“ファミキャリ!会社探訪”第83回はプラネッタ!
ファミ通ドットコム内にある、ゲーム業界専門の求人サイト“ファミキャリ!”。その“ファミキャリ!”が、ゲーム業界の最前線で活躍している、各ゲームメーカーの経営陣やクリエイターの方々からお話をうかがうこのコーナー。今回は、プラネッタを訪問した。
プラネッタは、大学で油絵を専攻し、画家を目指していたという箱崎秀明氏が、ハドソン、フリーランスを経て2011年に設立。ゲームやエンターテインメントに関連した3DCGやイラスト制作を専門にしている。“ポケモンカードゲーム”のカードイラスト、ホビー系商品のパッケージイラスト、ゲームのキービジュアルなども手掛けており、会社の名前は知らずとも、何らかの形で同社の成果物を見たことのある人も多いだろう。今回は、同社を率いる代表取締役の箱崎氏に話を聞いた。
箱崎 秀明(はこざき ひであき)
(株)プラネッタ
代表取締役 / プロデューサー
油絵専攻から、3Dデザイナーへ
――まずは箱崎さんの経歴から教えてください。大学では油絵を専攻し、その後ゲーム会社に入られたそうですが。
箱崎じつは、最初はゲーム業界を目指していたわけではありません。大学時代は画家になろうと思って油絵を専攻していました。ただ、当時いくつかアルバイトをしていたなかで、お客さんに喜んでもらうのが楽しかったのと、レスポンスをすぐもらえるのもうれしくて、画家ではなく働いてお金をもらう生きかたも悪くないかなと思うようになりました。
――そこからゲーム業界を目指されたのですか?
箱崎「油絵でどんなところに就職できるだろう?」と考えていたときに、1学年上の先輩がゲーム会社に内定をいただいたという話を聞きました。そういう道もあるのかと思って、ゲーム業界を目指し始めました。それまでは、ふつうにいちユーザーとしてゲームを遊んでいる感じでした。
――“ゲーム業界で働く”という意識が特別にあったわけではなかったんですね。
箱崎そうですね。いまの仕事との接点という意味では、現在はポケモンカードゲームのイラストを制作していますが、その当時はアルバイトでポケモンカードゲームのイベントにジムリーダーのコスプレをして、子どもたちにルールを教えてあげたり、対戦をしたりしていました。
――正反対と言いますか、アルバイトはイラスト関係のものではなかったんですね。
箱崎そのアルバイトを始めたきっかけも、「全国の地方遠征があるから、旅行にも行けて楽しいかな」というものでした(笑)。
――ちなみに、就職活動はゲーム業界以外も?
箱崎編集の仕事もおもしろいかな、と思って受けていました。ただ、たくさんの会社を受けていたわけではなく、ゲーム業界プラスアルファぐらいで、他業界も受けていました。
――そうしてハドソンに入社されたということですが、職種は何だったのでしょうか?
箱崎2Dデザイナーです。
――ハドソンに入社を決めた理由は何ですか?
箱崎いちばん波長があった……というのが理由ですね。もう1社内定をいただいた会社もあったのですが、ハドソンの面接で、のちの上司となる面接官とすごく話が弾みました。自分も楽しかったですし、内定をいただけたので認めてもらえたのかなという思いもあり、入社することにしました。勤務地は札幌だったのですが、新しい土地に住むワクワク感もありました。
――ハドソンにはどのくらい在籍されたのですか?
箱崎6年間です。ずっと『桃太郎電鉄』シリーズに携わって、おもに背景を作っていました。当時はまだプレイステーション2の時代で、3Dになった『桃太郎電鉄』が初めて発売されたころですね。私も入社2年目に2Dデザイナーから3Dデザイナーに転向することになりました。
――ゲーム業界に入る前と入った後で、印象の違いはありましたか?
