2019年7月4日、東京・池袋ニコニコ本社にて、世界でたった300枚しか存在しない超貴重なポケモンカード、ハイパーレアの“ミュウツーGX”の1枚目を懸けた。ポケモンカードゲームのトーナメント大会が開催された。
貴重な超レアカードが賞品となっているのも、もちろんなのだが、なんといっても本大会のすごいところは出場選手の豪華さだ。
格闘ゲームを中心に、世界で活躍するプロゲーマー・梅原大吾氏を始め、将棋棋士・藤井猛九段、ポケモン実況者・ライバロリ氏、アニメ『ポケットモンスター サン&ムーン』でグラジオ役を演じる声優・岡本信彦氏、チャンネル登録者数日本一のYouTuber・はじめしゃちょー氏、TBS系のテレビクイズ番組『東大王』でおなじみのクイズ王・伊沢拓司氏、『マジック:ザ・ギャザリング』プロプレイヤー・原根健太氏、そしてポケモンWCS2016チャンピオン・伊東進太郎氏という各界のレジェンドたち8名が、ポケモンカードゲームでの対戦を行った。
ちなみに、本トーナメントの対戦は2019年7月5日に発売の強化拡張パック“リミックスバウト”を用いたシールド戦で行われた。シールド戦とは、未開封の拡張パックをその場で開封し、当たったカードのみを使ってデッキを組む対戦方法。デッキの構築がカードの引きに左右されるため、通常のルールと比べて運の要素が強い。つまり、初心者でも強豪プレイヤー相手にジャイアントキリングを起こす可能性が十分にあるということだ。
この日だけのドリームバウトがいよいよ開幕!
さて、さっそくドキドキのパック開封へと移るわけだが、ここでMCの郡正夫氏と解説のサントス氏、ポケカ伝道師のポニータ石井氏より、本パックの注目カードについて解説があった。
本パックの目玉となるのは、“フシギバナ&ツタージャGX”、“リザードン&テールナーGX”、“カメックス&ポッチャマGX”の3枚だ。これらは“TAG TEAM”と呼ばれる強力なポケモンたちで、進化を必要とせず場に出せる“たねポケモン”でありながら、高いHPと攻撃力を兼ね備えた超強力なカード。これらのうちどれか1枚でも引ければ、そのカードを中心にデッキを構築していくことになるだろう。
異色の対戦カードが目白押し! ここでしか見られない名勝負ばかり
第1回戦のマッチングは事前に以下のように発表されていた。
1回戦第1試合:梅原大吾氏 VS 藤井猛九段
梅原氏と藤井九段の対戦は、“リザードン&テールナーGX”を中心とした藤井九段の攻めを、“アローラペルシアンGX”の特性でガードしたい梅原氏という展開。
試合中盤で梅原氏が“アローラペルシアンGX”を場に出すものの、藤井九段がうまくそのガードをかいくぐるように別のポケモンを狙って攻撃をくり返し、ジリジリとサイドを取っていく。最後は時間制限が来てしまい、サイドを1枚多く取った藤井九段が勝利となった。
1回戦第2試合:ライバロリ氏 VS 岡本信彦氏
おたがいに“フシギバナ&ツタージャGX”を初手から出し合う白熱した展開。序盤は岡本氏がサイドを先行するものの、後半にライバロリ氏が岡本氏の“フシギバナ&ツタージャGX”を倒したことで一気に巻き返しに成功。そのままの勢いで、ライバロリ氏が勝利を収めた。
1回戦第3試合:はじめしゃちょー氏 VS 伊沢拓司氏
こちらはお互いに“カメックス&ポッチャマGX”を出し合う展開。何の因果か、3すくみではなくミラーマッチが頻発している本大会。こちらでも、伊沢氏の“カメックス&ポッチャマGX”が先に攻撃をしかけて序盤の有利を取ったものの、伊沢氏の“カメックス&ポッチャマGX”は徐々に消耗していってしまう。そのまま倒しきることに成功したはじめしゃちょー氏が勝利をもぎ取った。
1回戦第4試合:原根健太氏 VS 伊東進太郎氏
世界レベルのカードゲーマーどうしの対決となったこのマッチだが、かなり一方的な展開に。先攻を取った伊東氏が思うように手が進まないのに対し、原根氏は最善に近い理想手を連発し、みごと勝利。
ふつうの対戦よりも運の要素が出やすいシールド戦ならではの展開ではあるものの、特筆すべきは原根氏が、ほぼ初めてプレイするポケモンカードでミスなくプレイできている点だろう。トレーディングカードゲームならなんでもこなせる、プロカードゲーマーとしての実力を見せつけた。
決勝の舞台で藤井九段が詰みを読み切る!
