社会が大きな変化を迎えているなか、世界中から注目される2台の次世代機、プレイステーション5とXbox Series X|Sが発売。“東京ゲームショウ2020 オンライン”では、各ハードの専用ソフトも続々発表され、こちらも話題になっている。

 その一方、新型コロナウイルス感染症の影響によって、ゲーム制作のプロセスが大きく変化したことも、2020年のゲーム業界を語るうえでは欠かせないトピックスのひとつ。

 コロナ禍の先にあるゲーム業界の未来について、国内パブリッシャーおよびディベロッパーの代表4者が熱烈な講演を実施。その模様をリポート形式でお届けしよう。

ファミ通.com”東京ゲームショウ2020 オンライン“特設サイト
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内山 大輔(バンダイナムコスタジオ 代表取締役社長)

竹内 潤(カプコン 常務執行役員 CS第一開発統括 兼 第一開発部長)

谷渕 弘(コナミデジタルエンタテインメント 『パワフルプロ野球』『プロ野球スピリッツ』シリーズ エグゼクティブディレクター)

浜口 直樹(スクウェア・エニックス 第一開発事業本部 ディビジョン1 マネージャー/『ファイナルファンタジーVII リメイク』共同ディレクター)

コーディネーター:林 克彦(KADOKAWA Game Linkage ファミ通グループ代表)

トークテーマ1:次世代機の未来

――まずは次世代機に対する、皆さんのご意見をおうかがいしたく思います。2020年はプレイステーション5および、Xbox Series X|Sの発売が控えていますが、いま現在、次世代機に向けてどういった研究・開発をされているのかを教えてください。

竹内PS5用に2タイトルを発表していて、ただいま鋭意開発中です。そのうち1本は地獄のようにたいへんです(笑)。

内山弊社も、6月に実施されたマイクロソフトさんの配信イベントで、『スカーレットネクサス』というタイトルを発表させていただいております。世の中的にこのような状況ですので、開発はなかなかたいへんですが、いい作品になるようスタッフ一同がんばっておりますので、ご期待ください。

浜口まだ発表はできないのですが、我々のチームも次世代機に向けての研究開発は進めています。

谷渕KONAMIもおなじような状況ですね。

――竹内さん、内山さんはお話ししやすいと思うのですが、PS5向けにゲームを開発するにあたり、実際に感じていることがあればお聞かせください。

内山次世代機が持つ、ハードウェア的なパフォーマンスには、エンジニアもものすごくてごたえを感じていて。高速SSDはもちろん、CPU、GPUのパワーには驚かされた……という話はよく耳にします。これをユーザーの皆さんのゲーム体験にどう繋げていくか?というところで、開発陣は挑戦状を叩きつけられたような気持ちになっていたようです。

竹内PS4をはじめとする現行機の表面上の性能だけでなく、その裏側までようやく理解できたと思ったら、次世代機が出てきて。触ってみた感じでいうと、ようやく見えたゴールの、もっと向こう側、はるか遠くに出口があるハード……といった感じですね。端的に表現するなら、とにかく“速い”のひと言につきます。本当に処理も速いし、読み込みも速くて。この速さを、どういうふうにゲームに落とし込んでいくか? というところから、いまはアレコレと試行錯誤しているところです。

――開発陣からすると、「できることがものすごく増えてうれしい!」といった感覚なのでしょうか?

竹内もちろんそれもありますが、考えかたを違うシフトにしないと、うまく使いこなせないんじゃないか……という印象を持っています。たとえばローディングとか、これまで当たり前のように存在していたものがなくなるんですけど、ここでひとつ問題がありまして。いままでは、ローディング中にゲームのTipsを表示することで、それをチュートリアル代わりにできていたのですが、読み込みの時間がなくなると、それができなくなってしまうんです。些細なことのように思われるかもしれませんが、こういうちょっとした変化も、開発陣からすると大きな問題だったりするんです。

内山うちもおなじですね。『スカーレットネクサス』の開発陣がおなじところで悩んでいました。うまく使いこなすには、違った視点で取り組まないといけないマシンだと思います。

――浜口さん、谷渕さんはいかがですか? 研究開発をしていて感じたことなどがあれば。

浜口手ごたえといいますか、実際に触った肌感なんですけど、「いろんなゲーム用のプラットフォームがあるなかで、うまく棲みわけができているな」と感じました。スマートフォンは、いつでもどこでも遊べる、生活に溶け込んだゲームに特化したプラットフォームであるのに対し、次世代機は「ゲームをやるぞ!」という気持ちのユーザーに、特別な体験や、特別な没入感を提示するハードだなと思っていて。逆に我々も、次世代機で開発する際は、そのモチベーションのユーザーにちゃんと届くものを作らないといけない……ということを、改めて思い知らされました。

谷渕私が手掛けているのはスポーツゲームなので、若干、皆さんとは方向性が違うんですけど、次世代機というと、ゲームに関心のある人から順に手に取っていくものだと思っていて。そうなると、うちのタイトルを遊んでもらえるのは少し先になってしまいそうですが、それをどのように届けていくか? というのが今後の課題ですね。

――ハードのスペックに続き、テクノロジーについてもお聞きしたいと思います。次世代機に用いられているテクノロジーで、気になっているものはありますか?

