの立ち上げに加わりました。その後、いわゆる新規事業みたいな扱いで、『ロストアーク』のチームに私ひとりが配属された形です。
――そこから動き出されたと。
嶋田昨年8月くらいに実質的にチームが動き出してから現在まで、一気に駆け抜けてきた感じです。
私としてもPCタイトルを担当するのは久々でしたので気合が入っていたのですが、今年に入って新型コロナウィルス感染症が世界規模で蔓延したことで、オフライン系のイベントがまったくできなくなりました。
――コロナ禍の影響はやはり甚大だったわけですね。オフラインイベントの開催は、盛り上がりの印象付けにもつながりますし。
嶋田大きな手札がひとつ封じられてしまったので、今回は新しい施策を矢継ぎ早に打ち出す必要に迫られたんですよ。とはいえ、私個人としては、モバイル系のタイトルを担当したことで新しい要素をたくさん経験できたので、その辺りは『ロストアーク』の運営に活かせている気がします。
――嶋田さんがPCタイトルを担当されていた頃といまを比較すると、プレイヤーの趣味や嗜好が違うはずですから、当時のように物事が進められない部分もありそうです。
嶋田そうですね。何しろ私が『レッドストーン』で日本運営プロデューサーを務めていたのは4年ほど前のことです。もちろん、あの頃に培ってきた経験は現在にも活かせていますが、当時の手法がいまも通用するとは限りません。
――当時のファンと、『ロストアーク』を遊んでいるいまのプレイヤーとのあいだで、何か違いを感じることはありますか?
嶋田『レッドストーン』は長く続いてきたタイトルですから、プレイヤーの方々は全体として落ち着いた感じでした。私が日本運営プロデューサーに就任した時点で、正式サービス開始からすでに8年目が経過していましたしね。皆さんの知識量は豊富で、動向もすごく安定しています。
現時点では、『ロストアーク』を楽しんでくださっている方々は、おもに装備の強化を楽しんでいらっしゃいます。私が就任した時点でたくさんのコンテンツが存在していた『レッドストーン』とは根本的な事情が違いますね。
『ロストアーク』がコロナ禍を生きる人々の交流の受け皿に
――いまは、わかりやすいものを直接プレイヤーに届けられないと人気が出ない時代だと思います。だからこそソーシャルゲームが流行したわけで、しかもそれが独走を続けた結果、種々の問題が起きてしまったのではないのかなと。
一方で、じっくりと腰を据えて遊べるMMORPGはその対極にある存在だと思うのですが、いまお話ししたような時代の要請に対して、見せかたや表現手法を変える部分もあるかと推測します。その中で、どのようなところにこだわりや改善すべき点があるとお考えですか?
嶋田こだわりですか……。
――現在のゲームの潮流を料理にたとえて言うと、脂の乗ったステーキのように食べた瞬間においしいとわかるものでなければ、プレイヤーは離れてしまうと思うんです。深みのあるダシの効いた懐石料理をゆっくり楽しんでほしいという考えかたは、いまの時代には合わないのかもしれません。だからこそ、ダシの効いた料理のおいしさを、じっくりと味わってほしいと嶋田さんは考えておられるのではないでしょうか?
嶋田そういう思いは、たしかにありますね。
――シンプルに利益を挙げるだけならMMORPGは効率のよくないビジネスなのでは、とも思います。
嶋田MMORPGは、大勢の人が集まって楽しむためのコミュニティーが重要になってきます。そこから生み出されるコミュニケーションこそ、このジャンルが持つおもしろ味の本質です。
――よくわかります。
嶋田『ロストアーク』がここまで注目を集めた要因のひとつは、現在のコロナ禍で人とのやりとりがしづらい状況が続く中で、コミュニケーションを欲する人たちの一定の受け皿になった点もあるのかもな、と思います。
加えて、MMORPGという他者とのやり取りが欠かせないジャンルのゲームがすでに存在し、先ほどもお話ししたように、ここしばらく大作と呼ばれるタイトルがリリースされてこなかった。こういった事情も盛り上がりに拍車をかけたのだろうなと。
――支持を集める環境が、偶然にも整っていたわけですね。
嶋田『ロストアーク』を通じて、そうした方々にMMORPGの醍醐味でもあるコミュニケーションを楽しんでほしいと思っています。ですがそれだけではなくて……。
――さらに何かを求めていると。それはいったい何なのでしょうか。
嶋田突き詰めていくと、純粋にゲームとして、RPGとして、非常に真摯に作り込まれた作品が『ロストアーク』です。気軽に触っていただきながら、MMORPGの要素であったり、バトルであったり、育成であったり、プレイヤーさんご自身にあった遊びかたを見出していただければいいなと思っています。
また、それらのニーズに答えられるコンテンツ量もありますし、今後のアップデートで拡張されますので、これからの『ロストアーク』にご期待いただきたいですね。
――私のような中年世代は、MMORPGだけでなくいろんなタイプのオンラインゲームを当たり前のように遊んできたので、コミュニケーションをさほど意識する必要はありませんでした。新作の発表自体が減ってきたいまの時代だからこそ、MMORPGというジャンルならではの魅力を、もう一度考えなおしてみる必要があるのかもしれません。
嶋田マーケティング的な視点でお話しすると、プロダクトはたいてい10年おきにひとつの周期を迎えます。これにMMORPGを当てはめると、(『ウルティマ オンライン』をはじめとする)いわゆる第一世代の作品が発表されてから、そろそろ20数年が経過しようとしています。
いままでMMORPGは「プロダクトとしてはまだひと周りしていない」と思っていたのですが、最近「もしかしたら一巡したかも」と感じ始めています。
――と、言いますと?
