“ニコニコ超パーティー”のステージを自宅で体感!
ドワンゴが配信する“Gear VR”対応スマートフォン用アプリ『niconico VR』が、2016年10月28日にアップデート。これによりアプリが3D映像に対応し、360度の3D映像配信をリアルタイムで視聴することができるようになった。
『niconico VR』は、VR空間のなかでニコニコ動画やニコニコ生放送のコンテンツを楽しめる“Gear VR”対応アプリ(同アプリをインストールしたGalaxyの対応スマートフォンを“Gear VR”にセットすることで視聴可能となる)。11月3日に開催されるイベント“ニコニコ超パーティー2016”では、この機能を活用し、3D映像の生配信が行われる。客席に設置されたカメラから生配信された3D映像を“Gear VR”で観ることで、人気アーティストが多く登場するライブステージを、まさに客席から観ているかのような感覚で体験できるのだ。
※“ニコニコ超パーティー2016”はネットチケットが発売中(購入ページはこちら)。その他、チケットぴあ、DMM.E、アニメイトなどプレイガイドでも取扱中。
3D映像は左右の目の見えかたの違い――“視差”によって映像を立体的に見せているため、レンズがひとつしかない、通常の360度収録カメラでは撮影不可能(片目で見た映像しか撮影できない)。このためドワンゴでは既製品の一眼カメラを組み合わせ、まるで本当の両目のごとく左右で異なる映像を同時収録するカメラを制作したという。
では、実際“Gear VR”で観る360度の3D映像とはどのようなものなのだろうか? アップデートに先駆けて、ドワンゴ社内で体験させていただいた。
はっきりと立体に映し出された映像に驚き(工藤エイム)
“Gear VR”をかぶると眼前に広がるのは360度の映像。従来の『niconico VR』での動画再生では、目の前にスクリーンがあり、コメントが空を飛ぶように流れるのだが、3Dバージョンの映像では、完全にVR空間のなかに自分がいるというシチュエーションだ。
なお、今回はデモ体験ということで、3D映像撮影用に制作されたカメラの前や横に立ってVRを楽しませていただいた。自分の立体映像をVRで見るというなかなか体験できない取材に少し驚きつつも、「うわ、自分ってこんな太ってんのか……」なんて認識させられたり……。本来、この3D映像対応は“自身の立体映像を見る”という主旨のコンテンツではないのであまり参考にはならないが、それでもはっきりと立体に映し出された映像に驚かされたことはお伝えしたい。なお映像再生中は、“Gear VR”の左側にあるタッチパッドをタップするとコントロールパネルが表示され、立体視が解除されるので、体験する機会のある方は2Dと3Dを切り替えてその差を体感してほしい。
続いて、“ニコニコ町会議”の客席で撮影されたデモ映像を体験した。まさに“客席にいる”という感覚で、隣にいる観客がどこに向かってコールしていたりも分かり、きちんと存在感があるのがおもしろい。「ああ、私はライブ会場で楽しんでいるんだ」と実感させられた。
テーマは「会場にいる楽しさをいかに伝えるか」
この『niconico VR』の3D映像対応は、どのようなコンセプトのもと実装されたのか。ドワンゴで同アプリの開発にあたる岩城進之介氏にお話しをうかがった。
先端演出技術開発セクション セクションマネージャー 岩城進之介氏
――今回、『niconico VR』を3D映像対応することになった経緯というのは?
岩城 最初に360度映像の撮影を始めたのは、小林幸子さんの50周年記念日本武道館ライブでした。そこではステージの上など、ふだん見られないようなところにカメラを置いてみたのですが、画としてはおもしろいけれど、ライブを観ているというよりは別の映像作品を観ているような気分になってしまうんですね。そこで“ニコニコ超パーティー2016”ではさらにライブの会場にいる雰囲気を出したい、そのためにお客さんのなかにカメラを置いて撮影をしたい、ということになりました。ですが、従来のカメラを客席のなかに置くと、ステージの遠さや隣りのお客さんの近さがわからない、遠近感のないのっぺりした映像になってしまうんです。遠い風景を見ているときは、右目と左目で見えているものがほとんど同じですので、3Dの仕掛けがなくてもあまり違和感を感じません。近ければ近いほど右目と左目の見えかたが変わってきます。そういったことを踏まえ、お客さんのなかにカメラを置いて、3D映像でお客さんのなかにいる感じを出したいということで、今回カメラを作りました。
――『niconico VR』が3D映像に対応することで、どういった変化があるのでしょうか?
