2017年10月28日、福岡県の九州産業大学にて、コンピューターエンターテインメント開発者向けのカンファレンス“CEDEC+KYUSHU 2017”が開催。本記事では、同カンファレンスの基調講演“老若男女を魅了する世界観別アートワーク描き分け技法”のリポートをお届けする。

 この講演で登壇したのは、レベルファイブのアートチームから、マップアートを主に担当してきた梁井信之氏と、荒川政子氏。ふたりとも『妖怪ウォッチ』シリーズや『レイトン』シリーズなどで、マップ制作を担当している。

レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_01

レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_74
(左)荒川政子(あらかわまさこ)氏は、2003年入社。主な担当作品は『イナズマイレブン』シリーズ、『レイトン』シリーズ、『スナックワールド』シリーズなど。心掛けていることは、わかりやすいシンプルなデザインを描くこと。
(右)梁井信之(やないのぶゆき)氏は、2002年入社。主な担当作品は『二ノ国』シリーズ、『タイムトラベラーズ』、『妖怪ウォッチ』シリーズなど。心掛けていることは、カテゴリや常識にとらわれない、幅広いデザイン作り。

 セッションの前に、梁井氏は会場の九州産業大学は母校でもあり、「ここで講義をすることは、非常に感慨深いものがある」と語った。そんな梁井氏が15年間に渡って所属しているレベルファイブのアートチームは、主に2Dを主体としたアートワーク業務を行っている部署だ。アートチームでは、キャラクターデザイン、マップデザイン、UIデザインを担当しており、梁井氏と荒川氏は背景美術などのマップアート制作に携わっている。

レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_02
こちらがマップチームの使用機材。wacomの大型タブレットを使用している。

荒川氏から、アートワークの制作プロセスが解説された。レベルファイブのアートチームでは、まず資料を大量に収集することから始まるという。いきなり描き始めるのではなく、集めた資料をもとにアイデアを展開してから、ラフイメージの制作に入る。最終的には、そのラフを清書していく中で、詳細な設定を施していき、完成形に持って行くという流れだ。

レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_03
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_04
『レイトン』シリーズを題材に、荒川氏が実際に作例を紹介。まずは博物館への取材や、大量の画像や書籍などを参考に、イメージソースとなる資料を収集する。
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_05
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_06
集めた資料を元にして、いくつもスケッチを描いてアイデアを展開していく。幅広くイメージを広げるのがポイントだという。
猫のモチーフが点在する、豪奢な洋館のイメージが固まったようだ。ラフを描いてこのイメージを形にする。魅せたいものを絞っていく作業だ。
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_07
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_08
ラフを磨き上げて清書していく段階で、細かい調度品などの詳細な設定も描き込まれる。

『レイトン』シリーズの場合

ここからは、それぞれが担当してきた作品について、より具体的なタイトル別の描き分け方のコツを解説。門外不出のテクニックが明かされることとなった。

レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_09
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_10
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_11
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_12
各作品のコンセプトからキーワードを見出す。荒川氏が担当する『レイトン』シリーズは“上質な絵本”、『スナックワールド』は“ハイパーカジュアルファンタジー”。梁井氏が担当する『妖怪ウォッチ』シリーズは“子どもオープンワールド”、『二ノ国』シリーズは“触れるジブリ美術の世界”というものだ。

荒川氏は、『レイトン』シリーズが架空の英国を中心とした古い西洋を舞台としていることから、“アンティーク”というキーワードを設けている。

レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_15
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_13
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_14
セピアをベースに色彩を豊かにしていく。挿し色が入ることで落ち着きを感じながらもひきつけられる絵になっていく。

一見すると落ち着いた雰囲気を感じさせる背景だが、主役のカトリーエイル・レイトンが活躍する“レイトン探偵社”前の風景では、あえて探偵社の配色のみを緑、オレンジという補色を用いることで、探偵社の存在感が鮮やかに表現されている。

レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_16
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_17
メインとなる建物以外の背景の色味は、落ち着いたもので統一して差別化。
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_18
空の色もベタ塗りではなく、特徴的な配色によるグラデーションにすることで、独自の世界観を描き出している。

荒川氏の作画工程では、レイヤー分けをした線画を描いたのちに、カラーパレットを作成して色づけをしていく。その際には、きっちりとしたカラーマネジメントが重要になるという。

レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_19
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_20
カラーパレットで色を管理する。
実際にデモンストレーションで下書きから完成までの様子も紹介された。

『レイトン』シリーズの背景を描く際のポイントとしては、コントラストを意識した配色が重要だと説明。全体が落ち着いた配色になるからこそ、そこに鮮やかさを際立たせる陰影や挿し色で、コントラストを描き出すのだ。

レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_21
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_22
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_23
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_24
レベルファイブ作品の世界観を描き分ける秘訣は“テーマ”にあり。マップチーム梁井氏&荒川氏が明かすアート制作法【CEDEC+KYUSHU 2017】_25