メディア芸術の創造と発展を図るため、優れた作品の顕彰および、受賞作品の鑑賞機会を提供するという目的で、1997年よりスタートした“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”。その第23回が、2020年9月19日(土)~27日(日)にかけて、日本科学未来館にて開催される。

 ちなみに今回は、エンターテインメント部門で、フロム・ソフトウェアのアクションゲーム『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』が優秀賞を受賞。こちらもバッチリ展示されているのだ。

 本稿では、開幕前日に行われたメディア内覧会の模様をリポートする。

第23回 文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 優秀賞『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催

 このたびの“第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展”では、世界107の国と地域から応募のあった3566作品のなかから

  • アート
  • アニメーション
  • マンガ
  • エンターテインメント

 の4の部門ごとに、大賞、優秀賞、新人賞、ソーシャル・インパクト賞、U-18賞を選出。それらの受賞作を閲覧、あるいは実際に触れて体験できる作品展となっている。

展示前半はハイセンスなアート作品や話題のアニメーションがずらり

 さっそく企画展示ゾーンを覗いてみると、最初に目につくのがアート部門の受賞作品。中世・ローマカトリックの聖体顕示台にインスピレーションを受けたという大賞受賞作『[ir]reverent: Miracles on Demand』をはじめ、漆の持つ魅力をテクノロジーの視点から探求し、手業で再現するのは困難な造形で仕上げた『between #4 Black Aura』、鑑賞者がAIアシスタントとして一般家庭に介入できるシステム『SOMEONE』など、個性的な作品がずらりと並び、いずれも独特の存在感を放っていた。

『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アート部門大賞『[ir]reverent: Miracles on Demand』
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アート部門優秀賞『between #4 Black Aura』(C)2018 ReKOGEI
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アート部門ソーシャル・インパクト賞『SOMEONE』(C)Lauren Lee McCarthy /Photo: Stan Narten
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アート部門新人賞『Latent Space』(C)MONOCOLOR/Photo: Johannes Hucek
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アート部門新人賞『drawhearts』(C)Akin Si

 続いての区画で展示されているのは、アニメーション部門の受賞作品。大賞の『海獣の子供』やソーシャル・インパクト賞の『天気の子』といった、国内でも有名な作品に加え、フランス・デンマーク合作の『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』、中国で制作された短編作品『浴場の象』など、海外製のアニメーションも多数展示。それぞれのブースには、絵コンテなどの資料も用意されている。

『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アニメーション部門大賞『海獣の子供』(C)2019 Daisuke Igarashi・Shogakukan /“Children of the Sea” Committee
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アニメーション部門ソーシャル・インパクト賞『天気の子』(C)2019 TOHO CO., LTD./CoMix Wave Films Inc./STORY inc./KADOKAWA CORPORATION/East Japan Marketing & Communications, Inc./voque ting co.,ltd./Lawson Entertainment, Inc.
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アニメーション部門優秀賞『ごん』(C)TAIYO KIKAKU Co., Ltd./EXPJ, Ltd.
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アニメーション部門新人賞『向かうねずみ』
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
アニメーション部門『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』(C)Sacrebleu Productions /Maybe Movies/2 Minutes/France3 Cinema/Norlum

後半エリアには人気マンガの原画や『SEKIRO』の義手が展示

 漫画部門の区画では、各受賞作のブースごとに原画が多数展示されているため、ファンにはたまらない構成になっている。シンプルなタッチでロボットと人間が共存する世界を描いた大賞受賞作『ロボ・サピエンス前史』をはじめ、20世紀初頭のフランス・パリを舞台に娼婦たちの生きざまを描く『鼻下長紳士回顧録』、テレビドラマ化もされ好評を博した『闇金ウシジマくん』など、いずれも話題性のある作品ばかりなので、きっとコミックスを読みたくなるはず。

『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
マンガ部門大賞『ロボ・サピエンス前史』(C)Shimada Toranosuke
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
マンガ部門ソーシャル・インパクト賞『闇金ウシジマくん』(C)Shohei Manabe/Shogakukan.Inc
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
マンガ部門優秀賞『鼻下長紳士回顧録』(C)Moyoco Anno/Cork
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
マンガ部門優秀賞『未来のアラブ人 中東の子ども時代(1978-1984)』(C)Allary Éditions/Takanori UNO/Kadensha
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
マンガ部門新人賞『大人になれば』(C)Ito Atsushi

 最後に設けられたエンターテインメント部門の区画では、ジャンルを問わず“エンタメ要素”に特化した作品が、ずらりと展示されている。こちらで大賞に選ばれたのは、フェンシングや新体操など、約10種の競技を行うアスリートたちの影にクローズアップした映像作品『Shadows as Athletes』。

