“ファミキャリ!会社探訪”第78回はクリーチャーズ
ファミ通ドットコム内にある、ゲーム業界専門の求人サイト“ファミキャリ!”。その“ファミキャリ!”が、ゲーム業界の最前線で活躍している、各ゲームメーカーの経営陣やクリエイターの方々からお話をうかがうこのコーナー。今回は、クリーチャーズを訪問。
『ポケットモンスター』(以下、『ポケモン』)シリーズの原作3社の内の1社であるクリーチャーズ。おもに、ポケモン関連のデジタルゲームや、ポケモンカードゲームの企画・制作、ポケモンキャラクターの3Dモデリングやモーション制作などを行っているほか、NHK『みんなのうた』のアニメーション制作など、ポケモン事業を基軸としながらも幅広い業務を行っている。今回は、Nintendo Switch向けに開発がスタートした『名探偵ピカチュウ』の最新作について、シリーズのディレクターを務める宮下尚生氏に話を聞いた。
宮下 尚生(みやした なおき)
株式会社クリーチャーズ
開発統括部
クリエイティブディレクター
プログラマーからスタートし、『名探偵ピカチュウ』でディレクターに
――最初に宮下さんの経歴を教えてください。ゲーム業界を志したきっかけや、現在に至るまでの経緯についてなど、簡単にお答えください。
宮下僕は1977年生まれなのですが、子どものころにはもうファミコンが発売されていて、そのころからずっとゲームで遊んでいました。また、親がパソコンが好きで、家に何台もパソコンがあったので、そのうちの一台を借りて、自分でもゲームを作っていました。作ったゲームは、大したものではありませんが、作ることが楽しくて、何となくゲーム業界に入りたいと思っていました。
大学生になるとプレイステーションやセガサターンが発売されて、そのグラフィックに感動して、ポリゴンを使ったゲームを作りたいと思いました。大学卒業後は、あるゲーム会社に新卒でプログラマーとして就職し、何度かの転職を経て、7年ほど前にクリーチャーズに入社しました。現在は、ディレクターとしてゲーム開発をしています。
――クリーチャーズに転職したのは、何か理由があったのですか?
宮下前の会社が関西の会社だったので、実家のある関東に戻りたかったことが理由のひとつです。そして、やはり『ポケモン』という、誰でも知っているゲームを作っていることです。『ポケモン』は世界観が深いので、いろいろなゲームを作れるのではないかと思いました。
――転職される以前はプログラマーで、クリーチャーズに入ってからディレクターになったのですか?
宮下はい。『名探偵ピカチュウ』シリーズのプロトタイプを作っている途中からディレクターになりました。プログラマーは、ディレクターやプランナーが決めた仕様に沿って作っていきます。もちろん、その中で自分のクリエイティブを発揮することはできましたが、いつかは、仕様や全体の流れを決めることもやってみたいと思っていたので、自分から手を挙げました。希望すればチャレンジさせてくれる会社ということも大きかったです。
――実際にディレクターになってみてどうでしたか?
宮下自分の作りたいものを作れるのは想像通りだったのですが、それ以上にまず開発チームみんなの思いがあって、それを調整したり、自分の納得いく形に昇華させたりというのは想像以上にたいへんでした。
――ポケモンという、国際的に人気のIPを使うことについてのプレッシャーはありましたか?
宮下ポケモンは数も多く、設定も細かいです。それが少しでもずれると、皆さんが抱いているイメージと変わってしまいます。そうしたイメージのコントロールには、とても気を遣いました。ポケモン一匹一匹にファンがいるので、たとえば『名探偵ピカチュウ』を作るにあたっても、特定のポケモンにワルい役どころを割り振る際には、やはり抵抗や葛藤があります。
――入社する前と会社に入ってからの印象は変わりましたか?
宮下クリーチャーズはポケモンのデジタルゲームを作る会社だと思っていたのですが、じつはそれ以外にも、たとえばNHKの『みんなのうた』の映像や、ポケモンカードゲーム、本など、かなり幅広い分野のものを作っている会社だというのは、入社後に知りました。
――社内の雰囲気はどんな感じですか?
宮下いままで会ってきた人の中でも、やさしい人が多いです(笑)。もちろん、ゲーム開発に対しての思いは強いですし、ポケモンが大好きな人がすごく多いですね。
Nintendo Switchで『名探偵ピカチュウ』シリーズ完全完結編を制作!
