1ヵ月あたり数百万を稼ぐプロチームも存在

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▲サニー・ディロン氏

 2016年8月24日~26日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2016”。ここでは、サニー・ディロン氏を講師に迎えて行われた、“eスポーツの未来:なぜeスポーツはゲーム開発者にとって重要なのか?”というセッションを紹介する。ディロン氏は、シリコンバレーのベンチャーキャピタルファンド、Signia Venture Partnersの創業者兼パートナーだ。同社はゲームやeスポーツなどのベンチャー企業に投資を行っている。

 はじめにディロン氏は、1枚のスライドをスクリーンに映し出した。それは、ロサンゼルスのステイプルズ・センターという、NBAの試合などが開催される屋内競技場で、ビヨンセがコンサートを行ったこともある有名な施設。その観客席を埋めつくした人々が見つめているのは、『リーグ・オブ・レジェンド』のトーナメントの模様だ。世界はいま、eスポーツの発展に、この1シーンのような期待を抱いているという。

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 ディロン氏の語るeスポーツの定義とは、オンライン対戦ゲームのプロフェッショナル化。eスポーツ以前にもオンライン対戦ゲームは存在したが、それに観客を加えた形で、ビジネスとして大きく育ちつつある。

 では、eスポーツではどんなビジネス活動がなされているのだろう。バリューチェーンの最上流にはライオットやアクティビジョン・ブリザードといったパブリッシャーが位置し、『リーグ・オブ・レジェンド』や『コール オブ デューティ』といったマルチプレイヤーでコンペティティブなタイトルをリリースしている。つぎに、CLOUD 9やteam liquidといったプロチームが多く存在し、なかには1ヵ月あたり数百万を稼ぐチームも。ディロン氏に言わせれば、5~10年後にはニューヨーク・ヤンキースや、マンチェスター・ユナイテッドのような価値を生み出すチームも出てくるとか。また、MLGやESLといったリーグを組織立て、コンペを開催してチケットを販売するオーガナイザーの存在もある。

 そのほか、Twitchをはじめとした配信ネットワーク、The Daily Dotといったメディア、 賭けごとをするブックメーカー企業、ゲーム内アイテムの売買に関連する企業など、eスポーツで稼いでいる企業は多岐にわたっているのだ。

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優勝賞金は1800万USドルにまで跳ね上がっている

 ここでディロン氏は、2015年にeスポーツ界で起きたおもなできごとを振り返った。まず、8月に『Dota2』の大会が開催され、なんと1800万USドルもの賞金総額が用意されたこと。これほどの賞金はいままでに例がないうえ、今年の大会では2000万USドルの賞金が用意されたとか。つぎに、同じ8月にYouTubeがゲーム配信用のプラットフォームを発表したものの、Twitchの圧倒的優位が変わることはなかったこと。そして、10月にはeスポーツへの賭けを提供していたブックメーカー企業に対し、犯罪捜査が行われたこと。これでしばらく、北米ではeスポーツへの賭けが行われないと、ディロン氏は見ている。
[2016年8月30日3時45分修正]“1800万USドルもの賞金が優勝者に手渡されたこと”と記載しておりましたが、正しくは“1800万USドルもの賞金総額が用意されたこと”だったため、修正いたしました。読者並びに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。

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 さて、ここからは投資家としての顔をのぞかせたディロン氏が、今年だけでも約5億USドルの売上高があるという、eスポーツの右肩上がりの成長ぶりについてスライドで示した。収益の77%はスポンサー料や広告料が占めており、スポンサーとなっているのはレッドブルやコカ・コーラ、htcやintel、日産自動車などの有名企業。それぞれチームにスポンサードしたり、大会の冠企業になったりして、ブランドとeスポーツを連携させようとしているのだ。

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 また、大会観戦者や配信視聴者が増え続けていることや、その約半数がアジア太平洋地域にいることなどにも言及した。さらに、アメリカのスポーツ専門チャンネルESPNや、イギリス公共放送のBBCといった主要メディアが、大会を生中継するなど、eスポーツを扱いはじめていることにも触れた。

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スキンの譲渡で3000万USドルを稼ぐティーンエイジャー

 周辺ビジネスも活況だ。『カウンターストライク』というタイトルでは、スキン(強さに関係のない見た目)のマーケットをサードパーティに開放。すると、プログラミングもよくわかっていないカナダのティーンエイジャーたちが、3000万USドルを稼ぐ結果となった。

 そのほか、eスポーツのプレイ動画を配信するストリーマーにも、支援を募ったり、オリジナルグッズを販売したり、スポンサー契約を結ぶなどして、収益化をはかっているひとたちがいる。なかには、10万USドルを稼ぎ出している人物も。そんなストリーマーに対して、配信に便利なツールを有償で提供する企業も存在している。

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 最後にディロン氏は、日本でeスポーツがアメリカや韓国のようにポピュラーになり得るかという質問に対して、「日本のユーザーがそれを望むなら」と答えた。パブリッシャーはeスポーツになじみやすいタイトルをリリースしなければならないだろうし、草の根レベルのリーグ……たとえば、学校で独自のリーグを作ることのできるようなコミュニティがないときびしいだろうとのこと。もし、草の根レベルのコミュニティが維持できるようなら、パブリッシャーも注意を払うだろう、ということだ。