ストーリーとデザインが表現するマイルズ・モラレスの“冒険”

 2018年にプレイステーション4で発売され、その完成度と斬新なアクションで大ヒットを記録した『Marvel’s Spider-Man(スパイダーマン)』。その続編であり、プレイステーション5のローンチタイトルとして2020年11月12日にソニー・インタラクティブエンタテインメントから発売されるのが、『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales(スパイダーマン:マイルズ・モラレス)』だ。

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 情報が徐々に公開され、期待も高まっている本作。今回は、前作に続いて本作でも開発を一手に担う開発スタジオ、Insomniac Games(インソムニアックゲームズ)のキーパーソンたちに、『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales』に込めた情熱と技術を語っていただく機会を得た。

 国内ではファミ通独占となるその貴重な“肉声”で、本作が実現するまったく新しいゲーム体験をお伝えする。本記事ではゲームデザインに焦点を当てて、リードライターのBenjamin Arfmann(ベンジャミン・アルフマン)氏、アートディレクターのGavin Goulden(ギャビン・ゴールデン)氏、そしてシニアアニメーターのJames Ham(ジェームズ・ハム)氏に話を訊いた。

ティンカラーの正体やヴィランは、いい意味で皆さんを驚かせるでしょう

Ben Arfmann
インソムニアックゲームズ/リードライターのベンジャミン・アルフマン氏。WGA(全米脚本家組合賞)とBAFTA(英国アカデミー賞)にノミネートされた経験のある、テレビや映画でも活躍する脚本家・監督。 前作で初めてゲーム作品に関わることになり、本作の脚本も手掛けている。

――まずは、前作と本作の物語のあいだを埋めるための質問をさせてください。本作は、前作から1年後の物語ですが、この1年間にマイルズとピーターはニューヨークの人々からどう認知されていたのでしょうか?

ベンジャミンいい質問ですね。ゲームの開始時点では、ニューヨーク市民はふたりのスパイダーマンがいると知っています。ただ、ふたり目のスパイダーマンがどんなヒーローなのか、まったくわかっていないのです。ふたり目のスパイダーマンが現れたことがいいことなのか悪いことなのか、その意見も揺れています。「ひとり目のスパイダーマンのクローンでは?」なんて話もあるくらいです(笑)。

――なるほど。

ベンジャミンそして本作は、マイルズがどのようなスパイダーマンになっていくか、それを決断していく話です。マーベルが生み出すストーリーの魅力のひとつに、スーパーヒーローとしての自己を描く部分があります。そして、それ以上に魅力なのは、“ひとりの人間として”という部分と“スーパーヒーローとして”という部分が、心の中で衝突したり結びつき合ったりするところにあると思うんです。

――確かにそういった葛藤はマーベル作品でよく描かれますね。

ベンジャミンその決断に対して、ニューヨークの人々、とくにハーレム地区の人たちが彼をどのように受け入れていくのか、その変化を描く物語でもあります。本作のマイルズはブルックリン生まれのブルックリン育ちですが、数ヵ月前にハーレム地区へ引っ越してきました。ハーレムは嫌いじゃないし、いい街だとも思っているものの、まだここを地元としては感じられないでいる状態です。
 
 でも、いろいろな冒険や困難を経て、マイルズ自身がハーレム地区になじんで、より好きになっていきます。他方でハーレム地区の人たちも、最初は新しいスパイダーマンに疑念を抱いていますが、徐々に彼のことを認めていく……。ある種、ハーレムの人々とマイルズのラブストーリーのようなものですね(笑)。

――それはステキですね(笑)。そして、マイルズの変化をわかりやすくするために、ピーターが街を離れると。

ベンジャミンはい。本作はマイルズ・モラレスが自分らしいヒーローになっていく話なので、ピーター・パーカーには優雅な感じで、早い段階で舞台から退場していただくことにしました。それによって、ニューヨーク市民がマイルズ・モラレスに集中し、マイルズがどのような人間なのか、そこにニューヨーク市民の関心が向くという展開を作りたかったのです。

――マイルズは最初、ピーターのようなスーツを着ていて、途中から黒いスーツに変わるようです。これは「ピーターとは違うスパイダーマンとして独り立ちする」ということを表現しているのですか?

