新感覚の格闘スポーツゲーム『ARMS』が、2017年6月16日に産声を上げて約9ヵ月。任天堂にとって新たな挑戦となるこの作品は、いかに生まれ、いかに継続的なアップデートを行っていったのか。本作プロデューサーの矢吹光佑氏に聞く。

 2017年6月16日に発売された、新感覚格闘スポーツゲーム『ARMS』。発売から約9ヵ月を経て、パッケージ版の販売本数は日本で約34万本(ファミ通調べ)と、新規IP(知的財産)として異例のヒットとなっている。また、発売から4回にわたる大型アップデートで5人のファイターを追加するなど、精力的な運営を行っているほか、多くの公式大会を開催してきた。そんな、大いに盛り上がった『ARMS』の9ヵ月間の歩みを、プロデューサーである矢吹光佑氏にうかがった。なお、本インタビューは、先日最終回を迎えた連載コーナー“『ARMS』拳闘会” の週刊ファミ通2018年3月29日号(2018年3月15日発売)に掲載されたものに、加筆、改訂を行ったもの。誌面で読んだ『ARMS』ファンの方にも見逃せない情報が入っているので、ぜひ読んでほしい!

矢吹光佑氏。『ARMS』のほか、『マリオカート』シリーズなどのプロデューサーを務める。また、大会ではMCとして出演するほか、試合の解説役やプレゼンターを担当することも。(文中は矢吹)

発売から走り抜けた、9ヵ月間の開発秘話

――まずは発売から、これまでのアップデートを振り返ってのお話をお聞かせください。
矢吹 『ARMS』は、当初からいくつかのアップデートを予定していて、2017年の年末までにVer.5.0にすることを目標にしていました。ですが当然、当初予定していたものだけでなく、実際に遊んでくださっているプレイヤーの皆さんの声も参考にしながら、アップデートの内容を決めていきました。それがプレイヤーの皆さんといっしょに『ARMS』を磨いているような感覚で、とても楽しかったですね。

――発売当初は予定していなかったアップデートも、実際にあったのでしょうか?
矢吹 細かい部分ではもちろんたくさんあるのですが、大きなところですと、スプリングトロンの追加ですね。Ver.2.0~5.0までのアップデートで、最初は4人のファイターを追加することを決めていたんです。ですが、開発を進めていく中で、スプリングトロンのアイデアも出てきまして、最終的には5人追加する形となりました。おかげさまで、どのファイターたちも皆さんに人気のあるキャラクターになって、うれしい限りです。

――Ver.5.0で大型アップデートは終了と告知されていましたが、今後の『ARMS 』はどのよう運営を行っていくのでしょうか?
矢吹 具体的な内容はまだお話できませんが、今後もより遊びやすくなるように、細かなアップデートを重ねていく予定です。また、直近では韓国で本作の発売を控えていますし、もっとプレイヤー数が増えるような、裾野を広げる施策はどんどん行いたいですね。新しいプレイヤーが増えれば、さらに強いスゴ腕プレイヤーが出てくるかもしれないと思うと、ワクワクします。『ARMS』の裾野を広げる施策は、つねに考えています。

――では、これまで運営してきた中で、いちばん印象に残っていることはありますか?
矢吹 『ARMS 』の大会は、“『ARMS 』開幕記念 オンライン公開スパーリング”からスタートしました。オンライン大会は、オフラインと違い、どんなことが起きるか予測できないんですよ。「トラブルなく、ちゃんと対戦できるだろうか」というドキドキ感は忘れられないですね。さらに、その大会で、当時はプレイヤーの皆さんから弱いと言われていたメカニッカ(しんごろー選手)が優勝したのも印象深いです。ユーザーさんから挙がってくるアームやファイターの評価と、大会の結果が必ずしもリンクしないということが実感できたんです。そのおかげで、皆さんの意見を参考にしつつも、対戦のデータなども併せて見ることで、全体の対戦バランスを整えていくという方針を定められました。

――具体的には、どのようなデータを参考にしていたのでしょうか?
矢吹 バトルでよく使用されているファイターとアームや、対戦結果といったデータは、もちろん見ています。それに加えて、いろいろな切り口でデータを分析したんです。たとえば、“このステージなら、こういう戦いかたをする傾向がある”だったり、“上位プレイヤーたちに限定したデータを抽出してみる”といった方法ですね。また、日本のプレイヤーと、アメリカのプレイヤーの流行の違いなど、地域ごとの特性も見ていました。それらを参考にしながら、『ARMS』の調整方針を考えていきました。

