日本代表の健闘や、ベルギーやクロアチアの躍進を経て、フランスの優勝で幕を閉じたロシアW杯。世界一を決める激闘の数々を、あなたはどんな方法で観戦しただろうか?
大半の人はテレビ中継だろう。そりゃ現地観戦ができれば最高だが、チケットの入手も渡航もその費用もなかなか大変だ。せめてみんなで応援するイベントの一体感を味わうために、スポーツバーやパブリックビューイングに出かけた人もいるだろう。
しかし2022年カタールW杯や、2026年北アメリカW杯(アメリカ/カナダ/メキシコの共同開催)では、新たなオプションが広まるかもしれない。
それがVR観戦だ。これは未来予想の絵空事で言っているのではない。すでに試験的に始まっていることだ。
海外で体験できたW杯のVR観戦
フェイスブック傘下のOculusでは、同社のVRヘッドマウントディスプレイOculus GoとGear VR向けに、VRイベントアプリ"Oculus Venues"を配信している。
あらためて簡単に説明しておくと、Oculus Venuesでは音楽ライブやトークショー、スポーツの試合などのライブイベントの映像を、バーチャル客席で体験できるというもの。
本誌で一度音楽ライブでの体験をリポートしているので、Venuesとはなんぞやと思った人はそちらを読んでいただくとして、実はロシアW杯の開催中、アメリカなどではVenuesでW杯の試合がいくつかライブ配信されており、バーチャルスタジアムで観戦することができたのだ(他地域でもイギリスのBBCなどが配信していたようだ)。
ここでは、記者がアメリカ滞在中にVenuesでVR観戦したポルトガル対モロッコ戦と、米テレビ局FOX SPORTSによるFOX Sports VRで観たウルグアイ対サウジアラビア戦の体験をリポートしよう。
なお、Venuesでの配信は録画が禁止されていたため、本記事で使用する映像/画像は基本的にすべてFOX Sports VR版のものになる。
メインスタンドからの映像で全体が見える!
VRでの試合観戦は、基本的にはメインスタンドの前の方で観戦する感じになる。他のVR観客と隣り合ってボイスチャットしながら観たり、個室的なスペースに移ることもできる。
いずれにしても、目の前にはピッチが広がっており、試合展開に応じて選手たちがポジション調整を繰り返し、全体が生き物のように動いていく様子がわかる。
テレビの中継ではどうしてもボール周辺のアップになって全体を把握しづらいが、この視点で見ると、サッカーとはエリアの奪い合いであることが一目瞭然。教育的価値もあると思う(勉強のためにスタジアムに通うというのはなかなか難しいものだ)。
実況&バーチャル場内スクリーンで現実超え
それだけなら現実のスタンドと変わりないが、ココからがバーチャルならではの可能性の部分。
まず音声面では、スタジアム内の音以外に実況解説の声がミックスされていて、場内ラジオで実況を聞きながら観戦するのと同じような情報拡張が行われている。
それだけでなく、反対側のスタンドの両端にあたる部分にバーチャルな場内スクリーンが合成されており、アップの映像やリプレイを映し出している。
バーチャル場内スクリーンのサイズは巨大で、現実であればスタンドの一部を閉鎖しないと置けないサイズ。しかも重要なシーンではバーチャル場内スクリーンが正面に移動してくるので、現実のスタジアムのスクリーンよりも格段に見やすい。
まだ課題はあるが、ポテンシャルは高い
もちろん、現実のスタジアムの体験は視覚だけに留まらない。スタジアム全体から発せられる音の洪水や熱気や振動、場合によっては匂いも含めた全身体験には、まだVR観戦はかなわない。映像の解像度やフレームレートもまだ完璧とは言えない。
しかし、現時点で現実より便利な部分がすでにあるうえ、そもそも現地まで移動しなくていいし、VR観戦にはチケットの売り切れが存在しない。配信アプリ側の設定次第では、ゴール裏やピッチ上空から見下ろす視点だって可能だ(実際、FOX版ではゴール裏視点にできたし、Venuesの告知動画自体はゴール裏からみんなで観る様子が採用されている)。
完全に現実超えとなるにはさまざまな技術革新が必要だと思うが、“テレビ中継と現実のスタジアムの体験の中間プラスα”ぐらいのポジションは今でも十分に目指せるだろう。しかも現状ではVenuesもFOX SPORTS VRも無料である。
今回体験したバーチャルスタジアムからの観戦とは少し性質が異なるものの、国内でもVR映像配信プラットフォームの360Channelが2017年に鹿島アントラーズ対セビージャFC戦の360度映像での中継を行うなど、模索は続いている。
イベント興行と映像中継のミックスとして新たな収益手段になれる可能性もあるし、我が国でも「クソ暑いなか東京オリンピック会場行くぐらいならVR観戦でしょ」と言えるぐらいに広まってくれると嬉しいのだが。