 ほかにも、大喜利に特化した対話型AI『大喜利AI&千原エンジニア』や、音楽アーティストamazarashiのライブで実施された空間表現を再現した『amazarashi 武道館公演「朗読演奏実験空間 “新言語秩序”」』などが並ぶなか、ゲーム作品では『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』が展示。

 迫力の戦闘シーンをまとめた映像が見られるほか、実寸大で再現された主人公・狼の義手が飾られているのも、ファンにはうれしいポイントだ。ちなみに、同作の贈賞理由は以下の通り。

 静寂。月、風に揺らぐ薄。高台に上がると目に飛び込む夕陽。緊張。勝負、敗北……。挑戦、勝利、そして解放のカタルシス。名画のような映像美のなか、忍者をリアルに体感できる緊張と快感。小説、映画、時代劇、マンガ、アニメ、特撮といつの世も支持を集め、ゲームでも定番のテーマである忍者。ミドルウェアなど技術の共有により、各国でハイエンドなゲームが制作されている昨今、日本ならではのテーマ=文化であり芸術をゲームというメディアで改めて世界にインストールした作品だ。ストイックなゲーム制作で定評のある制作会社が満を持して忍者という定番モチーフに挑み、ゲーム性×世界観のストイシズムの二乗を見事に昇華。究極の「忍びゲー」(忍者ゲーム)で日本のゲームの真骨頂を世界中に轟かせてくれた。ゲームクリエイターとしては嫉妬を感じつつもストレートに賛美せざるを得ない。
 (審査委員:時田貴司 ゲームクリエイター/スクウェア・エニックス プロデューサー)
出典:文化庁メディア芸術祭公式サイト

『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
エンターテインメント部門大賞『Shadows as Athletes』(C)2019JOC
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
エンターテインメント部門優秀賞『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(C)2019 FromSoftware, Inc. All rights reserved.ACTIVISION is a trademark of Activision Publishing Inc.All other trademarks and trade names are the properties of their respective owners.
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
細部まで作り込まれた『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』主人公・狼の義手
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
エンターテインメント部門優秀賞『amazarashi 武道館公演「朗読演奏実験空間 “新言語秩序”」』(C)Sony Music Labels Inc./Photo: Sony Music Labels Inc.
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
エンターテインメント部門優秀賞『CELLMate』
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
エンターテインメント部門優秀賞『大喜利AI&千原エンジニア』(C)WATASHIHA Inc.

 なお、今回の催しではこれらの4部門に加え、フェスティバル・プラットフォーム賞という別枠も設けられていて、世界17の国と地域から応募された46作品のなかから、受賞作品を選出。同会場のシンボル展示であるジオ・コスモスを利用した『球小説』や、直径15.24メートルのドーム型スクリーンで視聴できる『Starman』といった作品もあるので、来場時にはこれらの展示物も併せてチェックしてほしい。

『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
ジオ・コスモスに、つぎつぎと文章が映し出されていく『球小説』
『SEKIRO』が優秀賞を受賞! 最先端のメディア芸術が並ぶ“文化庁メディア芸術祭受賞作品展”が開催
見る角度を変えると、異なる物語が楽しめるようになっている。

記者の目

 というわけで、東京・お台場で開催中の第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展をリポートした。ゲームファンである筆者としては、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』の展示を目当てに行ったわけだが、正直なところ、『SEKIRO』の展示スペースはそこまで広くなく、肩透かしを食らった感があるのは否めない。

 しかし、普段触れることのない最先端のアート作品を多く見られたり、アニメ『天気の子』などの有名作品がどのような価値を持っているのか、アカデミックな雰囲気の中で鑑賞できたのは、なかなか珍しい体験だったと感じる。

 この4連休、お台場方面にお出かけの予定がある方は、事前予約の上、立ち寄ってみるのもいいのではないだろうか(入場無料だし!)。

開催情報

  • 展覧会名:第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
  • 開催期間:2020年9月19日(土)~9月27日(日)
  • 開場時間:10:00~17:00
  • 会場:日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6)
  • 入場料:無料(事前予約制)
  • 主催:第23回文化庁メディア芸術祭実行委員会、会長:宮田亮平(文化庁長官)、運営委員:建畠晢(多摩美術大学長)/古川タク(アニメーション作家)、審査委員、選考委員
  • 協力:日本科学未来館、東京都港湾局、東急プラザ銀座
  • 協賛事業:ショートピース!仙台短篇映画祭2019(仙台短篇映画祭実行委員会)、高浜寛のマンガに登場するアイテムで読み解く19世紀末ー『ニュクスの角灯』、『蝶のみちゆき』……展(熊本市現代美術館[熊本市・公益財団法人熊本市美術文化振興財団])、MUTEK.JP 2019(一般社団法人MUTEK Japan)、東京都現代美術館企画展「おさなごころを、きみに」(公益財団法人東京都歴史文化財団東京都現代美術館)、インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル(略称:ICAF)(インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル実行委員会)