――なるほど。ファイターのバランス調整では、どういった点を重視していましたか?
矢吹 ワンパターンの戦法ばかりになったり、一部のファイターが強すぎたりするのは、我々だけでなく、プレイヤーの皆さんも好きではないと思います。そこで、いろいろなことが起こり得るゲームバランスを目指して調整してきました。また、ファイターたちには、“何かしら弱点はあるけど、一部の能力を突出させる”ことを意識していたんです。これだけやっていれば強い、みたいな単純なファイターになってしまうと、工夫ができなくてつまらないですよね。もし戦いに負けても、ファイターやアームを変えて再戦してみようとか、そういう戦いかたができるような余地を残したつもりです。

――アームに関するバランスの取りかたは、どのような方針だったのでしょうか?
矢吹 アームもファイターと同じです。いろいろなアームを使ってもらいたかったので、アームごとの特性をしっかり活かしつつ、万能になりすぎないように意識しました。やはり皆さん、得意不得意なアームがあるんですよね。だからこそ、「あのアームを調整してくれ」というような意見も挙がってきます。ですが、それを鵜呑みにはせず、ファイターの調整と同じように、いろいろな切り口でデータを分析してアームの性能を整えていました。ただ、バランス調整において、“弱体化”というのは、プレイヤーの皆さんにとって気持ちのいいものではないですよね。ファイターもアームも個性を残しつつ、全体的になるべく強化する方向で調整を心掛けました。結果として、リリース初期の段階より、どのファイターもアームも特性が際立っていると思いますよ。

――運営していく中で、反省点はありましたか?
矢吹 アップデートや不具合の修正など、なるべく早く皆さんの要望に応えることを心掛けていたつもりです。ですが、プレイヤーの皆さんは、「もっと早く」と思われた方も多かったのではないでしょうか。そういった要望に応えていくスピード感は、より磨かなくてはいかなくてはいけないと思っています。

――なるほど。ちなみに、矢吹さんがいちばん印象に残っているファイターはいますか?
矢吹 ひとりひとり作るのに苦労したので全員印象に残っていますが、あえて選ぶとするならスプリングマンですね。最初に作ったのがスプリングマンで、新しいキャラクターを作るという苦労を、チーム全体で味わいました。そして最終的に、スプリングマンはバネで腕が伸びるキャラクター性に着地したんですね。そこから、スプリングマンはバネだから、つぎはリボンをモチーフにしよう、つぎは鎖、包帯というように、どんどんほかのファイターの設定に広がりを持たせられたんです。ちなみに、深い戦術が必要なファイターたちは、あえて発売時にプレイアブルで出しませんでした。たとえばミサンゴは、バトルの途中で性能を変化させて戦うファイターです。でもそれが最初からできてしまうと、ゲーム自体も難しいと感じられてしまいますから。

――新規タイトルだからこそ、あらゆることに苦労があった、と。
矢吹 『ARMS』は、いままでにない新しい対戦ゲームを目指しました。ただ、新しいルールのゲームは、いままでほかのゲームで培ってきた対戦のセオリーが、なかなか通用しないんですよね。そこのバランスの取りかたはすべて手探りですから、本当に難しかったです。ただ、それが楽しかった部分でもあります。開発チーム内でも、とにかく対戦をくり返して遊び、調整を重ねていきましたから。調整の最終段階になれば、みんなでワイワイ対戦して遊んでいるような状況でした(笑)。

――発売直後から、ユーザーさんたちの上達速度は、本当に早かったですよね。
矢吹 そうですね。想定以上でした(笑)。“『ARMS』開幕記念 オンライン公開スパーリング”を開催したときは、発売してから1ヵ月も経っていない時期だったんです。その時点で、すでに多くの方がファイターやアームを自在に操っていて、対戦中のバトルスピードもすごく速くて。すでに開発スタッフ陣よりもスゴ腕のプレイヤーばかりでした。

――確かに、トッププレイヤーたちの対戦は、ゲームスピードが本当に速いですよね。
矢吹 ゲームの間口は広くしつつ、やり込んだときの奥深さは出したくて、そこは狙っていたポイントです。初めてこのゲームを遊ぶと、伸びるパンチの打ち合いになり、全体的にはゆったりしたゲームに感じると思います。ゆったりしているということは、状況を把握しやすいことにつながります。そして戦いを重ねてコツがわかっていくと、多彩なテクニックを駆使して戦い始めるので、ゲームスピードが上がっていきます。

――本作は“いいね持ち”のほかに、複数の操作に対応していますが、なぜ多彩な操作方法でバトルができるようにしたのでしょうか?
矢吹 Wiiリモコンからだいぶ時間も経ちまして、モーションコントロールを扱う技術は、ハードウェア面でも、ソフトウェアの部分でも、非常に上がっています。そのため、上級者がテクニックを追求できるモーションコントロールを実現できるだろうと考えました。一方、ニンテンドースイッチはお客様に合わせて姿を変えるゲーム機です。私たちもお客様のプレイスタイルを制限したくありません。そこで、“いいね持ち”と、一般的なボタン操作が、対等に対戦できるゲームを目指しました。いずれの操作方法でも、世界ランキングのトップになっている方はいますので、どちらかが不利ということはありません。お好みの操作で戦っていただければと思います。

