アジア圏における盛り上がりと国内大会の展望
韓国の釜山にある大規模ホールBEXCOにて、2016年11月17日から20日の期間開催されたゲームショウ“G-Star 2016”。同イベントに来場したカプコンの小野義徳氏と綾野智章氏のインタビューを敢行。好評発売中の対戦格闘ゲーム『ストリートファイターV』のアジアにおける盛り上がりや国内大会に関する展望などをうかがった。
――韓国を始めとしたアジアにおける『ストリートファイターV』の手応えはいかがですか?
小野 『ストIV』シリーズよりも手応えを感じています。トーナメントに限って言いますと、参加者数が50~60%は増えていますからね。東南アジアに限っては2倍以上になっています。できればソフトも2倍以上売れてほしいんですけど(笑)。
――韓国のゲーム市場はPCオンラインゲームが中心ですが、『ストV』はいかがでしょうか?
小野 圧倒的にプレイステーション4ですね。いま韓国でプレイステーション4がかなり伸びていますので、その部分が大きいと思います。韓国のほかにはフィリピンでも相当伸びていますよ。
綾野 SIEJAさんがアジア市場に対してすごく力を入れていますので、プレイステーション4といっしょに『ストV』も伸びているのかと。
――韓国での『ストV』の反響はいかがですか?
小野 リーディングプレイヤーとしてインフィルトレーション選手(EVO2016で優勝した世界的プロゲーマー)がいるのが大きいですね。ゲームがうまいだけではなく、人間的にもすばらしいですから、彼に影響を受けてかなりプレイヤーが増えたと思います。『ストIV』のときは韓国であまりプレイヤーが育ってこなかったのですけど、『ストV』になってからはCAPCOM U.S.A.主催の大会“CAPCOM Pro Tour”(以下CPT)で活躍する韓国人プレイヤーも出てきました。『ストIV』でも若いプレイヤーが増えてはいたのですが、『ストV』でさらに若いプレイヤーが入ってきた形です。これは韓国だけではなく、日本や世界においても共通しています。
――世界的な活躍をする選手がいる地域は自然と盛り上がって来るんですね。
小野 中国もシャオハイ(Xiaohai)選手やダーコウ(Dakou)選手もいますし、シンガポールにはシェン(Xian)選手がいます。韓国だけではなく世界的なレベルも上がっていると思います。
――確かに、中国には名前の知られていない強豪が増えたという話も聞きます。
小野 動画の効果があるんだと思います。いまは上級者が動画配信することにより、高度なテクニックをみんなで共有できるので、グイグイレベルの底上げになるんです。動画を配信したり、見たりするいわゆる“動画勢”というのはコミュニティーを盛り上げるのに十分役立っている存在だと感じています。『ストIV』のころよりも動画の効果が増していると思いますので、そういったものが発達している地域の上達ぶりは目を見張るものがあります。そうなると、韓国は最たるIT文化の国ですから、ドンドンレベルが上がっていくはずです。
――日本は世界一レベルが高いと言われることが多いですが、ウカウカしていられませんね。
小野 世界との差はドンドン縮まってくると思います。ただ、やはり日本はトータルでレベルが高いので、トッププレイヤーどうし切磋琢磨して伸びていけるのが強みかなと。ほかの国は日本に比べてトッププレイヤーの数が少ないので、なかなかいちばん上のプレイヤーが伸びていけないのが難しいですよね。そういった国でも切磋琢磨できるような環境を作るのは、我々メーカー側の努力も必要だと考えています。
――そう考えるとCPTは、ほかの国のトッププレイヤーと現地のプレイヤーが戦うことができるので、世界的なレベルの底上げに役立っているのかもしれませんね。
小野 現地のプレイヤーと世界のプレイヤーが交流を図れますので、そういった効果は大きいと考えています。
――CPTは非常に盛り上がっていると思いますが、個人的にはメジャーリーグを観るような遠いものを観る感じがしてしまって、もう少し身近に感じられる、たとえば公式全国大会のような国内の公式イベントが増えてくるとうれしいのですが……?
綾野 うーん。いい質問ですね。いま開催するとなると、どうしても「賞金がなければ…」という話になってくると思うんです。ですが、日本国内では高額な賞金つきの公式大会は法律に十分配慮しながら慎重に実施していく必要があり簡単ではありません。
――公式の大規模大会であれば、賞金がなくても盛り上がるのではないでしょうか?
