2017年8月26日、“龍が如くスタジオ新作発表会”において、龍が如くスタジオが手掛ける新作タイトルが一挙に3本発表された。その内容は、『龍が如く2』の究極進化形『龍が如く 極2』(PS4専用タイトル/2017年12月7日発売予定)、名作マンガ『北斗の拳』とのコラボタイトル『北斗が如く』(PS4専用タイトル/2018年2月22日発売予定)、そして、家庭用ゲームでの展開が同時発表された、“新・龍が如くプロジェクト”第1弾タイトル『龍が如く ONLINE』(PC、iOS、Android/2018年配信予定)だ。本記事では、東京ゲームショウ2017でも注目を集めているこれらの龍が如くスタジオの新作について、セガゲームスの開発トップである名越稔洋氏に話を聞いた。

※本記事は、週刊ファミ通2017年9月14日増刊号の掲載記事をもとに、一部を加筆・再構成したものです。

『龍が如く 極2』、『龍が如くONLINE』、『北斗が如く』はどうなる!? セガ名越稔洋氏に聞く、龍が如くスタジオ新作への想い_03
龍が如くシリーズ 総合監督
名越稔洋氏(文中は名越)

 言わずと知れた『龍が如く』シリーズの生みの親。スピンオフ作品も含め、 すべての『龍が如く』関連作品に携わる。セガゲームスの取締役CPO(Chief Product Officer)となったいまも、同社のゲーム開発の先陣を切るゲームデザイナー。

──2017年8月26日の発表会では、龍が如くスタジオが手掛ける新作が3本発表されましたが、IP(知的財産)としての『龍が如く』の今後は、どんな展開をお考えなのでしょうか。

名越 発表会でもお伝えした通り、『龍が如く6 命の詩。』(PS4専用ソフト/2016年12月発売)をもって桐生一馬の物語は終わったものの、『龍が如く』シリーズが終わったわけではありません。ゆえに、「いずれ新しい展開を見せなければ」という想いはありました。そういう意味では、先日発表した3つのタイトルは、それぞれが別の展開、あるいは可能性を示すものです。端的に説明すると、『龍が如く 極2』(以下、『極2』)で示したのは、“既存IPの活用”です。つづく『北斗が如く』は、“横展開”といいますか、『龍が如く』のゲームエンジンや開発ノウハウをほかの作品に応用することもあるということを示唆できたと思います。そして“新・龍が如くプロジェクト”の第1弾として発表した『龍が如く ONLINE』は、“我々がつねに新しい挑戦をすること”を示しています。中でも、“新・龍が如くプロジェクト”は、我々が考える“つぎの時代の『龍が如く』”をもっとも強く象徴するものだと思っていただければと。

── “つぎの時代の『龍が如く』”とは、どのような意味合いなのでしょうか。

名越 “新・龍が如くプロジェクト”の第1弾がPCとスマホゲームアプリでの展開なので、誤解される方もいらっしゃるかもしれませんが、我々が考える“つぎの時代の『龍が如く』”とは、主体とするプラットフォームがPCとスマートフォンになるという意味ではないのです。すでに発表していますが、我々は『龍が如く ONLINE』の先に、家庭用ゲーム機向けのタイトルを見据えています。つまり、桐生一馬の物語ではない、言わば新シリーズの『龍が如く』の主人公が春日一番であり、そのスタートを切るのが『龍が如く ONLINE』というわけですね。“新・龍が如くプロジェクト”とは、新たな主人公による、さまざまなゲーム展開全体のことを指すと考えていただければと思います。

──だからこそ“新・龍が如くプロジェクト”という言い回しだったのですね。ちなみに、新たな主人公となる春日一番は、どういう人間なのでしょうか。

名越 これまでの主人公・桐生一馬は、ヤンチャだった時代もあるかもしれないけれど、初代『龍が如く』のころには、もう割と“デキた”人間でしたよね。自分自身を見つめることができて、敵対していた人間すら受け入れる度量もあって。もちろん、桐生の物語にも成長ドラマの要素はありましたが、最初から成熟した人物という印象が強かったと思います。

――確かにそうですね。

名越 “新・龍が如くプロジェクト”では、もう一度、チンピラの物語からやり直そうということになりました。“一番”という名前は、その名前からはほど遠い生きかたをしてきた主人公が、名前にコンプレックスを抱いている、という話がおもしろいと思ったから。言ってみれば、強烈な名前負け。一番という名前なのにも関わらず、人生で一度たりとも一番になったことがない主人公というわけです。“新・龍が如くプロジェクト”は、そんな男の成長ドラマであり、サクセスストーリーにしたいと思っています。