嶋田『ロストアーク』は20代の方が多く入ってこられたことで、30代のお客様とのあいだで“ふたつの山”を形成しています。
他社さんのタイトルを持ち出して恐縮ですが、『あつまれ どうぶつの森』がここまでヒットした理由も、コロナ禍の影響で人とのつながりが不足していく中で、“遊び場”を求めていた多くの方たちのニーズに合致したからだと思います。そうした潮流にうまく乗る形で、私たちは『ロストアーク』を世に送り出せたのではないのかなと。
――遊び場に対するニーズが、結果として20代のファン層という“ふたつ目の山”を生み出したわけですか。
嶋田じつは、先ほどお話ししたCMは、中身だけを見れば『ロストアーク』向けのものでなくてもいい作りになっています。
――本作ならではの魅力というよりも、MMORPGのよさをアピールすることに重点を置いていますよね。
嶋田『ロストアーク』でなくてもよかったあのCMのフォーマットが、昔ながらのMMORPGのファンの関心を喚起してくれた面もかなり強いと思います。
結局のところ、いまのご時世で求められていたのはMMORPGが本来持つコミュニケーションの魅力なのだろうなと。久々の大作MMORPGなので注目を集めやすかったことと、そうしたコミュニケーションを求めていた方々のニーズがちょうど重なった結果、いまの流れが形作られたのだと考えています。
――MMORPGの再起を目指す気持ちがあり、そのためのきっかけとして、リリースタイミングがちょうどよかった『ロストアーク』を活用した、という見方もできそうですね。
嶋田そういう考えかたもあると思います。ジャンルそのものが流行っていることは、『ロストアーク』にとっても重要ですから。
――コミュニケーションは人間が生きていくうえで欠かせない要素ですし、多くのプレイヤーがそれを求めているのは事実です。ですけど、「いまからコミュニケーションしてください」と唐突に迫られると、やはり引いてしまいますよね。
嶋田そうなんです(笑)。
――「みんなで仲よくしてください」と言われると、「そこまでしなくてもいいんです」と背を向けたくなります。実際に『あつまれ どうぶつの森』も、それほどコミュニケーションを求める作りにはなっていません。
ひと昔前のMMORPGは、ギルドへの加入を明らかに求められることが多かったですが、その場面に遭遇した当時の私も「そこまではいらないんです」と感じていました。
嶋田かつて私たちが運営していたタイトルにもありましたが、GvG(ギルド対ギルドの戦い)のような大人数コンテンツを前面に押し出すタイトルほど、その傾向が強かった。そうしたタイプの作品には、たいてい人間関係が付いて回るもの。その反動が、いまのソーシャルゲームの隆盛を生み出したのではないのかなと。
『ロストアーク』にもギルドが絡むコンテンツが今後入る予定ですが、組織の重要性はそこまで高くならないはず。わずらわしさとは無縁なものになると思います。
ギルドに入ろう!加入のメリットは?ロストアーク広報部
嶋田 またコミュニケーションの面で言えば、過去のMMORPGでは「おめ!」や「あり!」みたいなかんたんなやり取りが多く見受けられましたが、クイックマッチングが主流となったいまの時代は、終始無言のままプレイが進むことさえ少なくありません。
――あったとしても、せいぜい挨拶を交わすくらいです。
嶋田本当に人々の意識と言いますか、時代が変わってきているなと感じます。コミュニケーションが希薄になったと見る向きもありそうですが、それはそれで悪いものではないと思っています。
プレイヤーの意見を重視する姿勢は今後も堅持
――システムの面でも、以前よりコミュニケーションを必要としないタイプのゲームが目立ってきました。
嶋田いままでのMMORPGはロールを重視するタイプが多く、たとえば特定の分野に特化した専門職が登場したりとか、ひとつひとつの職業を突き詰める傾向が強かったと思います。
もちろん『ロストアーク』ではバッファー的な立ち回りも可能ですが、意外なほどそういう要素が薄かったりするので、気軽にパーティーを組んで打ち合わせをせずに突撃しても、それなりに攻略が進められます。
――そのあたりのバランスを取るのは、すごく難しそうです。均等にするとクラスを分ける意味がなくなりますし、特定の分野に特化すると、今度はマッチングしにくくなってしまう。そうは言っても、運営サイドではどうにもならない部分のような。
嶋田システム面まで足を踏み入れると運営側では手出しができなくなりますが、たとえば特定のクラスが少ないのであれば、その部分に対してイベントを打つといった形で対応は可能です。
ですが、それをやったところで根本部分が変わらなければ、当然ながら全面解決には至りません。そうした根の深い課題が判明すれば、開発元に意見もしくは要望を伝える形になります。
――誤解を恐れずに言えば、『ロストアーク』のキャラ性能は比較的似たタイプが多いと思います。だいたいのキャラで、敵を集めてから範囲攻撃で一網打尽という戦法が可能ですし。そのあたりの調整を開発元に要望したとして、どうにかなるものなのでしょうか?