綾野 それはおっしゃる通りで、賞金に代わるものは“名誉”なのではないかと思っています。しかし、「カプコンが優勝おめでとう」という時代は過ぎ去ったと感じます。それだけでは名誉の価値がまだ足りないのではないか? と考えています。極端なたとえ話ですが、総理大臣に表彰されるなど……、もっとすごい価値を見出してあげる必要があると思っています。
小野 表現の仕方が難しいですが、単にカプコンジャパントーナメントを開催するだけでは、たとえ優勝したとしてもお山の大将でしかありません。それでは格闘ゲームやイースポーツが広く一般には認められませんので、僕らはそこを変えていきたいんです。グローバルの施策としてはCPTでイースポーツの形が見えてきましたが、日本国内では法律を始めとした配慮すべき事案が山積みです。ですから、まずは名誉の部分を模索したほうがいいのかなと。一般にも広く認められるような名誉です。
――それが、さきほど綾野さんがおっしゃった総理大臣に表彰されるといったようなものでしょうか?
小野 はい。それは極端な話ですが、総理大臣に表彰されるなんて、めったにないことですし、ゲームを知らない一般の方でもその大会の価値が一発でわかると思うんです。
綾野 既存のスタイルでのジャパントーナメントでは、既存のプレイヤーが喜ぶだけであって、広がりに限界があるのではないかと感じています。もちろん「そんなことはない」とおっしゃる方もいらっしゃると思いますが、既存のコミュニティーがこのさき盛り上がっていくには、もっと広く多くの人たちの参入がないといけないんです。
――なるほど。一般の方でもすごいとわかるような名誉を与えることで、格闘ゲームが広く一般にも認知され、それによってさらに多くのプレイヤーが生まれ、コミュニティーが活性化していく。そんな将来像を思い描いているんですね。
12月のPSXで驚きの発表が多数!
――先日開催された大会後に、12月にアメリカで開催されるPlayStation Experience 2016(PSX)で“豪鬼”がプレイできると発表されましたが、これについてうかがわせてください。
小野 豪鬼が出るなんて誰も言っていませんよ(笑)。
――ええ!? あの発表はなんだったんですか?
小野 もっと言うと、新キャラクターが登場するとも言っていないんですよ。この映像の詳細はPSXで体験できますと言っただけです(笑)。
――そういうことだったんですか!? とはいえ、PSXで何かが体験できるのは間違いないのでしょうか?
小野 はい。それは間違いありません。それどころか皆さんの予想を、いい意味で裏切る発表があると思います。
――そんなにですか!?
小野 新情報はリークされてしまうことが多いのですが、今回は相当な規制をしていますので発表内容は期待していいですよ。
綾野 日本は深夜になってしまうと思いますが、ぜひ生でご覧いただけると。
――PSXでいろいろな発表があるということは、2017年シーズンについていまは何もお答えいただけない……?
小野 そうなんですよ。最近ツイッターで僕がおとなしいのも余計なことを言わないようにと会社に言われているからです(笑)。
――では新情報はPSXを楽しみにするとして、現在進行形の問題に目を向けると、サーバーの状態が思わしくないというものがあると思います。こちらについてはいかがでしょうか?
綾野 サーバーの状態がよくないことは把握しています。大幅にテコ入れすることは開発ロードマップに載せて鋭意作成中です。お話できる状態になったらすぐにお伝えする予定です。
小野 サーバーについては本当に申し訳ありません。その問題についての発表はそんなに遠くないと思います。
――それは安心しました。
小野 『ストV』のバトルデザインやゲーム内容はアップデートを重ねるごとに一定の評価をいただいているのですが、サーバーまわりがアキレス腱となっているので、絶対にどうにかしないといけないと。
――確かに、バトルはものすごく作り込まれていますし、最近は日々のお題をクリアーすることで報酬が得られる“ターゲット”が追加されるなど、細かい部分での進化もしていますよね。
小野 ありがとうございます。そういえば豊泉さんは 国内最速トーナメント以降、最近は大会に出ていませんよね?
――ローカルなのものには出ていますよ(笑)。先日は、キャラクターごとのLINEグループの代表が集まったオンライントーナメントが有志によって開催されたのですが、僕はバイソンLINE代表で出させていただきました(笑)。
小野 おもしろそうですね。そういうのを記事にしてくださいよ(笑)。そういったコミュニティーの大会を認定して、たとえば限定称号を出したりするのはアリですよね。
――今度出場することになったら記事にします(笑)。それにしても限定称号などはいいですね。では、たとえばそういった大会を公認してもらうには、一般の方はどこに連絡したらいいのでしょうか?
