Oculus VRでコンテンツ開発部門を統括するジェイソン・ルービン氏は、非常にユニークな経歴を持つ人物だ。1980年代中盤、友人のアンディ・ギャビン氏とノーティードッグなるスタジオを設立したのは、なんと15歳の時。
 ノーティードッグとは、もちろんその後『クラッシュ・バンディクー』や『アンチャーテッド』シリーズを生み出す、あのノーティードッグである(ただしルービン氏は『アンチャーテッド』誕生以前にスタジオを離れている)。その後旧THQの立て直しのために社長として招聘されたのを経て、2014年に現職に就いている。

「VRをやる所が増えるのは、それだけで我々にとっていいことだ」15歳でノーティードッグを設立したルービン氏に聞く、Oculusのタイトル戦略_02

 つまり同氏は、40代半ばでありながら30年以上のキャリアがあり、80年代のオールドPCゲームから最先端のVRまで、そして中高生のソフトハウスという“どインディー”から現代の大作のレベルまでトップとして見てきた、めちゃくちゃ幅広い見識を持つ超レアな人物なのだ。

 今月頭にアメリカのカリフォルニア州サンノゼで行われたOculus VRの開発者向けイベント“Oculus Connect 4”で同氏にインタビューできたので、その模様をお伝えしよう。

Jason Rubin(ジェイソン・ルービン)

15歳で同級生とノーティードッグを設立し、『クラッシュ・バンディクー』シリーズなどを生み出す。その後、旧THQなどを経て、2014年からOculus VRでOculus Studiosによるパブリッシングタイトルなどコンテンツ開発を統括する。

「Respwn Entertainmentは本気だ」

――OculusのVR向けに『タイタンフォール』のRespawn Entertainmentが参戦するという発表は驚きでした。そこで聞きたいのですが、彼らはどれぐらい“本気”なのでしょうか? 本気じゃないプロジェクトなどないと思いますが、業界では「ちょうどこのIPがあるからこのハードでゲームを作っておこう」ぐらいのこともありますよね。

J.ルービン 確かに本気度はいろいろあるけど、Respawnはとても本気だよ。これははっきりしておきたいんだけども、彼らは今あるものを流用してやろうというんじゃないんだ。「ああ、タイタンフォールVRをやるのね」といった誤解があるけど、そういうケースではない。コレは新しいIPの話であり、開発チームはVRに興奮しているようだよ。

J.ルービン そもそも私達ゲーム開発者の多くは、世界を作り出してそこに人々をひき込みたくて業界に入ってきているわけで、私自身もそうだった。最初はジョージ・ルーカスみたいに、自分にとってのスター・ウォーズのような作品を作りたかったんだ。

 7歳の時にスター・ウォーズを観てからそう思っていたんだけど、父に「ビデオカメラは買わないぞ」と言われてね。だから「じゃあコンピューターは?」って聞いたら、「何のために?」って言うもんで、「宿題をやるために?」とかなんとか言って、説得できたのはしばらく後のこと。手に入れたらすぐにゲームを作り始めたよ(笑)。それもこれも、私の作った世界をみんなに楽しんでほしかったからだ。

J.ルービン しかし、映画でもゲームでもひとつ問題があって、そんな世界を箱(モニター)から覗き込んでもらうしかないということだ。ディスプレイまでの距離が埋められなくて、その中に入れない。でもVRは世界に飛び込ませてくれる。これは実際、夢のような出来事なんだ。
 Respawnもそういう開発者たちが集まっている。昨年ヴィンス(Respawn代表)に我々がやっている物を見せた時、彼は「我々が作っている世界を生きたものとしてVRに持ってきたい」と言っていた。そしてここでの問題は“やる気”ではなくて「いつやるか」だ。大きなスタジオがVRに本腰を入れてやるのにはいつが正しいのか?