岩城 『niconico VR』自体は、ふつうのニコニコ動画に投稿されている動画などを、バーチャル空間のなかにあるスクリーンで見られるアプリです。もともと一部の動画や生放送に関しては全体が360度の映像に切り替わり、VR空間全体に映像が出るような機能は実装していました。今回はそれに加えて、3Dの視差を利用した立体感のある映像を楽しめるようになっています。
――これまでは“スクリーンに囲まれている”という感覚だったのが、アップデートにより映像のなかに入った”ような感覚を感じられるということでしょうか。
岩城 いままでは360度どこを見ても映像があるという状態だったのですが、それはあくまで2Dの映像でした。言ってみれば、“周りに絵が貼ってある”という状態だったんですね。今回は右目と左目で違う映像を見せることで、より立体感をもった映像に囲まれる感覚になります。
――なるほど。より本格的なVR体験ができるようになるのですね。
岩城 本来の“完全なVR”は、目の前にコップがあるとして、そのコップに顔を近づけたらコップが大きく見えないといけないのですが、今回のシステムでは、カメラ自体の位置は固定されているので、それはできません。ただ、いままでは前を見たらコップが見えるし、横を見たら椅子が見える……と、360度は見えていたのですが、“片目で見ている”状態だったので、距離感がなかったのです。これを両目で見る状態にすることで距離感が生まれます。“完全なVR” ではないものの、ちょっとおもしろくなると思います。
――つまり、360度映像に距離感の概念が生まれると。
岩城 これをやりたかったのはなぜかと言うと、やはりお客さんのなかにいる感覚を出したかったから。距離感がない状態だと、周囲のお客さんがただの画に見えてしまい、会場にいる雰囲気にはならないんじゃないかな、と。
――逆に言えば、多少ステージが遠くても、その遠さがリアルだということですね。
岩城 そうですね。もうひとつの工夫として、やはりステージの上にカメラを置こうがなんだろうが、遠いものは遠いんですよ。ステージにいる人の顔が見えるかと言われれば見えない。ステージ上の人の表情などは、やはりプロのカメラマンがカメラを持ちこんで、リアルタイムでスイッチングした映像のほうがよく見えます。ですので、今回はそういう映像もVR空間のなかに浮かべておくようにしました。周りのお客さんの雰囲気があり、“ちょっとステージは遠いけどライブ会場にいるんだ”という気持ちは盛り上げつつ、そこを観るとちゃんとライブ映像が見えるという楽しみかたをしていただきたくて。
――テレビ番組などでよくある、ワイプが浮かんでいる感じでしょうか。
岩城 はい。ステージが遠くて見えないなどの欠点もすべて考慮したうえで、できるだけお家でライブ会場にいる気持ちになってほしいと考えました。
――それでは、今回のバージョンアップで苦労した点というのは?
岩城 既製品で3D映像を撮影できるカメラがないので、カメラも作りましたし、ニコニコ生放送で左目映像と右目映像のどちらも出力して配信するというサービス側の対応や、『niconico VR』自体で両目分の映像を出力する対応など、今回はすべてを揃えています。すべてをニコニコのサービスレベルで対応するというのはなかなか大変でした。
――リアルタイムの3D映像を配信するということで、遅延が気になるところですが。
岩城 遅延はふつうの映像配信と同じ程度です。もちろん映像の容量は大きいのですが、それで何秒遅れるというのはないですね。ほぼリアルタイムでライブが観られます。
――さて、“ニコニコ超パーティー2016”ではどういった形で『niconico VR』用の3D映像が配信されるのでしょうか。
岩城 ライブステージで、360度視点VR配信という放送を準備します(視聴ページはこちら)。メイン放送のライブステージと同じものですね。ライブステージのあいだじゅう、ずっと客席にカメラを置いて撮影しています。
――『niconico VR』で観る“ニコニコ超パーティー2016”の見どころというのは?
岩城 “超パーティー”全体ですね。今回やりたかったのは、“このプログラムを見てほしい”というよりも、会場にいる楽しさをいかに伝えるか。そこを狙って開発したので、“ニコニコ超パーティー2016”の会場の楽しさをぜひ体験していただきたいです。
――あくまで“超パーティー”に行くためのアップデートということですね。今後もイベントで活用されるのでしょうか?
岩城 3D映像生放送の仕組み自体は、継続的に使っていくと思います。
――今後、『niconico VR』の3D映像で取り組みたいことはありますか?
岩城 やはり解像度を上げたいですね。見た目の不自然さやVR酔いについては、今後も継続して改善していく予定です。どうしてもネット配信で映像を送ると解像度にも限界がありますが、今後改善していきたいと考えています。
――ありがとうございました!