【ファミキャリ!会社探訪(85)】人気アニメ『このすば』初のスマホゲームを配信! 2Dアニメーションへのこだわりをみせるサムザップを訪問_07

“ファミキャリ!会社探訪”第85回はサムザップ!

 ファミ通ドットコム内にある、ゲーム業界専門の求人サイト“ファミキャリ!”。その“ファミキャリ!”が、ゲーム業界の最前線で活躍している、各ゲームメーカーの経営陣やクリエイターの方々からお話をうかがうこのコーナー。今回は、サムザップを訪問した。

 2020年2月27日に、スマートフォン用RPG『この素晴らしい世界に祝福を!ファンタスティックデイズ』(以下、『このファン』)の配信を開始したサムザップ。テレビアニメ化もされた人気ライトノベル『この素晴らしい世界に祝福を!』(以下、『このすば』)を、スマートフォンゲームとして開発した『このファン』は、おなじみのキャラクターが全編フルボイスで活躍する異世界コメディRPGだ。さらに、ゲームオリジナルキャラクターが登場するという意欲作でもある。また、同作はテレビアニメ版さながらの2Dイラストや2Dアニメーションにも注目が集まっている。そこで今回は、アートディレクターの辻本健太郎氏、アニメーション統括の和田雄介氏に話を聞いた。

辻本 健太郎(つじもと けんたろう)

サムザップ
アートディレクター

和田 雄介(わだ ゆうすけ)

サムザップ
アニメーション統括

2Dの表現にこだわった『このファン』がヒット

――まずは、おふたりがどのような経緯で現在までに至るのかを教えてください。

和田私は最初に広告のデザイナーをしていました。その後、Web系のイラストレーターやデザイナーの仕事をしていました。2011年ごろになってスマートフォンゲームが出てきたときに、「これはすごく楽しそうだ」と思って、初めてゲーム業界で仕事をしてみようと考えました。そこで、とくに多くのスマートフォンゲームを出していたサイバーエージェントに入って、その後サムザップに入りました。

辻本僕は美術系の大学を出た後は、DTPのデザイン系の会社に入ったのですが、やはりゲームを作りたいなと思って、デバッグなどからゲーム業界に関わるようになりました。その後、イラストなどを手掛けるようになって、別のソーシャルゲーム系の会社で6年ほど経験を積んで、そこからサムザップに転職しました。

――おふたりとも、ゲームは昔から好きだったのですか?

和田プライベートでは、ひたすら遊んでいましたね。

辻本僕も、ファミコンぐらいの時代からすごく遊んでいました。

――もともとゲームが好きで、それまでの仕事から転職を考え始めたのとスマートフォンゲームが台頭してくるタイミングが重なったわけですね。

和田まさにそんな感じだと思います。

――当時、スマートフォンゲームの可能性をどのように感じていましたか?

辻本すごくチャンスを感じました。配信されるタイトルも一気に増えて、いろいろな人に遊んでもらえる可能性もありましたし、専門的な技術をそこまで突き詰めていなくてもできる仕事もありましたから。

和田コンシューマーがどんどんハイエンド化していくなかで、逆にスマートフォンゲームは参入のハードルが低かったですよね。

――ちなみに、学生時代からゲーム業界で働きたいという思いはあったのでしょうか?

辻本ありましたが、それが眠っていた感じですね。通っていた美術系の大学ではデザイン系を勉強していましたが、正直、業界の需要に対して世の中に絵の上手い人が多すぎて……。それで、当時は絵で勝負するのは難しいなと思っていました(笑)。絵の勉強をしていたのですが、ソーシャルゲームが出てきて絵を描ける人材の需要がすごく増えたので、「これはやれるかもしれない」と思って転職活動を始めるようになりました。

和田私もありましたね。広告デザイナーをやっていた時期は、ほぼひとりで作業をしていたのですが、一度ソーシャルゲームのようなものを作るタイミングがあったんですよ。それはけっきょく世に出ることはなかったのですが、そのときにチームプレイでものづくりをした経験が新鮮だったんです。チームプレイの魅力に気づいて、それもきっかけになりました。

――『このファン』が大きな注目を集めていますが、最近だと単純なIP(知的財産)の人気だけで成功するのは難しいと思います。ヒットの要因はどこにあると思いますか?

