2020年9月2日~4日、初のオンライン開催というかたちで行われたCEDEC 2020。本稿では、会期2日目にあたる9月3日に行われた、『新サクラ大戦』のキャラクターリーダーであるセガの柳瀬遼平氏による“デフォルメとリアルの両立を目指して ~新サクラ大戦のキャラクター作成事例~”の内容をリポートする。

新サクラ大戦

 本セッションでは、アニメ・マンガ寄りのデフォルメ感と、リアリティのある質感や存在感の両立を目指した『新サクラ大戦』を題材に、双方の魅力を活かすための試みが語られた。
 

キャラクターのズームアップにも対応できるモデル作り

 『新サクラ大戦』を開発するにあたって、デザインには何度か変遷があったそうだ。最初期はアニメ調の強いものだったが、そこに次世代機にふさわしいリッチな表現を加え、双方の両立を目指すことで確立したという。

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 クオリティーの指針になったのは、PVでもおなじみのイベントシーンだった。細かく確認してみると、キャラクターの歩行から服の袖が揺れ動く部分、視線の移動や瞳のうるんだアニメーションまで、しっかりと作り込まれていることがわかる。

新サクラ大戦
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 主人公である“天宮さくら”については、開発当初はビジュアルイメージがスタッフの中でも固まっていなかったというエピソードも柳瀬氏より語られた。凛とした女剣士としてのさくらと、柔らかな表情を浮かべる女性らしさ。その両方のイメージを持ち合わせた形で最終的には完成している。

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 基本的なキャラクターモデルの作りかたは、2Dデザインのイメージを再現する形で3Dツールに反映させる形で進行。ZbrushやSubstancePainterで作ったものをPhotoshopでテクスチャとしてまとめるなど、細かなワークフローが組まれている。

新サクラ大戦
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 モデルに使用されたポリゴン数は40000~65000ほどで、キャラクターによって多少の際はあるがいずれもかなりの量だ。ポリゴン数は天宮さくらが最高水準になっているとのこと。

 どのキャラでも共通して使用できる汎用アニメーションを適用するため、基本的なボーンの構造はレギュレーションモデルを使用しているようだ。

新サクラ大戦
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 モデルや服の製作は、Zbrushでのハイモデル作成、SubstancePainterを用いて服の質感などを作成し、Photoshopで合成して反映するという流れ。合成したものは、ゲーム実機上でさらに調整を施していくことになる。

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 頬のハイライト表現や輪郭線の太さにも細かな調整が入っており、リアルな動きや質感だけでなく、アニメ的な表現も多く盛り込まれていた。

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 髪の艶を表現する天使の輪についても、どの角度から見ても再現されるような調整が施されているという。天使の輪を作るための専用テクスチャを使用したそうだ。縦方向は大きめに、横軸は小さく動くようにテクスチャを設定し、髪の毛の質感を表現する技法が公開された。

新サクラ大戦
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 アニメらしい雰囲気の残るキャラクターの目は、カメラの角度が変わるのに合わせて瞳のハイライトが移動することで、多角的に見ても違和感が生じない作りになっている。『新サクラ大戦』ではキャラクターが至近距離で表示されるシーンも多いことから、ズームアップしても耐えうる密度を持たせるように瞳を描いているという。

新サクラ大戦
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 加えて、二重に重ねたハイライトを個別のアニメーションで動かすことにより、アニメ表現に近い瞳のきらめきを再現。これらの技法が、キャラクターとの急接近イベントなどが違和感なく描かれる一因になっているのだろう。

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リアリティーだけでなく魅せかたにも注力

 リアルな表現の中でも魅せかたに重視したポイントとして、キャラクターにかかる落ち影についても実例が挙がった。

 物理的な動きとしてはキャラクターに影がかかっているほうが正しい場面でも、描写としては顔をハッキリ見せたい。そんな場面では、影を補正して物理的な動きよりも描写を優先したという。

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 また、室内でのシーンが多い『新サクラ大戦』においては、光の当てかたにも工夫が必要だったそうだ。その一例として、キャラクターが逆光で暗く映らないように、バックライトを3つ追加することで影が濃くないようにしている。

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 キャラの見せかたについてはトコトン徹底されており、広い室内には大量のライトフィールドというものを配置しているという。ライトフィールドがあることで、周囲の光をキャラクターに反映させられるのだとか。

 公開された映像からは、広い室内に等間隔でライトフィールドが設置されていることが見て取れる。その空間にキャラクターが実在するようなリアルな光の入りかたは、こういった細かな調整により実現されているようだ。

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個性的なデザインのキャラに統一感を持たせる手法

 『新サクラ大戦』はメインキャラクターを久保帯人氏が担当しているほか、一部のキャラクターデザインについてはいとうのいぢ氏や堀口悠紀子氏などが担当している。それぞれデザイナーによって異なるキャラのテイストを違和感なく混ぜるためには、調整を施す必要があったそうだ。

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 当初、キャラデザインを忠実に再現してみると、頭身の違いによる違和感が生じたという。最終的には頭身バランスなどを微調整することにより、どのキャラが登場してもひとつの作品として違和感のない形になっている。

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 瞳のデザインについても、作家によって大きな違いが出るポイントのひとつだ。中には瞳の中央が白いデザインのキャラもいたが、これを忠実に再現すると違う種族のようになってしまったのだとか。この点については、ゲームとして落とし込んだ際違和感が生じないよう、全体で統一する判断に決めたそうだ。

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 キャラクターの表情は、すべてボーンアニメーションにて作成。原画をベースに作成していき、多彩な表情パターンを作成したそうで、その一部は映像でも紹介された。

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 作成した表情から、さらに各種パーツを調整したカスタムの表情も作っていくようで、中にはイベント用に専用の表情を描くこともあるようだ。勢いよく声を張るシーンでは大きく口を開く表情を用意するなど、イベントシーンごとの工夫を施す徹底ぶりが垣間見える。

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 キャラクターの頬が赤く染まるシーンでは、イベント班が状況ごとに赤みを調整。また、涙についても頂点シェーダを使用して揺らし、アニメーションで頬を伝って流れるように表現しているという。

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 主人公である天宮さくらの着物の袖をはじめ、揺れものが多い『新サクラ大戦』だが、この表現についてはBulletを使用。各ボーンに対して角度や質量、摩擦などのパラメータを調整することで、違和感なく揺れる表現を作り出している。

 髪や服が体を貫通するといった3Dキャラあるあるな問題は、コリジョンを設定することで解消したようだ。着物が身体を突き抜けないように設定し、歩く、走るといった動作をチェックし、干渉しないかどうかを確認している。

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アニメ表現とリアルの異なる点と共存方法とは?

 本セッションのまとめとして、最後にリアルな表現とアニメ的表現の異なる点についても触れられた。大きくまとめて、誇張と省略がマンガ・アニメ表現であると柳瀬氏は語る。

 あえて線を省略したりパーツを大きく描くなど、アニメ的な表現で描かれたデザインは、ゲーム上で長時間見ると違和感が生じてしまう。逆に、その部分さえ解消すれば、ほかの部分をリアルな表現にしても違和感は少ないと『新サクラ大戦』は証明している。

新サクラ大戦
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 アニメ調の3Dキャラクターを動かせるリアリティーのあるゲームは、大きな需要があるコンテンツだ。現段階でもまだまだ改善点や課題は残されているようだが、今後もさらなる進化を遂げ、魅力的なキャラを動かせる日がくることに期待の高まるセッションだった。

※画像はオンライン講演をキャプチャーしたものです。