嶋田ゲームの根本に関わる部分なので、厳しいというのが正直なところです。そこを手直しすると、おそらくバトルの本質が変わってくるはずなので……。しかし、そうした根本部分も含めて意見はしっかりと伝えるようにしています。
――なるほど。
嶋田はい。なぜなら、韓国でリリースしたいわゆるシーズン1と、日本国内で公開したシーズン2では、バランスの根本部分が微妙に違うからです。本質がズレなければ、調整もやぶさかではないということ。
我々としても、作品の根本に踏み込む要望だったとしても、臆さずに出すべきだと思っているので、ダメでもともとのつもりで攻めています。もちろん、そうした声が実際にゲームに反映されるのかどうかはまた別の話ですが。
――さまざまなオンラインゲームを取材していると、「開発元は日本からの声もしっかり聞いてくれる」という運営側のコメントをよく耳にするのですが、実際のところそれがどれくらいゲームに取り入れられているのか、確かめるすべはありません。
嶋田そう思われるのは理解できます。ですが私の中では、そのあたりの判断がすごく明確で、“開発元がそのゲームにどれくらい情熱とプライドを持っているのか”が基準になってきます。
――意見を柔軟に取り入れることはもちろん大切ですが、他人の声を聞いてコロリと方針を変えてしまうようでは「プライドはないのか!」という話にもなりかねませんしね。
嶋田バランスも含めて、そのゲームをいちばんよく知っているのは開発元です。(開発元の)Smilegate RPGさんは『ロストアーク』に並々ならぬ情熱を注いでいるうえに、日本のゲームもたくさんプレイされています。
また、ゲーム開発に対するプライドもいい意味で高いため、こちらの意見に対して「そもそもそういう事態が起こることを想定して作られています」という回答がことのほか多かったりします。
私は開発元の皆さんをものすごく信頼しています。日本の運営チームの意見を聞き届けてくれるのかどうかは別として、彼らが作ったものを私は自信を持って皆さんにお届けできます。
――厳しい関係の中で育まれた信頼関係があると。
嶋田いずれにせよ、私たちだけでなくSmilegate RPGさんも、お客様から寄せられた意見をもっとも大切にしています。その証拠に、彼らは「運営サイドの意見は後回しでいいから、とにかくお客様の声を先に聞かせて」と我々に言ってくるほどです(笑)。
ゲーム内容に関しては、根拠を示すデータとVoC(ボイス・オブ・カスタマーの略。顧客の声)をとにかく重視しているので、プレイヤーの声がないがしろにされることは絶対にありません。通り一辺倒な答えに聞こえるかもしれませんが、これが我々の本質です。
『ロストアーク』はハクスラゲームではない
――リリース前から“『ロストアーク』はハクスラゲーム”と言われてきたように思います。ですが、評判を調べてみると、ハクスラファンからは厳しい評価を受けていそう。その辺はいかがですか?
嶋田うーん。『ロストアーク』はハクスラが軸のゲームじゃないので、仕方ないと言いましょうか、その評価もある意味当然と言いましょうか……。
――どういうことですか?
嶋田そもそもですね、我々は基本的にハクスラゲームとしてはアピールしてないんですよ。“敵を倒していい装備を集める”というより、“取った装備を強化する”のが基本スタイルですしね。
ハクスライメージが根付いたのには理由があると思っていまして。じつは韓国での情報出しやローンチ時期が、現地で『ディアブロ3』や『ディアブロ4』の期待が高まっていた時期に重なっていたんです。当時の国内PRの仕方にその影響が残っていた可能性はあって、それは否定できないですけど。
――クォータービューRPGと言えば、ハクスラと言えば、『ディアブロ』。その印象に引っ張られていたと。
嶋田見た目から『ロストアーク』=ハクスラと思い込んでしまう気持ちは理解できます。
――本作の評判を調べてみると、否定的な意見の多くは、ハクスラゲームとして期待していた人たちから出ているように感じます。「こんなのハクスラじゃない!」と言われても、そうですね、としか返せないわけですか。
嶋田逆に言えば、予備知識がさほどない方ほどゲームに定着してくれている面もあるかと思います。じつは私たちも、『ロストアーク』を発表する前に「ハクスラとは少し違うよね」というイメージを抱いていました。運営サイドからは積極的にハクスラと呼ばないようにしようというコンセンサスが当時からありました。
しばらくゲームを進めるとハクスラ要素も多少は顔を出すのですが、メインのコンテンツ自体にはそれがあまり入って来ません。ですから、我々の側からあまりプッシュしないほうがいいだろうなと。
我々の側から「ハクスラではありません!」と言い切るつもりもないですけどね。ハクスラ要素もゼロではないので、全否定するのもどうかと思いますので。
――ここまでのお話を踏まえて、本作のジャンルをわかりやすくひと言で表すとすれば、どのような感じになるのでしょうか?