ベンジャミンそこに気付いてもらえたのはうれしいですね! マイルズといえば、多くのファンが黒と赤のスーツを連想すると思いますが、私たちはそれをストーリーに結び付けたかったのです。

 ピーターからのプレゼントをマイルズが開けると、そこにスパイダーマンスーツが入っているシーンがある動画も公開されているのですが、あの場面でピーターが黒と赤のスーツを贈る……とは、したくありませんでした。マイルズが自分自身で「自分はこういうスパイダーマンだ」と考え、その結果として黒と赤のスーツを身に付けてほしかったので。

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これがコミックのデザインも踏襲している、マイルズのベーシックなスーツ。これを着るまでに、マイルズにどんな心境の変化があるのだろうか……?

――なるほど! ちなみにストーリーに関して、マーベルから何らかのオーダーはあったのでしょうか?

ベンジャミンマーベルと仕事をしていて、とくにすばらしいと思うのが、「君たち自身が語るべき物語を語りなさい」とつねに応援してくれることです。私たちを信頼して任せてくれたおかげで、これまで描かれてきたストーリーに捕らわれることなく、自分たちだけのストーリーを描けました

 もちろん「スパイダーマンとは何か」という核の部分に関しては、我々もマーベルに則っていますが、新しい展開や新しい要素を加えることをマーベルは許可してくれました。むしろサポートしてくれたおかげで、新しいハートを持ったスパイダーマンのストーリーを届けることができると思います。

――舞台に関してもお聞きしたいのですが、ニューヨークの街自体も、“ロクソン(ROXXON)”という大企業がハーレム地区の中心に巨大なビルを作り始めるなど、大きな変化がある1年だったようですね。

ベンジャミンネタバレもあるので、どこまで話していいかわからないのですが、いくつかの理由はゲームをプレイするなかで見つけていただけると思います。ロクソンはハーレムの中心に“ロクソンプラザ”という巨大なビルを建てていて、ここで “ニューフォーム(NuForm)”という新たなエネルギーを使って発電しようとしています。前作では“オズコープ(Oscorp)”という企業がニューヨークのほぼ全土を牛耳っていたのですが、ご存知の通り“デビルズブレス(Devil's Breath)”にまつわる事件があり、オズコープは評判も株価も大きく下げました。そんな権力の空白に乗じて成長したのがロクソンということです。

――オズコープについては気になっていたんです! 前作でハリー・オズボーンの……まるで伏線のようなシーンがありましたからね。

ベンジャミンどのカットのことを言っているのか明確にわかります(笑)。私も楽しみにしていたのですが、それに関しては言えません。本作はオズコープではなく、ロクソンと“アンダーグラウンド(Underground)”の抗争がメインになっています。

――ちなみに、アンダーグラウンドが作中で登場するのは“PlayStatin 5 Showcase”で公開されたトレーラーでのシーンが初めてなのでしょうか?

ベンジャミンネタバレを避けるために慎重に回答しますが、あのシーンはアンダーグラウンドが登場する最初のシーンではありません。

――では、ニューヨーク市民はロクソンとアンダーグラウンドが抗争をくり広げていることはわかっていて、そこにマイルズの母親が政治家として立候補する……という状況で間違いありませんか?

ベンジャミンそれまで一部の人たちは、彼らが抗争していることは知っていました。ただ、動画で見られる場面(マイルズの母が演説中に事件が起こるシーン)が、アンダーグラウンドが表舞台に登場した初めてのシーンではあります。この事件以降、アンダーグラウンドが新聞の見出しを飾ったり、J・ジョナ・ジェイムソン(John Jonah Jameson, JR。タブロイド新聞『デイリー・ビューグル』の元発行人)がアンダーグラウンドのことに触れるようになります。

――わかりました。ところで、本作のヴィランに“ティンカラー(Tinkerer)”も出てくるようですが、ファンがイメージするティンカラーとは少し違う感じになっています。また、ロクソンといえば“ミノタウロス”というヴィランの存在も頭をよぎりました。

