ゲーム業界きっての映画通を魅了した『スパイダーバース』

 独自の映像表現を作り上げ、アカデミー賞の長編アニメーション部門を受賞した『スパイダーマン:スパイダーバース』。この作品に魅了され、Twitterで「5年に一度くらいの大傑作!」と絶賛した人物がいた。その名は小島秀夫。言わずと知れた日本屈指のゲームクリエイターだ。ゲームに映画的手法をいち早く持ち込み、「みずからの身体の70%が映画でできている」とまで語る映画通の小島監督だが、『スパイダーマン:スパイダーバース』は彼の琴線のいったいどこに触れたのか? インタビューで同作の魅力を語ってもらった!

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』
 日本では2019年3月8日に封切られた『スパイダーマン』シリーズのCGアニメ映画。これまでスパイダーマン(ピーター・パーカー)が死んだ、という衝撃的なオープニングで始まる本作は、マイルス・モラレスという少年が主人公。多元宇宙(マルチバース)にいるスパイダーマンたちとの交流を通じ、マイルスが成長する様が描かれる。

小島秀夫氏(こじま ひでお)

コジマプロダクション代表。MSXで『メタルギア』シリーズ、プレイステーションで『メタルギア ソリッド』シリーズなどを手かげたゲームクリエイター。現在は、2019年11月8日発売予定のプレイステーション4用ソフト『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』を開発中。

映像表現として新たなターニングポイントになった作品

――まずは、『スパイダーマン:スパイダーバース』(以下、『スパイダーバース』)をご覧になられた際の率直な感想を教えてください。

小島『スパイダーバース』は、まさに革命的な作品ですね。プロデューサーのアヴィ・アラッドさんは知人なのですが、「手腕がスゴいな」と思いました。まさに未来が見えているといっていい。この作品は映画界において、かつてPIXARが『トイ・ストーリー』を作ったのと同じくらい重要なターニングポイントになったと思います。「『スパイダーバース』的な作りかたができるのであれば、今後の映画はすべてこれでいいでしょ」と思いましたから。まさにコミック世界(バース)をそのまま映像化したような作品と言えます。

――確かに作り手の圧倒的なセンスとこだわりを感じる映画でした。

小島ええ。たとえば日本では、「アニメやマンガ原作の映画なら売れる」という思い込みがあってプロジェクトが立ち上がり、さまざまな実写版が公開されていますが……そんなことをするくらいなら、『スパイダーバース』のような手法で作るべきだと思いました。もっと言うなら、いわゆる『アベンジャーズ』などのマーベル映画も、この手法で作ったほうがいいかもしれない、なんて思います(笑)。これぞコミックのアニメ化、CG化、実写化の次にくるものだと。

――大絶賛ですね。

小島ただ、『スパイダーバース』のような作りかたをするには豊富な資金や才能に加え、時間も労力もすごくかかりますよね。この作品には監督が3人いますけれど、そうでなければできなかったでしょう。最初の5分で並みの映画1本ぶんくらいの手間がかかっていると思います。なにしろ、カット数からして尋常じゃなかったですから。ふつうの映画なら、ピークの部分でのカット数ですよ。でも、『スパイダーバース』は全編通してそれをやり抜いていますからね。本当に凄まじい映画です。

――ものすごいカット数ですよね。

小島そんな事情もあって、日本で同じようなことができるのかと言えば、難しいのかもしれない。ただ、国内外問わず、『スパイダーバース』は今後の映像作品のひとつのお手本になったということは間違いありません。もしかしたら、この作品はいまのネットやスマホに慣れている世代でなければ観られない作品なのかな? とも思いますが……。何しろ、画面のあちこちでいろいろなモノが動いているのですが、それを自然に受け取れる感覚がないとダメかもしれない。