嶋田社内でもくり返し話し合いました。まだ強く押し出す段階ではありませんが、いまのところ私個人の中でしっくり来ているジャンルは“シネマティックアクションRPG”です。
――良質の映像演出とストーリーが楽しめる、アクション性豊かなRPGというニュアンスですか。
嶋田そうです。ゲーム開始直後は、ストーリーに沿って楽しむのがメインの遊びかたですが、キャラクターレベルが50に到達すると、今度はアイテムレベルの上昇を目指す方向にガラリと切り替わります。
問題は、それ以降は“シネマティックアクションRPG”の要素が弱めになることです。この部分をスルーしたまま、いまお話ししたジャンル名を使用すると、「ゲーム性が一致していない!」とのお声をいただいてしまう可能性が高いので……どうしたものかなと。
――レベル50を境に、ゲームの作りが切り分けられているイメージですね。前半はスタンドアローンRPGの色合いが濃く、後半はコンテンツを周回して装備強化を楽しむ。これらふたつの要素は本来、同時に楽しんでもらうべきものですが……そのあたりについては、いまお聞きしても仕方ないですね。
嶋田開発サイドの話になってきますので、そうですね(笑)。
――そうしたイメージのバランスは、イベントやキャンペーンで多少はコントロールできる気がします。たとえそれが可能であったとしても、ゲームが2部構成に近い作りという根本部分に関しては、今後も双方を切り分けて運営していこうとお考えですか?
嶋田そこは、離脱する方々の動向にすごく影響するところではないのかなと。ゲーム前半では、ストーリーに沿って冒険が展開されるRPGならではの魅力が楽しめます。
『ロストアーク』は物語を紡ぐテキストの量が豊富ですし、ボイスもすごく充実しています。そうした魅力は、新規の方を呼び込むために欠かせません。
――よくわかります。
嶋田ゲームが後半に入ると、ハマれる要素としての周回向けコンテンツが用意されているわけですが、そこへと切り替わるタイミングで「どうしたらいいのかな」と不安になる方もおられる……いまは、ここをどうにかしたいんですよ。
――RPGらしさを求めて入ってきた人は、レベル50くらいでストーリーに区切りがついたところでひとまず落ち着くはずですよね。
嶋田ええ。ところが、そのタイミングで離脱する人が現時点でさほど出ていないんです。
――まだ物語を楽しんでいるプレイヤーが多いから、ということですか?
嶋田氏 数値の面で言うと、現在アクティブな方々の約半数は、レベル50まで到達しています。そこで離脱せずに定着してくださっている理由は、うまくゲームの流れに乗って周回コンテンツを遊べているからではないのかなと。
分布の面で言うと、いまの時期はレベル10とレベル20前後で離脱する方が目立ちますね。その一方で、レベル50でプレイを中断するお客様も少々。
――そこがひとつの区切りになっているのはたしかであると。
嶋田チュートリアルをスキップするとレベル10に到達するので、そこで離脱される方は“自分に合う・合わない”の判断をされたのだと思います。
一方でレベル20前後は、出現するダンジョンがちょうど途切れるタイミングであるうえに、いわゆるお使い系のクエストも増えてくる時期だったりします。
――なるほど。オンラインRPGに慣れていない人は間延びしているように感じるのかも。
嶋田はい。そして、レベル50でプレイを休止してしまう方が出てしまうのは、やはり何をすべきかわからないことが原因と思われます。ですが、このタイミングでお休みしてしまう方の数自体は、ほかのレベル帯よりも少なめです。
――その理由はどのあたりにありそうですか?
嶋田私としては、レベル50までキャラクターを成長させて達成感を味わった方が、つぎにすべきことを積極的に探してくださっているからだと思っています。
とはいえ、そこで離脱してしまう方もそれなりにいるわけで。今後もレベル50以降にすべきことを公式動画にまとめてYouTubeにアップしたりですとか、ゲームガイド的なものを積極的に出していくつもりです。
ロストアークLv50以降の遊び方
――コンテンツの多さはMMORPGの魅力とよく言われますね。いまのゲーマーは“量”を求めているのでしょうか? 多すぎると何をすればいいかわからなくなるのではと、心配になってしまうのですが。
嶋田いまは装備強化に注力している方がメインなので、現時点でその部分を気にしているプレイヤーはさほど多くない印象ですね。装備強化に疲れた方や、ほかのコンテンツを遊びたいお客様への受け皿として、いまのコンテンツのボリュームは適切だと考えています。
コンテンツがたくさんありすぎると、何をしたらいいのかわからなくなってしまう。それは理解できますから、そこをフォローするのが公式動画というわけです。いずれにせよ、今後のプレイヤーの皆さんの動向は引き続きしっかりと見ていきます。
韓国において開始5ヵ月で復帰キャンペーンが行われたのは計算通り
――ここまでの約3週間を見てこられて、離脱者の動向は今後どう推移すると思いますか?