ベンジャミンヴィランについて検討することは、このプロジェクトのなかでもとくに楽しいパートで、私自身もワクワクしました。 詳細は言えませんが、いま公開している以外にも、有名なヴィランが登場します。ティンカラーの正体や未公開のヴィランについては、いい意味で皆さんを驚かせられると思っていますので、楽しみにしてください。

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ハイテク技術を巧みに使って自身の野望を実現しようとする、ティンカラー。 ティンカラーはアンダーグランドという暴力的なテロ組織を率いて、ハーレム地区に巨大な施設を建てたエネルギー企業のロクソンから、新たなエネルギー資源の“ニューフォーム”を奪おうとする。

――期待しています! ちなみに、ライノやJ・ジョナ・ジェイムソンの姿は確認できているのですが、ほかにも前作に登場したキャラクターも出てくるのか、という点も気になるのですが……。

ベンジャミンいまの段階では何も言えませんが、もしも前作に登場したキャラクターを本作に登場させるなら、皆さんに「え、こんな感じで出るの?」と驚いてほしいと思います。そして、そんな新鮮な驚きを与えられる形が可能であるならば、再び登場させたいとも思っています。私から言えるのは、ただ「がんばったよ」というひと言だけです。

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本作ではチュートリアル的な立ち位置になっている、ライノとのバトル。ライノは有名なヴィランなので、ここでお役御免……とはならないと思うのだが、果たして!?

――ベンジャミンさんのがんばりをその目で見たいと思います! もう1点、気になっているのですが、本作の物語に現実世界の影響を受けた部分はあるのでしょうか?

ベンジャミン本当に2020年はいろいろなことが起こりましたし、我々も驚いています。ただ、本作は長い期間取り組んでいるプロジェクトで、2020年になる前にストーリーやミッションの内容を決める必要がありました。ですから、もし現在の状況とゲーム内のストーリーで似通っている部分があったとしても、それはまったく意図したことではありません。

 私たちはロクソンとアンダーグラウンドの対立と、彼らの対立がマイルズの人生に及ぼす影響、そしてマイルズが愛し始めているハーレム地区という街の危機を描くストーリーに集中してもらいたいと考えています。

――わかりました。では最後に、ベンジャミンさんが思う本作の見どころとファンへのメッセージをお聞かせください。

ベンジャミンもちろんゲームのすべてを楽しんでほしいのですが、前作のエンディングと同じく、本作のエンディングもかなり感情的に盛り上がるものになっていて、私はいつもそこで涙ぐんでしまいます(笑)。同じような感覚をプレイヤーの皆さんにも味わっていただけたらうれしいですね。

 個人的に気に入っているのは、ミッションを通してハーレム地区やニューヨークのさまざまな場所を知れることです。これに関しては、シナリオライターのメアリーと、ゲームデザイナーのチャーリーが不自然にならないよう注意を払って作っていて、どのミッションもスペシャルなものになりました。本当であれば、いますぐにでも皆さんにゲームを届けて遊んでいただきたいくらいなんですけれど(笑)。皆さんの愛とサポートに感謝していますし、スパイダーマンが好きな人は、みんな僕の家族であり友人だと思っています。

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マイルズを次世代の新しい技術で表現できたことがうれしい

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インソムニアックゲームズ/アートディレクターのギャビン・ゴールデン氏。前作でリードキャラクターアーティストを担当、本作でアートの責任者に就任した。代表作は『デッドライジング2』(2010)や『バイオショック インフィニット』(2013)、『Sunset Overdrive』など。

――本作のアートはどのような方向性でデザインされたのでしょうか? コンセプトを教えてください。

ギャビン主人公のマイルズが自分なりのスパイダーマンに成長していくストーリーと、マイルズの個性が伝わるようなアートを心掛けています。マイルズの運動神経や俊敏さもゲーム全体のテイストに関わりますし、彼のスーツの色も明らかに違いますからね。

 それらをもとに、マイルズのアートを作りました。また、季節が冬に変わったので、街の色合いや人々の服装など、それに合わせてアートディレクションの方向も変更しています。

――そもそもの話なのですが、マイルズの冒険の舞台となるのは、 前作と同じニューヨークのマンハッタンがメインという認識で正しいでしょうか?