――映像の中には、アメコミそのものを表現するような技法も用いられていました。

小島アメコミはこれまでに何度も映画化されてきましたけれど、『スパイダーバース』は原作に描かれた擬音までも映像に見事に融合されていましたね。さらに、CG作品ではありますが、あえてフレーム数が低いストップモーションアニメの技法も盛り込まれていて。加えてシーンの随所にグラフィティ(壁などに描かれた落書き)も描かれている。アメコミですが、ジャパニメーション的なエッセンスも加えられていますし、実写的な見せかたもしていて。例を挙げればキリがないのですが、要するにこれまでに僕らがサブカルチャーとして見てきたさまざまなもの(マルチバース)が映像に正しく紐付けられたうえで、クオリティーの高いひとつの作品として提示されているんです。

――確かにそうですね。

小島つまりこれは、いままで手描きだったアニメ作品をCGにした『トイ・ストーリー』以上の変革なんです! 『スパイダーバース』は、従来のCGアニメの枠組みを越えてしまっているので、もはや“別の言葉で呼ぶべき何か”なのだと思います。

スパイダーマンは日本のヒーローとの共通点が多い

――ところで、小島監督はアメコミ自体には興味があったのでしょうか?

小島マンガとしてのアメコミというのは僕からすると少し読みにくいので、あまり読んでいないのですが僕くらいのオジサンは小さいころ、テレビでモノクロの『スーパーマン』が放送されていた世代なんですよ。

――アメリカで作られていたドラマ版ですね。

小島そうそう。『スパイダーマン』や『チキチキマシン猛レース』、『大魔王シャザーン』のようなアニメ作品もあって。要は、アメリカのテレビやアニメの吹き替えを放送していることがごく当たり前だった世代なんです。放送されていたものに関しては『ウルトラマン』と同じくらいの感覚で観ていましたから、ヒーローたちの知識もそれなりにありましたし、いわゆるアメコミ作品の映像化には抵抗がなかったですね。もちろん、映画も初代『スーパーマン』からアメコミ原作の作品はほとんど観ていますし。

――では、最近のアメコミ映画作品の流れもしっかり追われていたのでしょうか。

小島そうですね。ティム・バートンの『バットマン』シリーズも流行りましたけど、アメコミ映画がここまでメジャーになる転機になったのは2000年に公開された『X-MEN』じゃないでしょうか。この作品の登場以降、アメコミ映画が大人も観られるスタイリッシュなものになっていったように思います。サム・ライミ版の『スパイダーマン』は少し年齢層を落として青春ファンタジー的な作品になっていましたけれどね。これは否定的な意味ではなくて、僕はサム・ライミ版の『スパイダーマン』がすごく好きなんです。とくに『スパイダーマン2』で主人公のピーター・パーカーがどこにでもいそうな少年だとわかったシーンでは号泣してしまいました。そういった数々の作品でアメコミ映画が世間に浸透していって、1回目のピークが『ダークナイト』シリーズで終わるんです。暗い作品ですけれど、社会性があって。

――『ダークナイト』シリーズは日本でも盛り上がりました。

小島その後、『アイアンマン』から始まるMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)で新しいブームが来たという感じですよね。

――ちなみに、これまでにいろいろとアメコミヒーローが映像化されましたが、小島監督のもっとも好きなアメコミヒーローは誰になるのでしょう?

小島考えてみると、スパイダーマンがいちばん好きかもしれないですね。悩めるヒーローであるところが、日本のヒーローに近くて。基本的に僕は、仮面ライダーとかタイガーマスクとか、陰のある日本の覆面ヒーローが好きなんですよ。スパイダーマンはもともとふつうの人ですし、事故でヒーローになったところは仮面ライダーと似た部分はあるでしょう? だからいいんです。そういう視点でみると、ヴェノムはウルトラマンの図式に近いんですけれど(笑)。

――言われてみれば!