──なるほど。桐生とは大きく異なる主人公像ですね。

名越 一番は、強烈なコンプレックスがあるがゆえに、エネルギッシュで短絡的。人間ができていた桐生とはまったく違う人物です。というのも、同じ方向性で桐生と張り合えるような人間を作ろうとしても、たぶん大した男にはならないし、遊ぶほうからすると、「だったら、桐生でいいじゃん」ということになってしまいかねない。「桐生もよかったけど、コイツも好きだな」と思われるような人間を、新しい主人公にしたかったのです。

──桐生とはまったく違う主人公が神室町でどのような生き様を見せるのか、いまから楽しみです。ところで、“新・龍が如くプロジェクト”の舞台となる世界は、これまでの『龍が如く』と地続きと考えていいのでしょうか。

名越 そうですね。『龍が如く』シリーズは実際の時間軸とリンクして進行していますが、その意味では、『龍が如く6 命の詩。』以降の地続きの話ということになります。春日一番の物語にも、おなじみの神室町はもちろん、東城会や近江連合といった組織が深く関わってきますが、そのあたりの詳細は追って発表していきます。

──そうなると気になってくるのが、第1弾タイトルとなる『龍が如く ONLINE』の中身なのですが、どんなゲーム性になるのでしょうか。

名越 いま主流のカードバトルのような体裁を取っています。スマホゲームアプリは、ゲームそのもののユニークさと、遊びやすくてすぐにハマれるという要素の両方が問われる時代です。いまは、そのバランスを調整しながら開発しているところですね。

――家庭用ゲームのキャラクターや世界観がスマホゲーム化されるという流れは珍しくないですが、スマホゲームアプリの配信が先行して、その後に家庭用ゲームが発売されるというパターンはあまり例が多くないですよね。そのあたりはどのようにお考えでしょうか。

名越 ゲームにおけるIPの展開は、どんどん多様化していますよね。いまは家庭用ゲームであれスマホゲームアプリであれ、プラットフォームごとの取り組みが自然であれば受け入れられるし、そこに無理がなければ、喜んで遊んでいただける時代です。我々としても、“『龍が如く』シリーズは家庭用ゲームでしか作らないよ”というのではなく、少し考えかたを改めてもいいんじゃないのかなと。その意味では、桐生の物語が終わり、新たな主人公を立てるタイミングは、ひとつの契機になると考えました。

――確かに、桐生を主人公に据えた『龍が如く』シリーズは、家庭用ゲームとしてのパッケージが完成しすぎていて、スマホゲームの展開は難しいかもしれませんね。

名越 そうした側面はあったと思います。ただ、そうは言っても、“新・龍が如くプロジェクト”では、スマホゲームありきで急ごしらえの新主人公をでっち上げるようなことはしたくなかったんです。新主人公を立てるのであれば、家庭用ゲームを含めて、大きな展開を見据えなくてはいけない。“新・龍が如くプロジェクト”の家庭用ゲームが『龍が如く7』という名称になるかどうかはまだ明かせませんが、ひとつ言えるのは、我々がこのプロジェクトをいわゆる“シリーズのナンバリング作”に相当するものと位置づけていることです。しばらくは『龍が如く 極2』、『北斗が如く』の発表が続きますが、“新・龍が如くプロジェクト”についても、今後の発表をご期待いただければと思います。

──それがまさに、「桐生の物語が終わっても、『龍が如く』の物語は終わらない」というご発言の真意なのですね。それではつぎに、PS4専用ソフトとして発売される『龍が如く 極2』について伺います。オリジナル版の『龍が如く2』は、初代『龍が如く』から非常に短い期間で開発、発売されたことが印象的でした。名越さんは『龍が如く2』を振り返って、どのようなタイトルだったと思われますか。

名越 オリジナル版『龍が如く2』発売当時の取材でもよく聞かれたのですが、じつは『龍が如く2』は、そんなに短い期間で出す予定ではなかったんです。ところが、初代『龍が如く』のプロデューサーだった菊池(菊池正義氏)が、「新規IPが生まれにくい環境の中で認知されたエネルギーを失わないうちに、可能な限り早く続編を出すことが一番大事だろう」と主張しまして。これには反対意見もあって「一度ちゃんと作れたわけだから、そんなに急いで作るよりは、大事に考えて、改めてしっかりと作りたい」という声もありました。