箱崎入社前は、「自分の描いた絵で仕事ができるぞ」といったことを考えていたのですが、実際に働いてみると、指定されたものをきちんと仕上げる仕事はけっこうたいへんで、最初の1年間ぐらいはそのギャップがつらいと感じることもありました。
――目指していた画家とはある意味正反対ですよね。どう折り合いを付けたのですか?
箱崎折り合いはとくに付けていないです(笑)。ゲーム開発の仕事のほうがおそらく自分に合っていましたし、ひたすら絵を描いていたことが仕事にも活きているので。当時仕事としては、美術設定を描くほかに、ドットを打って、それをアニメーションさせるといったこともしていたのですが、アニメーションの作業は経験がなかったので、非常に難しかったです。
それで、「これは自分には向いていない」と思って、2年目に入るくらいのタイミングで3Dに転向させてもらいました。そうしたら、これがすごくおもしろかったんです。
――ちなみに3Dの制作経験はあったのですか?
箱崎まったくありませんでした。当時は3D自体が出始めたころで、先輩たちも熱心に研究していました。その様子がすごくおもしろそうに見えたこともあって、3Dの仕事もやってみたいと思ったんです。3Dは自分の画力をカバーしつつ、世界観を作っていけるツールとして、とてもおもしろいと感じました。
人とのつながりや縁の大切さを社名に込めて
――ハドソンに6年ほど勤められたのち、今度はフリーランスのデザイナーとして活動されたわけですね。
箱崎はい。そこから5年間はフリーランスとして仕事をしていました。フリーランスになった理由は、自分の絵を使った仕事もやりたいという思いがあったからです。そのため、昼間はゲームのモデルを作りつつ、夜は教材のカットイラストや、アニメの設定画を描いたりしていました。ポケモンカードゲームのイラストを担当させていただいたのも、このころです。
――フリーランスを経て、2011年にプラネッタを起業されましたが、何かきっかけは合ったのでしょうか?
箱崎起業した理由は大きくふたつあります。まずひとつは、当時いっしょに仕事をしていた若いデザイナーが、「本当はゲーム業界に行きたいのに経験がないのでなかなか入れない」と言っていたんです。でも、きちんと制作できている人だったので、経験がないだけでゲーム業界に入れないのは変だなと思っていました。
もうひとつは、フリーランスで仕事をしていると、いろいろな人から「人材を紹介してほしい」と相談をされます。ただ、だいたい経験者、即戦力を探しているんですよね。そのミスマッチをすごく感じていて、それなら私が会社を作って、そこでいただいた仕事を未経験の人に対応してもらえば、その人たちが今度は経験者としてどこにでも羽ばたいていけるんじゃないか、と考えました。もちろんそのための教育も重要ですが、当時、専門学校で講師もしていたので、「なんとかなるだろう」という気持ちもありました。
――ゲーム業界に入りたい未経験のデザイナーと、経験者が欲しいゲーム業界とをつないだわけですね。
箱崎ひとりでやれることに限界があるということもありました。けっきょくフリーランスで私がひとりで仕事をしていても、自分の実績にしかなりませんが、会社でやればみんなの実績になります。その人たちがまたさらにつぎの人たちに伝えていくことになるので、裾野が広がるなとも考えていました。
――プラネッタという社名はチェコ語で“惑星”を意味する言葉だと、御社公式サイトで説明されていますが、そういった繋がりを意識されていたわけですね。
箱崎社名をつけるにあたって、何か輪っかになるような丸い形状の名前をつけたいと思っていました。フリーランスで仕事をしているときにも、人と人とのつながりや縁、そういったものがあってお仕事が回っていると感じていました。そこで“丸”や“環”などの言葉を探していたときに、“惑星”も丸いなと思ったんです。
ただ、単純に英語にしてしまうとおもしろくないので、いろいろな言語の発音を聞いて、そのなかで響きがすごく気持ちよかった“プラネッタ”という言葉を選びました。
――なるほど。とくにチェコと縁があるわけではないのですね。
箱崎縁はなかったのですが、チェコはクレイアニメーションが有名な国です。大学時代はすごく好きで見ていて、いつか行ってみたいとも思っていました。そういった意味で、チェコへの憧れもあり、この言葉がいいなと思いました。
3Dの技術を活かした新しい展開
――さて、今回初めて“プラネッタ”という名前を聞いた人もいるかと思います。御社はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
箱崎ひとつ目の柱は、コンシューマゲームやスマートフォンゲームで使われている、リアルタイムの背景やキャラクターのモデル制作です。もうひとつの柱は、ホビー系のイラスト制作です。たとえば、ポケモンカードゲームのカードイラストや、プラモデルのパッケージイラストなどです。それらを作っているイラストのチームは、ゲームのキービジュアルやコンセプトアートなども手掛けています。
――ほかのイラスト、背景、グラフィック系の会社と比べて、御社の強みとはどのような部分でしょうか?