小島日本では変身という形になっていますが、アメコミではマスクをかぶることで二面性を表現しているんです。マスクをかぶることで自分の命を守るけれど、それによって家族や友だちとの距離が生まれる、そんな葛藤が好きなんです。お金持ちのヒーローとか、陰のないヒーローはあんまり好きじゃない(笑)。

――(笑)。

小島そういう好みなので、最近映像化されたアメコミヒーローで好きなものを挙げるとするとスパイダーマンになりますね。あとはドラマの『フラッシュ』も好きです。映画版じゃないですよ(笑)。

――ああ! ドラマ版の『フラッシュ』も事故で能力を得る、マスクの二面性、それによって生まれる友だちや家族との問題や絆など、確かに小島監督好みの要素が内包されていますね。

小島そうそう。走るポーズもかっこいいし(笑)。『スパイダーバース』の取材で推すのもなんですけれど、いいドラマなんで。

以降ネタバレあり『スパイダーバース』には、歴史を重ねたIPがどうするべきかの指標も描かれている

――『スパイダーバース』の物語についてどう思われたかもうかがっていきたいのですが……前段として、スパイダーマンやキングピンなどのメジャーキャラクター以外はご存知でしたか?

小島いや、ほとんど知らなかったですね。それぞれ原作があるんでしょうけれど、そこはあまり気にせず。それでも充分楽しめましたけどね。そう言えば、『ヴェノム』のポストクレジット(エンドクレジット後に流れる特別映像。多くのマーベル映画に収録されている)で『スパイダーバース』の映像が流れたじゃないですか。正直、あのときはちょっと退屈に感じたんですよね。「これはいったい何なんだ?」って。予備知識もあまりなかったですし。

――そうだったんですか。

小島その感覚が残っていたので、『スパイダーバース』はあまり期待せずに観たんですよね。「マーベル映画の一環だし、観てみるか」くらいの気持ち。ところが映画が始まってみると……冒頭の数分で心を鷲掴みにされてしまって。カメラの使いかたから音の入れかたまで、センスが抜群だったので。物語のテーマ性もよかったですしね。言ってしまえば実験的な作品なのですけれど、そういうものがちゃんとヒットして、アカデミー賞を獲った。やっぱりアメリカ人は映画に関して目が肥えているな、と思いましたよ。

――ストーリーに関してはどのように思われましたか。

小島『スパイダーバース』は、「自分もヒーローになれるんだ」ということが描かれている作品でもあると思うんです。映画の冒頭で、主人公のマイルス・モラレスはスパイダーマンだったピーター・パーカーからヒーローになることを託されるわけですからね。

――あの展開は驚きました。

小島しかもマイルスは、ピーター・パーカーから「ヒーローとは何ぞや」という教育を完全には受けられないまま、困難に立ち向かわざるを得なくなる。そのことに悩んでいたら、ほかの世界から同じような悩みをもったヒーローたちがやってきて、マイルスにアドバイスをするわけです。このあたりの物語の作りかたは絶妙でしたね。最高だったのは、ラストで彼らが自分たちの世界に去って行くところ。さびしいけれど「自分のようなヒーローがどこかにいるんだ」という絆で結ばれたまま終わらせるという流れは、画期的だったと思います。これはある種のメタファーだと思うんですが。

――と言いますと?

小島映画を見終わると、幼いころに「自分もヒーローになりたい」と思っていたアメコミファンの人が世界各国にたくさんいたんだよ、ということがわかる。つまり、「僕は私は、たったひとりでアメコミを見ていたわけじゃなかったんだ」ということを表現しているんです。

――確かに、そう読み取れますね。

小島表現としての新しさももちろんですが、この作品は『スパイダーマン』のようなIP(知的財産)が50年以上の年月を経たとき、どうなっていくべきかという指標を提示していたと思うんです。ネットありきのいまの時代を踏まえたうえで、とてもクレバーでスマートな見せかたをしているな、と思いましたね。エンターテインメントとして成功していながら、描いているテーマがこれだけ深いという作品もなかなかないですから。

――ちなみに、『スパイダーバース』で小島監督にもっとも刺さったシーンはどこでしたか?

