2020年1月21日、PC周辺機器メーカーのアイ・オー・データ機器は新製品(サービス)発表会を開催した。
アイ・オー・データ機器というと、PCユーザー的には液晶モニターやストレージ製品などを取り扱う実直な企業というイメージが強い。今回、そんな同社が発表したのは音声に関するサービスだった。
音声に特化した配信サービス“PlatCast”
発表のメインは2020年1月22日から正式にスタートする“PlatCast”。音声に特化したBtoB向けの配信サービスだ。
配信者は音声データをアイ・オー・データ機器が運営するクラウドサーバーに送信。リスナーはスマートフォンの標準ブラウザから同サーバーにアクセスして聴く仕組みとなっている。
※2020/01/22 17:10 本サービスがBtoB向けであることを追記しました。
YouTubeやTwitchといった動画配信サービスでは、そのプラットフォーム上にユーザー自身でチャンネルを構築して配信する。設定も機材の準備も自分で行うのが一般的だ。
PlatCastではアイ・オー・データ機器からレンタルした配信キットを使用する。配信キットの内訳はヘッドセットと小型ミキサー、SIM入りの配信用タブレットなどと、アタッシュケースに収まる程度。また、機材だけでなく、配信者が準備する内容も非常にシンプルだ。
【配信までの手順】
- 配信キットを会場に設置
- タブレットの配信ボタンを押す
- 発行された配信ページアクセス用のQRコードをリスナー(来場者)に告知
リスナーはQRコードを読み取るだけで配信ページアクセスでき、同時に接続可能な人数は3000人を想定している。Wi-Fi環境がないところではデータ通信量が心配だが、1時間でおよそ0.04GB。フルHDのYouTube動画で換算すると1分ぶんほどだという。
PlatCastの魅力はこういった手軽さにある。ひとつの配信チャンネルあたり、利用料金は1日3万円から。これは標準配信キットの輸送費や通信費も含んだ基本価格で、4人用のミキサーを追加したり、配信アーカイブ提供などのオプションサービスも用意される。
アイ・オー・データ機器が想定している利用シーンは、スポーツ観戦や何らかのイベントの参加中に、副音声的に補足情報を配信するというもの。生でスポーツ観戦をする場合、テレビ中継と違って実況・解説がないが、PlatCastでフォロー可能だ。
概要の説明が終わったところで、発表会のゲストとして、ラジオDJのやまだひさし氏とNowDo株式会社COOの鈴木良介氏が登壇した。おふたりはPlatCastの実証実験にも関わっている。
やまだひさし氏はPlatCastを使い、バレーボールの試合会場で実況を行ったことがあるそうだ。それほど広くなくても配信ブースを展開できる手軽さに太鼓判を押すなど、総合的には高評価。
ただし、遅延問題が少々気になる模様だった。現バージョンではリアルタイムから2~3秒ほど遅れるため、「実況する側としては、スピード感のある競技だと違和感があるかも」というのは正直な感想とのこと。
とはいえ、観客は試合展開を見た少し後に情報が耳から入ってくるのだから、それほど気にならない可能性もある。休憩時間にちょっとしたトークを挟む場合などはまったく問題ないため、しゃべる内容しだいといったところか。
この遅延問題を解決するため、2020年春に向けて次期バージョンを開発中。通信プロトコルを刷新し、世の中では正式に使われていない技術も使うことで(もちろん違法なものではない)、遅延を最小化。こちらの方式では1000人ほどの接続を想定しており、サーバーを増強することで人数を増やすことも可能だそうだ。
プロサッカー選手の本田圭佑氏とスポーツビジネスを営む鈴木良介氏は、“スポーツ界の課題”を解決するひとつの手段としてPlatCastに期待しているという。
プロ化に向けて動いているスポーツは少なくないが、そこには集客問題やルールが浸透していないなどの壁がある。選手引退後のキャリアパスも不安定だ。
そこで着目したのが、試合観戦時のコンテンツを増やすこと。プロフットサルチームと協力して行った実験では、PlatCastを使ったルール解説で競技への理解度を深めてもらい、空き時間は広告宣伝に利用。観客とスポンサー、両方の満足度アップにつながったという。
東京オリンピックが開催される2020年は、多くの競技が注目を浴びる時期だ。PlatCastは競技への理解を深めるために必要なツールになるだろうと、鈴木氏は期待を寄せる。
同様に、やまだ氏もPlatCastを活かして競技の普及に取り組みたいと語った。氏が推すのは、知的障害のある人による競技会“スペシャルオリンピックス”だ。
オリンピックと同様、4年ごとに夏季・冬季の世界大会が開催される本大会。2020年2月21日~23日には2021年大会の日本選手団選考を兼ねた“2020年第7回スペシャルオリンピックス日本冬季ナショナルゲーム・北海道”が開催される。
多くの競技が実施される中で、フィギュアスケートとショートトラックスピードスケートではPlatCastで実況・解説を配信。バンクーバーオリンピックで8位入賞を果たしたスケーター・小塚崇彦氏を解説者に迎えるあたり、本気を感じる。
会場の通信環境にもよるが、こういったサービスはゲームイベントとも相性がいいかもしれない。eスポーツの大会などでは、ルールをわかりやすく伝えて初心者を引き込むことが重要だからだ。
ゲーム用途の製品も多く出しているアイ・オー・データ機器だけに、今後の展開に期待したい。
PlatCast以外にも新商品がずらり
PlatCast以外にも新商品が発表され、発表会の会場内に参考展示されていた。気になるものをピックアップ。