今年のTGS基調講演はVR!
TGS 2016の冒頭を飾る基調講演のモデレータを務めたのは、日経BP社 執行役員 コンシューマ局長の渡辺敦美氏。冒頭、VR元年と言われる今年、VR機器、ソフト、そして体験施設など、新しいものがつぎつぎと出て来ている中、今後この立ち上がったばかりのマーケットはどのようになっていくのか、VRのプラットフォーマー、ソフト開発者をゲストに招いてのトークセッションが行われた。
渡辺敦美氏
まずは渡辺氏から、VRについての現状分析が行われた。現在の日本のVRハード市場は、大きく分けてふたつに分類でき、ひとつはプレイステーション VR(PS VR)やHTC Viveなどに代表される“ハイエンドタイプ”、もうひとつはスマートフォンなどで再生できる安価な“スマホタイプ”となる。PS VRの魅力はトータルでバランスが取れていることだといい、また、多くのキラーコンテンツとなり得る多くのゲームの発売が控えている。そして、VRで初めて視線追跡機能を搭載したというFOVEは、Kickstartarで48万ドルを集めた“VRの超新星”だ。渡辺氏は、現在は視覚中心のVRだが、今後は触覚に訴えるVRへと広がっていると言う。実際に研究も進んでいて、TGS 2016の20周年記念ブースでは、そうした未来のVRの姿を展示したコーナーがあるので、会場に行く予定のある人は、ぜひそちらもチェックしよう。
続いては、二部構成で行われたセッションで、パート1はVRコンテンツを開発しているクリエイターが、パート2はVRプラットフォーマーを代表して、FOVEとHTC Viveの代表者が登壇した。
<Part.1 VRソフトメーカーによるパネルセッション>
このセッションには、カプコンから伊集院勝氏、セガゲームスから林誠司氏、バンダイナムコエンターテインメントから玉置絢氏が出席。それぞれのメーカーにおけるVRコンテンツの取り組みについて紹介した。
伊集院 勝氏
林 誠司氏
玉置 絢氏
カプコン・伊集院氏は、肩書きからも分かる通り、ゲームエンジンなどをはじめとした研究・開発に取り組む部署に所属している。もちろんVRもその研究対象で、得られた知見やノウハウを開発へとフィードバックしている。
カプコンのVRコンテンツと言えば、まず『KITCHEN』を思い浮かべる人も多いだろう。さまざまなイベントに出展されたテクニカルデモだが、いずれ日本国内でもっと多くの人が体験できるように鋭意努力中とのことだ。これは楽しみ!
そして、全編VR対応が話題を呼んでいる『バイオハザード7 レジデント イービル』。本作は“VR専用”ではないので、非VRプレイと両立させるため、専用のデバイスを使ってのプレイが難しいという事情がある。そこで、細かい工夫の積み重ねによって、没入感とゲーム性の両立を実現させたそうだ。一方で、VRならではの直感的な操作を活かした特撮体感VR『大怪獣カプドン』という、アトラクション型VRシステムも作っていて、こちらは明日9月16日より、プラザカプコン吉祥寺店で稼働するとのこと。
続いては、『初音ミク VRフューチャーライブ』などのプロデューサーを務めている、セガゲームスの林氏。言わずと知れたバーチャルシンガー・初音ミクのライブを、VRで体験できるというものだ。ライブをVR空間で体験できるコンテンツで、なんと言っても“目の前に初音ミクがいる”……それこそが、本作の魅力だ。
電脳空間ならではの自由な視点でライブを体感でき、現実世界の制約から解放(つまりは、巨大ホログラムや空飛ぶステージを登場させる、ダンス中の衣装を変更するなどの演出効果、セットリストをユーザーが選べる)することで、リアルライブさながらの臨場感を体験できる。1st~3rd Stageまで配信されるが、本作のもととなる『初音ミク -プロジェクト ディーヴァ -X HD』も、後日のアップデートでVRに対応する。全収録楽曲をVR鑑賞可能という、夢のようなアップデートとなっている、
最後は、バンダイナムコエンターテインメントの玉置氏。先日さまざまな発表があった『サマーレッスン』でディレクターとプロデューサーを担当している。バンダイナムコエンターテインメントのVRの取り組みは『サマーレッスン』と、現在東京・お台場で開催中の“VR ZONE Project i Can”があるが、玉置氏はどちらにも携わっているそうだ。今回の講演では『サマーレッスン』に特化。
『サマーレッスン』は、VRコンテンツの中でも、キャラクターにフォーカスしたタイトルで、ジャンルも“キャラクターVR”としている。ひとつの背景、ひとりのキャラを徹底的に表現するこの手法を、玉置氏は「日本の集約農業的な発想」と例えた。さらに、何気ない行動にもキャラクターが反応することを、“プログラムがプレイヤーを迎えるタイプのゲーム”と表現した。キャラクターの近さを最重要視し、キャラクターが近くにいるように感じ、体験者がつい動揺してしまうような接近体験を追求した結果、本当に目の前にいるとしか思えないキャラクター“宮本ひかり”が誕生した。いわゆる“Sense of Presence(実在感)”に特化したVRキャラクターを誕生させることができたというわけだ。しかし、人間に似せるだけに求められるハードルが高く、“キャラクターを魅せる”ための技法は何度も練り直す必要があるという。
