ファミ通ドットコム内にある、ゲーム業界専門の求人サイト“ファミキャリ!”。その“ファミキャリ!”が、ゲーム業界の最前線で活躍している、各ゲームメーカーの経営陣やクリエイターの方々からお話をうかがうこのコーナー。今回は、メディア・ビジョンを訪問。
1993年に設立され、1994年の初代プレイステーションのローンチ時に発売された『クライムクラッカーズ』の開発を担当。以降、『ワイルドアームズ』シリーズや『ケイオスリングス』など、家庭用及びスマートフォン向けの多数のタイトルの開発を手掛けている。今回は設立以来、同社をリードしてきた代表取締役社長の福島孝氏に話を聞いた。
福島 孝(ふくしま たかし)
メディア・ビジョン
代表取締役社長
CDロムへの移行時期に起業し、初代PSのローンチタイトルを開発
――まずは、福島さんがゲーム業界に入られたきっかけや、メディア・ビジョン設立までについて教えてください。
福島私が初めて出会ったゲームは『スペースインベーダー』です。当時高校生だった私は、「こんなにおもしろいものが世の中にはあるのか」とすごく驚きました。その後、たまたま親戚がパソコンゲームの開発会社を設立していたこともあり、大学を卒業するときに手伝わないかと誘ってもらったので、そこに入社することにしたんです。
7名程度の小さな会社だったので、開発のプロデューサーから営業、マーケティングやプロモーションも含め、ゲーム会社で行うようなことはすべて勉強できました。その会社には8年間勤めたのですが、会社が大きくなっていく中で、新しく創設された部署でもすべてを担当しました。おかげでゲーム会社には何が必要で、どういったことをすればいいかということも学べました。
――その経験を活かし、独立されたわけですね。
福島30歳のころから独立を考えるようになりました。ちょうどそのころは、メガドライブやPCエンジンが出てきたころで、プレイステーションやセガサターンが登場する前ではあったのですが、ゲーム業界に新しい風が吹く予感をすごく感じていました。このタイミングで起業するのはチャンスだな、と思ってメディア・ビジョンを立ち上げた、という形になります。
――カセットからCDロムに移り変わり、新世代のゲーム機が出るタイミングで独立の準備が整ったというのは、タイミングにも恵まれています。
福島そういう意味では、もうひとつ運のよかったことがあります。独立しようというときに、最初にお話しさせていただいたのがソニーさんだったんです。まだプレイステーションが準備段階のときにお話ができて、当時のソニーさんはまだゲーム業界にそこまで詳しくなかった一方で、私はある意味ゲーム業界のことは全部経験していたので、巡り合わせとしてすごくいいものになったんです。
プレイステーションの研究段階からお話をさせていただき、最初に開発に携わったのはメディア・ビジョンなんですよ。そういった流れがあったので、1994年にプレイステーションのローンチタイトルとして『クライムクラッカーズ』を発売することになりました。プレイステーションのローンチタイトルは3本あるんですけど、そのなかでも『クライムクラッカーズ』が最初にマスターアップしたということで、当時皆さんに拍手をいただけたのがいい思い出ですね。
――設立から25年と長い時間が経っていますが、この25年間についてはどのような変化を感じられていますか?
福島個人的に感じた部分で言うと、ゲーム業界で私よりも年上の人がいなくなりました(笑)。メディア・ビジョン設立当時に入社した人たちが転職して、いまは大手メーカーでプロデューサーや部長として活躍していますが、そういった面でも人や時間の変化を感じますね。
当時新入社員だった人たちが、「将来自分が偉くなったら、福島さんのところにお話を持ってきますよ!」みたいな話をしていて、10年、20年と時間が経って、実際にプロデューサーとなった方々といっしょにゲームを作ることができたりもしているので、そういう意味では助かっています。
――メディア・ビジョンさんの強みや、他社と比べてのセールスポイントはどのような部分でしょうか?