ギャビンサイズという意味では、前作のマンハッタンとほぼ同じです。ただ、母親のリオといっしょにハーレム地区に引っ越してきたマイルズが、本当の意味で街の“一部”になっていく状況を描くために、ハーレムという街により焦点を当てる方向で街を構成しています。

 もちろん、ニューヨークの街全体も前作と比べて、より美しくなっています。細かいところまで作り込んだという意味でもそうですし、ライティングやオブジェクトがたくさんあるという意味でも、前作よりもはるかに美しいです。

――公開された動画では街にグラフィティアートも見られましたが、ああいったモチーフが各地にあるのでしょうか?

ギャビンはい。本作はPS5の作品ということもあって、よりたくさんのディテールを描けるようになりました。端的にいえば、テクスチャーをより多く使えるわけです。ですから、グラフィティアートもたくさんありますし、 看板やホリデーシーズンの飾りつけの光なども含めて、 前作よりもオブジェクトはたくさん用意しています。ちなみに、グラフィティアートに関して言えば、マンハッタンの地区ごとに個性があるので、 それを反映するようなものを配置しています。

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美しい冬のマンハッタンの街並みが描かれたコンセプトアート。これらはほとんどこのままの形で、本作に再現されている。そこかしこの壁に描かれたグラフィティアートは、まさに“いま”のアメリカという感じ。

――フォトモードで映えそうですね。フォトモードといえば、前作は評判が非常によかったのですが、本作でパワーアップしたところはありますか?

ギャビン本作のフォトモードは操作方法を見直し、ライティングを変えられるなど、より使いやすくなっています。ひとつ言えるのは、前作のフォトモードが好きな人でしたら、本作ではさらに気に入ってもらえるだろうということです。

――マーベルからアートに関して、アドバイスや指示はありましたか?

ギャビン彼らのほうから一方的に要求をしてくるということはありませんでした。マーベルとは前作から非常に強い絆で結ばれていて、緊密に協力しながら本作を作っています。そのおかげで「こういうストーリーやユニバースを作りたい、そのためにはこういうアートディレクションがベストだよね」といった具合に、共同して進められました。

――グラフィックに関して、とくに気を配った部分は?

ギャビン私はおむつを着けていたころからのスパイダーマンファンなので(笑)、とにかくインソムニアックのみんなとこのゲームに携われることが、何よりもうれしくて誇らしいんです。前作ではキャラクターアートを担当していたので、とくにスーツやヴィランのデザインができたことはすばらしい体験でした。今回もマイルズ・モラレスのストーリーをスーツのデザインなどで表現できたのは、非常によかったと思っています。

――前作もスーツのバリエーションは豊富でしたが、本作も期待していいですか?

ギャビン具体的な数は言えませんが、基本的には前作と同じ哲学で作っているので、プレイヤーがうれしくなる、幸せになるくらいの量は用意しています。

――楽しみです。ところで、アメリカのゲームメディア“Game Informer”にて公開された動画(Exclusive Marvel's Spider-Man: Miles Morales Coverage Trailer)を観て気になったのですが……猫を背負ったようなスーツが出てきますよね?

ギャビンスパイダーキャットのスーツですね。スーツのバラエティはたくさん用意していて、スパイダーキャットのスーツはインソムニアックにもファンがいます。開発チームの大半も「あのスーツは最高だ」という意見だと思います(笑)。

――マーベル世界の過去の作品から着想を得たスーツを期待するユーザーも多そうです。

ギャビン原点や原作があるスーツも、多数登場します。そういったものは、「あのスーツっぽいね!」と思っていただけるようにしつつも、あくまでリアルな感じに仕上げています。もちろん独自にデザインしたスーツもあって。 たとえば“T.R.A.C.K.スーツ”と呼ばれる白と赤のスーツは、マイルズの運動神経のよさが伝わるようにデザインしました。

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これがT.R.A.C.K.スーツの設定画。すべてのスーツにこれと同じような設定画が用意されているのだろうか。見たい!

