カプコンUSAの小野義徳氏に、eスポーツの現状と『ストリートファイターV アーケードエディション』の反響、そして新キャラクター“是空”について話をうかがった。

 2017年10月14日〜15日、シンガポールで開催されたゲームコンベンション“GameStart 2017”。期間中、GameStart会場にて格闘ゲーム大会“South East Asia Major”が行われており、“ストリートファイターV Capcom Pro Tourアジア地区最終予選&地区決勝大会”も熱戦がくり広げられていた。同イベントに訪れていたカプコンUSA・小野義徳氏に、eスポーツの現状と『ストリートファイターV アーケードエディション』の反響、そしてサプライズ発表された新キャラクター“是空”について話をうかがった。

――GameStartには毎回来られているのですか?

小野義徳氏(以下、小野) GameStartは今年で4回目となりますが、初回から毎回来ていますね。昨年の2016年から、GameStart内で格闘ゲーム大会“South East Asia Major”が開催されていて、今年で言えばその中で“ストリートファイターV Capcom Pro Tourアジア地区最終予選&地区決勝大会”を行わせていただいています。それまではCapcom Pro Tourは別の期間、別の場所で行っていました。

――格闘ゲーム大会についてですが、シンガポールならではの特徴はあるのですか? たとえば近隣の東南アジアの方々が集まるとか?

小野 日本と香港とシンガポールの人が多いという感じでしょうか。今年はインターナショナル色が強くなっていると感じましたが、おっしゃられたようなタイやマレーシアの人はほとんどいないですね。どちらかというと、タイで開催しているランキングツアー“Thaigeruppercut(タイガーアッパーカット)”のほうがインターナショナルな感じがします。これは想像ですが、東南アジアの中ではシンガポールは物価が高いので、なかなかほかの国から来るのが難しいのかなと。

――なるほど。『ストリートファイターV』でシンガポールと言えば、Razer所属のプロゲーマー・Xian選手が有名です。小野さんから見たシンガポールの選手の特徴と言うのは?

小野 Xian選手のプレイスタイルが表しているのですが、コツコツ、マジメにやる選手が多いですね。Xian選手は、日本人よりも繊細なことをずっとやってきたプレイヤーです。シンガポールは学歴がきびしい国ですし、努力をするのが根づいている印象があります。その国民性がプレイスタイルに表れている気がしますね。

――シンガポールでのキャラ人気はいかがでしょうか?

小野 データが出ていますが、どのキャラもまんべんなく使われている印象です。シンガポールならでは、という感覚はあまりありませんね。日本人に感性が似ている気がします。

――10月14日には“Capcom Pro Tourアジア地区最終予選”、10月15日には地区決勝大会が行われ、日本のときど選手が優勝しました。

小野 いまはつねにときど選手が話題をさらっていきますね。使っているキャラクター(ときど選手の使用キャラクターは豪鬼)同様、神がかっていると思います。動きも話題も、ときど選手がひっぱっている状態です。……こんなことを言うとほかの国の選手に怒られてしまうかもしれませんが、やっぱり日本人選手ががんばっているとうれしいですね(笑)。オーガナイザーが思っちゃダメなのかもしれませんが、単純に日本人としては、日本人選手ががんばっているのを見ると「オオッ!」なるので。あと、今大会では、ももち選手の弟子のヤマグチくん(ももち氏とチョコブランカ氏が立ち上げた選手育成企画“忍ism”の育成選手)など、若い選手が国際舞台でがんばっていて。そういう姿を見ると、選手がつぎの世代に移り変わっても、ファイティングゲームはまだまだ盛り上がっていけるのかな、と感じました。

――このタイミングで小野さんにインタビューできるということでぜひうかがいたいのですが、TGS2017でのeスポーツの盛り上がりや、ゲーム業界団体とeスポーツ業界団体の統合と新設など、最近は日本のeスポーツに動きがあります。これまで先駆者として、世界大会の実施やプロツアーを仕掛けてきた小野さんとしては、この状況をどのように分析されていますか?

小野 昨今のeスポーツの動向についてですが、ゴールはともかく、ビジョン自体は日本で根づいていなかったんですね。その状況からもう一歩先へ進むには、ゲームが趣味という枠から拡大し、もっと根づいていかなければならないわけです。eスポーツという言葉が適正なのかどうかという議論は別にして、これを生業とできるように、世界的にちゃんと誇れるように、目指していけるきっかけがいま出始めてくれたというのは、日本人としてうれしいですね。たとえば、『ストリートファイターV』の大会を開こうとしたときに、あるときから法律がちらほらと見え始めたわけです。「これはまずいぞ、できないぞ」と。できないことが一般の方に知れ渡ると、一般にも知られているから企業側もできなくなるという悪循環がずっと続いていた状況でした。

