知っているようで知らない中国ゲーム市場を分析
2016年8月24日~26日の3日間、パシフィコ横浜で開催された、日本最大級のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2016”。その最終日となった26日に行なわれたセッション“中国ゲーム産業最前線2016~中国におけるクロスメディア/クロスボーダー戦略の展望~”は、世界が注目する中国のゲーム市場について、同分野に造詣が深い立命館大学・中村彰憲教授、崑崙日本・北阪幹夫氏、フリーのコンテンツプロデューサー・郷田努氏によるパネルディスカッション。
一般的にクロスボーダーとは、ボーダー(国境)をクロスする、つまりは国際間の取引のことを指すのだが、このセッションでは、とくにゲームのIPについてということになる。とくに、中国で話題になっているというクロスメディアについて、中村教授が現状を説明し、続いて北阪幹生氏が経営者の視点から、郷田努氏がプロデューサーとしての視点から見た中国ゲームビジネスクロスボーダー戦略についての説明となった。
多彩な顔を見せる中国ゲーム市場
まずは、中村氏から中国ゲームビジネスを取り巻く最近の概況が説明された。中国のゲーム産業の市場規模は、2015年はアジア一の2兆2512億円(1元=16円で計算)といまだ右肩上がりの成長を続けており、今後もさらなる成長が見込める巨大市場だ。中村氏によると、MMO(クライアントダウンロード型)の市場拡大が止まる一方で、携帯ゲームビジネスが躍進しているという。その内訳は、クライアントダウンロード型が43%、モバイルゲームが37%を占め、クライアントダウンロード型から携帯ゲームへ移行している傾向が見られるが、現在はそのふたつが2強として市場の8割を占めているのだ。
クライアントダウンロード型の主役はe-Sports系であり、“2015年十強ランキング”中、じつに5タイトルがe-Sportsと親和性が高いタイトル。その理由として、クライアントダウンロード型はハイエンド機と親和性が高いことが挙げられるとした。
また、オンライン小説からクロスメディア化され成功した代表的なIP(知的財産)として、『鬼吹灯』シリーズが紹介された。2006年に発表され、オンライン小説からマンガ、ゲーム、映画へとクロスメディア展開された人気シリーズだという。さらにVRについては、2015年が中国におけるVR元年だという。2015年は246億円の市場規模であるが、主流はモバイルVRなのだそうだ。中国でもプレイステーション VRが10がつに発売されるが、この動向も気になるところ。
ゲーム市場規模と比較して、中国の映画市場規模も紹介された。現在世界第2位の規模ではあるが、それでもまだ7051億円。ゲーム産業と比べると小規模と言える。
経営者とプロデューサーは中国市場をこう見る
続いては、崑崙(コンロン)日本副社長の北阪幹夫氏が、中国のゲーム市場について、パブリッシャーとして、経営的な側面から分析。まず、崑崙という会社は、スマートフォンゲームのグローバルパブリッシャーとして、積極的に展開している会社だ。中国国内のスマホゲームは、市場の拡大につれ、し烈な過当競争状態にあるという。一日に数百タイトルがリリースされることもあり、ゲームの出来がよくても、プロモーションや競合過多により、埋もれてしまう。そこで、作ったゲームの収益性をもっと高めるため、2014年から積極的に海外展開を行うことになった。その結果、台湾・香港は、言語や文化の点で問題なく「ほぼ制圧」したが、日本や韓国は苦戦している。しかし、東南アジアについては、新たに市場を作り上げたという自負があり、小さかった市場規模に対し、積極的にスマホゲームを投入することで、東南アジアにおける“スマホゲームは中華産”という認識を根付かせることに成功したそうだ。
IPについては、日本産アニメやマンガのIP、中国国産PCやMMOゲームのIPなど、中国産を含むIPが活況。中国のスマホ市場はまだまだ戦国時代であるが、ゆえに“ゲームのユーザーを持っている(抱えている)”IPが有利だと分析した。
崑崙が取り組んだ戦略は、韓国産オンラインゲームIP、自社開発・自社運営、そしてワンバイナリ世界展開の3つ。2016年1月に、韓国の大人気PC MMOゲーム『エルソード』をスマホ化してリリースし、成功を収めている。成功の理由として、日本でのアニメ素材を活用や、もともとのIPが持っているパワー、中国のボーカロイドキャラクターとのコラボなど、さまざまな要因が考えられる。