 VRが正しい方向に進んできているのは、マイクロソフトや新しいハードウェアメーカーが参戦してきていることからもわかると思う。そのスピードは決して速くはないかもしれないけども、変わり始めには何にしても時間がかかるものだ。
 Respawnは映像でも話していたように、「2019年、これがRespawnがVRで大々的に打って出るタイミングだ」と考えている。数字だけの感触なら少し先に感じるかもしれないけど、彼らは相当に本気だし、ちゃんとした数の開発者を割り当ててプロジェクトを進めている。

「VRをやる所が増えるのは、それだけで我々にとっていいことだ」15歳でノーティードッグを設立したルービン氏に聞く、Oculusのタイトル戦略_01

「VRをやるスタジオが増えるのはなんであれ我々にとってもいいこと」

――これからもっと他の大メーカーやスタジオのVRへの参戦を期待してもいいでしょうか? 例えば次のE3ではいろんな名前を聞けるでしょうか? この会場のデモスペースにはユービーアイソフトがいます。Oculusだけの話ではなく単にVRという点で言えば、ベセスダ・ソフトワークスは『フォールアウト4』などのVR版を準備していますね。

J.ルービン 私達はふたつの使命のために活動しているように思う。ひとつはOculus製品とそのユーザーにフォーカスしていて、個人的にもユーザーの皆さんにRespawnのゲームのようなタイトルをお届けできるのはうれしい。

 そしてもうひとつはVRそのものを成功に導くというものだ。その意味において、あるメーカーが別のプラットフォームにVRゲームを出すというのは、ある程度我々にとっても喜ばしいものだと考えているんだ。開発者がVRにやってきて、VRについて学んで、これはいいなということになれば、彼らの次の製品はOculusで出るかもしれないわけだからね。

 だから自分が気にしているのは、誰がどこに出すというより「誰がまだVRじゃないか」なんだ。EAはサイドプロジェクト的にプレイステーションプラットフォームでやっているよね。いずれ彼らが「よしフルのVRプロジェクトをやろう」と切り替わる日も来るだろう。アクティビジョンも同じような感じだ。
 ではそれ以外は? ロックスター・ゲームスは『LAノワール』でVRをやることを発表した。(まずHTC Vive向けに発表されているが)配信初日からOculusに来るのか、そうでないのかに関わらず――それは私達がいま協議していることだからね――ロックスターがVRをやるというのはいいことなんだ。

J.ルービン いまVRに興味があって、そして開発者が「これ面白いからもうちょっとやりたいな」となれば、VRは長続きすることができる。VRをやり始めたら2D(非VR/平面のスクリーンの)ゲームにはなかなか戻れなくなることを私達は知っている。
 2Dゲームが悪いというんじゃない、開発者としては自分が作った世界に自分が入れるのは非常に満たされるものがあり、それこそがVRなんだ。世界に足を踏み入れて、感じることができて、歩き回れてね。くり返しになるけども、それが誰であれ、対応機器がなんであれ、VRをやる所が増えるのは我々にとっていいことだと思うよ。

――『Airtone』とか『Project Lux』とか、Oculus向けに日本の小規模スタジオやインディー寄りの人たちは結構面白いことをやっています。日本のもっと大きなスタジオやパブリッシャーとは話していますか?

J.ルービン 日本のスタジオとのコミュニケーションはずっと続けているよ。ただ我々の出自の関係上、アメリカのスタジオと同じぐらいの関係の強さに持っていくのはなかなか簡単ではないけども。マイクロソフトやソニーみたいに何年もやっているわけではないしね。それでもカプコンやバンダイナムコゲームスといった素晴らしいパブリッシャーがいるし、力のあるスタジオも多い。

 だから我々としては話はずっと続けているし、日本の市場そのものにももっと食い込んでいきたい。私はソニーの仕事でしょっちゅうトーキョーに行っていたけど、部屋が狭かったり、自然が遠かったりする場所だからこそ、VRができることも多いと思うしね。

「VRコンテンツはよりしっかりしたものになってきた」

――基調講演で発表された中で、個人的に気に入っているものはありますか? マーケティング的なことではなくて、ジェイソン・ルービンという人の個人的なフェイバリットを聞きたいんです。

J.ルービン うーん、難しい質問だ。というのも、どれもまだまだ開発が残っているから、仕上がってみないと出来が決まってこないしね。発表で興奮することはできるし、オススメすることはできるけども、期待しすぎると出てきた時には違うなってことにもなる。だから過去の作品から挙げるのでもいいかな?