福島『クライムクラッカーズ』の発売から25年経ちますが、この25年間でつねに最先端の技術を作ってきたということですね。プレイステーションだけでなく、じつはXboxでも、2002年にローンチタイトルとして『ねずみくす』という作品を開発しています。
また、スマートフォンでは、スクウェア・エニックスさんから2010年に配信された『ケイオスリングス』という作品も開発しているのですが、当時はスマートフォンで本格的な3D RPGのゲームは出ていなくて、14ヵ国で売上ランキングの1位を獲得しましたし、ニューヨークタイムズでも「スマートフォンでこんな3Dのゲームが!」と掲載されました。
――25年間、時代の最先端を走り続けてきたと言えますね。
福島いまはゲーム開発に必要な技術力も上がっていますし、プラットフォームも多様化しています。最新の技術やプラットフォームに対応し続けていくのはもちろんたいへんなのですが、メディア・ビジョンには初代プレイステーションの時代から培ってきた技術力のノウハウがあるので、そこがいちばんの強みだと思います。
それからこれは私の考えなのですが、一度最先端から乗り遅れてしまうと、そこから最先端に戻ることは難しいですよね。ですので、経営の立場としてはたいへんではありますが、最先端の技術から目を背けることなく、そこを見据えた開発体制を作っています。その姿勢をこれまで保ち続けてきている、というのもひとつのポイントになるかと思います。
――自社製のゲームエンジンを使われているのも特徴的です。
福島やはり各タイトルに個性というものがありますので、その個性を出すために、基本となる自社エンジンをタイトルごとにチューンアップしています。メディア・ビジョンらしさ、あるいはそのタイトルにいちばん合った表現方法を追及するというこだわりで、自社エンジンを作ってきました。
ロールプレイングゲームを作るという意味では、描画エンジンだけでなく、それ以外の開発ツールも非常に複雑なので、そのあたりも自社でしっかりと作ってきています。これもノウハウの蓄積としては強みになるかと思います。
――これからも最先端を走り続ける、というのがメディア・ビジョンさんのゲーム開発に対するスタンスというわけですね。
福島そうですね。つねに新しいものを追いかけていくということは、私自身もやっていきたいですし、もし私がいなくなったとしてもメディア・ビジョンという会社は続いていくと思いますので、会社としてのスタンスとして、今後もブレずにいきたいと思います。
家庭用ゲーム機向けもスマートフォン向けも最先端技術で開発
――2020年の年末にはプレイステーション5やXbox Series Xといった次世代機の発売が予定されているなど、いまはハードの端境期になると思いますが、やはりこういった時期はたいへんな部分も多いのでしょうか?
福島苦労もありますが、ワクワクする部分でもありますね。まだ、具体的なタイトル名などはお話しできないのですが、俗にいう次世代機に関しては、大手メーカーさんから「いっしょにお仕事をしませんか」というようなお話もいただいていますし、我々も自社エンジンだけでなくアンリアルエンジンなども含め、幅広く次世代機に向けた研究や準備を進めています。
我々はコンシューマーゲームだけでなくスマートフォンゲームも作っています。今後5Gになって、クラウド対応、ストリーミング発信のゲームも出てくると思います。実際、いまストリーミングで遊べるゲームも作っていますので、コンシューマーとスマートフォン、両方で未来に向けた研究などを行っている、という状況ですね。
――現在開発中のコンシューマータイトルについて、お話しできる範囲で教えていただけますか?
福島リリースタイミングに関しては、東京オリンピックよりも後になるかと思います。基本的に、過去に携わったことがある作品は大事にしていきたいという思いがあるので、今回も大切に作らせていただいています。
次世代機でのリリースを見据えてはいますが、そこはクライアント様の考えかた次第ですね。まだだいぶ先の話にはなってしまいますが、楽しみにしていただければと思います。
――家庭用ゲームもスマートフォン用ゲームも、昔のようなリリースしたら終わり、という時代ではなくなってきましたよね。
福島そうですね。ハードが新しくなっていくなかで、単純に映像が綺麗になるということだけでなく、ネットワーク環境も整ってきて、作品を出した後の開発も大事になってきました。スマートフォンはとくにその側面が強く、そういう意味では、現状スマートフォンで行っているユーザーへのサービス、運営という部分は、将来的にはコンシューマーのゲーム開発や運営にも生きてくるかもしれないですね。
――ちなみにメディア・ビジョンさんでは、スタッフの方を家庭用ゲーム担当、スマートフォン担当というふうに分けていらっしゃるのでしょうか?