綾野 基本的にはクローズドにせざるを得ないですね。申し訳ありませんが、現状、一般の方からのお申し出は、お断りしています。
綾野 会社のルールとしては、営利・非営利目的に関わらず個人のお客様が主催されるイベントは公認していないんですよ。(※カプコンサポート:著作物に関するQ&A)でもファン活動は大歓迎ですので、良識の範囲内での活動であればOKです。とはいえ、そのふたつがどう違うのかの定義があいまいになってしまいますので、『ストリートファイター』ではそのイベントへの参加が“無料か有料か”というもので、まずは解釈を線引きさせていただいております。いずれ公式に対応できるような仕組みを検討したいですね。
――それでは話を戻しまして、現在『ストV』運営のロードマップは何年先まで描いているのでしょうか?
小野 1、2年ではありません。結構さきまで……2020年くらいまでは描いています。
綾野 『ストV』は運営型のタイトルなので、どういう風に成長させたらいいかということを考えながらやっています。
――その間に『ストリートファイター』シリーズ以外のタイトルの登場も……?
綾野 それは僕レベルではわかりません(笑)。ぜひ小野に。
小野 できればうれしいですよね。そのためには、まず『ストV』でイースポーツの形を固めておきたいなあと。冒頭で『ストIV』シリーズよりも手応えがあると言いましたが、それであればもっとトーナメントへの参加率を上げたいですね。多くの人が参加すれば巨大なトーナメントができますので、見る人が増え、販売にもつながり、将来へつながると思いますから。
――先日開催されたアーケードゲームの全国大会“闘神祭”にて、アーケードでPC版をベースに『ストV』をプレイできるようになるという発表がありましたが、その後の動きはありますか?
綾野 ひとつ言っておきますが、アーケード版を発売するわけではありません。「アーケードで『ストV』を遊べるようにするにはどうすればいいか?」ということをタイトーさんといっしょに模索中です。
――アーケード版を出すということはないのでしょうか?
小野 誰かがウン十億円くらい融資していただければ即決で作ります(笑)。
――どこかの石油王でもないと無理ですね(笑)。アーケード版を出すにしてもパッドを遊べるようにしたほうがいいですよね。
小野 そうなんですよ。いまの若い子は世界的にパッドが増えているんですよ。あの子たちは、ハナからアーケードスティックを使うという選択肢はありませんからね。
綾野 『ストV』は開発当初からパッドを意識して作っていましたから。
小野 じつは、『ストIV』シリーズでフランスのプロゲーマー・ルフィが出てきたころから意識はしていたんですよ。“ズラし押し”が必須になるようなものをなくすだとか、システムレベルからですね。シンプルにすることがいいのか、悪いのかではなく、パッドで遊ぶ人が増える流れだったら、その人たちにも楽しんでもらえるものを作るほうがいいですから。
――思い切って4ボタン操作にしてしまうとか?
綾野 さすがに『ストリートファイター』ナンバリングタイトルなので6ボタンじゃないと、ということになりましたが、議論としては4ボタンにする案もありました。
小野 6ボタンは変えないにしても、4ボタンで戦える設計のキャラクターを出そうという案もありました。今後キャラクターを増やしていく際に、そういった需要をしっかりキャッチアップしていくというのは重要項目だと認識しています。
――なるほど、ではそういったキャラクターが2017シーズンで追加される……?
小野 (笑)。12月3日がますます楽しみですね(笑)。
――ではつぎに、品切れが続出しているPS VRへの対応はいかがですか?
小野 対応させるのは、まずしっかりと業界内外の、VRというコンテンツの反響を見てからにしようかと思います。以前のインタビューでも答えたことがありますが、リュウとケンの戦いを目の前で観戦するなど、そういったものであればVRが楽しいのかなとは思います。
――同じく好評のプレイステーション4Proへの対応はいかがでしょうか?
小野 現状はプレイステーション4でキレイに動いているので、急ぐ必要はないと思っています。ただ、将来的にいろいろな要素がバックグラウンドで動くようになったとしたら、どこかのタイミングでアップデートして対応させてもいいのかなと。
――それでは本日はありがとうございました。