辻本もともとのIPが持つ人気のすごさもあるのですが、テレビアニメにはテレビアニメの、ソーシャルゲームにはソーシャルゲームのよさがあると思っています。作る側としてもIPの魅力をしっかり噛み砕いて、ゲームに最適化していったことも大きいかなと思っています。

 たとえばイラストであっても、テレビアニメのイラストをそのまま再現するのではなく、カードイラストやSD、Live2D(※)など、さまざまな見せかたをしています。そういったところでの見栄えのよさや相性のよさを考えて、しっかり落とし込んでいます。開発メンバーも、みんな『このすば』が好きで、開発を進めるうちにどんどん理解度が深まって、よりファンになっていったので、そこもユーザーさんに刺さるようになった要因かなと思います。

※Live2D:Live2D社が開発した、2Dを立体的に表現する技術やツールの総称。絵やイラストをそのまま立体的・インタラクティブに表現することが可能。

――開発の段階で、すでに手応えはあったんですね。

和田“いいものができている”という実感はありました。もちろんリリース前は不安もありましたが、原作をしっかりと見て、Live2Dという技術も初めて導入して、クオリティを担保するために外部にもアドバイザーを置いて、できることはやりました。これで売れなかったら、もうわからないな、ぐらいの感覚でした(笑)。

――おふたりは、『このファン』には最初から開発に関わられていたのでしょうか?

辻本はい。本当に初期のころから携わっています。

和田もっと言えば、その前のプロジェクトからいっしょのチームでしたね。

辻本当時のプロジェクトで2Dグラフィックに関する技術のレベルが上がっていたので、それを活かせばいいものができそうだ、という話はしていました。『このファン』は本当に3D表現をほとんど使っていなくて、Live2Dやイラストが中心になっていて、その強みを活かせていると思います。

――それぞれ、具体的にはどのような業務を担当されているのですか?

辻本僕はアートディレクターで、クリエイティブ全体のクオリティを担保するところもありますが、開発の初期段階では自分で絵を描いたり、SDキャラクターのバランスやLive2Dのテイストを提案し、ベースを作りました。

和田私はLive2DやSpine(※)など、アニメーション部分のマネジメントを担当していました。

※Spine:ソフトウェア開発、ゲーム開発専用の2Dアニメーションソフトウェア。

――先ほど、『このファン』では単純に原作のイラストに寄せるのではなく、ゲーム表現に最適化されているというお話がありましたが、こちらについて詳しく教えてください。

辻本たとえば、アニメーションのキャラクターデザインというのは、もちろんすごく魅力的ですが、アニメとして動かす前提で作られているので、簡略化されていたり、動きや透き間を考えて作られたパーツがあるんです。それをそのまま1枚のイラストや静止画にすると、少し物足りない感じが出てくるところがあります。

――動かすためのデザインと止めて見せるためのデザインはまた違ってくる。

辻本逆に、原作のイラストを描かれている三嶋くろね先生のイラストは、こちらもすごく魅力的なのですが、ゲーム全体で統一感を出すことなどを考えると、そのまま完全に再現するのは難しい。ですので、1枚絵やLive2Dでテイストを統一しつつ、それでいてリッチさや描きこみを入れられるような、そういうバランスを探して落とし込んでいったのがこだわったところですね。

和田原作のテレビアニメはギャグテイストが強いのですが、Live2Dを使ってギャクコメディのストーリーを作っているソーシャルゲームが全然なくて、どうしようかと思いました。でも、今回コメディ要素は絶対に落とせない要素だったので、最初はヒロインのひとりであるアクアを使って、ギャグ顔の表現などをいろいろと実験していました。

辻本『このすば』はキャラクターたちがすごく表情豊かなんですね。Live2Dは硬いとまでは言わないまでも、顔を崩したりするのがちょっと難しいので、そこをしっかり再現できるようにしました。

和田アート担当の人たちにいくつも顔を描いてもらって、どんな表現ができるかをいろいろと試しました。これを3Dでやると、多分すごく不自然になるので、2Dにしかできない、おもしろい表現ができたと思います。

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『このファン』をきっかけに『このすば』ワールドを広げてほしい

――『このファン』に関しては、とくに2Dイラストや2Dアニメーションへのこだわりを感じます。制作における御社ならではの強みや特徴があれば教えてください。

辻本キャラ周りのイラストは3、4人くらいで作っていたのですが、カードイラストやLive2D、SDキャラクターは全員作ることができたんですよ。作業のフローとしては、まずLive2Dのキャラクターを作ってキャラクターデザインをまとめたら、そこからSDに落とし込んでいったり、カードイラストを制作していくのですが、全員がすべての作業をできたのは大きいですね。また、背景イラストもほとんど社内で制作していて、ほぼひとりのメンバーがやってくれました。