海外展開を始め、積極的な姿勢については、中国市場の競争の激しさ、そして変化の多さがあり、チャンレジせざるを得ないからだと、同社の説明をしてくれた。
続いて講演した郷田努氏は、大手パブリッシャーやベンチャー企業でのゲームプロデューサー等の経験を活かし、現在はフリーのコンテンツプロデューサーとして活躍している。その郷田氏は、2015年7月に公開された『Monkey King Hero is back』が、中国市場におけるIPビジネスに火をつけたのではないか、と見ている。それこそピクサークラスのクオリティーを誇る3Dアニメで、製作期間に8年ほどかかるなど、紆余曲折があったものの、成功を収めたそうだ。
ちなみに、日本産のIPは版権元の監修がきびしいなどの問題があり、まだまだ課題が多いようだ。しかし、中国における“ACGNマーケット”(アニメ・コミック・ゲームなど)は、じつに3兆円規模になるという。そのなかでは、日本式アイドルビジネスも大きな盛り上がりを見せている。AKB48グループ“だった”SHN48や、国民的男性アイドルグループ“TF BOYS”などが誕生し、それまでの韓流アイドルブームから、日本式のアイドルブームが起こっている。『ラブライブ!』や“初音ミク”などの熱狂的な人気ぶりからも、その片鱗がうかがえる。
そして、現在では日本産IPの獲得から共同開発、出資、直接開発が、2015年年夏以降目だってきており、その代表例として『聖戦ケルベロス』『アイドルメモリーズ』、『霊剣山』、河森正治氏の新作アニメ『海天雲龍』を上げた。
★ディスカッション
3氏から中国におけるゲーム・エンタメ市場の説明後、ディスカッションが行われた。順を追って見てみよう。
新広総局によって、7月1日から施行された“移動遊戯出版服務管理的通知”について
手っ取り早く言うと、海外のゲーム会社や海外と提携している国内企業が手掛けるオンラインコンテンツに中国政府が干渉するというものだ。
北阪氏、郷田氏もともに、大手ならまったく問題がないと語る。中村氏は日本側から見て、「この通知程度では影響を受けないようなパートナーを選ぶ必要があるのではないか」とした。
中国アニメ、ゲーム、マンガ会社同士の仲はどうなの?
クロスボーダーの場合、ゲーム以外の会社ともコラボする必要が出てくる。郷田氏は、かつての日本同様、近いジャンルの会社との交流は増えているそうだ。ただし、変化する速度は、日本のそれと比較しても非常に速く、その意見には北阪氏も同調していた。
いつきてもおかしくない日本のコンテンツは?
日本のアニメなどは、ほぼ時間的ロスがなく中国でも視聴可能だという北阪氏。従って、日本でヒットしているコンテンツが、中国でもそのままヒットする傾向が強いそうだ。また、郷田氏は、1980年代や1990年代といった、少し前に流行ったコンテンツのアニメ化権・映画化権の取得に対する相談が多いという。
日本人クリエイターに中国マーケットが望んでいることは?
「高品質のオリジナル作品を作ることやジャパンクオリティーに尽きる」という郷田氏。北阪氏も「ストーリーやブランド、全体的なクオリティーが求められている」と語る。しかし、郷田氏は自身の感覚としながらも、日本がリードするのはせいぜい4~5年程度で、中国が追いつくのは時間の問題だと実感しているそうだ。
中国版○○ユニバースはどうすれば生まれる?
さまざまなメディアを使って、コンテンツを盛り上げる手法だが、北阪氏は時間の問題で出てくるのでまったく問題なく、クリエイティブの部分ではまだ日本が強いので、日本が入り込むならそういった部分だと見ている。郷田氏は、1月に中国の大連万達グループが、ハリウッドのレジェンダリー・エンターテインメントを倍数したことを例に挙げ、13億人という巨大なマスがあるので、そういった手法を狙っているのではないかと語った。
今回のセッションで印象に残ったのは、とにかく中国では“スピードが速い”ということ。北阪・郷田両氏は、「スピードの遅い会社は中国では成功しない」と断言。むしろ、速いのが当たり前だという。その上で弱点である、ゼロから新たなIPを生み出すことができるようになれば、眠れる獅子がいよいよ本領を発揮するのではないだろうか。