嶋田日数の経過に比例して新規の方は減少していくものなので、そのぶん低レベル帯の離脱者は減っていくと思います。これはどのタイトルでも見受けられる傾向なので、ある意味防ぎようがありません。
――では、高レベル帯で休止する人の数についてはいかがでしょうか?
嶋田いまよりも増える気がしています。具体的には、レベル50ではなく、レベル50到達以降のアイテムレベル強化のところでプレイを中断される方が増えてくるのかなと。
ただし、こちらに対しては運営側の施策が活きてくるはず。継続率や離脱ポイントを精査のうえ、「つぎの段階に到達すればいいアイテムがもらえるよ」みたいなイベントを実施していくことになると思います。
またログインイベントも併せて開催し、周回コンテンツへの参加を促す施策も考えられるはずです。そうした対策はいろいろ行えるので、必要に応じて実施していきます。
――『ロストアーク』は韓国でものすごい人気を博しましたが、その後の下落ペースも著しいという印象があります。リリースから半年ほどで復帰系のキャンペーンが実施されたかと記憶しています。これと同じことが日本で起こる可能性はあるのでしょうか?
嶋田私なりの推測となりますが、韓国ではリリース前からゲームへの期待値が高かったんです。多くのMMORPGファンが遊んでくださるだろうという算段があり、もちろんそのための準備もしていたんですが、それを上回る方が初期の段階で入ってこられました。それはもう圧倒的な人数が。
重要なのは、初期の段階で格段に大きな母数を確保できた点です。『ロストアーク』のようなゲームをふだんプレイされない方もローンチ時にたくさん入ってきたので、定着した人も多い反面、離脱された人もそれなりにいらっしゃいます。ですので、私としては早期に復帰者を増やす施策を行ったことは、むしろ好意的にとらえています。
――たとえば、10万人を想定して開幕を迎えたら、100万人がログインするようになったとします。その後に80万人が休止したとしても十分なプレイヤーが残っている、みたいな。
嶋田だいたいそんな感じですね。リリースからしばらくした後に人口がピークアウトしていくのは一般的な流れです。それよりも前の段階で驚異的な人数のお客様をお招きできていたので、人口は総じて大きいままです。
ある程度の期間が経過すると、全体の人数に関係なく、一定の割合で離脱者が出ることは容易に想像できる。韓国版『ロストアーク』は、正式サービス開始という用語は使わずに、“OBT(オープンベータテスト)”という呼びかたをしていました。コンテンツがどんどん増えていくと公言したうえでの船出だったので、復帰キャンペーンというよりも、新規コンテンツを用意したうえでの“呼び戻し”の意味合いが強かったのではないのかなと。
――それなら合点がいきます。それに、下火になってからよりも、その前に手を打ったほうが効果的でしょうしね。
嶋田韓国で同時接続者数が35万人を達成したことを聞いて、「そんなに!?」と驚愕したことをよく覚えています。
――百戦錬磨の運営スタッフも、そこまでは想定していなかったのですか?
嶋田ほかのスタッフも、たぶん想定していなかったはずです。
――だからこそ、その後の休止者の数がより大きく見えてしまったと。
嶋田そんな気がします。数字の巨大さのプラスの面とマイナスの面が出てしまったのではないのかなと。
進めかたに迷ったら公式動画で一発解決!
――さきほどYouTubeによる配信が話題に上りましたが、いまの時代はやはり動画の制作が重要なのでしょうか?
嶋田公式サイトに掲載されているテキストベースのゲームガイドも多くの方にご覧いただいていますが、反応は動画も良好です。我々としてもプレイヤーの傾向がつかみやすいというメリットがありますし、閲覧回数もすぐにわかるので、今後も引き続き動画による情報提供を続けていきます。
――ある程度ゲームに慣れている人は、ほしい情報を自分から調べられます。逆にそれができないプレイヤーは、困ったときに何をすべきか本当に困ってしまうはずです。コンテンツの多いゲームだととくに。
そんな人たちに向けて、とりあえず見ておけばオーケーな動画が用意されていれば、かなり助かるかもしれません。
嶋田「この後はあれをやればいいんだよ」と背中を押せますので、きっと役に立つはずです。
先ほどもお話ししましたが、『ロストアーク』にはMMORPGに馴染みのない方々も多く入ってこられているので、なるべく動画で“かゆいところとその場所のかきかた”を説明していきたいなと。ほかにも、我々ではなく一般プレイヤーがアップした動画も増えていますので、相乗効果も期待できます。
そういった方々の動画もわかりやすいものが多いですし、「コイツは育てるな!」や「このアイテムは買うな!」といった、私たちの側からは積極的に発言できないようなことも赤裸々に語ってくださいます(笑)。
――公式からはそこは言いにくいですもんね。