和田本当に、メンバーに恵まれていると思います。それから、最近では珍しいと思うのですが、2Dアニメーションのしっかりしたチームがあり、大人数での制作が可能なのは弊社ならではだと思います。

――お話を伺っていると、さまざまな制約があるIPモノとは思えないくらい自由に作られている印象を受けます。権利元とはどのようなやり取りをされているのでしょうか?

辻本アニメのプロデューサーにほぼすべてのクリエイティブを見ていただいていました。弊社で起こした新キャラクターにおいては、自由にやらせていただいています。

和田キャラクター性に関して言えば、原作アニメのプロデューサーにはしっかりアドバイスをいただきました。

辻本“こういうことは絶対にしたくない”といったことはもちろん共有していただきました。クリエイティブに関しては、最終的にこちら主導でやらせてもらえました。

――『このファン』にはオリジナルキャラクターも登場していますが、こちらは扱いが難しいというか、かなりの挑戦だったのではないのでしょうか?

辻本そうですね。先ほどお話ししたように、社内に優秀なイラストレーターが多いので、『このファン』チームの人間に限らず、いろいろな人にデザイン案を出してもらって、社内コンペを開いて決めていきました。『このすば』のキャラクターたちに溶け込ませるための最終的な調整には、僕も参加しました。

和田社内コンペもけっこうな数が集まって、ほかにもすごくいいキャラクターがいっぱいいたんですけど、そこから絞り込んでいきました。

――『このファン』は2月に配信されたばかりですが、これから2年後、3年後のイメージはありますか?

和田アニメは劇場版の『この素晴らしい世界に祝福を!紅伝説』でひと区切りつきましたが、弊社の強みはオリジナルのシナリオなどが作れる部分なので、2年後や3年後になっても『このすば』を盛り上げるアプリでありたいですね。

辻本原作の人気にあやかるわけでもなく、かと言ってこちらだけが単独でやっていくのでもなく、『このすば』というIP全体をうまく維持し続ける一因になりたいですね。アニメや書籍はある程度区切りの付くタイミングがあると思いますが、アプリは恒常的に更新し続けていくので、これからもずっと楽しませられるものが作れればと思っています。フルボイスで、しっかりとしたグラフィックで、新しいシナリオを提供し続けて、『このすば』全体を盛り上げていきたいです。

 ゆくゆくはというか、これはいまでもそうありたいのですが、『このファン』を遊んで、「『このすば』っておもしろいな。原作やアニメも見てみようかな」と感じてもらえるような、そういう相互的に盛り上がっていけるようなものを作っていきたいです。

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社内、グループ内を通じて活発なコミュニケーション

――会社ができて11年目ということですが、御社の魅力や特徴、社内の雰囲気などを教えてください。

辻本クリエイターどうし、垣根を超えたコミュニケーションがとりやすいですね。

和田ジョブチェンジというか、挑戦することにも寛容です。今回Live2Dを担当してくれた女性スタッフはもともとイラストレーターで、それまでアニメーションツールを使ったことがなかったんです。それでもどうしても挑戦したいということで、やってもらったのですが、彼女自身のがんばりとまわりのサポートもあって、すばらしいものができたと思います。

辻本すごくよかったですよね。Live2Dは画作りですから、アニメーションの能力も必要です。少し斜めになったときの顔が、どの角度だと魅力的に見えるかというのは、絵を描く人じゃないとわかりにくいところがありますが、彼女はイラスト自体もすごくよく描けるので、そういったバランス感覚もしっかりしていて、挑戦がいいほうに働きましたね。

――技術共有というか、社内での勉強会などはあるのでしょうか?

辻本勉強会や技術共有は盛んですね。僕もこれまでLive2Dは触ったことがなかったのですが、先ほどお話しした女性スタッフがイラストレーター向けにLive2Dの勉強会を開いてくれて、そこで勉強してから動かせるようになりました。

――御社はサイバーエージェントグループの一員ですが、グループ内で会社をまたいで勉強会が行われることもあるのですか?