――なるほど。では、ヴィランに関してはどのようなコンセプトでデザインされたのでしょうか?

ギャビンメインヴィランであるティンカラーについては、機械的であることや未来を感じるハイテク技術がテーマになっているので、 それを意識したデザインにしました。 ティンカラーにネオンのような紫を採用しているのは、マイルズの色と対比させるという意味があります。

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――ティンカラーはコミックや映画とは違うイメージですが、このデザインもギャビンさんが担当されたのですか?

ギャビンインソムニアックでは、全員が協力して共同作業をするというワークフローになっています。ゲームデザインのチームや脚本チーム、クリエイティブディレクターのブライアン・ホートンといっしょになって、私が出したコンセプトをゲームでうまく機能するのかを確かめました。たとえば、色の具合やシルエットがゲームでどういう感じになるのか、戦闘においてどういった感じなるのか。すべてを試したうえで現在の最終デザインに落ち着いています。

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ティンカラーの決定稿にたどり着くまでのデザイン案。さまざまなものが考案され、そこから方向性を徐々に狭めて決定稿に至ったことがわかる。

――アートの面で、PS5でないと実現できなかったことはありますか?

ギャビンレイトレーシングは非常に大きかったと思います。光の反射が正確になって、街の飾りつけや雪が降るなかでの光を正確に表現できています。それによって、非常に雰囲気が高まっていますね。それ以外にも、表現がより精細になったことで、細かいところまでこだわって描けるようになっています。それによってもたらされる効果を、プレイヤーに感じてもらいたいですね。
 
 アート以外の面では、ローディングがないのでスムーズにプレイできることや、初めて60フレームでプレイできるようになったので、非常に滑らかな体験を楽しんでいただける。ここもPS5でないとできなかったことです。

――60フレームでのプレイは、アートにも影響を与えたのでしょうか?

ギャビン 開発体制の詳細については触れられないのですが、すばらしい技術チームやレンダリングのエンジニアがいるおかげで、作業フローに変更は発生しませんでした。アセット(※編註:資産。ゲーム開発においては、独立したパーツを意味する)についても、ひとつのアセットをふたつのモードで使えるように処理してくれたので、スムーズに開発できました。

――ちなみに、本作では『Standard Edition』のほか、『摩天楼は眠らない』として発売された追加ストーリー3部作もすべて収録した『Marvel's Spider-Man Remastered』が付属する『Ultimate Edition』がPS5で発売されます。このリマスター版の街並みは、本作と共通になるのでしょうか?

ギャビン本編である『Marvel's Spider-Man: Miles Morales』と同じ技術を使って作っているので、街もキャラクターも作り直しています。

――それは遊び直したくなりますね。では、ユーザーに注目してほしいところは?

ギャビン「プロジェクトすべてがすばらしくなるように」という気持ちで、私たちは本作を開発しました。本作でマイルズ・モラレスのオリジナルストーリーを語れたことがいちばんうれしいのですが、アートディレクターとしてはマイルズを次世代の技術で表現できたところがとくにうれしいので、そこに注目してほしいですね。

 本作は新しい技術をたくさん採用していて、たとえば4Dスキャンでパフォーマンスをキャプチャーしたり、髪の毛をジオメトリーではなくスプラインで表現していたりしています。ライティングやシェーディングも、より複雑なものを使っていますので、ぜひ見ていただきたいです。また、個人的にスパイダーマンのファンということもあり、やはりスーツやヴィランの作成は楽しかったので、そこにも注目していただけたら。私たちは非常に楽しんで開発しましたので、皆さんにも同じくらい楽しんでプレイしていただければうれしいです。

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映画の中に入ってスパイダーマンを操作しているような体験を

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インソムニアックゲームズ/シニアアニメーターのジェームズ・ハム氏。物語を演出するのに欠かせないキャラクターの動きを統括する責任者。前作ではシネマティック・アニメーターを担当。代表作は『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』(2016)など。