嶋田とは言うものの、お客様から「公式動画のほうがやっぱり見やすいし、かんたんに検索できるから楽」というお声もいただくので、我々の側からも動画による手助けを引き続き行っていくつもりです。
アビスダンジョンに行こう!ロストアーク広報部
――情報量が増えすぎて頭が混乱するのを避けるために、困ったらまずは公式動画を視聴する。そのうえで、プレイヤーが作成した映像で個別の攻略法を学ぶ……そんな流れが形成されつつあるのかもしれません。
嶋田はい。そうしたところはすでにご好評をいただいています。ちなみに公式動画の配信は、クローズドβテストの時点で「ゲームガイドが少ないのでは」とのご意見を多くいただいたことへの対応策という側面もあります。
――コンテンツの内容をどこまでゲームガイドで公表すべきか、線引きが難しそうです。
嶋田おっしゃる通り、攻略情報なのですごく悩みます。
――古いゲーマーからすると「そこを自分で探すのが楽しいのに」などと思ってしまうのですけど。
嶋田やはり時代の流れだと思いますよ。以前は、何もない状態からプレイヤー自身で調べながら攻略を進めていくという、その作業自体が楽しさの一部として存在したのですが、いまはシンプルに遊べることが大前提です。そうした意識の変化に合わせて、打ち出す施策の中身も変えていく必要があるのだろうなと考えています。
――オフィシャル感を前面に押し出しすぎないゲームガイドも、いまの時代は重要になってくるのかもしれません。プレイヤーが自発的に行ってくれるのであれば、それを妨害する理由もありませんしね。
レベル50までがチュートリアル的な作りに
――ゲームガイドと言えば、最近久しぶりにコンシューマーRPGをプレイしているのですが、遊びの広がりやコンテンツの増えかたなどをレクチャーするチュートリアルがわかりやすいんですよね。
一方で、MMORPGのチュートリアルは投げっぱなしだったり、とりあえずテキストで説明するようなものが多いと感じます。プレイヤーが勝手に調べて遊んでくれるだろうという前提が強く、わからない人にあまり意識が向いていないような。そのあたりの手当ては運営側で可能なものですか?
嶋田もともと『ロストアーク』は、キャラクターのレベル上げ自体がほぼチュートリアルになっているんです。今後は、説明書のように堅苦しくないものを動画などを通じて発信していこうと思っています。
――ストーリーを進めながら、装備の作成、強化の手順や、ギミックの攻略法などが実地で学べる感じですよね。
嶋田はい。プレイヤーの方々のあいだで「レベル50までがチュートリアルだよね」と言われているくらいの完成度ですので、安心して冒険に出られます。
――遊んでいるうちに自然と覚えられると助かります。一気に文章を読まされたり、動画を見させられても覚えきれないんですよ。
嶋田体験を伴ったチュートリアルのほうが覚えやすいですよね。私はこれまで担当してきたすべてのタイトルでチュートリアルを重視してきたつもりです。『ロストアーク』は体験して覚える作りになっているので、そうした視点で見てもよくできていると思います。
チュートリアルでもフォローしきれない部分に関しては、ポップアップで“この動画やガイドを参考にしてください”といった文字が表示されるようになっています。基本的にチュートリアルはすべて体験型になっているので、実地で楽しく学べる作りです。
昔はコンシューマーRPGは取扱説明書が重要だったと思います。ダウンロード販売が増えてきた昨今、PDFファイルで添付してもほとんど読んでもらえません。
――たしかに、PDFファイルは開かないですね。説明書を読むのは好きなんですけど。
嶋田ストーリーにチュートリアルを丁寧に入れ込む手法は、いまのRPGの主流になっていると思います。Smilegate RPGさんは日本も含めた世界中のゲームをやり込んだうえで、『ロストアーク』のレベル50までのルートを“チュートリアル型”にすると決めたのではないかと。やはり長く定着してくれるかどうかはゲームの作りにかかっているので、いくら外部で操作法を伝えたとしても、本編のレクチャー機能が悪ければ離脱してしまいます。
若い人は、ゲームの進めかたがわからなくなってしまった場合、たいていYouTubeで調べますよね。困っているところを動画で検索して答えを見つけ出そうとします。ですから、公式のガイド動画を作ろうと思い立ちました。
――意中の動画を再生すると、たいてい「知りたい情報はいつ出てくるのだろう」みたいな感じになりませんか?
嶋田そのあたりも想定して、なるべく動画を細かく分けてアップしています。公式動画は長くても5分以内に収まるように。チャプター機能も積極的に使って、知りたい情報にすぐたどり着けるようにしています。近ごろの運営チームはもはやYouTuberです。
ゴールドの枯渇問題は時間を掛けて対処
――いまの時点で、プレイヤーからどのような要望が多く寄せられていますか?
