2018年6月7日、Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)とニンテンドー3DSで『超回転 寿司ストライカー The Way of Sushido』と題された、まったく新しい形のパズルゲームが発売される。“回転寿司”と“アクションパズル”というインパクト大の組み合わせもさることながら、どうもこのゲーム、ちょっと、いや、かなりヘンだ。

  • パズルゲームなのに壮大な世界観と物語(寿司を巡って熾烈な戦争をくり広げる国々、飢える子どもたち、帝国に独占されて失われた幻の“寿司”……etc)
  • パズルゲームなのに超ハイクオリティーなアニメーション演出
  • パズルゲームなのに耳に残って離れないハイレベルな楽曲

 ……などなど。ふつうは、パズルゲームでこんな作りかたってないんじゃないか。ふざけているのかマジメなのか、これを作った人は何を考えているんだ!? というわけで開発者の方にお話しを伺うべく、さっそく任天堂に取材を申し込んだところ……出てきてくれたのが、こちらのおふたり。

任天堂から生まれた『超回転 寿司ストライカー』なぜこんなゲームができちゃった!?_07

山上仁志氏(やまがみ ひとし)

本作のプロデューサー。『パネルでポン』、『ドクターマリオ』シリーズ、『ピクロスDS』など数多くの名作パズルゲームを開発したほか、『ファイアーエムブレム 覚醒』など近年の『ファイアーエムブレム』シリーズも担当。好きな寿司ネタはとろサーモン、ホタテ、中トロ。

安藤佳織氏(あんどう かおり)

本作のディレクター。『いつでもプリクラ☆キラデコプレミアム』や『幻影異聞録♯FE』を手掛ける。好きな寿司ネタは、鯵、しめ鯖、数の子、マグロの赤身。

 そう、本作を生み出したのは、『いつでもプリクラ☆キラデコプレミアム』や『幻影異聞録♯FE』といった、任天堂タイトルの中でもかなり異色なタイトルを手掛けてきたコンビだったのだ! これらの作品をプレイしたことがある方なら、この時点ですでに期待感が高まっていることだろう(少なくとも記者はがぜんテンションが上がりました)。
 ではおふたりが何を語ったのか、たっぷりご覧いただきたい。

Check!!『超回転 寿司ストライカー The Way of Sushido』とは?

 回転寿司を題材にしたアクションパズルゲーム。4本のレーンで運ばれてくる寿司皿を同じ色でつなげてコンボを作成。食べた皿を相手に投げて、先にHPを0にしたほうが勝利だ。すし皿をつなげるときの気持ちいい操作感、色取り取りの寿司ネタや寿司の神様“スシガミ”の持つスキルなどがもたらす戦略性が大きな魅力。また、ハイクオリティーのアニメパートや“寿司”を巡る帝国軍と共和国の戦いを描く壮大な物語など、圧倒的ボリュームにおなか一杯になること間違いなし!?

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――本作は、スシを使ったパズルという発想、独特すぎる世界観、アニメや楽曲の豪華さなど、なかなか常人には思いもよらないゲームになっていますが……なんでこんなゲームを作り上げることができたのでしょうか?(笑)

山上私も安藤もバカだからですね(笑)。というのは、冗談で。これまでも、僕と安藤で手掛けたゲームがいくつかあるんですが、ご存じですか?

――おふたりのコンビで作られた作品と言えば、『幻影異聞録♯FE 』でしょうか。あれも“手堅い”作りではまったくなかったですし、ふつうのゲームではなかったですね……!

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『幻影異聞録♯FE』は2015年12月26日に発売されたWii U専用ソフト。『真・女神転生』と『ファイアーエムブレム』のコラボという着想を出発点としながら、単純にふつうのRPGやSRPGにするのではなく、世界観や楽曲、演出などあらゆる面で独自性の高い作品に仕上げられている。プレイした人たちからの評価も極めて高く、続編を望む声が多い(記者も待ち望んでいます!)
(C)2015 Nintendo / ATLUS
FIRE EMBRLEM SERIES:(C)Nintendo / (C)INTELLIGENT SYSTEMS

山上彼女と最初に作ったのは、プリクラを題材にした『いつでもプリクラ☆キラデコプレミアム』。キラデコですよ。キラデコ。この語感!(笑) この作品は、安藤が「もっとデコりたい。DSiの写真帳ではできないことを、もっとやりたい!」と言い張ったことから実現しました。そして、そのつぎに『幻影異聞録♯FE 』を手掛けるのですが、これは彼女が「『真・女神転生』と『ファイアーエムブレム』をくっつけたゲームを作ってみたい」と言ったことが切っ掛けだったんです。僕も、なかなかこのふたつをくっつけるという発想はなかったんですが、対象層は重なっているし、これおもろいなぁ、と。そして企画を出したら、みんなもこの世界が混ざったらおもしろいと思ってくれて、あのコラボが実現したんですね。彼女のおもしろいところは、作り手のはずなのに、いつもお客様寄りなんですよ。お客様目線で「ここに、もう1個あったらいいよね」というものを上手に見つけて、組み合わせて説明してくれるんです。そんな安藤に……いつごろだったっけ?

安藤2015年の春、ちょうど『幻影異聞録♯FE』の開発の終わりころでした。

山上そう、そのころ社内で、ニンテンドー3DS向けの企画をもっと考えようということになっていて。そこで、作風の幅広い安藤に「上の年代から下の年代まで幅広い世代で遊べるゲームの企画を考えてみないか?」と課題を出したんです。そしたら……何て言ったんだっけ?

