2019年11月7日にニンテンドーeショップで配信が始まった、Nintendo Switch用ミステリーアドベンチャーゲーム『Tokyo Dark - Remembrance-』(税込1800円)。2017年9月に発売されたPC(Steam)用タイトル『Tokyo Dark』に新たな要素を追加した“完全版”としてのリリースだ。
今回は、販売を担当したUNTIESが主催したハンズオンに際し、オリジナル版を開発したインディーゲームスタジオCherrymochi、およびコンソール版の移植開発を手がけたメビウスの主要スタッフにお話しを伺った。
ウィリアムズ真保氏(写真)
『Tokyo Dark』を開発したインディーゲームスタジオCherrymochiのプロデューサー。イギリス人の企画・プログラマー、アメリカ人のアーティスト、日本人のシナリオライター……といった多国籍スタッフを束ねる。
喜多村明夫氏
ゲーム開発会社メビウスのプロデューサー。数々のインディータイトルのコンシューマ移植案件を担当。
困難と思われていたコンソール移植がトントン拍子で決定・しかし道のりは険しかった!?
――『Tokyo Dark - Remembrance-』が制作、販売されることになった経緯を教えてください。
真保CherrymochiとしてはPC(Steam)版が出た段階(※2017年9月)で、ユーザーさんからの評判もよく成功だと思っていました。その一方で、いろいろなところからコンソール版のお話をいただいていたのですが、それに関しては半分以上諦めていました。
――それはなぜでしょうか?
真保このゲームの制作にはConctruct2というゲームエンジンを使っているのですが、これがコンソールとものすごく相性が悪い仕様で、自分たちで移植するのは時間的にも絶対無理だと思ったからです。
――「移植したら販売させてください」というパブリッシャーさんばかりだったということですね。
真保そんなときにメビウスさんから「技術的なところはうちでカバーするのでいっしょにやりませんか」というお話をいただきました。ちょうどその時期にUNTIESのスタートアップパーティー(※2017年10月)の会場で伊東さん(※UNTIES G&R 伊東章成氏)からパブリッシングのお誘いを受けて、現在の座組となりました。
――いまのお話からすると『Remembrance』の要素は、コンソール移植が決まってから用意したもののようですね。
真保そうです。決まってから、メビウスさんの移植開発と同時進行で制作しました。PC版をプレイした方々から「絢美(※本作の主人公・伊藤絢美刑事)にとって、田中(※殉職した絢美の相棒・田中和樹刑事)がどれほど重要な存在だったかの情報が少なかった」というフィードバックをいただいたので、ふたりの歴史や、飄々として大らかな田中がいかに絢美のよき理解者であったかがわかるエピソードを“特定オブジェクトを調べると観られる回想”として、ニューゲームプラス(※2周目以降で選択できるゲームモード)に追加しました。追加要素はもとのストーリーを変えることなく入れたかったので、このような形になりました。
――回想エピソードは全部でいくつあるのでしょうか。
真保5つです。すべてを観ると、新たなエンディングがふたつ解放され、エンディング総数は13となります
――追加エンディングはやはり、ほっこりする内容になっているんですよね?
真保はい。絢美にとって、そうですね。
――移植開発の大きな負担にならない程度の追加要素とのことですが……それにしてはリリースまでに結構時間がかかりましたね。
喜多村当初は『Remembrance』の要素を加えたものを、弊社開発の2Dアドベンチャーのエンジンをベースに移植してNintendo Switch用タイトルとしてリリースするつもりだったのですが、伊東さんに相談した結果「プレイステーション4版もやろう」「多言語対応も」となりました。プレイステーション4版も出すならConctruct2→Unityへの移植がいいのでは、というプログラマーの案を採用したのですが、それが裏目に出てしまいまして……。
――“急がば回れ”のはずがただ遠回りしただけだったと(笑)。
喜多村当初のやりかたで進めて、最後にプレイステーション4用に移植すれば8ヵ月間くらいで終わっていました。現在はプレイステーション4版のデバッグ対応中です。
――プレイステーション4版のリリースはどのくらいの時期に?