ユーザーが盛り上げた、『ARMS』のコミュニティー

――『ARMS』の大会は、ユーザーたちの盛り上がりがスゴイですよね。あの盛り上がりを見て、矢吹さんはどう感じていますか?
矢吹 本当のスポーツ観戦のように盛り上がってくれて、うれしい限りです。『ARMS』は開発当初から、競技性の高さを出せたらいいなということを考えて作っていました。そしてそれが、真剣に遊ぶプレイヤーの方々にしっかり響いたのであれば、作り手冥利に尽きますね。と言っても、『ARMS』の盛り上がりというのは、たくさん遊んでくださるプレイヤーの皆さんが作り上げてくださったと思いますので、とても感謝しています。

――大会などでは、矢吹さんもユーザーさんたちとよく交流されていましたね。
矢吹 本当に皆さん温かいんですよ。実際にお話しすることで、すごく勇気づけられましたし、エネルギーをもらえました。開発スタッフ陣にも、いい刺激になりましたね。

――大会では、大人のプレイヤーだけでなく、子どもの参加者も多くて、プレイヤーの年齢層が広さを実感します。
矢吹 幅広い年代の方に遊んでいただけて、ありがたい限りです。お父さんが大会参加者なのかなと思ったら、じつは5歳くらいのお子さんが参加者で、お父さんは付き添いだったり。男性だけでなく、女性のプレイヤーさんもたくさんいて、作り手として感無量でした。

――これまでの大会で、とくに印象に残っている大会はありますか?
矢吹 もちろんどれも印象深いですが、強いて言うなら“ARMS JAPAN GRAND PRIX2017”の、名古屋予選大会ですね。それまで、オンライン大会である“公開スパーリング”を2回開催していて、プレイヤーさんたちのあいだでは、「あのプレイヤーが強いらしいよ」という話題こそ挙がっていたようなのですが、実際に面識があったわけではなくて。それが全国大会の先駆けとなる名古屋予選で、実際に皆さんが出会って、会話をするきっかけになったようです。そこから一気に、コミュニティーが広がったと感じました。

――『ARMS』のユーザーコミュニティーは、みんな仲よくて、暖かい雰囲気ですよね。
矢吹 はい。大会に集まってくれた熱意のあるプレイヤーの皆さんのおかげだと思っています。私たちはゲームをより楽しんでもらえるようにアップデートを重ねましたが、土台を作っただけですから。人が人を呼ぶと言いますか、ファンどうしのつながりが、またみんなと遊びたい、また大会に参加してみたいと思ってもらえる、大きな要因だったかと。

――大会のルールは、どのようにして決めていったのでしょうか?
矢吹 いままでにないシステムのゲームということで、大会のルール決めも手探りでしたね。アームやファイターの選択、ステージセレクトなど、あまりにも選手たちの自由度が高いと、大会の運営として想定することがあまりに多くなってしまうので、そこは選手たちを万全にサポートできるちょうどいい塩梅を目指しました。1本先取なのか、2本先取なのかなど、細かいルールは、それぞれの大会の意向に合わせて決めていきました。

――2018年3月17日には “春拳 Spring Fist”がARMS JAPAN GRAND PRIXの提携大会として開催されますが、それ以降の大会の予定はありますか?
矢吹 いまお伝えできる大会はありません。ただ、今後もタイミングが合えば、公式大会を開催したり、いろいろなゲーム大会と提携したいなと考えています。

――大会では、絶対王者的な存在であるPega選手が強烈でした。あそこまで強いプレイヤーが出ると予想していましたか?
矢吹 Pega選手が大会を2連覇されたときは、本当に驚きました。『ARMS』は、テクニックが試合結果に反映されやすいゲームなのですが、やはり運の要素も少しは絡んできます。たとえばパンチを曲げるのか、それともまっすぐ打つのかは、相手の先を読む必要がありますし、予想が当たるかどうか、運任せだったりもします。ですが、Pega選手は熱心な研究と練習によって、あの強さを見せてくれました。その実力は、まさに“皇帝”ですね。

――ちなみに、海外でのコミュニティーの盛り上がりを矢吹さんはどのようにとらえていますか?
矢吹 海外では公式大会などを開催しておらず、まだまだこれからだと思っています。日本は小さい国ですから、いろいろな伝達速度が速いですよね。ですが、海外はアメリカひとつとっても、とても広いですから、大会をやるにしても、本当に大規模になってしまいます。たとえば、オンライン大会を開催するにしても、アメリカの西海岸と東海岸で対戦となれば、回線の問題も出てきてしまいます。そういった部分も含めて、海外でどう盛り上げていくのかは課題ですね。

開発秘話スプリングマンはじつは3代目!? 『ARMS』の世界設定に迫る!

