2019年6月1日~2日、京都市勧業館みやこめっせで開催中のインディーゲームの祭典BitSummit 7 Spirits。初日には基調講演として、“塊魂からWattamの開発へ、高橋氏の歩み方”と題し、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏とゲームクリエイターの高橋慶太氏のトークセッションが行なわれた。

 現在、高橋氏はアメリカで新作『Wattam』の制作を行っており、今回は「これが最初で最後の『Wattam』をアピールするチャンスかなって思って」勇気を出してひとりでBitSummitへ来たのだと言う。プレイステーション4とSteamでリリース予定の『Wattam』は、石ころだったり果物だったりいろんなものがキュートなキャラクターとして登場し、お互い手をつなぎ合っていっしょにタワーを作ったり、輪を広げたり、飛んでいったり、楽しいことをしていくゲームだ。
 
 2014年にアメリカで開催されたイベントで『Wattam』が発表された当時は、サンタモニカスタジオからリリース予定の作品として、いっしょに仕事をしていたという吉田氏は、その一風変わった内容を、「分断されたアメリカをつないでいって、やっぱりひとりでは生きられないとか。いまの人類が潜在的に感じている不安を、『Wattam』をプレイすることで乗り越えることができる、そういうゲームだと思いますよ」と評した。

SIE吉田修平氏が聞く、『塊魂』高橋慶太氏の新作『Wattam』について。テーマは違いを乗り越えること【BitSummit 7 Spirits】_01
プレイステーションブースでデモンストレーション中の『Wattam』

バンクーバーでの体験と息子との遊びが『Wattam』に

 高橋氏が『Wattam』の着想を得たのは、当時2歳の息子さんと積木で遊んでいたときのこと。積み上げてタワーを作ると、息子さんがバーッと壊してケタケタ笑い、またタワーを作ってのくり返しで、「面倒くさいな、積木ひとつひとつにAIがあって、ひとりでタワー作ってくんないかなと思ったりしていた」ことがアイデアとなったという。

 また、日本からバンクーバーに引っ越したときに、いろんな人種の人が集まって仕事をし、成し遂げているのを見て「すごいな」と思った体験も、大きな影響を及ぼしているようだ。「それぞれ母国語は違うんだけど、バンクーバーにいるから英語を使って話をして、がんばって違いを乗り越えてるなぁ、と。違いを乗り越えるというのが僕にとって大きなテーマでして……違うことはいいことなんだけど、世界中で起きてる争いや問題って、みんな違いから来ていると言えるじゃないですか。違う宗教、国益、人種、ジェンダー……そういう日常生活から出てきた考えかたと、子どもと遊んだときのアイデアをミックスさせて、出てきたのが『Wattam』」と、高橋氏は説明した。

SIE吉田修平氏が聞く、『塊魂』高橋慶太氏の新作『Wattam』について。テーマは違いを乗り越えること【BitSummit 7 Spirits】_02
高橋慶太氏

入社2年目の新人として作った『塊魂』

 『Wattam』を“デジタルトイ”と例えた吉田氏に対し、「ボク自身まだ、ゲームとは何か、おもちゃとは何かという境目がわからないし、むしろカテゴライズしたくない」と応じた高橋氏。そこで吉田氏は「『塊魂』はすごくゲームっぽかったと思う。ステージクリアーの明解な目標があって、制限時間内に塊を大きくしていくという」と、高橋氏のデビュー作を引き合いに出した。

 高橋氏によれば、『塊魂』がゲームっぽいのは、はじめての作品であり、自身の腕が足りなくて、既存のルールを拝借する形になったから。制限時間内に大きくするというのを、もう少し違う形でゲームメカニックとして消化できていたらもっとよかったかなと、いまでも少し悔いが残るのだそうだ。制作当時は「けっきょく『パックマン』だよな、そこから脱せられないのか」と思っていたのだとか。

 そのとき、高橋氏はナムコへ入社して2年目の新人。吉田氏が「高橋さんもすごいけど、新人に任せた上司や、ナムコという会社もすごい」と感心すると、高橋氏の入社当時の回想がはじまった。

 高橋氏が『塊魂』を作ったのは、当時のナムコが作っていたゲームがあまりおもしろくなくて、どの仕事にも参加したくなかったから。美大で彫刻を学んでいたころはパソコンもゲーム機も持っていなかったというが、子どものころはファミコンで遊んでいた高橋氏にとって、ナムコといえば『ゼビウス』『パックマン』『ディグダグ』『マッピー』『メトロクロス』など、独創的で新しいゲームを作り出す会社のハズだった。しかし、面接を受けたときに、そのイメージとかけ離れたタイトルがナムコの作品だと知り、「なんでこんなの作ってるんですか」などと発言。役員面接で落ちていたことを、あとで知らされたという。そんな高橋氏を「いいアイデアを持ってるから、絶対いいものを作ると思う」と進言して残したのが、『塊魂』を任せてくれた上司だったのだそうだ。

SIE吉田修平氏が聞く、『塊魂』高橋慶太氏の新作『Wattam』について。テーマは違いを乗り越えること【BitSummit 7 Spirits】_03
吉田修平氏

PS3に振りまわされた!? 『のびのびBOY』

 『塊魂』と次回作を手掛けた高橋氏が、つぎに作ったのが『のびのびBOY』。「ずいぶん開発期間が長かった印象がある」という吉田氏に対し、「難しかったからですよ。プレイステーション3のCPUを使いこなせなかった」と笑った。「当時、プレイステーション3のスペックシートが発表されて、夢のようなことが書いてあった。モデラーがモデルを作って世界を作るんじゃなくて、自動生成で毎フレーム毎フレーム違う世界ができるんじゃないかと……久夛良木さんのその夢にだまされた(笑)」。

 また、長い体を持つBOYの物理演算による特徴的な挙動も、時間がかかった理由のひとつとの説明が。当初は高橋氏自身、物理演算を知らなかったし、エンジニアも処理が重くなるので物理演算を避けようとしていた。しかし、あの動きを表現するのに手打ちのコードでは絶対に無理という話になり、途中から物理演算に切り替えたのだが、それがたいへんだったのだというのだ。

 ちなみに、プレイステーション3にオンライン機能が搭載されたということで、オンラインマルチプレイをやりたかったそうだが、ギブアップ。代わりにオンライン機能を使い、プレイヤー全員がBOYを伸ばした長さで、地球から新しい惑星への到達を目指そうという仕掛けが実装され、発売から6~7年かけて冥王星に達したのだそうだ。「誰も知らないですよね。僕も『のびのびBOY』で大失敗したので居場所がなくて、ナムコを辞めたあとの話ですから」。

会場ではプレイステーションブースで『Wattam』が遊べる

 さて、会場のプレイステーションブースでは、『Wattam』の試遊が可能だ。「でも、終わるのに1時間かかるんですよ(笑)。だけど、1台しかなくて。ごめんなさい」と高橋氏。吉田氏が「見ていても楽しいゲームなので、うしろから見てください」とフォローして、セッションは終了した。

SIE吉田修平氏が聞く、『塊魂』高橋慶太氏の新作『Wattam』について。テーマは違いを乗り越えること【BitSummit 7 Spirits】_04