箱崎ゲームであれば、仕様や注文内容に合わせて作るだけでなく、多少決まっていない部分があっても、弊社から提案をさせていただくことができます。デザインを自分たちで起こしたり、最終的なビジュアルを想定して、ポリゴン数などの仕様面からの提案も可能です。自分から発想して制作、提案することはデザイナーとしてのおもしろさだと思いますし、そこは弊社の強みのひとつだと思います。
――受け身ではなく、提案もできるというのは大きいですね。
箱崎イラスト制作チームでも同様に、『ポケモン』などのIP(知的財産)についても、企画段階からお話をいただいて、弊社から新しいビジュアルを提案させていただき、それを商品の“ウリ”にしていただくこともあります。
――2Dイラストで複数のビジュアルを並行して用意するのはたいへんそうですね。
箱崎カードイラストの場合ですが、弊社のイラストチームは3Dモデルを使用することで手早くイメージをご提案できるようにしています。まずは3Dモデルを使ってポージングをさせて、出力したものをPhotoshopでレタッチして、最終的に2Dのイラストにしています。
イチから2Dで描くよりも、結果的にスピードは速いですね。この手法を取っている会社はあまりないので、イラストに関していえば、これも特色になると思います。
――確かに。3Dモデルを使うのであれば、ポージングや構図の修正は加えやすそうですね。
箱崎もちろん、モデルを作る工数は発生しますが、モデルを動かしてさまざまな角度を試すこともできますからね。写真素材などを組み合わせてリアルな表現をしてみたり、3Dの技術があるからこその2Dイラストと差別化したような作りかたは特徴的な部分です。
ただ、イラストは絵として格好よくないといけないので、アニメ的な誇張表現も必要になってきます。正確さよりも絵的な格好よさを優先した表現を入れ込んでいます。
――技術的な専門性が高いような気がするのですが、会社としては新卒を採用し、育成する方針だそうですね。
箱崎そうですね。未経験者を採用して育てていくことが弊社のコンセプトですので、起業当時から新卒採用はずっと続けています。現在では、半数近くが新卒から入ったメンバーですね。多くは、美大や専門学校を卒業した人が入ってきています。
――会社ができて約10年が経って、起業当初から比べて社内の雰囲気などはいかがですか?
箱崎設立当初から比べると、会社らしくなってきたなと思います。人数規模はそこまで大きくはないので、ゆるい部分もありますが、新人教育に重点をおいている関係から、勤怠などの基本的な部分はしっかり対応してもらっています。
――新入社員の育成などはどのようになっているのでしょうか?
箱崎ひとつ上の先輩が“エルダー”として新人を指導する体制になっています。また、入社後1ヵ月間は研修期間になっており、3Dが未経験の人もそこで習得が可能です。また、新人が主催するミーティングがあり、通常業務のほか、そのミーティングでチームリーダーやエルダーが随時指導をしたり、悩みのヒアリングなどを行っています。
――社内の交流はどのようになっているのですか?
