3年かけてたっぷりと熟成された『BOF6』
2016年2月24日より、PCおよびスマートフォン向けに正式サービスを開始する、カプコンの新作RPG『ブレス オブ ファイア6 白竜の守護者たち』(以下、『BOF6』)。“竜”の力を巡る壮大なスケールの物語や“共同体”の育成を始めとしたやり込み要素など、1993年に第1作の発売以降、独自のカラーで国内外から多くの支持を集めた人気RPGシリーズの、14年振りとなる最新作だ。
本記事では、『BOF6』の開発の中枢に携わったふたりのキーマン、杉浦一徳氏と清川一郎氏にインタビューを敢行。約3年にもわたった開発期間でのエピソードや、作品の見どころなどを伺ってきた。(取材日:2016年2月5日)
──まずは、おふたりの肩書きとプロジェクトにおけるおもな役割を教えていただけますか?
杉浦一徳氏(以下、杉浦) プロデューサーの杉浦です。基本的には“何でも屋”ですね(笑)。おもなところでは、ゲームの方向性やオンラインコンテンツの内容などについて指示を出したり、ビジネスモデルの構築などを担当したりしています。
清川一郎氏(以下、清川) 私は、肩書きとしては“運営プロデューサー”になります。文字通りに運営面、とくにプロモーション関連に携わることが多かったですね。と言っても、私も杉浦同様に何でも屋的なことばかりしていた気がします。
杉浦 開発期間が長くなったので、清川の仕事も当初からはずいぶん変わったんですよ。
清川 たしかに、最初は開発チームと運営チームの橋渡し的な役割をしたりしていましたね。プロデューサーなんだけど、中間管理職的な悩みが尽きませんでした(笑)。
──開発期間の話ですが、『BOF6』のリリースが最初に発表されたのが2013年8月1日のことでした。それから約2年半経っていよいよ正式サービス開始ということになったわけですが、そのあいだにどんな変化を辿ったのでしょうか?
杉浦 私としては、『モンスターハンター エクスプロア』と並行して進めていたプロジェクトだったのですが、当初から「当時のアプリのトレンドを追いかけるのではなく、自分たちでトレンドを作っていきたい」ということを掲げていました。
清川 と言っても、最初はモバイルだけで出すつもりでしたので、お手軽さを意識したゲームを作ろうとはしていたんです。
──もともと、“お手軽タッチRPG”というジャンルで発表されていましたよね。それが、先日(2016年2月4日)の発表会での説明を聞くと、かなりガッツリ系のゲームになっていたようですが……。
清川 だいぶガッツリ遊べるゲームになりました(笑)。
杉浦 もともと『BOF』のチームは、オンラインゲームを作ってきたメンバーが多いです。そんな彼らに、いわゆる“ソシャゲ”を見よう見まねで作らせても、彼らの強みはぜんぜん活きてこないし、作っていてもおもしろくないだろうし、何よりうわべだけの作品ではユーザーさんもおもしろくないですからね。だから、オンラインゲームのノウハウをうまく使って、ガッツリ遊べる要素も盛り込んでいこうと、徐々にシフトチェンジしていきました。
清川 皆さんをお待たせしてしまったのは、おもにこのシフトチェンジに時間がかかってしまったからなんです。オンラインゲームのガッツリ遊ぶ形のシステムをそのまま持ってきても、モバイルで遊ぶユーザーにはちょっとしんどいですから、どちらのよさも活かしたゲームデザインを構築するために、けっこう苦労しましたね。
杉浦 オンラインゲームでよくある“城下町(ロビーシステム)”とか、連鎖の爽快感をよりアップするための“スキルコネクト”だとか、双方のいいところを膨らませるために追加したシステムもたくさんあります。
──でも、一から作り直した、というわけではないんですよね?