福島じつは、弊社ではそういった区分けはしていないんです。家庭用ゲームとスマートフォン用ゲームとを移動させながら、どちらの開発も経験していくという形です。会社では基本的にゲームしか作っていないので、コンシューマーとスマートフォンを区別することはしていません。加えて言えば、これはスタッフのスキルアップのためでもあります。
ひとつのことだけでなく、つねに新しいものを経験させていくことが、現場のスキルアップにもつながると考えています。もちろんプロジェクトとして各タイトルを担当することにはなりますが、コンシューマー部門といったような分けかたはせずに、どの職種の人にもコンシューマーもスマートフォンも経験してもらっています。
ゲーム好きなスタッフが集うアットホームな社内
――ここからは社内の雰囲気や社員同士の交流についてお伺いしたいのですが、福島さんも含め社内の距離感はかなり近いようですね。
福島そうですね。とくに意識しているわけではないのですが、私自身人懐っこいところがあって、スタッフに気軽に話しかけますし、スタッフのほうからも声をかけてもらうことは多いです。会社全体の雰囲気としても、ギスギスというよりはワイワイ作っていくぞ、という感じですね。もちろん集中するときには集中しますが、和やかな雰囲気があると思います。
スタッフ間の交流に関して言えば、年中行事としてはお花見会やバーベキュー、忘年会などを開催しています。それ以外にも、スタッフ同士で食事に出かけたりすることは多いですね。先日も、プロジェクトの区切りができたタイミングで50人くらいの規模での食事会を開いたりしていました。
――50人ですか! それはかなりの規模ですね。
福島場合によっては100人規模になることもありますよ。そういった会は会社が開くのではなく、現場のスタッフから「区切りのタイミングなので、全体で交流がしたい」という意見がたくさん上がってくます。もうどんどんやってください、という感じですね。そういった交流会は、積極的に積極に楽しくやっています。
――そのほかに特徴を上げるとしたら、どのようなポイントがありますか?
福島女性スタッフの多さもひとつの特徴だと思います。単純に数が多いだけではなくて、開発のトップをはじめ、各ポジションのリーダークラスも半分くらいが女性なんですよ。入社当時は独身で、働くなかで結婚や出産をし、育児休暇を取ったあとに復帰するスタッフも多いです。女性スタッフも働きやすい環境を、というのは心掛けていますね。また、男性にも育児休暇を取ってもらっているので、そういう意味でも働きやすいかとは思います。
――会社が25年間続いてきたなかで、創業当時からいらっしゃる方や中途採用で入社された方、あるいは新卒採用で入られた方など、幅広いキャリアのスタッフがいると思いますが、そういった方々の交流はいかがですか?
福島新卒のスタッフはやっぱり同期という意識があるので、新卒同士で仲よくしていることが多いですね。弊社には、設立当初から20年以上働いているメンバーもいれば、10年以上のメンバーもけっこういるのですが、上下関係みたいなものはあまりなくて、十数年働いているスタッフが新人の子とふつうに話したりしています。
もちろんリーダーなど、各ポジションに責任者はいますが、いわゆる主任、課長、部長のような固い雰囲気はないですし、基本的に名前にさん付けで呼び合っているんですよ。「社長」と役職で呼ばれるのは私だけかもしれないです(笑)。風通しはいいと思いますが、とくに指示を出したとかではなく、自然とそうなった感じですね。
――では、メディア・ビジョンさんが求める人材、あるいはメディア・ビジョンに合っている人材というのは?