箱崎春であれば、4月には新人歓迎会を兼ねてお花見をします。私みずから、1週間前から公園の場所取りをし、本気でやっています(笑)。今年は開催が難しそうなので、どう歓迎しようか悩んでいます。ほかには、新人が主体になって社内でイベントを企画したりもしています。先日は、それぞれが写真を持ち寄って、そのときの思い出話を語りあう写真イベントを開いていました。ポケモンカードゲームの対戦会も開いています。
――ちなみに、社内の年齢層はどのようになっているのですか?
箱崎平均年齢は20代後半くらいですね。個人的に毎日ジェネレーションギャップを感じています(笑)。会社の規模的に、それぞれとしっかりコミュニケーションが取れていると思います。毎月、ケーキを買って誰かの誕生日を祝うような、小さなイベントも実施しています。
――新卒採用で入ってきた人材を育てるのはもちろんかと思いますが、一方で即戦力となる人材は何人いても困らないと思います。業界経験者では、どのような方が御社向いていると思いますか?
箱崎弊社の強みの部分でもお話ししましたが、仕様面やデザイン面で弊社からご提案をしていくことが多いので、指示を待っている人よりは、自分から発想して動いていける方がマッチすると思います。それから、やはり新卒から入ってきた人間が多いので、リーダーシップについては中途採用の方々に期待したいところもあります。今後、そういった方を探していきたいですね。
――いま転職を考えている方に向けたアドバイスはありますか?
箱崎私自身が感じてきたことですが、いろいろな場所で出会った方や仕事上のつながりなどが、後々までつながってきているので、そういった“縁”を大事にしていくことが重要だと思います。それまでの出会いをムダにするのはもったいないですからね。
――最後に、会社の将来像をお聞かせください。
箱崎やはり、デザイナーがメインの会社ですので、スキルアップと組織力の強化はつねに行っていきます。また、少しずつ対応していることですが、弊社で培っている技術、たとえば3Dを使ってのイラスト制作などは、まだホビー系のものにしか使えていません。もっと一般的な、たとえば広告などのジャンルに飛び込んだときに、新鮮な印象を与えられるのではないかと思っています。
弊社のデザイナーとも話しているのですが、ゲームで培った技術は、ゲーム以外にももっと活かせると思うんですよ。たとえばテクスチャをタイリング(※)させていく描きかたは、もしかしたらテキスタイル(※)的にもっと活かせるんじゃないか、といったことですね。
※タイリング:タイルを敷き詰めるように同じ画像、テクスチャを並べること。
※テキスタイル:布製品の生地、または柄。
ゲームというジャンルで完全に区切ってしまうのではなく、もっといろいろな形で人々の生活のなかに入っていけるのではないかと話しています。もちろん主軸はゲームやイラストですが、あまりゲームに触れていないような方にも近づいていけるようなものを考えていけたらおもしろいな、と思っています。
プラネッタってどんな会社?
東京造形大在学時は油絵を専攻していたという異色の経歴を持つ箱崎氏。2Dデザイナーとして入社したハドソンを退社後、フリーランスを経て、2011年に設立されたプラネッタ。チェコ語で“惑星”を意味する社名は、人と人との出会いや繋がり、循環する円を意味している。ゲームに使用される3DCG制作や、カードゲームやポスターなどのイラストレーション制作をおもな業務としており、“ポケモンカードゲーム”のカードイラストや『DUEL MASTERS PLAY'S(デュエル・マスターズプレイス)』のキービジュアルを始め、『ポケモン不思議のダンジョン 救助隊DX』では背景グラフィックの一部を担当している。
●代表取締役:箱崎 秀明
●設立年月日:2011年9月14日
●従業員数:18名(2020年3月現在)
●事業内容:ゲーム用3DCG制作、イラストレーション制作
2019年11月29日に発売された新シリーズでも、カードイラスト制作などを担当。