――現在開発中のプロジェクトについての人材を募集されているとのことですが、お話できる範囲でのプロジェクト内容について、また希望する職種や人材について教えてください。
宮下2018年3月にニンテンドー3DS用ソフト『名探偵ピカチュウ』を発売しました。現在、その続編をNintendo Switch向けに作っています。ニンテンドー3DSからNintendo Switchへとハードが変わったことによって開発規模も大きくなり、プランナーやデザイナーを始め、必要な人材が多岐に渡っています。多数職種を募集していますが、共通して必要なのはコンシューマー機での開発経験です。
――ニンテンドー3DS版の開発チームをベースに、さらに増強すると?
宮下そうですね。現在は、開発がスタートしてまだそれほど経っていません。仕様がある程度固まってきたので、それを実装していく段階です。いまから参加していただくと、開発の初期段階から関われると思います。
――“ゲーム開発で大事にしていること”と“開発環境”がアピールポイントだそうですが、具体的にどういったことでしょうか?
宮下まずゲーム開発で大事にしていることは、開発チーム内での情報共有をしっかりすることです。ゲーム開発ではどうしても、プログラマーやデザイナーなど、セクションごとに情報が滞留してしまいがちです。しかし、それでは連携が取りづらくなってしまうので、定期的に各セクションの開発者が集まって情報共有を行い、意見を出し合っています。
――御社の場合、その情報共有は社内だけではなく、株式会社ポケモンや任天堂とも行うわけですね。
宮下その3社間でのコミュニケーションも重要です。株式会社ポケモンとは毎週のように打合せをしていますし、任天堂とも定期的に打合せをして、ご意見をいただいています。
――では、開発環境についてはいかがでしょうか?
宮下これまでに在籍した会社との比較になりますが、とても充実しています。入社時は、プログラマーとしてグラフィック関連の仕事が中心だったので、かなりハイスペックなPCを要望しましたが、実際にはさらにハイスペックなマシンが用意されて驚きました(笑)。PCのスペックで人のパフォーマンスが落ちるぐらいなら、高スペックのマシンを用意して、最大限の力を発揮してもらおうという考えからです。
――開発者にとってはうらやましい限りですね。では、会社の特徴や強みはどういった部分ですか?
宮下先ほど少し映像のお話をしましたが、デジタルコンテンツ開発以外にも多岐に渡る事業を展開しています。たとえばポケモンカードゲームはクリーチャーズでもっとも長く、開発会社として携わっているコンテンツです。その人気は毎年世界大会が開かれているほどです。デジタルゲーム畑の自分がカードゲームを作っている社員と話すと、開発環境や考えかたの違いがあっておもしろいです。社内でも定期的にカードゲーム大会が開かれるので、それに参加することもあります。なかなか勝てませんが(笑)。
『ポケットモンスター X・Y』以降の本編シリーズでは、ポケモンのモデリングやモーション作成も担当していて、ほかにも、『Pokemon GO』、『ポケモンガオーレ』などのゲームや、プロモーション映像、フィギュア原型など、さまざまなコンテンツで使用されるポケモンモデルデータの作成、提供も行っています。このようにさまざまなポケモン関連のゲームに深く関わっているのがクリーチャーズの特徴のひとつです。
また、クリーチャーズの強みは、ほかの作品では描き切れないポケモンの魅力を表現できることだと思います。ポケモンごとにさまざまな特徴や設定を持っているので、提案次第では、その魅力をゲームで伝えていくことができます。
労働環境については、会社的に、ゲーム開発にありがちな徹夜や休日出勤は非推奨です。残業もできるかぎり減らすよう努めています。プロジェクトが佳境でどうしても忙しい時期もありますが、基本的には自分で業務時間をコントロールしてもらう形です。その背景には、「ふだんの生活の中にこそアイデアやヒントがある」という代表の田中(※クリーチャーズ 代表取締役社長・田中 宏和氏)の考えがあります。「僕たちの仕事はエンターテイメントなので、まじめに会社の仕事に取り組んでいるだけでなく、しっかり個人の生活を楽しみ、そこで気づいたさまざまなことを仕事に反映させていこう」という想いからです。
――数々の関連商品を開発されていますが、超人気IPゆえのやりがいや逆に難しさなど、何か感じていることがあれば教えてください。
宮下遊んでいただいている方が非常に多く、毎回大きな反響があり、開発している側としては、とてもやりがいがあります。また、ポケモンという誰もが知るゲームということで、たとえば「お父さんはポケモンのゲームを作っているんだよ」と言うと、子どもたちから「すごい!」と言われたり、自分の仕事に憧れたりすることがあると、開発スタッフからよく聞きます。親戚や近所の方でもポケモンのことは知っているので、そういった点はやりがいを感じる部分です。
人気や知名度が高い反面、扱いは慎重になります。とは言え、我々は『ポケットモンスター』シリーズの原作3社のうちの1社でもあるので、ポケモンについての新しい提案をしていく役割があるとも考えています。たとえば、“ピカチュウがオッサン口調で話す”設定を提案できるのも、クリーチャーズならではだと思います。
――ゲーム開発の進めかたはケースバイケースだと思いますが、『名探偵ピカチュウ』の場合は?