嶋田オープンサービスからまだ3週間しか経過していませんが、すでにたくさんのご要望をいただいています。ゲーム内容に関して言えば、現在、ゴールドが枯渇していることへのご意見が目立ちます。
――金策がやりにくいと。
嶋田はい。ゴールドにはさまざまな用途があるのですが、基本的には装備を強化する際に消費します。『ロストアーク』は原則としてゲームの中でしかゴールドが稼げないうえに、そもそも排出する機会自体が乏しいので、結果として枯渇してしまいました。
――ゲームによっては、課金アイテムを売却するなどしてブーストが可能だったりしますが、本作ではそれが不可能です。ゲーム外のサービスを使って金策できないことがすべての原因ではないにせよ、そのあたりも稼ぎにくさのひとつとしてあるのかもしれません。
嶋田そうですね。たとえばゲーム内ではアバターの取り引きが可能なのですが、その際にもゴールドが介在してきます。
現時点で、ゴールドはゲーム内でのみ供給されるのが原則なので、いろんな場面で通貨が慢性的に不足している状態です。このため、ゴールドの価値の上昇に歯止めがかからなくて……。
――貨幣価値の調整に失敗すると、各方面のバランスを崩してしまいかねません。この問題に対して、現時点でどのような対策を取っているのかと併せて、今後の調整方針をお聞きかせください。
嶋田現在、できるだけ経済バランスを崩さないよう注意しながら、プレイヤーにプレゼントを渡したりキャンペーンで景品を配布したりして修正を加えているところです。
エンドコンテンツに到達すると周回向けコンテンツが現れるシステムになっていますが、その報酬にゴールドを追加したり、消費ゴールドを減らしたりと、Smilegate RPGさんと協議を重ねています。今後も引き続き、バランスを維持しながら施策を実施していくつもりです(10月21日のメンテナンス時に、ゴールドに関する大規模な調整が実施されている)。
――韓国ではゴールド不足はそこまで大きな問題にならなかったわけですよね。日本のプレイヤーは、韓国の方たちとはコンテンツの遊びかたが違うのでしょうか?
嶋田とくに違う点はございません。ただ、日本は韓国と違ってシーズン2で始まったので、その点では新しいプレイ経験をしています。
――シーズン1で韓国のプレイヤーから寄せられた不満を解消したうえでリリースしたものの、日本ではまた別のところで問題が持ち上がったわけですか。
嶋田はい。今後も引き続き、問題の解決と遊びやすさの向上に取り組んでいきます。ですがすべての課題を一気に解決するのは難しいので、バランスを崩さないよう、少しずつ調整を加えていくことにはなりそうです。
韓国でも似たような問題が多少発生していると思うので、おそらくですが、先回りして対応できる部分があるかとは感じています。
――そもそも、なぜ韓国ではゴールド不足がさほど問題にならなかったのですか?
嶋田韓国と日本ではMMORPGの人口自体が大きく異なるため、韓国版のコンテンツのプレイ回数が日本版よりも圧倒的に多かったからだと推測されます。攻略頻度が高まれば、そのぶんゴールドの排出量も増えるので、日本よりも経済の安定化が早かったのだろうと個人的に思っています。
――『ロストアーク』が日本でも盛り上がっているとは言え、根本的なMMORPG人口の違いから、さすがに韓国ほどの規模には至っていません。そうした事情を抱えたままコンテンツの周回数に差が出始めると、それに比例する形でゴールド不足の問題が国内でクローズアップされてくる……すごくありえる話ね。
嶋田あくまでも個人的な見解ですが、そのあたりに原因のひとつがあるのかなと。ちなみに、ゲーム内にはゴールドを獲得できるコンテンツが存在しますが、人数制限が設けられているため十分に活用できない状況になっています。現在、このあたりの改善も考えているところです。
――人数制限がネックになって遊びたいのに遊べないのは、どの国のプレイヤーもストレスに感じるはずです。改善策として、たとえばどのような方法が考えられますか?
嶋田航海協同クエストの人数制限に関して多くのお声をいただいているので、開発元に「何とかなりませんか?」と今後お願いしていきます。
“似通いがち”や“性別が選べない”問題の解決策は
――本作をある程度やり込むと、スキル構成や装備の組み合わせなどが似通いがちになってきます。そうしたところに物足りなさを感じたりもするのですが、このあたりは今後のアップデート次第になのでしょうか?
キャラクターの育成パターンがもう少し深みを増してからの話になるとは思いますが、人によってもっとプレイスタイルに差が出るとうれしいです。
嶋田たしかにそうですね。スキルの割り振りによって、たとえば“PvP向きのセッティング”みたいなところは選べるのですが、ほかの作品で言うところのロールのような厳密な住み分けは現時点でできていません。
ですが、ひと昔前のMMORPGのようにバッファーやヒーラーみたいな明確な住み分けを行うと、今度はゲームの自由度を狭めてしまいかねません。
――逆に住み分けを甘くしすぎると、キャラクターの装備や立ち回りが似通ったものになるので、そのぶんオンラインゲームでロールプレイを楽しむ感覚が希薄になってきます。
嶋田単純にみんなで敵を叩くだけの展開になりがちです。運営側の施策でそれを実現するのは難しいかもしれませんが、今後そうしたところも含めて開発元と相談してみようと思います。
――レアな武器が作れたり入手できたときの快感をもう少し味わいたいです。あと、どう考えてもふだんは使いにくい超特化型のキャラを作りたくて。
嶋田承知しました(笑)。
――この流れでお聞きしますが、職と性別を自由に組み合わせて選べない点も、根本に関わる部分かと思います。その点についてお話しいただけることはありますか?