安藤はい。お寿司がいいんじゃないですか、と。

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――えっ! いきなり“寿司”だったんですか!?(笑)

山上そう。「わたし、いまビビッと来ているものがあるんです。お寿司なんです。山上さん」って。「え、寿司?」と聞き直したら、「ただのお寿司じゃないんです。お寿司を食べることにすごくフィーチャーしたものを考えたい」と。

――……? えーと、安藤さん的には、それはどういうイメージだったのでしょうか?

安藤幅広い年齢層に対するエンターテインメントと言われて思い浮かぶものと言えば、テーマパークがあるじゃないですか。そのテーマパークほどハードルが高くなく、もう少し日常的にみんなで「ワ~イ♪」となるモノってなんだろう? と考えたときに、“休日の回転寿司の親子連れのテンションのピークさ”が頭に浮かんだんです。回転寿司の何が楽しいかと言いますと、全部なんですよね。回ってくるお皿を取る。お寿司を食べる 。食べたらおいしい。子どもも、親もみんな楽しんでいる姿を見たとき、これってめっちゃ楽しいなって。

――おお……たしかに言われてみると、そうですね……!

山上ここまで聞けば、なぜ彼女が寿司と言ったのかわかるんだけど、僕は、説明もまったくない状態で、いきなり「寿司」とだけ言われたんですよ(笑)。しかも「お寿司をキャラにするんじゃないんです。お寿司を食べるんです! お寿司を食べることが大事なんです。お寿司を食べるゲームを作りたい」と。なので、そのとき僕は彼女に言ったんです。「ごめん。何言ってるか、よくわからない……」と(笑)。

――同感です(笑)。

山上そこで、デザイナーの森澤(※森澤孝泰氏。デザイナーとして『メトロイド』、『ファイアーエムブレム』シリーズなどに関わる)を呼んで、「安藤の話をちょっと聞いて、俺にわかるようにまとめてくれ」と頼んで、彼に安藤の話し相手をさせたんです。それから、彼女が頭の中で何を考えているのかを形にするため、安藤と森澤が約2、3週間ほど話したんだったね。

――そこで、安藤さんの中にあった、みんなを楽しませるエンターテインメントとしてのゲームの形や敵のイメージをまとめていったわけですね。

山上いやいや、ないない。そんなの最初からまったくないんですよ。

――えっ!? じゃあ、山上さんに話した時点では、本当に休日の楽しそうな家族たちのイメージしかなかったんですか?

安藤はい。あと、ちょうどそのころ、お寿司を食べに行こうとしたのが2、3回続けてポシャってしまって、ものすごくお寿司を食べたかったというのもありました(笑)。「今週こそは行くぞ!」と思っていて、なんだか自分の中でお寿司を食べるというイベント感、そして、お寿司を食べたときの達成感への思いがすごく盛り上がっていて。とにかくお寿司が自分の中でめっちゃ熱かったんです!

山上でも、僕からするとゲームにしなきゃいけないわけで、“寿司を食べる”とだけ言われてもゲームにできない。だから、せめてゲームはいいから世界観だけでもまとめなさい、と言ったんです。「敵は?」、「寿司はだれが食べているの?」とか。そこで主人公の寿司ライカームサシが最初に出てきたんです。ライカーの“ライク”……わかります?

――もしかして“L I K E”ですか?

山上そう、“寿司が大好きな人”。そこにerをつけて、ストライカーとかけてるんです。寿司が大好きなバトルをする人ということで。最初からスシライカ―と言っていました。こんなふうに2、3週間考えてるうちに、主人公は寿司が大好きな少年であるというのが固まっていきました。

任天堂から生まれた『超回転 寿司ストライカー』なぜこんなゲームができちゃった!?_05

――寿司好きな少年が主人公、まではわかるのですが、そこから“第一次寿司大戦”とか、帝国が寿司を独占するといった世界観に行き着くというのは、ちょっとふつうじゃないような……?

安藤なんでお寿司を食べに行くことがそんなにエキサイティングなのか考えたときに、やっぱりお寿司って、高級な食事というイメージがありますよね。だから貴重なものを食べているプレミアム感をどんどん盛っていった末に、いまの世界設定になったといいますか……。

山上この世界において寿司は宝石、金銀、石油のようなもので。また、この世でいちばん価値があり、簡単に手に入らないんです。こういう基本的な概念は、最初の段階で決まりました。

安藤でも現実的には、お寿司ってお米と魚があれば基本的に作れますよね。

――そうですよね。現実では、金や銀ほど貴重なものではないですよね。

安藤当時何かで見たのですが、近ごろの子どもたちの中には、お寿司のネタが魚からできてるとことを知らない人もいる、と。これを逆に考えて、お寿司という完成形が世の中にあるという世界なら、もう魚はいなくていいやと。

――!?

安藤で、お寿司は、スシガミが作り出した食べ物なんだ、という世界にしました。

山上この時点で、寿司は祠から出てくるモノになりました(笑) 。

安藤祠にいるスシガミが魔法かなにかの力でお寿司をヒュッと出してくれて、世界の人たちはこれがお寿司だと思っている。で、この世でいちばんお寿司が価値あるので、当然の成り行きとして、スシガミの奪い合いが始まるんです。帝国軍と共和国の間で第一次世界スシ大戦が行われて……。

――うーん、なるほど……お聞きしてると、突拍子もない設定に思えますが、その一方ですごく筋が通っているようにも聞こえますね……!

安藤私の中では筋が通っています(笑)。

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 というわけで、「お寿司は最高にエンターテインメントだ!」という強い思いを出発点に、一見荒唐無稽に見えつつも、じつは周到に練り込まれた世界観とキャラクターが完成する。しかし、この時点でどんなゲームにするかはまったく決まっていなかった……! ここからいかにしてゲームが完成していったのか……?