小島全編刺さったんですけれど(笑)。個人的にいいなと思ったのは、マイルスが父親とドア越しに会話して、絆を確かめ合う場面ですね。アメリカの映像作品って、両親や家族との絆をしっかり描くんですよ。日本の劇場アニメなどでは、夏休みに子どもたちが家を抜け出して、みたいな展開で、親との関係をぜんぜん描かない作品が多いんですが。

――言われてみれば。

小島言うなれば、家族っていうのは最小単位の宇宙(バース)なので、最終的に物語がそこに帰結するのが理想だと思うんですよ。逆にそこを描かない日本の作品がおかしいという話もあるんですが、『スパイダーバース』はきちんと家族も描き、主人公の成長も描いている。だからこそ、世界的に大ヒットしたと思うんです。

――なるほど。

小島あと、商業的な面でもすごいことをしていますよね。『スパイダーバース』はスパイダーマンの映画ですから、お客さんは当然ながらスパイダーマンの活躍を観たいわけじゃないですか。ところが、直球のピーター・パーカーのスパイダーマンではなくて、マーベルコミックに出てくるかなりマニアックなスパイダーマンたちが活躍する。これって本当なら、企画としては成り立たないはずなんですよ。でも、それを作品として成り立たせている点も驚きなんです。

――そうかもしれないです。

小島これだけ評価された作品ですし、きっと続編が出ると思うので、つぎはどうするのかという期待も膨らみますね。

――そんな小島監督が大絶賛する『スパイダーマン:スパイダーバース』のデジタルセル版がプレイステーションビデオで配信されたわけですが、こういった映像作品はゲームのライバルのように感じられていますか? それとも相棒のような存在ですか?

小島どちらもプレイステーション4で観たり遊んだりするものですから、ゲームのライバルではないと思いますね。言うなれば、冷蔵庫の中にアイスクリームとジュースが入っているようなもので。じゃあゲームのライバルになるものって何? と問われれば、ゲーム機(冷蔵庫)の外側にあるものだと思っているので。

――なるほど。

小島だから、ゲームファンの方も、ぜひ『スパイダーマン:スパイダーバース』を観てほしいですね。きっと素晴らしい映像体験ができると思います。

いち早く『スパイダーバース』を観るならプレイステーション4で!

 Blu-rayやDVDの発売に先行して、2019年6月26日からPS Videoで『スパイダーマン:スパイダーバース』のデジタルセル版の配信がスタートしている。こちらにはPS Videoオリジナル特典映像が付いてくるほか、PS4専用オリジナルテーマを配布する配信記念キャンペーンも実施中だ。とにかくスピーディなコマ割りで、圧倒的な情報量の映像が展開される作品なので、デジタルセル版をくり返し観るのがオススメ!

商品名:『スパイダーマン:スパイダーバース』(特典映像付き)
配信形式:デジタルセル版
配信価格[税込]:HD画質/2,500円、SD画質/2,000円
特典:映像特典『スパイダーバースの世界

※映像特典はマイビデオよりご視聴いただけます。
※デジタルセル版は購入から視聴期間に制限なく、何度でも再生できます。

<対応機器>
プレイステーション4、プレイステーション Vita、ならびにAndroid/iOSスマートフォン、タブレットのモバイル機器

※モバイル機器の場合は、Google Play/iTunesよりPS Videoアプリをダウンロードしてください。
※iOS版は、各ストアでご購入いただいたコンテンツ再生のみの機能となります。

期間限定無料配布 PS4専用オリジナルテーマ

PS4専用オリジナルテーマのダウンロードはこちら

 さらにPS Videoでは、『スパイダーマン:スパイダーバース』の配信を記念して、過去の実写版『スパイダーマン』シリーズのセールも開催中(2019年7月15日まで)。まずはこれらを観てから『スパイダーマン:スパイダーバース』を鑑賞すると、より理解が深まるハズ!

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