――動画などを観ていると、本作は前作とイメージが少し変わった印象を受けました。

ジェームズまず明確にしておきたいのが、 マイルズの動きはピーターとまったく異なることです。マイルズはピーターにトレーニングを受けていますが、まだまだ経験が足りないので、ウェブスイングをしていても不安定だったり、未熟なところがあるんですね。とはいえ、マイルズは運動神経がいいので、バランスを崩したりしても何とか立て直せる。 そこをアニメーションや操作感で表現することを目指しました。

――確かにマイルズは、ウェブスイング中に足をジタバタさせたりします。

ジェームズマイルズはとてもランダムな動きを見せるキャラクターで、すばらしい姿勢のウェブスイングを見せることもあれば、不安定なときもあります。その姿を通してプレイヤーは「マイルズは身体の使いかたをもっと学ばなければいけない」と感じることができます。

――ゲームが進むうちに、ウェブスイングのバランスがよくなったりするのですか?

ジェームズマイルズのアニメーション自体は、ゲームを通して変わりません。ただ、プレイヤーの操作は大きく成長すると思います。操作に慣れてくると、“エア・トリック”というスイングの落下中に発動できるアクロバティックな動きも気軽に出せるようになります。こういった操作を通して、プレイヤーはマイルズの動きが「よりよくなった」と感じられるでしょう。

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ゲームを進めて操作にもバッチリ慣れたころには、華麗なウェブスイングを披露できるはず。

――本作にはふたつのグラフィックモードがありますが、そのことで映像の演出に影響はありましたか?

ジェームズパフォーマンス・モードではアニメーションが非常に細かいところまで描画されるので、一部を見直しました。最終的にマイルズは非常に滑らかですばらしい動きを見せてくれますし、爽快感のある遊びを提供してくれるようになったと思います。

――それはPS5だからこそできたのでしょうか?

ジェームズその通りです。 安定して60フレームでゲームプレイができることも、PS5だからこそ可能になったと思います。ロードがないことなども含め、とてもスムーズなんですよ。アニメーションも非常に見栄えがよくなっていますね。

――答えづらい質問かとは思いますが……前作のグラフィックやアニメーションを10としたら、本作はどれくらい美しくなっているのでしょうか?

ジェームズ数字で説明するのは難しいですね。本作と前作で違うところはたくさんあります。マイルズにふさわしい表現を目指して作っているので、美しさの基準が前作とは違うんです。加えて、本作は冬なので、人々の行動や見た目で冬の寒さや、逆に暖かさを連想させるような感じを出しています。この点も、本作独特のものです。

――確かに、街の表現がより詳細になっていると感じました。

ジェームズアニメーションもかなり加えていて、冬に人々がする行動をうまく表現できていると思います。もちろん人の数も増えていて、PS5のパワーのおかげで街自体がより活き活きしたものになっています。

 環境アートのチームもがんばってくれて、より高精細な街を作っています。寒いから早く家に帰って暖まりたいという気分までも伝わるような表現を目指しました。

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本作の舞台は(マーベル世界における)現代のニューヨークとして設定されているが、現実の街並みを基にしながらもオリジナルの要素を加えている。物語を描くために適切なデザインアレンジを施して作中に構築しているのだ。

――映像に関して、マーベルから何か提案があったりはしましたか?

ジェームズマーベルとはお互いのスタジオどうしでいいところを持ち合い、お互いが納得できるようなマイルズの物語を作るべく、協力的な体勢を敷いていました。そのうえで我々もインソムニアックらしいゲームを作ることにも注力していて、それにはマーベルも協力してもらえました。

――公開されている動画を見る限り、バトルシーンとアニメーションがシームレスに切り換わっていきますが、ストーリーはこの形でどんどん進んでいくイメージですか?