福島社風に含まれる部分もあるのですが、私としては元気で明るく、自分の意見をはっきり言える人が欲しいですね。ゲームは大人数で作るものですから、コミュニケーション能力は非常に大事だと思っています。
2020年、弊社は設立して28期目に入るのですが、これまでゲーム以外の仕事は一度もしたことがありません。スタッフもとにかくゲームが大好きなんです。仕事でゲームを作りながら、通勤電車のなかで姿を見つければゲームをしていますし、昼ご飯を食べ終わったら会議室で集まってゲームをやっているような人が多いです。ですから、ゲームが大好きな人に合っている会社だと思います。
――ちなみに家庭用ゲーム機向けの開発経験がないから、という理由で不採用になることなどはあるのでしょうか?
福島未経験の方でも、きちんと採用しています。グラフィッカーであればデータを見せていただきますし、プランナーやプログラマーであれば、メディア・ビジョン独自の筆記テストを受けていただいて、そこで適正があると思えれば未経験でも採用させていただきます。もちろん、経験がある方の採用も行っています。
――20年以上続く、老舗とも言えるメディア・ビジョンさんですが、福島さんから見た10年先の会社に対するビジョンというのはいかがでしょうか?
福島私がここまでやってきた経験のなかで言うと、最近のゲーム業界は不確定な要素があまりにも多くて、先を考えられるのは、せいぜい5年間くらいのスパンだと考えています。かつて、ハードの寿命が5年程度だった、というのもありますけどね。
それを踏まえて言うと、これからまさに次世代機が登場し、クラウド化が進み、通信速度も変わるということで、コンシューマーとスマートフォンの両方で、ゲームのありかたが変わって、ひとつになるのではないかという気がしています。そういう意味でも、コンシューマーとスマートフォンの両方で開発を行っているというのは、メディア・ビジョンの大きな強みだと思っています。それぞれで培ってきた技術力がひとつに集まることで、また新しいビジネスモデルができるだろうという予感がしているので、そこを見据えてコンシューマーとスマートフォンの両方で開発を行いつつ、チャンスをしっかり掴んでいきたいと思います。
――では最後に、現在転職を考えているゲーム業界のクリエイターに向けたメッセージをお願いします。
福島先ほどもお話ししましたが、まず経験者の方に関して言えば、これから時代がどんどん変化していくなかで、弊社はクリエイターの皆さんがいま持っている能力やスキルを伸ばすチャンスがある会社だと思っています。いまの自分に満足せずステップアップしていきたいという人は、ぜひ弊社でいっしょに仕事をしていただければと思います。
弊社はゲームを作っていく会社なので、技術というのはそのための手段、武器だと思っていて、入社していただいた方には自身がステップアップするだけでなく、自分が持っている技術で、弊社のこともランクアップさせてほしいです。社内でも、メディア・ビジョンの制作開発会社としてのブランドイメージをツーランクアップさせていくことをひとつのキャッチフレーズとして皆でがんばっています。弊社のことをツーランクアップさせるぞ、という気概の人に来ていただければと思います。
メディア・ビジョンってどんな会社?
1993年に設立され、1994年にプレイステーション用ソフト『クライムクラッカーズ』を、2002年にはXbox用ソフト『ねずみくす』と、いずれも新ハードのローンチに合わせて発売されたソフトの開発を担当した。以降、『ワイルドアームズ』シリーズなど家庭用ゲーム機向けタイトルの開発を中心に、スマートフォン用ゲームも開発しており、中でも2017年12月にディー・エヌ・エーから配信されたスマートフォン向けゲーム『メギド72』は人気を集めている。25年以上の開発実績をベースに、家庭用、スマートフォン用ゲームはもちろん、新しいプラットフォームも視野に、開発力の向上に努めている。
●代表取締役社長:福島 孝
●設立年月日:1993年3月1日
●従業員数:156名(2019年4月現在)
●事業内容:家庭用ゲームソフト開発事業、携帯端末用及びスマートフォン用アプリ開発事業、CG制作事業
ディー・エヌ・エーから2017年12月に配信開始された完全オリジナルタイトルで、ジャンルは“絶望を希望に変えるRPG”。