2020年9月2日~4日までの3日間、CEDEC公式サイトのオンライン上にて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けのカンファレンス“CEDEC 2020”。本稿では、会期2日目となる9月3日に行われたセッション“3D美少女キャラのモーションキャプチャによる"かわいい”動きへのこだわり”の模様をお届けする。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 本セッションでは、3D美少女の“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーでの撮影の際にどのような工夫がされているかが紹介された。

 登壇者は、サイバーエージェント ゲーム・エンターテイメント事業部のスマートフォンゲームにおける3D美少女のかわいさの表現力を向上させるために設立されたクリエイティブチーム“ebi tec labo”所属の3DCGディレクターを務める海老沼宏之氏、同チームクリエイティブディレクターの庄司拓弥氏、そして、数多くのタイトルにてモーションアクターを努めた実績を持つ能登有沙さんの3名。実際のモーションキャプチャーの現場の様子を再現しながら解説が行われた。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 本セッションは、美少女コンテンツでモーションキャプチャーを取り入れたいと考えている人や、モーションキャプチャーのディレクションを行いたい、あるいは現在行っている人が対象であるとのこと。

 海老沼氏によれば、実際にモーションキャプチャーを行っていく上でいちばん大事なことは、かわいい動きのイメージを明確にして言語化し、アクターとイメージと共有しておくことだという。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 実際の収録の現場においても、ゲーム上の動きの仕様は決まっているものの、ディレクション側で動きのイメージができておらず、アクターに丸投げになってしまう、という問題が起こるケースがあるという。

 また、ディレクションがはっきりしなかったり、チームの意見が分散してしまうことで、現場が混乱し、収録もスムーズに行えない、ということが発生してくるのだそう。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 アクター側としては、まだ世に出ていないキャラクターのモーションキャプチャーの収録を行うこともあるため、ディレクション側とのイメージ共有できていないと、そのキャラクター像を想像するのが難しく、収録は困難になってしまうのだそう。

 こうなってしまっては、かわいい動きを追求するということができなくなってしまう。そのため、アクターに任せるのではなく、キャラクター設定などからからしっかり情報を読み取り、そのキャラクターにあった動きを自分たちでイメージすることが重要であるとのこと。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 かわいい動きについて理解を深め、それを表現するためにはどうすれば良いか。ここから、本セッションの本題でもある、かわいい動きのためのアプローチ方法が紹介された。

 最初に必要となるのは、かわいい動きを学ぶこと。しかしながら、“かわいい動き”というのは千差万別で、各人の受け取り方、時代によっても異なっているため、正解となる動きを定義すること自体が非常に困難であるといえるだろう。

 それでは、どのように学んでいけば良いか、と海老沼氏より質問を受けた能登さんは、ドラマや舞台、アニメなどの動きを自分の中で記録し、インプットすることが重要である、と回答。また、アニメのキャラクターなどの動きを実際に自身で再現してみると、不自然に感じるところもあることから、バラエティー番組などからも動きを学んでいるという。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 かわいい動きを学んだ後は、それを言語化する必要がある。ここでは、言語化するための方法について、キャラクターの性格を設定から分類し、動きを言語化する、という手法について解説された。

 今回は、ebi tec laboで取り入れている性格の分類方法を紹介。同チームでは、キャラクターの性格分類を元気系、快活系、冷静系、清楚系、無機質系の5つの性格に分類している。もちろん、実際のキャラクターは複数のタイプが混合していることが多いが、こうした指標を取っ掛かりにしてキャラクターを分析し、考えることが重要であるそう。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 こうしてかわいい動きを言語化し、チームの意見を統一した後、最後に行うこととして紹介されたのが、ワンランク上のかわいい動きへのアプローチについて。具体的には、キャラクターへのイメージを共有し、ある程度動きの方向性が固まった後に、ディレクターとアクターが協力して少しだけ動きの演出を追加することが、チームで目指すかわいい動きの実現に必要だという。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 ここからは、用意された架空のキャラクター設定をもとに、実際のモーションキャプチャーの流れが実演。最初は清楚系に分類されるキャラクターへ、お題となる動き“よろこびワンアクション”が追加されていく様子が紹介された。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 まずは、ディレクターが想定している動きを自身が実際に身振り手振りでジェスチャーするという形でアクターへイメージを共有。

 続いて、本番前のリハーサルとして、共有したイメージの動きを再現してもらう。このとき、ディレクターが意図的に大きな声で指示をしたりすることで収録現場の雰囲気を和やかにし、アクターにテンションを上げてもらうことが、よりよい動きを表現する上で重要であるという。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 リハーサルを通じてイメージの共有が図られた後は、先にも紹介した、少しだけ動きの演出が追加され、動きが固められていく。今回、海老沼氏が考えた演出は、以下のとおり。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 現場では、体より少し離れていた腕や足を近づけたり、体全体を少し傾けたりすることで、清楚な雰囲気の動きがプラス。それとともに、能登さんより、当初のポーズでは手の指を丸くして上品さを演出していたが、このポーズだと実際のキャラクター設定の年齢より上に見られる可能性があるという指摘があり、手の指を伸ばす、というポーズへ変更。こうしたリハーサルを通じて、ディレクターとアクターのコミュニケーションのもと、キャラクターの動きが固められていく。

 リハ―サルを終えた後、本番の収録へ。このとき、OKテイクだった場合は、実際に「OKです!」と大きな声を出すことがポイントとのこと。そうすることで、収録にメリハリが出るゆえ、撮影もスムーズに進行できるそうだ。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
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 セッションではその後、元気系キャラクターの挨拶の動きも実践。リハーサル当初は、両手を顔の横で広げるという、少し幼さも感じられるポーズとなっていたが、海老沼氏より、左手を下げ、右足を少し上げることで、キャラクター設定にあった、少し落ち着いた印象となるという意見が出たため、こちらのポーズに変更。

 一方の能登さんは、実際に動きをとってみた際に、少し不自然さを感じるということから、体の向きを逆にして、左足を上げてみるというポーズに修正。こうした一連の流れから、ディレクターとアクターの調整を行い、動きを決めていくという現場の様子が、わかりやすく再現されていた。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
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3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

 ここまで、“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーでの撮影の際にどのような工夫がされているか紹介されたところで、最後に本セッションのまとめへ。

 海老沼氏はセッションで紹介したアプローチ法を改めて振り返りながら、これらの要素を現場で取り入れつつ、ディレクターの積極的な声掛けなどでアクターのテンションも上げてあげることで、よい収録現場ができあがる。そうすることで、お互いに動きに関するイメージが共有しやすくなり、担当するキャラクターに合うかわいい動きが生まれる瞬間に繋がるとメッセージが届けられたところで、本セッションは終了となった。

3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】
3D美少女キャラの“かわいい”動きを表現するために、モーションキャプチャーの現場で行われている工夫とは?【CEDEC 2020】

※画像はオンライン講演をキャプチャーしたものです。