嶋田その部分を問題視するお声が多いことは認識していますし、好きな性別が選べないからプレイしないという方がおられるのも把握済みです。これらは開発元も承知しており、今年の初めに行われた韓国でユーザーカンファレンスでも話題に上ったんですね。「時期は未定ですが問題の解決を目指します」とのことでした。
――仮に性別を選べるようにする場合、キャラクターの性能そのものに手を加える必要はないとは言え、グラフィックのパターンを新たにもうひとつ作らなくてはなりません。
シンプルにコストの問題が絡んでくるのはすぐに想像がつくのですが……やはりRPGはロールプレイが存在するからこそ楽しめるものなので、自分が望む姿でいたいというプレイヤーの気持ちが痛いほどわかります。
来年のアップデート計画も嶋田氏に直撃!
――ゲームシステムや見た目以外の部分で『ロストアーク』が優れている点はどこだと思いますか?
嶋田MMORPGの基本とも言うべき通信負荷について徹底的に考えて作られている節があるんですよ。たとえば3Dゲームは、さまざまな描写を一気に読み込まなければならないので通信負荷もパケット量も増加します。すると当然、処理の面でメモリーがオーバーフローを起こす危険性が増すわけですが、クォータービューである『ロストアーク』は、そこまで不安が高まる感じがしないのです。
――負荷が高まったときに起きがちなラグが少ない。ちょっとしたラグでも積もり積もってストレスになりますから、そういう配慮があるのはいいですね。
嶋田そうした問題が起きうることを突き詰めて考えたうえで導き出された答えが、2Dのクォータービューだったのだろうなと。横井軍平さんの思想に近いと思っています。枯れた技術の水平思考(※)が『ロストアーク』にうまく活かされているような。
※枯れた技術の水平思考:1997年に他界した、横井軍平氏(ゲーム&ウォッチやゲームボーイの生みの親として知られるクリエイター)のゲーム制作に対する哲学あるいは理念。ヨコイズムとも呼ばれる。既存のモノや要素を組み合わせて別の目的に応用することで、それらの再利用を可能にするという考えかた。
――すべての物体を3Dでどこからでも見えるように表現する必要はないし、それによって高負荷に悩まされるくらいならクォータービューでもかまわない……そういう発想ですね。プレイヤーのPCは性能が異なるので、最低動作環境が下がるほど間口も拡がります。
嶋田MMORPGにあまり馴染みのない方が多く入ってきてくださっている一因は、そのあたりにもあると思います。
――それでは最後に、今後のアップデートについてお伺いします。すでに年内のロードマップは公表されていますが、年明け以降の予定についてお聞かせください。
嶋田まだ開発元と協議している段階なので詳しくはお話しできない状況です。もちろん来年もアップデートを予定していますが、具体的なリリース時期などについてはまだ発表できません。
――そこを何とか。
嶋田年内は基本的に、韓国版『ロストアーク』がこれまで行ってきたアップデートをトレースする形にはなります。一例を挙げると、未知なる大陸と新たなプレイアブルキャラクターのふたつが大きな要素です。ほかにも、シルマエル戦場の新バージョンの追加も予定しています。
――新大陸が気になりますね。
嶋田新大陸は、まず2020年の12月にロヘンデルが追加されます。年明け以降は開発元と調整中です。参考として、韓国ではヨーン、フェイト、パプニカの3つがリリースされています。
――パプニカという名前を聞くと、あの人気コミックを思い出しますね。
嶋田お転婆なお姫様は登場しませんが、民族衣装を着ているような人々が暮らしています(笑)。キャラクターに関して言えば、2021年以降にはアサシンが入ってくると思います。こちらは、11月に実装されるランスマスターとは異なり、いわゆるベース職という扱いです。
――ランスマスターに続く上級クラスも追加されそうですか?
嶋田はい。2021年にはいくつかリリースできるかなと思っています。
――やはり人気どころから先に実装されていくのでしょうか?
嶋田リリースされる順番については、基本的に韓国版に実装された通りになるだろうという感触です。
ちなみにあちらでは、ベース職のアサシンと同時に、その上級クラスに相当するキャラクターがふたつ追加されています。その後、ウォリアーの上級クラスがひとつ追加されたうえで、ハンターの上級クラスであるスカウター、アサシンの上級クラス・リッパーが使用可能に……という順番になっています。日本では人気やバランスなどを判断したうえで順番を入れ替える可能性もあります。
――個人的には、韓国版と同じ順番でリリースされるのは悪くないと思っています。前から順に公開されていけば、そのぶんバグが発生する可能性が低くなるはずですので。
嶋田それはたしかですね。新要素が追加される順番に関して言うと、じつはすでにオープンサービスの段階で韓国版から少し変えていたりします。それに伴うバグはいまのところ発生していないので、多少順番が入れ替わっても大丈夫でしょう。Smilegate RPGさんのアップデートは完成度が高いなと、いつも思っています。
――アップデートの順番を少し変えたのは、日本のプレイヤーの好みによりマッチさせるのが狙いですか?
嶋田バランスを見て判断したという部分がいちばん大きいです。たとえば「こちらの職業のほうが人気があるよね」という話になったら、それを先に追加する……そんなイメージです。くり返しますが、いまお話しした来年以降のアップデートのリリース時期は、現時点では未定です。お楽しみに!