――それは、決断が難しいところですね。

名越 ただ、当時はPS2の成熟期だったのですが、後継機であるPS3の存在もすでに市場には見えてきていたのですね。PS3が発売されると市場が成熟するまでに時間が掛かるので、その前にPS2で続編を出すべきだと考えました。ただ、そのタイミングで続編を作るとするとあまり時間がなくて、もろもろの工程をすべて含めても1年が期限だろうと。

――企画段階から1年と考えると、まったく時間がないですね。

名越 しかも、初代『龍が如く』を作り終えた経験を踏まえて我々が考えた『龍が如く2』は、総じて初代作の2倍弱ぐらいのボリュームの作業量になってしまって……(笑)。『龍が如く2』を1年という短い期間で完成まで持っていけたのは、初代作がヒットした喜びの勢いというか、とにかくチームが勢いづいていたことが大きな要因だと思います。その後の『龍が如く』シリーズの展開を振り返ると、1作目がヒットしたことも大きかったですが、その続編を1年という期間で作り上げたことも非常に大きかったなと。

――間髪を入れない『龍が如く2』の制作が、その後のシリーズの展開を決定づけることになったわけですね。もしも『龍が如く2』の開発が時間をかけて慎重に行われていたら、その後の展開は違うものになっていたかもしれませんね。

名越 ずいぶん違ったと思います。“たられば”の話になるので何とも言えないですが、少なくとも1年に1作のハイペースで作り続けるということはなかったでしょう。

――無茶な挑戦を成功させてしまったわけですからね。

名越 そうですね。その後がしんどくなりましたけど(笑)。

――そしてそこから10年以上の時を経ての『龍が如く 極2』ですが、改めて、どんなタイトルになりそうでしょうか。

名越 2016年には、初代『龍が如く』をベースとした『龍が如く 極』を発売しました。このときに感じたのは、映像や演出などの面で10年前には表現的に稚拙だった部分に手を加えて、より完璧なものに仕上げていく喜びでした。『龍が如く 極2』においてもそれは同じで、オリジナル版『龍が如く2』の開発当時には技術的な限界や時間的な制約などによって、やり切れなかったことをちゃんとやり切る、というのが制作サイドのテーマですね。そのほか、『龍が如く 極』では追加シナリオがプレイヤーの皆さんから好評をいただきましたが、『龍が如く 極2』でも期待に応えて、追加シナリオには力を入れたいと思います。

──発表会でもお話が出た追加シナリオですが、ファンの多い真島吾朗に関するものになるということで、その内容が気になります。

名越 真島は初代『龍が如く』では出番が少ないにも関わらず、 独特の存在感で人気が出た人物です。だからこそ、『龍が如く 極』では出番を増やしましたし、『龍が如く 極2』でも、追加シナリオを入れるのであれば真島の活躍だろうという想いがあって。これはスタッフともすぐに意見が一致しました。ドラマのボリュームとしては、『龍が如く 極』での錦山彰の追加エピソードをイメージしていただければと思いますが、今回は真島を操作でき、バトルアクションを楽しんでいただけるところが大きな違いですね。また、『龍が如く0 誓いの場所』に登場した、マコトとのエピソードの続きも考えていますので大いに期待してください。

──それは楽しみです! そして、 時代は違えど『龍が如く0 誓いの場所』と『龍が如く 極2』に共通する舞台である蒼天堀も、どのような進化を遂げているか気になります。

名越 現段階でほぼ完成に近いのですが、 最新のドラゴンエンジンで一から作り直した蒼天堀は新鮮ですね。『龍が如く6 命の詩。』の神室町と同じく、 細部の作り込みがかなり深化しているので、お楽しみに。

──なるほど。ちなみにゲーム全体の遊び心地に関しては、『龍が如く6 命の詩。』のような肌感覚のまま『龍が如く 極2』で遊べるというイメージでいいのでしょうか?