――はい、お願いします。

J.ルービン あれもいいな、これもここがいいなという感じだけども、パーフェクトなゲームというのはまだ到達していないと思う。もちろんよくないというわけではなくて、いい所はそれぞれあるし、楽しんでいただいているという事実もある。ただ、まださらなる高みを目指す余地があるというだけで。その中で……『Lone Echo』は素晴らしい。『Robo Recall』もとてもいい。

――確かにどちらもいいゲームですね。

J.ルービン 非常にアーティスティックで感情が高ぶる瞬間がある。気付くと涙が出ていることもある。我々がやってきた中で、どのVRプロジェクトもいい所があったけども、最近はよりしっかりとした物になってきたと感じていて、『Lone Echo』はその中でも大きなものだと思う。去年のOculus Connectでは、PC向けに『Lone Echo』と『Robo Recall』、そして『Arktika.1』を発表した。『Arktika.1』も素晴らしくなっているはずだ。とはいえ、実はリリースが今回のイベントに近すぎて製品版は触れていないんだけどもね。家に帰ったら遊ぶ予定だよ。

――僕はファミコンやPS1の頃のような、まだジャンル名が存在しないようなゲームが出てくる時期が好きなんです。今だとそういうのはインディーから出てくる可能性が高いと思います。インディーへの投資はどうでしょうか?

J.ルービン もちろんだ。インディーへの投資をやっているし、それは続けていく。一般論として、大きなスタジオはあまりラディカルなアプローチを取りにくい。たくさんの人を養わないといけなくて、予算も大きいくて時間もかけるから、誰も試したことがない方法で失敗できない。
 インディーは素晴らしい。というのは個々のクリエイティビティの話だけでなくて、全体でたくさんの賭けがそこにあるからだ。多くはうまくいかなかったりするけど、それがインディーの世界だ。でもそういう発想がいろいろ混ざっていくと、いつか『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』とか『マインクラフト』みたいに大化けするものが出てきて、時にビジネスモデルすら変わる。

――間違いないですね。

J.ルービン というわけでOculusはインディーへの投資をしている。ものすごい大きい額というわけではないけども……というのは、それが目的になってしまって「お金くれるからリスクかけずに作ろう」となると本末転倒になってしまうのでね。くり返しになるけども、基調講演でも少し話したように、インディーの存在はとても大事なものだ。『マインクラフト』は大きなスタジオでは作れなかったものなんだから。

スタンドアローン機が切り拓く新たな市場

――では次はOculus Goについて。Oculus GoではほぼそのままGear VRのゲームが動くそうですが、Gear VRのゲームにはいいものもあるのに、十分な注目を受けてこなかったと思います。

J.ルービン まずGear VRにはいいゲームがたくさんあると思う。すべての人にとって快適なハードウェアというわけではなかったけども、Oculus Goはレンズも改善されているし、使うために対応スマートフォンを挿し込む必要もなく、顔との間にスペースが確保されているので、より快適なヘッドセットだ。そして技術的にも進化しているから、いくつかのGear VRで「いい」ゲームは、Oculus Goで「グレート」なものになると思う。
 さらに既存のGear VRタイトルだけじゃなくて、Oculus Goのローンチ段階で、我々はよりモバイルVRとしてビッグなタイトルをいくつも投入していくつもりだ。

――それは興味深いですね。最後にRiftとProject Santa Cruz、Oculus Go、Gear VRの住み分けについて聞かせてください。僕の理解ではRiftとSanta Cruzはプレイヤーの移動もトラッキングできて(6DoF)モーションコントローラーが使える“コア”寄りで、GoとGear VRは移動のトラッキングがない(3DoF)の“カジュアル”な分野になると考えているんですが。

J.ルービン その分け方そのものは正しいと思う。6DoFとモーションコントローラーがあるのがハイエンドよりで、3DoFよりもリッチな体験ができる。Riftは今後もコアゲームデバイスという立場を維持していくはずだ。というのは、RiftだけがハイエンドPCを必要として、それはゲーマーであることが多いからね。

 ただSanta CruzプロトタイプはPCが必要ではないので、そこの条件が変わってくる。Windows OSも、モニターもキーボードもいらない。あのプロジェクトは最初からより幅広い層を狙っているもので、箱の中に必要なものが全部入っていて、開けたらすぐ――PCがないわけだからRiftの方が強力だけども――モーションコントロールつきのVR体験が誰でもできるというのが目標だ。なので、より幅広い層に向けたコンテンツを広げていくいい機会になると思う。