辻本あります。そういった機会に、自分の会社にはない技術を学ぶこともできます。今回のLive2Dも、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』を開発しているCraft Eggさんから知見をいただいています。そういった技術共有ができるのは、かなり強みだと思います。

和田平時であればオフィスで話をしたりもしますし、ランチや飲み会に行ったりしていて、会社は違いますけど、イメージとしては部署が違うぐらいの感覚ですね。

辻本社内での異動もあるので、そこをきっかけに他社さんとつながることも多いですね。

――たとえば、グループ会社どうしでライバル心のようなものはありますか?

和田……ゼロ?(笑)

辻本さすがにゼロではないと思いますけどね(笑)。ただ、ライバル心をむき出しにするのではなくて、いっしょによりよくしていきたいなという感じです。

和田“いっしょに盛り上げられるといいな”という感じですね。技術提供をしていただくこともあるので、お互い持ちつ持たれつというか。

――では求人について聞かせてください。御社に向いている、または御社で活躍できる人材はどのようなタイプでしょうか?

和田先ほど、Live2Dで挑戦した女性スタッフの話をしましたが、ものづくりが好きで、情熱を持って取り組める人のほうが、結果は出しやすいと思います。そういう人をサポートする文化もあるので、ぜひ来ていただきたいですね。技術面が多少拙くとも、日々やり続けていくことで伸びると思いますから。

辻本イラスト面で言えば、IP系のタイトルを扱うことがあるので、絵柄を合わせられる人は募集したいですね。『このファン』で扱っているSDやLive2D、カードイラストというのは、一概にイラストと言ってもまったく違う技術を使っています。そういうところを通して体験できて、学べることも多いので、やはり最新技術に興味がある人は楽しめると思います。

和田アニメーションに関しても、動画のような演出を作ったり、キャラクターモーションを作ったり、ゲームではさまざまですが、そこだけに留まらず、幅広く学べると思います。

 具体的には、Live2DやSpineを扱えて、キャラクターモーションが上手なアニメーターがいてくれると助かりますね。今回『このファン』でLive2Dにチャレンジして技術も増えました。今後もこの強みは活かしていきたいと思っているので、アニメーターの方はぜひ。

辻本イラストレーターについてはイラストが描ける人としか言いようがないのですが、たとえば弊社でも『戦国炎舞 -KIZNA-』などは全然イラストのテイストが違います。そういった意味でも、幅広くチャレンジできることに興味がある人に来てほしいですね。今後も2Dを強くしていきたいので、やりたいことがある人が来てくれるとうれしいです。

――最後に、これから転職を考えている人に向けたアドバイスをお願いします。

辻本やはり転職というのは、自分の成長もそうですが、会社にとってもプラスになる必要があると思います。できないことをできると誇張して入社しても、お互い不幸になるじゃないですか。逆に、その会社にあると思っていたものがなくてもよくないので、自分がその会社に合うかを考えるのはもちろん、自分がその会社に求めているものがあるかどうかもしっかり確認すると、自分のためにも会社のためにもなるいい関係を築けると思います。

和田やはり、本人に合う会社を選んだほうがいいですね、絶対に。

――そういう意味では、おふたりはサムザップさんとピッタリ合っている、と。

和田合っていると思います。こっちが一方的に思っているだけかもしれないですが(笑)。

辻本自分の場合は、入社するときに自分の求めている技術がすごくピンポイントで、そこが合致しました。ですので、お互いにいい転職になったかなと思います。あとは、やっぱり“縁”もすごくあると思いますね。

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サムザップってどんな会社?

 2009年設立。サイバーエージェントグループのゲーム・エンターテインメント事業の中核をなす会社のひとつ。“安心して遊べるサービスづくり”をモットーに、スマートフォン向けゲームの企画・開発・運用を行っている。スマートフォンゲームの黎明期から市場に参入し、代表作は2013年配信以降、ロングヒットを続けている『戦国炎舞 -KIZNA-』や今年2月に配信開始したばかりの最新タイトル『このファン』などがある。また、社内では、事業部各社横断での勉強会や、LT(ライトニングトーク)会の実施、社内報の運用等、社員の相互理解とチームワークを促進する取り組みが行われている。

●代表取締役社長:桑田 栄顕
●設立年月日:2009年5月1日
●従業員数:235名(2020年6月現在 ※非正規雇用含む)
●事業内容:スマートフォンゲームの企画・運営・配信事業

サムザップ 公式サイト
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