名越 そうですね。バトルパートとアドベンチャーパートのどちらも、『龍が如く6 命の詩。』の操作感を『龍が如く 極2』に持ち込めているということで大丈夫です。場面の移行がシームレスなので、オリジナル版『龍が如く2』とは、比較にならないほど快適ですよ。

──そして『龍が如く 極2』は、俳優キャストも豪華な顔ぶれが揃いましたね。

名越 『龍が如く2』で担当していただいたキャストがいる作品ですが、その方が作られたイメージを尊重したうえで、別の方に頼んだ役もあります。また、「まったく違うキャラクターに変えたほうがおもしろそうだ」という役に関しては、イメージすら違う方にお願いしているケースも。今回も配役には悩みましたが、 比較的楽しみながら選べました。たとえば白竜さんは、以前から『龍が如く』に出てほしいと考えていたのですが、いままでその機会がなかったんですよ。

──俳優キャストと言えば、『龍が如く 極2』では、各俳優の皆さんのフェイスキャプチャーが導入されていますよね。これはオリジナル版『龍が如く2』当時には、実現できなかったことのひとつですか?

名越 そうですね。フェイスキャプチャーによる人物造形は、最近のシリーズ作では定番になりましたが、 オリジナル版『龍が如く2』制作当時は、技術的に自信がなかったんです。ムービーシーン限定と考えれば可能でしたが、アクションシーンなど、ゲーム全編を考えると、自然に見せるのが難しかった。これを完成させられたのは、PS3の時代でしたね。

──『龍が如く 極2』ではそのリベンジを果たせますね。

名越 フェイスキャプチャーを含め、『龍が如く 極2』では、 すべての面で龍が如くスタジオの最新技術やノウハウを取り入れています。そのぶん、制作が予想以上にたいへんですね。 くり返しになりますが、単純に話のボリュームが恐ろしいほどあるタイトルなので。

──開発の皆さんがご苦労されているぶん、こちらの期待は高まる一方です! それにしても、元になるタイトルがあると、あったものを削ることはできないですし、そこは完全新作とは違うたいへんさがありますよね。

名越 もちろん、ストーリーを省くわけにはいかないですし。オリジナル版『龍が如く2』のときに限界を振り切ってどうにか成し遂げたことを、いまの技術でやり直すという苦労はあります。そこは誤解されがちなのですが、元作品があるからといって、完成までに必要な作業量というのは、そんなに軽減されるわけではないんですよ(笑)。

――なるほど(笑)。HD版というわけではなく、プラットフォームが2世代進化した環境での作り直しですからね。ちなみに、テーマ曲についてはいかがでしょうか。

名越 今回はとにかく勢いあるアーティストにお願いしたくて、SiMにテーマ曲とエンディング曲を書き下ろしてもらいました。『龍が如く 極』のときには、初代『龍が如く』でタイアップが取れなったリベンジという意味合いも含めて稲葉浩志さんにお願いしたのですが、今回はどちらかというと、作品性をそのまま表現できる楽曲がいいなと。東と西の極道の大抗争があって、壮大な人間ドラマがある。そういうゲームの展開からすると、バチバチに火花が散っている感じにしたかった。これまでたくさん曲を書いてもらっている湘南乃風もそうでしたが、もっと若い世代の中にも『龍が如く』シリーズを遊んでくれているミュージシャンがいるんですよね。SiMがまさにそうで、楽曲に求めていた勢いのあるバンドですし、今回は彼らに楽曲を託してみようと思いました。楽曲のオファーをするために実際に会って話したときも、シリーズのストーリーを全部知っているので、まったくゲームの説明をする必要がなくて(笑)。モチベーション高く曲作りに取り組んでいただいて、非常にありがたいですね。

――楽曲はすでにティザートレーラーなどで聴くことができますが、確かに熱いドラマにマッチする内容ですよね。そして……驚きのコラボとなった『北斗が如く』ですが。

名越 もともと『龍が如く』のエンジンの横展開を考えていたところで『北斗の拳』の話が浮上してきました。そして相性がいいことが理解できたところで、「どうせなら、 キャスティングもコラボさせてもらおう」ということで、黒田崇矢さんの声を原哲夫先生に聴いていただいて。結果的にとても気に入ってもらえたのはよかったですね。また、この作品は『北斗の拳』とのコラボレーションですから、 これまでの『龍が如く』にあったようなアーティストとの楽曲タイアップはせず、『北斗が如く』のテーマ曲は『龍が如く』のテーマでもある『Receive You』なんです。かなりハードなメタルアレンジですよ。

──期待しています。 最後の質問ですが、 これらの3タイトルの続報はすぐに出てくるのでしょうか。

名越 2017年8月に行った発表会はあくまでもお披露目です。映像やゲームとしての要素は、ほんの触り部分のしかご紹介できていません。東京ゲームショウ 2017では、皆さんにさらなる情報をお伝えできますので、ぜひお楽しみに。

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