トーナメント大会の都合上、1回戦で敗退してしまった選手はそこで終了。以降の対戦は行えない。仕方ないものの、これだけの面々が集まっているのに1戦だけというのはなんとももったいない……。と取材陣が思っていたのもつかの間、生放送には映らないところで、フリー対戦を始める出演者たちの姿があった。スタジオの一部がカードショップにある対戦スペースのようになってしまったが、夢中になっている出演者たちの表情を見ると、そのままポケモンカードプレイヤーになってくれるのではないかという期待を持てた。
そんな中、決勝戦へと駒を進めたのは、藤井九段と原根氏のふたり。お互いに“リザードン&テールナーGX”を中心にしたデッキ構築のようだ。
お互いにベンチに出した“リザードン&テールナーGX”をゆっくりと育てていく展開に。勝負の分かれ目はやはり、この“リザードン&テールナーGX”どうしの激突だった。
先に準備を整えて、ワザ“シャイニーフレア”を使ったのは藤井九段。180もの大ダメージもさることながら、この技の真価はその追加効果。山札にある好きなカードを3枚まで手札に加えるという強力な効果を持っている。
藤井九段は、この効果で手札に加えるカードの選択がすばらしかったのだ。このつぎのターン、原根氏は、藤井九段の“リザードン&テールナーGX”を混乱状態にすることで妨害を試みた。しかし藤井九段はこの妨害を予見し、対策カードを手札に入れていたため、2ターン連続でシャイニーフレアを使用でき、さらに3枚のカードを補充した。
原根氏のバトル場にいる“リザードン&テールナーGX”は大ダメージを受けており、このままではつぎのターンに倒されて負け。いわば“王手”状態であるため、“リザードン&テールナーGX”をベンチに逃がさざるを得ない。しかし、それすらも藤井九段の思惑通り。2度目のシャイニーフレアで手札に加えた“グレートキャッチャー”を使ってベンチの“リザードン&テールナーGX”をバトル場に引きずり出したため、完全に“詰み”となった。
まさに詰将棋のような完ぺきな展開を披露し、見事藤井九段が優勝を果たした。100手先をも見通すというプロ棋士の頭脳をもってすれば、数ターン先を見通すことなど容易なのかもしれない。
親子、そして仲間との絆で掴んだ優勝!
番組終了後、決勝戦を戦った藤井九段と原根氏がインタビューに答えてくれた。
――まずは決勝戦をふり返って、いかがでしたか?
原根氏 とにかく緊張しました。準決勝まではそこまで緊張していなかったのですが、決勝戦は手汗も止まらなくなって何度も拭いていました(笑)。そんな状態で、考えもぜんぜんまとまらなかったのですが、目の前の藤井先生は落ち着いて考えていらっしゃって。それを見たらより焦ってしまって(笑)、結果的にまったくカードゲームのプロらしくないプレイをしてしまったので、反省しています。
藤井九段 僕は逆に、1回戦がガチガチに緊張していたんです。1回戦が終わってからは、1勝したことで心に余裕ができて、リラックスして臨めました。
――ポケモンカードに触れてみていかがでしたか?
原根氏 とてもおもしろかったです。戦略性や奥深さを感じられました。ポケモンカードには山札から好きなカードを手札に加える効果を持つカードが多いので、手札だけでなく、デッキに入っているすべてのカードのことをつねに考えながらプレイしなければなりません。僕がこれまでにプレイしてきたカードゲームはそのときの手札でプレイが完結しているものが多かったので、新鮮でした。最初は難しく感じましたが、慣れてくるとむしろそこが楽しく感じられるようにもなって。
――藤井先生はポケモンカード企業対抗戦にも出場されていましたが、ポケモンカード歴はどれくらいになりますか?
藤井九段 ちょうど企業対抗戦に出るために練習を始めたのがスタートですので、半年くらいです。そこからはすごくハマっていて、今年に入ってからは将棋かポケカ、どっちかしかやっていないような状況です。
――この大会のためにどんな練習をされてきましたか?
原根氏 まずはルールを覚えるところからです(笑)。2時間くらい友だちに付き合ってもらいました。そこからはこれまでに行われたシールド戦のイベントではどんなカードが強かったのかを勉強しました。それと今回のカードリストを照らし合わせてみて、このカードが強いはずだという想定をしていきました。
藤井九段 シールド戦の基礎を学ぶために、まずは5月の中旬ごろに練習会を開いていただきまして、そこで練習をしました。カードリストが公開されてからは、デッキを作るための練習を。デッキ構築に時間がかかると焦ってしまうので、どんなカードを引いてもスムーズにデッキを組めるようにする練習にいちばん時間を割きました。仲間にはかなり手伝ってもらいましたし、優勝したら焼肉をご馳走するという約束をしていたので、今度ご馳走しないといけないですね(笑)。
今回のイベントで新たにポケモンカードに興味を持った方には、ポケモン公式YouTubeチャンネルに投稿されている“【公式】9分でわかるポケモンカードバトル”という動画の視聴がおすすめ。これさえ見れば基本的なルールが身に付くので、実際に遊んでみたい人はもちろん、今回のような配信や動画を見て楽しみたい人にもピッタリだ。
カードゲームはどうしても初見において、ルールのわかりにくさがネックになる。しかし昨今のポケモンカード、とくに公式大会での解説はかなり親切でわかりやすいので、基本のルールさえ押さえてしまえば見て楽しむ分には問題ない。
将棋界では“観る将”という、おもに観戦を楽しむファンを表す言葉が定着しているほど、観戦がメジャーな文化となっている。今回のようなスペシャルなイベントが今後も定期的に催されれば、ポケモンカードでも“観るポケ”のような言葉が流行る日が来そうな予感だ。