ジェームズシームレスな体験を目指しましたので、ロード画面はありません。シネマの部分とゲームプレイの部分がシームレスにつながっていて、プレイヤーに「映画の中に入ってスパイダーマンを操作しているような体験をしてもらいたい」という私たちの目標は達成できたと思います。プレイヤーが空中にいようが地上にいようが、つねに映画の中で操作している感覚を与えるように気を付けましたし、実際にそのように味わっていただけるゲームになっています。

――映画というキーワードが出てきたのでお聞きします。これは個人的な意見なのですが、橋が落ちるのを防ぐマイルズのシーンは、個人的に過去のスパイダーマンの映画作品を彷彿するようなものでした。前述の例えが正しいどうかはともかくとして、映画をオマージュしたシーンなどはあるのでしょうか?

ジェームズ私たち全員がスパイダーマンのファンで、このゲームは言わば「ファンがファンのために作っている」作品なので、オマージュを感じるところはいろいろあると思います。映画だけではなく、コミックやテレビシリーズからのものもあるかもしれません。本作はマイルズの物語なので、当然オリジナルと同じような表現になってはいませんが、気付かれる方は「おお!」となるかもしれませんね。

――クリアーしてから、「このシーンはあれのオマージュでは?」みたいな話をお聞きしたいです(笑)。

ジェームズ私もファンの方々が見つけてくれることを楽しみにしています。シネマティックなシーンだけでなく、細かなアクション……たとえば移動中のポーズについても、私がマイルズのコミックを読んで、「このマイルズのポーズはかっこいいな。これをどうやったらゲームに入れられるだろう」と考えて、工夫して採用したものもあります。もし見つけたらフォトモードなどで撮影していただけるとうれしいですね。

――フォトモード専用のポーズなどがあるのかどうかも気になります。

ジェームズ必ずしもフォトモード専用ではありませんが、フォトモードで使われることを想定して作ったアニメーションはいくつかあります。マイルズのふだんの動きもそうですし、ウェブスイング中のエア・トリックやフィニッシュ・ムーブという敵を一撃で倒せるアクションに関してもそうです。私だけではなく、「壁紙にしたい」と思わせるような動きを意識して作っていたりします。

 とくにエア・トリックは、動きを研究するためにスケートボーダーの動きを観察したり、スカイダイバーの足の使いかたを研究してマイルズのアニメーションに反映するなど、いろいろなことを試しました。マイルズが自分の体を使って「こんな動きに挑戦しよう、こんなことをやってみたい」と考えながら行動していることを感じられるモデルになっています。そこもお楽しみください。

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バトルのコンセプトアート。こんな感じで、カッコいいフィニッシュ・ムーブを出したときに写真を撮れば、最高の壁紙になるかも?

――まだ詳細は不明ですが、ヴィランのアニメーションにも期待しています。

ジェームズヴィランについてはネタバレを避けたいのでくわしくは言えませんが、ヴィランのアニメーションは本当にビックリしていただけると思います。

――ジェームズさんが「ここを見てほしい」と思うアニメーションを教えてください。

ジェームズやはり移動に注目してほしいです。ものすごく楽しくなっていますし、ピーター・パーカーとはまったく違う動きになっていますから。私もティーンエイジャーのころは運動選手だったのでよくわかるのですが、新しい動きを学ぶとき、こういう動きができると学んだうえで、「できるだけカッコいいポーズをしよう」と考えてしまうんですよね(笑)。

 マイルズもティーンエイジャーなので「このポーズはカッコいい!」という感じでエア・トリックを考えているんです。皆さんも新しいエア・トリックを見つけたら、フォトモードでいちばん見栄えのいいエア・トリックを考えてもらえるとうれしいですね。

――最後に、日本で発売を待っているファンに向けて、注目してほしいところや期待してほしいところなどをお聞かせください。

ジェームズ何よりもプレイしていてポジティブな気分になってもらえる、楽しくなるゲームだということをお伝えしたいです。前作と比較しても、本作はさらにエネルギッシュになっています。マイルズは皆さんにエネルギーを与えられるキャラクターになっていると思いますので、そこを楽しんでいただきたいです。スイングだけでなく、ヴェノム・パワーやカモフラージュなど、彼のアクションのすべてがプレイヤーを元気にしてくれますので!