『グランブルーファンタジー』や『シャドウバース』など、ゲームの開発・運営を主要事業とするCygames(サイゲームス)。近年はアニメ事業にも注力しており、2015年3月にはアニメ事業部を設立した。
そして2016年4月、Cygamesは新たな試みとして、アニメーション制作事業を手掛ける子会社CygamesPicturesを立ち上げた。いま、アニメスタジオを設立した意図とは? 今後目指すものは何か? Cygamesのアニメ事業部事業部長であり、CygamesPictures取締役を務める竹中信広氏にお話をうかがった。
※本インタビューは、週刊ファミ通2016年6月23日号(2016年6月9日発売)に掲載された内容に、加筆・修正を行った完全版です。
竹中信広氏
セルアニメ存亡の危機を打破するためのチャレンジ
――まず、この4月にCygamesPicturesを立ち上げた理由を教えてください。
竹中 じつは、3年くらい前から、「アニメ制作会社を作りたい」という話はCygamesの中で上がっていました。Cygamesのスタッフはみんな、ゲームだけではなくエンタテインメント全般が好きなので、当然アニメも好きなんです。ですので、「自分たちでアニメを作りたい」という気持ちもあったのですが、制作スタジオを作るとなれば、やはり中心となる人物がいなければいけないので、すぐに設立するというわけにはいきませんでした。
――では、スタジオの中心となる人物が見つかったので、ついにスタジオ設立にいたった、ということでしょうか。
竹中 はい。今回のCygamesPictures設立に先駆けて、昨年、Cygamesの中に“アニメ事業部”を立ち上げたのですが、その事業部に、「この人であれば、Cygamesの物作りの姿勢に寄り添いながら、スタジオを運営できる」と思えるスタッフが来てくれまして。そこで、スタジオ設立に踏み切ることができました。
――とはいえ、新たな事業に参入するのには、並々ならぬ覚悟が要りますよね。
竹中 そうですね。いまから参入するのであれば、既存の制作会社と同じような形でやってもおもしろくないと思いますので、新参者だからこそできる形で、アニメ業界に貢献したいと考えています。
――CygamesPicturesでは、今後どのような仕事を手掛けて行く予定ですか?
竹中 目指すところは、シリーズものですとか、劇場版アニメを安定的に作れるスタジオです。とはいえ、いまは立ち上げたばかりですので、まずはCygamesのゲームのプロモーションビデオですとか、CMの映像などを中心に手掛けていければと考えています。そこから少しずつ理想に近づいていきたいなと。
――ちなみに、現在、スタッフは何名ほどいらっしゃるのですか?
竹中 作画スタッフについては、フリーで活動している人にご協力いただいているので、CygamesPictures所属の人は、まだ少ないんです。これから、我々と同じ方向を向いて活動してくれる人にスタッフになっていただきたいと考えています。
――では、具体的に、どんな考えを持つ方にCygamesPicturesに来てもらいたいと考えていますか?
竹中 アニメを制作するうえでは、描くスタッフはもちろんですが、管理するスタッフも重要なんです。とくに、スタジオを設立したばかりであれば。ですので、いまは制作職に力を入れて採用活動を行っています。どういう人材を求めているかといいますと……“既存のアニメ業界のありかたを変えていきたい”という、我々の考えに同調してくださる方です。たとえば、アニメ業界って、フレックスタイム……と言えば聞こえがいいのですが、夜まで働く方も多いですよね。
――夜遅くまで作業しているという方は、数多くいらっしゃいますね。
竹中 でも、CygamesPicturesでは、“朝出社して、夜帰る”という習慣を、できるだけ根付かせたいと思っています。組織を大きくするためには、システムをしっかり作ることが必要だと考えるからです。もちろん、ときには遅くまで働かなければならない日もあると思いますが……。現状では、「そんなきっちりとした体制では、いいものが作れない」とおっしゃる方も多くいると思います。「いいアニメーターは、枠にはまったスタイルでは活動できない」と。ですが、そのスタイルについていけないという人も少なくありません。CygamesPicturesでは、“しっかりしたものを定時で仕上げる”ことができるスタッフを、中長期的に育てていくつもりです。
――アニメの作りかたの常識を変えていくことが、CygamesPicturesの目標のひとつということでしょうか。
竹中 そこから始めたい、と思っていますね。CGアニメのスタジオは、比較的、時間をきっちり管理して作業できているところが多いのですが、手描きアニメはそうではない。その結果、“誰かの作業に付き合う”人が出てくるんです。そうすると、新しいスタッフが入ってきても、“拘束時間が長くて辛い”と言って辞めてしまう。現在、手描きアニメの第一線で働いている方は、40代後半だったり50代だったりするのですが、その下の世代は、すごく少ないんです。
――力をつける前に、辞めてしまうということですね。
竹中 いま、“絵を描いて食べて行きたい”と考えたとき、アニメ業界以外にも選択肢はいろいろあります。そこで、アニメ業界がこのまま変わらなければ、“アニメ業界に行こう”と思う人はますます減ってしまうと思います。そうしたら、日本が誇ってきたセルアニメがなくなってしまう。この状況を打破するために、誰かが取り組んでいかなければと思うんです。
――しっかり朝出社して、夜に帰るべき……というお話は、雑誌編集者としては耳が痛いです。
竹中 夜遅くまで働かなければならない日は、どうしてもあると思います。でも、アニメーション制作の全行程をしっかり管理して、制作フローをしっかり確立すれば、トータルで見ると、みんなの負担が軽くなるはずなんです。そしてシステムを整えるなら、会社を立ち上げたいまこのときから、全員が同じ方向性を向いていなければいけません。“人数が揃ってからシステムを整えよう”と思っても、難しいでしょうから。