竹内興味があるというより、いま実際に向き合っているのが、レイトレースとか、グラフィックまわりの技術ですね。新しい表現として、HDR(ハイダイナミックレンジイメージ)も最大限に活かしたいところなんですけど、触れば触るほど、その奥にあるものが見えてきそうな気がしていて。

そのなかのひとつで、いままでと違うなと感じているのは、ソーシャルネットワーク上にいる皆さんと、いままで以上に密接に関われそうなところですね。高速ローディングによって、待ち時間なしでコミュニケーションが取れて。配信などももっと手軽に、相互にやり取りができる形で展開できると思うので、これをうまく活用すれば、もっとすごいことができるんじゃないか……とも感じています。

――ゲームの向こうにいるユーザーと、より密につながることができるかもしれないと。それは、オンラインゲームだけでなく、オフラインのゲームでも可能なのでしょうか?

竹内そうですね。弊社の場合、シングルのゲームにも力を入れてがんばっているので。たとえば『バイオハザード』シリーズの場合、大勢の方と実況配信で盛り上がったりもできるので、これもひとつのコミュニケーションの形だと考えています。

トークテーマ2:ユーザーコミュニケーションについて

――いまの時代、直接的なコミュニケーションをはじめ、SNSを介してのコミュニケーション、ゲーム実況などを介してのコミュニケーションなど、さまざまな形でユーザーと触れ合う機会があると思うのですが、その重要性について、お聞きしたく思います。谷渕さんは以前から、積極的にユーザーコミュニケーションを取られていますよね。

谷渕そうですね。ゲーム実況もそうですが、一方的にゲームを提供するのではなく、ユーザーさんがどのようにして、そのゲームで遊ばれているのか? ……というところも、しっかりと把握するべきだと思っているので。

――最近ですと、ダルビッシュ有選手が積極的に『プロ野球スピリッツA』についてツイートされていて、びっくりしました。

谷渕ダルビッシュ選手が、ものすごく熱心に『プロスピ』をプレイされている……とお聞きしたので、ダメ元でお声がけしたところ、協力していただけることになって。野球ファンの皆さんにも喜んでいただけて、非常に盛り上がりました。

――『ファイナルファンタジーVII リメイク』も実況配信が盛り上がっていましたが、浜口さんとしては、どういった気持ちでご覧になられていたのでしょう?

浜口一視聴者として、楽しく見させていただきました(笑)。『FFVII リメイク』は、まさに緊急事態宣言の真っ最中に発売したので、企画していたリアルイベントがすべて飛んでしまって……。逆に、実況動画などを多くの方に見てもらえて、どんどん情報が広まっていくことをはありがたかったですし、「いまはこういう時代なんだ」ということも、改めて実感できました。

――実況されることを想定して、何かを仕込んだり……ということは?

浜口そこまでは考えていなかったですね。ただ、「ここは絶対にユーザーに刺さるだろうな」というポイントはあったので、そのシーンには特別な演出を加えたりしました。発売後、そのキーワードでエゴサーチをしたら、大勢の方に刺さっていたので、そういう意味では仕込みが成功したと言えるのかもしれないですね。

内山弊社のタイトルですと、たとえば『鉄拳』ならeスポーツの大会、『アイドルマスター』ならライブなども実施して、それらも含めて“ゲーム体験”として定義していたのですが、2020年はそうしたイベントがいっさい開催できませんでした。ですが、オンラインイベントの実況動画などを通して、盛り上がってくださるファンの方が大勢いらっしゃって。そうしたSNSによる展開もまた“ゲーム体験”の一環として、再認識させていただきました。

ゲームをプレイする以外のつながりのなかで、どのような企画を提案していけるか? そういったところへのフォーカスは、もはや外せないところですし、技術的なところで言うと、今後はクラウドゲーミングサービスが、ユーザーコミュニケーションを加速させていくのではないか? とも考えています。

――いまやユーザーコミュニケーションは、開発陣も意識しないといけないところですね。

内山お客様どうしのつながりも含めてのゲーム体験……と考えて、アウトプットしていくことが重要ですね。

トークテーマ3:ウィズコロナ時代のゲームづくりと未来

――コロナ禍により、ゲームの開発環境も大きく変わったと思います。この数ヶ月、皆さんはどのようにして開発に当たられていたのでしょう?

浜口緊急事態宣言が出たタイミングで、全社員がリモートワークに切り替わりました。最初の1ヵ月はインフラが整っていなかったので、かなりドタバタしていましたね。インフラの問題と、我々自身のリモートを活用したワークフロー。これらに馴染むのに苦労しましたが、いまは出社していたころにかなり近い水準まで、環境が整ってきています。

――現在はどのような勤務状況なのでしょう?