コンテンツによってここまで違う! VRへのアプローチ
登壇者の自己紹介を兼ねた、各プロジェクトのリポートに続いて、2つのテーマについて、それぞれの意見や課題が提示された。
<トークテーマ1 VRプロジェクトの難しさとは?>
伊集院氏は、もともと『バイオハザード7』はVRに対応予定だったが、どのように対応するか未定だったそうだが、なんとある日突然、“全編VR対応”の指令が下り、底からは苦難の連続だと笑った。現在も苦難中で、同じゲームでありながらも、操作性や演出など、VRと非VRでありとあらゆる部分を再調整していて、同じ素材で新たにゲームを作っているくらいの感覚だそうだ。
林氏は、実際にお子合われている“マジカルミライ”のようなライブの臨場感をVRで体験してもらうために、ライブが始まる前のざわざわした感じや期待感へのアプローチを考えていると語る。また、「VRはダンスモーションで嘘がつけない」という。というのは、ゲームでは見栄えをよくするために嘘をついている、つまり見えない部分を簡略化したり、表現していなかったりするが、VRではあらゆる角度から見えてしまうので、一切許されないのが苦労している部分だという。
玉置氏は、かわいいキャラクターが目の前にいて、実際に会っているようなものを作ろう、『サマーレッスン』を作り始めたそもそもの動機に対して、確かにかわいいキャラクターはできたが、VRで表現すると「人間に見えない」(玉置氏)。VRのキャラクターを作る場合、プレイヤーに人間だと思ってもらえるようなキャラクターを作る必要があるのだが、見慣れているだけに人間に対する目が肥えている、つまりは細かいところまで気になってしまう。しかし、完璧な人間を作ることはできないので、現状ベストな人間に見えるように取捨選択して、作り込んでいく作業がいちばん苦労している作業だそうだ。また、いままでのゲームでは、カッコいいとか、かわいいなど、ゲームならではの記号化されたわかりやすい魅力の付けかたがあるが、そもそも決めポーズや決め台詞といったものは現実の人間には存在しない。しかし、魅力がないキャラクターでは、わざわざVRの中にまで会いに来てくれない。いちばんは目。目の動きで価値観などが分かるため、そこにキャラクター性が宿るのだそうだ。
また、VRコンテンツを作るにあたり、コスト面での変化があるかという質問には、伊集院氏と林氏は、『バイオハザード7』やライブコンテンツではそれほど激しく上がるだけではないと答えたのに対し、玉置氏はVRキャラクターに特化した『サマーレッスン』ゆえ、これまでよりもかかっており、それは「寄ってたかってブラッシュアップしている」ため。VRキャラクターとして成立させるという、当初の目的からブレずに作るためには必須のコストだと語った。
<テーマ2 現在感じている限界、課題は?>
伊集院氏は、VR体験をするためだけではなく、“VRゲーミング”、つまりゲームとして楽しむことを目指していて、いまは『バイオハザード7』に注力しているが、そのほかのタイトルを作るためには、まだまだノウハウ不足を痛感しているという。それはVR酔い対策はもちろん、VRの特性を活かした新しい遊びを作るためのものも含まれる。
林氏は、現実のライブとの違い……実際のライブの空気感の再現はまだまだ途上。しかし、それを補うために、VR空間やVRならではの遊びやアイデアを入れるなどの工夫をしたいという。VR酔いについては、ユーザーに視点の切り換えを委ねるという、能動的なアクションによって、VR酔いが軽減させることができるそうだ。
玉置氏は、ノウハウが少ないことがいちばんの課題だが、そもそもゲームメーカーもクリエイターも、VRに出会ってからまだ日が浅く、慣れていないのが現状。描画の仕組みや演算も、まさにこれから積み上げていく必要がある。開発チームの体制も、VRの体験が千差万別なため、多種多様な人のレビューを体系化する必要があるのではないか、と提言してくれた。さらに、いいものが完成しても、世に伝えるための効果的なプロモーションなども発展途上で、最近になってやっとノウハウが蓄積され出してきたそうだ。それらはいろいろなタイトルで共有できるようにしたいとも語った。
<テーマ3 VRの可能性について>
時間の関係で、最後は将来的なVRの可能性について、ひと言ずつ。
玉置氏は、当初はキャラクターを作り込むことに集中していたが、現在になって分かってきたことは“プレイヤーの当事者性”、となりVR体験の主人公は自分自身であるということをうまく活かしたコンテンツができれば、うまく発展していくとした。
林氏は、ひとつの体験を多くの人と共通することが大きなポイントで、ライブコンテンツの場合、主人公は自分だが、同時にほかの人の体験もVRで共有でき、例えば、いずれは隣でライトを振っているモブキャラに人格が入る可能性があると語った。