――話は変わりますが、まだ世に出ていない『ARMS』のストーリーや世界設定などはあるのでしょうか?
矢吹 語り尽せないくらい、深い世界設定があります。まず私たちが表現したかったのは、『ARMS』の世界では、サッカーのワールドカップのように、みんなが注目しているスポーツの祭典“ARMS”があるようにしようと考えました。だからこそ各ファイターにはユニフォームがあり、そこには企業のロゴがあしらわれていて、専用のスタジアムも用意されているわけです。ただ、そのすべてを言葉で語らなくても、イラストやファイターの造形を見て、音楽を聴けば、そういう世界なんだとわかるようにしたかったんです。ちなみに、これまで明かしていない設定ですと、スプリングマンはじつは彼で3代目になるんです(笑)。

――え、そうなんですか!?
矢吹 そういった未公開のストーリーも、今後公開できる機会があればいいと思いますね。

――公式Twitterなどでも、そういった設定の細かさが感じられるイラストが多数公開されていて、発売前から人気がありましたよね。
矢吹 いろいろな角度から『ARMS』を見てもらいたかったんですよ。文章だけでなく、ビジュアルやサウンドで伝わる魅力も絶対ありますから、ゲームの雰囲気を伝えるために、たくさんのイラストなどを用意しました。たとえば、新しいキャラクターが出てきたら、すべてを文章で伝えるのではなく、ビジュアルとサウンドで、どことなくどんなファイターか感じてほしかったんです。また、たとえ言葉がわからなくても、見た目や声でファイターの特徴をつかんでもらいたいなと。

――ファイターをつぎつぎに公開した中で、とくに反響の大きかったのは誰ですか?
矢吹 ツインテーラは、世界中でものすごい人気がありましたね。右に掲載している彼女が筋トレ…… なのかはわかりませんが、髪の毛でトレーニングしている姿のイラストは、とくに人気がありました。鍛えている彼女の姿がとても魅力的だったからか、世界中からいろいろな反響があったんです。

――なるほど。ちなみにコブッシーは、どういうキャラクターなんでしょうか……?
矢吹 コブッシーは“ARMS”という格闘スポーツのマスコットキャラクターです。いろいろなところに顔を出しつつ、公式Twitterでつぶやいたりと、現実と『ARMS』の世界の仲介役として多彩な活動をやってもらっていますね。皆さんとしては、謎の存在かもしれません(笑)。ただ、彼がいるからこそ、いろいろな切り口から『ARMS』の世界を覗けるわけです。

楽しませる側が、楽しませてもらった『ARMS』

――昨今話題のesportsというゲームシーンを、矢吹さんご自身はどうお考えになられていますか?
矢吹 esportsという言葉が、いろいろな意味で使われているので、なんとも言えないところではあります。任天堂としましても、まだ任天堂らしいesportsのありかたを探っている段階で、現状ではesportsをビジネス的に活用する予定はとくにありません。ですが、『ARMS』のように、大会を開催すると、プレイヤーさんたちが本当に真剣に練習して、毎日研究していることが伝わってきます。その鍛錬ぶりたるや、本物のスポーツ選手ですよね。その姿を見て、我々も熱くなります。選手やチームにスポットが当たることは、とてもいいことだと思います。やはり対戦ゲームの主役はプレイヤーの皆さんですから。

――せっかくなのでお聞きしておきたいのですが、続編などを出す予定は……?
矢吹 さすがに発売して1年も経っていないですし、アップデートもまだまだしていきますから、そのお話は早すぎますね(笑)。我々のスタンスとしては、大きな驚きを皆さんに提供できる状態になったときに、またこのお話の続きができればと思います。

――これまでの『ARMS 』、そしてこれからの『ARMS』について、最後にお聞かせください。
矢吹 発売から9ヵ月が経ちました。開発チームとしては、いろいろなものを作って、皆さんに驚いていただこう、楽しんでいただこうと思ってやってきました。その一方で、大会での盛り上がりや熱いバトル、愛のこもったファンアートなど、逆にユーザーの皆さんに、我々が楽しませてもらっている面もあります。その関係があるからこそ、『ARMS 』は成長しているなと思っていて、皆さんにとても感謝しています。これからも、もっといいゲームになるように努力します。皆さんも、『ARMS』をこれからも楽しんでください!