宮下企画自体はクリーチャーズから出したものです。そのアイデアがおもしろいということになり、開発がスタートしました。株式会社ポケモンにはプロデュースをしていただいています。“ポケモンでこういったトリックをしてみたい”といった提案をして、それに対してアドバイスをいただいています。
――やはり、『ポケットモンスター ソード・シールド』など、新作の内容は気になりますか?
宮下気になります!(笑) いまは『名探偵ピカチュウ』の開発に注力しているので、最新情報が公開されるたびに、「あ、これは『名探偵ピカチュウ』のトリックに使えるかも」と考えることがあります。発売が楽しみです。
――社内交流や福利厚生など、アピールポイントがあれば教えてください。
宮下ポケモンカードゲームの大会が定期的に開催されますし、部活動や社内SNSを使った交流もあります。
また、交流とはちょっと違いますが、“CR base”という制度があり、社員であれば誰でも企画の提案をすることができます。企画が採用されればプロジェクト化され、実際に開発されます。プランナー以外でも、意欲とアイデアがあれば、企画に関わることができます。
――宮下さんがカードゲームについて何か提案することもできるわけですね?
宮下そうですね。これまでは何かアイデアを思いついても、思いついた人が直属の上司に提案する程度で、決まった流れはありませんでした。スタッフが増えてきたこともあり、みんなで気軽に提案を発表できる場を設けようと、本年度から始まった制度です。
――それらのアイデアは、ほかの社員の方も見ることができるのですか?
宮下はい。プレゼンの模様はビデオで撮影します。かなりの人数が参加しているので、期待できるアイデアが出てくるのではないかと思っています。
――求人するにあたり、どのような人といっしょに仕事をしたいとお考えですか? また、どのようなタイプの人が御社にマッチしていると思いますか?
宮下先ほどもお話した通り、クリーチャーズには手を挙げればやらせてもらえる文化があります。自分もプログラマーで入社しましたが、ディレクターをやりたいと手を挙げて、ディレクターになりました。やはり、積極的に自分から動ける人が力を発揮できると思います。もちろんゲームが好きで、ポケモンが好きならさらにいいですね。それから先ほどの情報共有の話になりますが、プログラマーはプログラムのことだけ考えていればいいと領域を決めてしまうよりは、プログラマー以外の領域にも提案していくタイプの人といっしょに仕事をしたいと思っています。もちろん提案が通らないこともあると思いますが、そういった行動が結果的に、何らかのポジティブな未来を生み出すと考えています。
――現在、転職を考えているクリエイターに何かアドバイスをお願いします。
宮下未経験でゲーム業界に興味がある方に向けてですが、最初から大規模なものを作ろうとせず、まずは小さなものから作ってみるといいと思います。実際に作ることで課題や自分がどのポジションにあっているのかが見えてきます。プログラムができなくても、UnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンでゲームを作ることができます。まずはどんどん作っていくことだと思います。
経験者の方には、UnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンの深い部分、細かい部分まで知っておいてほしいです。そうしたことを知ったうえでツールを使えば、より高度な使いかたができますし、転職にも有利に働くと思います。
クリーチャーズってどんな会社?
任天堂、ゲームフリークとともに、『ポケモン』シリーズの原作3社の内の1社であるクリーチャーズ。おもに、ポケモン関連のデジタルゲームや、ポケモンカードゲームの企画・制作、ポケモンキャラクターの3Dモデリングやモーション制作、ボードゲームの企画制作などを行っているほか、NHK『みんなのうた』のアニメーション制作など、ポケモン事業を基軸としながらも幅広い業務を行っている。5月に開催された“ポケモン事業戦略発表会”で、『名探偵ピカチュウ』シリーズの最新作(完結編)をNintendo Switch向けに開発していることが発表された。
●代表取締役社長:田中 宏和
●設立年月日:1995年11月8日
●従業員数:144名(2019年8月現在)
●事業内容:ゲームソフトの開発、カードゲームの開発、3Dコンピューターグラフィックスの制作、映像・音楽に関する製品の企画・制作・プロデュース、Webコンテンツの制作、雑誌・書籍の企画・制作、キャラクター商品・玩具の企画・開発