伊集院氏は、コミュニケ―ションの強化が全面に出ることで、ゲームの世界が広がるのではないかという。『バイオハザード』はひとりで遊んでも楽しいが、「バイオ」は複数で遊んでも楽しいはずなので、恐怖体験を共有することで、もっと楽しいゲームになるはずだと語ってくれた。
VRプラットフォーマーから見たVRとは
第2部は、VRのプラットフォーマーをゲストに招いてのセッション。個々でのゲストは、FOVE CTOのWilson氏と、HTC Vive プレジデントのPao氏の両名。第1部同様、それぞれのプラットフォームについての概略が説明された。
Lochlainn Wilson氏
Raymond Pao氏
FOVEはファミ通ドットコムでも何度か紹介している“視線追跡型VRヘッドセット”だ。Kickstartarの成功、コロプラが出資するなど、話題を集めている。
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世界初と言われる視線追跡型VRヘッドセットのFOVEは、視線を入力に使ったり、視線によって対象の反応を変更したりすることができるというスグレモノ。視線で素早く標準を合わせたり、アイコンタクトができるなど、Wilson氏曰く「視線追跡は数年以内にVRの常識になる」という。ほかにも、誤差がほとんどないコントロール、視線や仕草といった無意識に行っている反応でストーリー進行に影響を与えることなどができる。
HTC Vive プレジデントのPao氏は、同社のビジョンとして「VRこそが世界を変えていくだろう」と紹介。VRは、どこでも、いつでも、誰にでも体験できるもの。また、経験をベースにしたメディアになると思っているので、まずはぜひ体験してほしいという。また、HTC Viveは、ルームスケール(5m四方、つまりひと部屋ほどのスペースを動きながら使用できる)でVRを体験でき、2015年にはたくさんの賞をもらうことができたそうだ。HTCでは、VR機器をカテゴライズしていて、PS VRやOculus Riftは“SEATED VR”(椅子に座ったまま楽しむVR)とし、“ROOM SCALE VR”はHTC Viveのみとなっている。もちろん、座ったままでもプレイすることができる。
<テーマ1 VRプラットフォームの課題と解決策について>
HTC Viveの“ルームスケール”について、その範囲から出てしまうなどの対策については、安全性を担保するため、例えば前方に近づき過ぎると、VR内に壁のようなものが表示され、これ以上は進まないような注意喚起を行っている。
一方のFOVEは座ったままでの体験を提供しているので、移動することによって生じる問題には直面していないが、いずれ“SEATED”から“ROOM SCALE”へと移行した際には同様の問題が生じると話した。
また、今後のハード面での改良点について聞かれたPao氏は、将来的なVRの世界の例として映画『マトリックス』を挙げ、そうした世界を実現するためには、ハードではもっと高性能なCPU・GPUや高解像度ディスプレイが必要となるし、触覚など、インタラクティブなコントロールのメカニズムの解析も必要だと分析した。
<テーマ2 VRソフトメーカーへの支援体制について>
新ハードの発展には当然キラーコンテンツが必要となるが、ハードメーカーとしての、ソフトメーカーへの支援体制についての質問。Wilson氏は、「我々は小さなメーカーなので難しい」と前置きしたうえで、まずは小さなメーカーにアプローチしているという。「ぜひFOVEの技術を使って、カッコいいことをやってください」と提案しながら、デベロッパーを開拓したいと語った。
一方のPao氏は、多くの企業がVRに投資しているが、それはVRのテクノロジーの将来性がVRにあると感じているからと現状を説明してくれた。
<テーマ VRの可能性について>
ハード側から見たVRの可能性について、まずWilson氏は、特定の分野だけではなく、ゲームはもちろん、教育や医療など、さまざまな分野に広がっており、またげんじつに実用化されてきているものもある。キラーコンテンツを出してもらって人気が出ればと思っているが、どうしても時間がかかる。「VRの可能性は我々の意思次第で際限がない。イマジネーションがあれば、どんどんと広がっていくと思います」(Wilson氏)
Pao氏もWilson氏の意見に「まったく同じです」と同調する。HTCにとってのVRは、「どこでも、いつでも、誰にでも」。VRの制限は、人々のイマジネーションでしかない。それしか制約になりえない。TGSでは「VRはゲームだよね」と思われるかもしれませんが、いろいろなカテゴリーがあり、いろいろな可能性を秘めていると思います。そうした認識がだんだんと広がってきていると感じています」(Pao氏)
最後にWilson氏が「VRは本当に楽しい!」と語り、基調講演を締めくくってくれた。