杉浦 そうですね。ストーリー部分などはまったく変わっていませんし、グラフィックも2年前にはこの形になっていました。バトルシステムなど基本的な部分についても、じつは大きくは変えていませんが、オンラインコンテンツの拡充やネットワーク周りの完全同期型への変更など主にハイエンドオンラインへの修正に時間がかかってしまいました。ほかにも、コンテンツはオンライン寄りでもバランスはモバイル寄りにするといったチューニングなどにも時間を割きました。
清川 バランスをいじっては、テストプレイをして改善すべき点を洗い出して、またチューニングを……ということのくり返しでしたね。
──何だか、家庭用ゲームを開発しているかのようなエピソードですね。
清川 本当ですね(笑)。
杉浦 実際、家庭用ゲーム機でゲームを作ってきたスタッフにも入ってもらっていて、自然とそういうやりかたになっていったところもあります。
清川 ほかのメーカーさんから見たら、「なんて贅沢な作りかたをしているんだ!」と怒られてしまいそうですが、おかげでより深みのある作品に仕上げられたと思っています。
杉浦 もっとも、実際に遊んでもらってから出てくる問題点もあると思いますので、反応を見ながらまた調整していきたいと考えています。
──そういった制作体制を可能にしたのも、やはり『BOF』というタイトルの力なのでしょうか。
杉浦 そうですね。最初に発表したときも、かなり多くの反応があってびっくりしたのですが、とにかくたくさんのファンが待っていてくれるんだなと思うと、ヘタなものは出せないぞ、と。
ナンバリングタイトルが、最後に出たのが10年以上前という作品であるにも関わらず、20代くらいの若いファンが多かったんですよ。たぶん旧作のダウンロード配信などで遊んでくれているんだと思いますが、そういったファン層の存在は私たちにとって大きかったですね。
──実際、どういった理由で10年以上新作が出ていなかった『BOF』を復活させようと思ったのでしょうか。
杉浦 私たちのチームは、『モンスターハンター フロンティアG』や『ドラゴンズドグマ オンライン』といったオンラインゲームを手掛けてきているのですが、正直な話、アクションゲームをオンラインゲーム化するのってたいへんなんですよ(笑)。ネットワークの回線状況によるラグへの対処や、ハードの処理能力の違いへの対応、そして何より課金システムの構築など、技術的にもコスト面でもとにかく難度が高い。つねづね、個人的には「戦略的に不利な状況を戦術でカバーしてがんばるのは嫌いじゃない」と言っていたのですが、真面目にアクション以外のオンラインゲームもやっていこうと。そういう意味で、オンラインゲームとしてやりやすいのがRPGというジャンルなんです。そして、カプコンが持っている作品の中でRPGと言えばやはり『BOF』だと。
──まさに“機は熟した”ということですね。
清川 はい。開発メンバーは、20代30代がほとんどなのですが、『BOF』シリーズを遊んだことがあるという人間はかなり多かったですね。私も相当やり込んでいたクチです。
杉浦 ただ、シリーズのファンの方々も含めて、なぜか若い皆さんからものすごく深くて鋭いツッコミが入ってくるんですよ(笑)。それは純粋に意外でおもしろかったです。
──そういったシリーズファンに向けての要素も、かなり取り入れられていますよね。竜変身や共同体はもちろん、“釣り”が入ることが新たに発表されましたが。
杉浦 釣りを入れることについては、かなり悩みました。本音を言うと、現時点では、本作のユーザー層の9割以上はシリーズを遊んだことのない新規のユーザーになると予想しています。そういったユーザーにとっては、「何で釣りが入るの?」と思うでしょうし、キャラクターもシリーズ色を出し過ぎると過去作を遊んでいないと楽しめないという誤解を与えてしまい、逆効果になってしまいます。一方で、既存のユーザーさんにとっては、キャラクターへの思い入れも強いでしょうし、それらをどれだけ入れ込むかが鍵にもなってきます。ゲームバランスだけでなく、そういったところの配分も苦労したところのひとつですね。
清川 プロジェクトが立ち上がったころは、リュウを完全に出さずに進めようかという話にもなっていたくらいです。オンラインゲームなので、キャラクターメイキングを放棄してリュウを主人公にします……というのは、さすがにないだろうという声もありまして。最終的には、リュウをうまく主人公に絡めた設定を作って、物語を構成することができましたが、そこは開発の初期段階で相当悩んだポイントです。
──ユーザー層の9割……ということは、どちらかというと新規ユーザーを強く意識されているということでしょうか?
清川 意識するということにかけては、どちらも同様に考えています。
杉浦 いちばんよくないのは、中途半端になってしまって、どちらのユーザーにも評価されない形になることです。そうならないように、要素によっては思い切って全部削ってしまうこともありますし、新規向けか既存向け、どちらかに偏らせた設計思想で実装する
こともするつもりです。そこは、ケースに応じて吟味しながらやっていこうと思っています。