浜口基本的には在宅勤務の形になっています。とはいえ、開発チームの状況であったり、進行具合によっては、出社する必要もあるので、そこは臨機応変に対応しています。在宅ですべての作業をこなせるチームもありますが、私のチームの場合、コアになっているメンバーは週に2回くらい出てきてもらって、顔を見つつコミュニケーションを取っていますね。

谷渕弊社もだいたいそんな感じです。緊急事態宣言のときは全員在宅になりましたが、そこでネックになったのがモバイルの運営ですね。「1週間ほどサービスを休止します」といったこともできないので、なんとか入れ替わり立ち替わりで、緊急事態宣言解除まで乗り切りました。

内山うちも在宅に切り替わり、最初の1ヵ月はとにかくドタバタでしたが、こういう状況にならないと“在宅でのゲーム開発”について考える機会もなかったので、そういう意味ではデメリットだけではなかった……とも言えるかもしれないですね。最初は不安でしたが、実際にやってみると、意外と対応できることに気づけたのは収穫でした。

それと、在宅に切り替えながらも開発を続けたことでわかったのですが、プロダクション作業に入ってからの生産性は、テレワークでも悪くないんですよ。集中してアセットを作っているときの作業効率は、在宅でもそんなに下がらないんです。けれども、新しいチームを作って、雑談のなかからアイデアをまとめ上げたり、コミュニケーションを取ってチームをビルドする……という作業の場合は、やはり出社して、顔を合わせないと効率が悪くて。そういったところもわかってきたので、いまでは開発の状況に応じて、勤務体系を使いわけるようにしています。

――カプコンさんはとくに、職人気質の方が多そうなイメージですが、リモートワークへの切り換えはスムーズに行きましたか?

竹内おっしゃる通り、「現場に出たい!」というスタッフが多くて。彼らの作業を調整するのがたいへんでした(笑)。

――お話を聞くかぎり、リモートワークでも開発状況に支障はなさそうですが、スピード感はいかがですか? やはり従来よりも、作業スケジュールは延びてしまう感じですか?

浜口スピード感そのものは気にしていないのですが、ゲームは総合エンタメなので、我々の力だけでは、どうしようもないこともあって……。たとえば声優さんを起用したり、スタジオでモーションキャプチャ―の撮影をしたり。我々の都合だけでは、どうしても動かせない部分もあるので、そこをどうカバーしていくかが今後の課題ですね。

――いろいろと検証しつつ、新しい働きかたのスタイルを作っていくわけですね。

内山時期尚早ですが、たとえコロナ禍が終息したとしても、この半年で世界中の人々が身につけた新しい生活のスタイルは、今後もスタンダードなものとして、ずっと残っていくと思うんです。ですので我々も、これからはそういう世界に適応した形のクリエイティブを探していかないといけなくなるでしょうね。ウィズコロナというより、世界そのものが変わってしまったので、それに適応していく……ということが、これからのゲームクリエイターには求められるはずです。

竹内海外の企業と提携して、サプライチェーンを組んでいたんですけど、それがズタズタになってしまって。今後はその形も、サプライズネットに切り替えて、不測の事態にも対応できるようにしていくつもりです。業界全体が本格的に変わらないといけない時期が来たのかもしれないですね。

読者の皆様に向けて、ひと言コメント

――貴重なお話をありがとうございます。それでは最後に、読者の皆さんに向けてひと言お願いします。

内山このたびは、コロナ禍の先にあるゲームの未来について、最前線で活躍されている皆さんと興味深いお話をさせていただきました。そこに込められた熱意は、読者の皆さんにも伝わっているんじゃないかと思っています。弊社はもちろん、どのメーカーさんからも、これから続々と、次世代機ならではの圧倒的なパフォーマンスを楽しめるゲームが発売されますので、そちらを心待ちにしつつ、この先のTGSの番組もご覧いただきたいです。

竹内ゲーム会社は、お互いにライバルであると同時に、おもしろいゲーム作りを目指す仲間でもあります。一致団結してこの難局を乗り越えて、大勢のユーザーさんに楽しんでもらえるゲームを、これからもどんどん生み出していきたいですね。今日は皆さんの話を聞けて、「ゲーム業界はまだまだがんばれる!」ということを確信できたので、この熱気をさらに多くの方たちにも伝えていきたいと思っています。

谷渕本日は私も、皆さんとお話ができて、たくさんの刺激をいただけました。ウィズコロナの時代(ニューノーマル)に合わせて、ゲーム業界もこれから、大きく変わっていくと思います。次世代機が発売されれば、新たなサービスも誕生するでしょうし、各メーカーさんからもおもしろいタイトルが多数発売されます。もちろん私も、皆さんに楽しんでいただけるゲームを作り続けていきますので、ゲーム業界のさらなる発展にどうぞご期待ください。

浜口コロナ禍はまだまだ続くと思いますが、そんな時代でも明るいニュースはたくさんあります。とくにゲーム業界では、これからに年末にかけて、次世代機が立て続けに発売されるなど、楽しい出来事が満載なので、我々作り手も、皆さんに明るい気持ちになっていただけるよう、生きる活力をご提供させていただきたいと思っています。私のなかでは、エンタメ=生きる活力なので、皆さんの糧になるようなコンテンツを、今後もたくさん発表できるようがんばります!