――なるほど。

小野 賞金制がいいのか悪いのかという論理よりも、ゴールを目指すうえでの称号と言いますか、目的を設けたいと思っています。賞金なのか、名誉なのか、社会的地位なのか。ただ、ゲームが社会的地位としてどうなのかというと、ゲームファンは皆さんゲームが好きだし、愛してしてくれているのはわかります。でも、会社の同僚やクラスメイトからは「ゲームなんて」といまだに言われる。「休みの日に何してた?」と聞かれて「ずっとゲームをしてたよ」と、満足して言えない状況が多いわけです。草野球とフットサルとゲームの何が違うのかという話ですが、価値観に関してはまだ難しい。また、名誉が得られるかというと、総理大臣杯、天皇賞があるわけでもない。そこで僕が最近話題に挙げるのがYouTuberなんですね。YouTuberは社会的地位としてどうなのかという話があるかもしれませんが、少なくとも子どもたちがなりたい職業ランキングには入っている。また、収入の部分でも、ジャパニーズドリームと言えるゴールもあると思います。たとえば、トップのYouTuberの年収を一般会社員が到達できるかというとそれはムリですよね。でも、YouTuberにはそのチャンスがある。じゃあスポーツは、となったときに、野球選手もサッカー選手も何億という年収を得ている。大きなスポーツになれば大会に相応の冠が着きますし、称賛すべきバロメーターになるわけです。競技制の大会という特徴を考えると、見返りがなければ、なかなか理解や注目、ゴールが揃わないと思います。それが日本のeスポーツの状態だと思っていましたが、昨今の動きによってゴールが近くになるかもしれない。ビデオゲームのステージがひとつ増えるわけですね。ステージが上がるとか下がるではなくて、増える。増えるということは、どの業界、どのジャンルでもいいことです。

――目的が大切なわけですね。

小野 競い合って1位になったときに名誉なことがあるよね、となる必要があるんですね。それはファイティングゲームだけではなく、MMO RPGもあったり、JRPGもあったり。いろいろなジャンルがあり、いろいろなプレイヤーが遊んでいるというのがビデオゲームの特徴。それは、日本という島国から出ていった瞬間、中国でもアメリカでもでき上がっているのですが、日本だけができていない。その状況を変えるために、業界的にもバックアップしたいし、動いていきたいと思っていますね。

――小野さんは必ず大会の現場に足を運ばれています。選手、ファンとの交流も積極的に行われていますし、コミュニティーと近い位置でeスポーツをご覧になられていると思いますが……。

小野 大会には会社から「行け」と言われていますから(笑)。eスポーツを日本の皆さんがイメージしやすいのは野球だと思います。野球は、少年野球、草野球、大学野球、プロ野球と段階がありますよね。たとえば、今回のCapcom Pro Tourアジア地区決勝大会でベスト8に残っている選手は、野球でたとえるとプロ野球選手。残念ながら予選で負けてしまった人は、少年野球、草野球の選手。もちろん、負けてしまった人の中には大学野球、プロ野球を目指している人もいる。いつかプロになりたいという夢を持っている人がいるわけです。さらに、その中には「オレもやってみよう」とか、「あのプロ選手と対戦したい」とか、考えている人がいる。これって、野球ではありえないことなんですよね。野球では、プロ野球の一流選手と草野球の選手が対戦することはできませんよね。でも、eスポーツではそういう気持ちで参加ができるし、そういう目線がある。

――よくわかります。

小野 ただ、Capcom Pro Tourは5年目に入ったとき、そういう人たちにきびしくなってきた部分があって。「観戦するもの」、「うまくないとダメ」と思われる方が増えていったんですね。家でオンラインでプレイすればいい、とか。そういう人たちが入りにくくなってきた。Capcom Pro Tourは、当初から誰でも参加してください、というポリシーで開催しているんですね。そうすることによっていろいろな広がりが生まれ、ゲームの発展にもつながったわけです。でも、その状況が固くなっているのは懸念事項だと思っています。Capcom Pro Tourの在りかたも変えなきゃいけないのかもしれません。とはいえ、そういったことが考えられるというのは、Capcom Pro Tourが根づいたルールになったからだと思います。他社さんの事例になりますが、Capcom Pro Tourと同じようなルールで世界大会を開催するイベントが増えてきているということは、成功した証かと。参加していただくことによって、1試合では生まれなかったコミュニティーとか、1試合では集められなかったスポンサーやオーガナイザーが獲得できるかもしれない。その広がりが生まれたときに「大学野球以上の選手じゃないとムリですよ」ではなく、「野球が好きで、試合をしたあとに食べるご飯が格別だ」と思っているような方々が入ってこられる場を考えておかなければならないわけです。これは、eスポーツのいまの流れがうまくいった場合でも出てくる問題です。『ストリートファイターV』で言えば、おかげさまでコミュニティーの方が自主的に各地で大会を開いていただいているので、たとえばコミュニティーと連携を取る方法もありますね。