喜多村現時点で確約できませんが、年内には何とか……。
コンソール版で“完成”した日本-海外アーティストのコラボレーション!!
――先ほど実際にプレイして、PC版からの変更点をいくつか確認しました。一部登場キャラクターのグラフィックが修正……というか新たに描きおこされていましたが、これはCherrymochiさんとメビウスさんのどちらの判断でしょうか?
喜多村先ほどご説明した理由により開発が延びたぶん、うちのデザイン部がこだわって調整することができました(笑)。
真保オリジナル版はキャラクターも背景も外国人のアーティスト手がけているのですが、そこを日本人のアーティストさんに見てもらって、もっとこうすると深みが出る、リアリティーが出るというところをうまく拾ってもらって、リファインしていただきました。女性キャラクターはほぼオリジナルのままで、おもに年配の男性キャラクターのデザインに関しては新しいアイデアをいただいています。
――おっさんはよりおっさんらしく(笑)。
喜多村オリジナル版のアーティストが描きたかったものはもともとわかっていたので、そこをより明確にする作業でした。神社や道場など日本特有のものは想像の範囲で描いていたように見受けられたので、ケースバイケースでオリジナルの持ち味を残しつつ、整合性と解像度を高めました。アート面に関しては本当の意味で、日本と海外の合作になっていると思います。
――シナリオテキストもメビウス側で修正が入っているとのことですが、Cherrymochiさんではどの程度監修されたのでしょうか?
真保ほとんどしていません。というかNGを出すところがなかったんです。
――テイストやクオリティーの面ではまったく問題なかったと。
真保そうですね。全体的に日本語としてより読みやすくしていただけました。
喜多村当初は文章はそのままでもいいと思っていたのですが、小説調の表現や言い回しを話し言葉に戻しました。『Tokyo Dark』の独特な世界観はオリジナルの文章あってこそという面もあるので、それを “直す”というのもおかしな話ですが、あくまでコンシューマ向けのチューニングをさせていたいたということです。あとは、PC版ではどちらの選択肢を選んでも同じメッセージが表示されていた箇所を、微妙に違う文章にしています。PC版をプレイした方は、グラフィック同様に間違い探しを楽しんでいただければと。
――捜査パートの操作は、マウスによるポイント&クリックから大幅に変更されましたね。
喜多村Nintendo Switch版だけでしたら携帯モードのタッチ操作に特化させてマウス操作の代用とする案もあったのですが、プレイステーション4版も手掛けることが決まってからは、インタラクト部分をLRボタンで切り替える、コントローラー使用前提の操作方式にしました。序盤の新宿のように、インタラクト部分が一度に多く表示される場面ではややしんどいかもしれませんが、慣れるとショートカット感覚で操作できるようになります。
真保そのほかに大きく変わっているのは(隠しキャラの)ネコを探す操作ですね。画面にネコがいるシーンでとあるボタンを押すと、ネコを取ることができるようになっています。
――ネコゲット専用ボタン!
喜多村最初はネコがいるシーンでコントローラーが振動する仕様にしていたのですが、Cherrymochiさんから「これだと簡単に見つかっちゃうじゃないですか!」とお叱りをいただきまして(笑)。CherrymochiさんのチェックでNGが出たのは、ゲーム全体を通してここくらいですね。
――ここまでお話を伺って、メビウスさんの裁量でチューニングしつつ、オリジナル版開発者の目もしっかり行き届いた作品に仕上がっていることがうかがえました。最後に読者に向けてひと言お願いします。
真保操作スタイルが変わって、ハンドヘルドでも遊びやすい操作になっています。パブリッシャーさんが異なる関係で、今回の追加要素をPC版に反映できないのはオリジナル版開発者としては心苦しいですが、PC版をプレイして本作を好きになった方もぜひNintendo Switch版、プレイステーション4版を楽しんでいただければと思います。
喜多村これまでNintendo Switchには本気のサスペンス・ホラーものが数少ないので、そういう意味でも『Tokyo Dark - Remembrance-』は貴重なタイトルだと思っています。オリジナル版にあったさまざまな演出は、Cherrymochiさんの監修のもとほぼそのままの状態で再現しているので、存分にホラーなひとときを体験してください!