――参加する敷居が高くなっていると。

小野 たとえば、シンガポールで1年に1回、チャンスがあるならば、旅行ついでに参加してもらうですとか。「2回戦で負けちゃったよ。でも2回戦までは行けたし、また来年がんばろう。負けちゃったけどシンガポールの観光も目的の半分だからおいしいものを食べて帰ろうか」という空気が生まれてくれるとうれしいですね。観光中にときど選手がどうだったとか、Xian選手がどうだったとか、語ってもらえれば。

――野球好きの方が、試合や選手を語るのと同じですね。しかも、ゲーム大会であれば語るだけではなくて参加もできると。

小野 そういった環境が生まれてくればeスポーツはもっと変わるかもしれないな、というのがいろいろな国を回って思うことですね。我々はプロゲーマーの皆さんにスポンサーがつくように呼び込みをかけ続けていますが、カプコンがプロゲーマーのスポンサーになるのはレギュレーションでやめています。プロゲーマーをスポンサードされているゲーム会社さんもありますし、会社ごとのポリシーとなりますが、カプコンはルールブックを作っている会社ですので、スポンサーにはならないようにしているんです。とはいえ、オーガナイザーのバックアップはしていますし、セミアマの人に対して、いかにスポンサーがつくようにするのかなど、大会の現場にいるあいだは、そういう活動をずっとやっていますね。

――eスポーツに関してのお考えはよくわかりました。ここからは『ストリートファイターV』の話をお聞かせください。まず、10月6日に『ストリートファイターV アーケードエディション』が2018年1月18日にリリースされることが発表されました。発表後の反響はいかがでしょうか?

小野 格闘ゲームの宿命なんですけど、バージョンアップしても、みんながんばってすぐに頂点に達してしまうんですね。かといって、毎回変えていくとプレイヤーの皆さんが追いつけない。『ストリートファイターV』発売から2年というのは、いい節目なんじゃないかなと。システム面も「こう変えますよ」とヒントを出しながら作業を進めている状態です。『ストリートファイターIV』のときから、ユーザーの方からのご意見は聞かせていただいて、聞けるぶんについては変えていくというスタイルですので、『ストリートファイターV アーケードエディション』に関しても、いろいろな声をいただければと思います。『ストリートファイター』シリーズは歴史があるだけに、さまざまなお考えがあると思います。「こうしてほしい」、「こう思っている」というご意見をカプコンにどんどん投げていただければと思いますね。

――10月15日には、新キャラクターの是空が発表されました。

小野 是空を発表させてもらいましたが、どういったキャラクターにするのかは毎回悩みますね。最後までいろいろと議論してきた中で、『ストリートファイターV』らしさを作るのであれば、新キャラクターも入れていくべきだろうと。『ストリートファイターV』はストーリーを重視しているという面もありましたので、過去のファンにも「なるほど」と言ってもらえるキャラを出したほうがいいだろうと判断し、是空となりました。突拍子のないキャラクターを出すよりも、作品につながりのあるキャラクターを出したわけです。

――是空の特徴をお教えください。

小野 是空は、元のようにスタイルを切り替えられるテクニカルなキャラクターです。宿命(しゅくみょう)という必殺技を使うことで、“老”状態と“若”状態を行き来できます。“若”状態の姿が『ストライダー飛竜』のようだったり……。そのあたりも見どころですね。いちばん最後の参戦キャラクターとして、よかったのかどうかは、登場して皆さんに使っていただくまでわかりませんが、どのように使っていただけるのか楽しみです。アビゲイルも最近は使用する人が増えてきていますので。まあ、アビゲイル発表当時はいろいろと叩かれてましたが(笑)。今後、アビゲイルがどうなっていくのかと同じように、新たな取り組みを是空ではしていますので、これまでとは違うアプローチで触っていただければありがたいですね。

――初心者には難しそうなキャラクターですね。

小野 そこは……練習をしてください(笑)。 『ストリートファイター』シリーズは、『ストリートファイターIV』で若返り、おかげさまで『ストリートファイターV』では新しい方にたくさん入ってきていただき、この2年間、温かく見守り続けていただいたと思っています。バージョンアップを迎えられることは、ただただ感謝のひと言です。『ストリートファイターV アーケードエディション』発売後は、1年かけてアップデート、キャラクターを出していく予定です。東京オリンピックまでは盛り上がりを続けてもらって、パリオリンピックのときには種目に入れればいいなと(笑)。CAMPCOM CUPだけではなく、一般の方が振り向いていただけるような場所で晴れ舞台を用意できればと思いますので、ぜひとも応援よろしくお願いします。