今年もいろいろかぶってきました

 今月初めにアメリカのネバダ州ラスベガスで行われた世界最大の家電ショーCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。VR(ヴァーチャル・リアリティ)の年と言われる今年のCESには、その可能性を広げるさまざまな周辺機器も出展されていた。というわけで本稿では、そんな周辺機器の数々や、周辺機器をひと味加えたデモでのVR活用事例をご紹介しよう。

仁義なき戦い:VR歩行編

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▲Oculus VRのRiftでモーションコントローラー“Touch”を使っている様子。センサーの関係で行動範囲は黒いマットの上に限定されてしまう。そこで技術デモ“Bullet Train”ではコントローラーで指定した場所にワープできるような設計になっている。

 Oculus RiftやHTC Vive、そしてPlayStation VRといったヘッドマウントディスプレイ(HMD)が健全な競争関係によって成長してきたことで、“VR世界に視界を没入させる”という部分についてはかなり整ってきた。また、これらのHMDはいずれもモーションコントローラーを利用可能で、つまり目と手をVR世界に没入させることができる。

 そこで次の課題となるのが足だ。VR世界をどう自分の足で歩くか? HTC Vive(及びその土台であるValveのOpenVR技術)では、ひと部屋規模の空間を自由に歩き回れる“ルームサイズ”の体験を可能にしているが、結局はその部屋以上の広さを歩くことはできない。ルームサイズで体験できないHMDについては、センサーの範囲内である2畳程度のスペースから出ることすらできない。

 これを解決するには、歩くのを諦めてコントローラーで移動するとか、モーションコントローラーで行き先を指定してワープするといった方法がある。ほかにも、同じシーンの間はその場から動かないようなゲーム内容に限定してしまうとか、(人間ではなく)立っている足場が移動するような設計にするといった、ゲームデザイン的解決も存在する。

 しかし、それでも自分の部屋の物理的制約を受けずに無限にVR世界を歩きたいという欲求は尽きない。今年のCESでは、この“VR世界の歩行”の実現に力を入れるふたつの企業が注目を集めていた。

 Oculusブースのすぐそばで“お互い歩き回るVRFPS対戦”などを披露して人だかりができていたのは、VirtuixのOmni。専用デッキにハーネスで身体を固定し、すり鉢型の土台の上を専用シューズで歩くことで360度の移動入力を可能にするというものだ。すでに予約が開始しており、価格は699ドル(さらに輸送費が150ドルから250ドルかかる)。
 約2年半前、2013年のE3で記者が体験した時はホテルの一室で社長自らプレゼンという形式だったのだが、年々スタッフが増え、市販化を前にした今年のCESでは凝ったステージを設け、一日中デモを披露できるほどの万全の体制に。

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 市販製品として着実にステップを踏んでいるOmniだが、この方式には(ソフトの対応という根本的問題以外に)ひとつ問題があって、すり足をし続けるための歩行フォーム(記者は“Omni歩き”と呼んでいる)をマスターしなければいけない。とはいえこれは価格とトレードオフで、すり足方式を採用することで簡略化が可能になり、(ギリギリ)一般家庭で利用可能なサイズ&価格になっているので仕方がないのだが……。

 一方、力技でVR世界での歩行を可能にしている“Infinadeck”は、どちらかというと個人利用よりも、訓練シミュレーターやリハビリ用途などの産業用途を検討している製品。ルームランナーの前後方向に動くベルトの一本一本が左右方向に動くベルトにもなっているという大掛かりな装置で、総重量は225キログラムにも達する(これでも以前のプロトタイプの半分の重量)。価格は未定なものの数十万円単位と見られており、それもまずは企業向けに出荷しつつ、市販用の廉価版の開発を模索していくという段階。

 それでも装置側が大掛かりで力技な分、体験者本人は装置中央の柱に付いているハーネスに身体を固定すれば、それ以外は特殊なシューズなどを装着しないで済む。Oculus VRの創始者パルマー・ラッキー氏にいたっては、CESでデモを試すにあたって、いつも履いているサンダルで体験していたほど。
 しかしベルト方式にもやっぱり問題はあって、慣性がついて動いているので、その速度の減衰を見込んで徐々にスピードダウンしないと、ベルトに足を取られてすっ転びかねない(もともと、ジョギング程度以上のスピードは出せないのだが)。そのためにInfinideckにはキルスイッチ(ベルトの動作を止める)がついている。というわけで、いずれにしても、現実世界同様にVR世界を自然に歩けるような方法が発見されるにはもう少し時間がかかりそうだ。

仁義なき戦い:モバイルVRと手編

 サムスンとOculus VRが共同開発したVRHMDのGear VRが発売されたほか、Google Cardboardやその他のスマートフォンを挿し込んで使うHMDが世界中で発表され、モバイルのVRはひと足先に市販化され、市場が生まれている(モバイル系HMDについては中華圏のメーカーを中心に無数に出展されていて、正直拾いきれないレベル)。

 しかしモバイルVRならではのいい部分は価格やポータブル性などいろいろあるのだが、Oculus RiftやVive、PSVRと比較すると、視覚の没入以外の部分が足りない(すでに述べたように、これら3機種はある程度の範囲のポジショントラッキングと手を使ったモーションコントロールが可能)。というわけでモーションコントロールなどの追加機能をモバイルVRで実現しようという製品に注目してみた。

 まずはサムスンの社内ベンチャーCreative Labのプロジェクト“Rink”から。これはモバイルVRHMDの上にセンサー部を、そして両手にグリップ状のコントローラーを嵌めて使う、手のモーションコントローラー。地磁気センサーで手(グリップ)の位置を、グリップ側の赤外線センサーで指の状態を検出する。

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▲気分はペプシマンかアイアンマンなのだぜ。

 CESでのデモでは、アイアンマンのように手から弾を発射して飛んで来る敵を倒すというミニゲームを遊べた。まだプロトタイプということもあって多少の遅延はあるものの、やはり両手を自由に使えるというのは気楽でいいし、そのおかげで没入感もあがる。

 サムスン社内ではまだ実験的プロジェクトだそうで、これが正式にGear VRやその他のモバイル系VRHMDのオプションとして製品化されるかどうかは現時点では未定だが、ぜひ頑張って欲しいところ。製品化の暁には遅延を16ミリ秒台にまで下げたいとの意向を示しており、そこまでいけばGear VRの可能性を大きく広げられるはずだ。

 uSensのImpression PIはスマートフォンを挿して使うタイプのモバイルVRHMDで、前面にふたつのカメラを備えている。これによってVRだけでなくARにも対応し、両者をミックスしたような表現も可能。さらにカメラの前に限り手の検出に対応していて、指先で目の前の空間に絵を描くこともできるのだ。
 肝心のデモのフレームレートは微妙なのだが、手の検出自体はかなりスムーズで良く、この製品そのものよりも、他社への技術提供を含めた今後に期待したいところ。

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 一方でVicoVRは、Kinect風のセンサーバーをモバイルVRに足してしまおうという製品。Xbox 360やXbox Oneが必要なKinectとは異なり、VivoVRはサンサーバー自体が演算能力を持っており、モバイルVRHMD側には画像処理の負荷をかけないようになっている。演算結果だけがBluetooth接続でVRHMD側に渡されるので、ケーブルレスなモバイルVRのメリットをそのまま活かして、エアーボクシングしてみたり、両手を広げて飛んでみたりといったことが可能。さらに複数人の検出にも対応している。

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大掛かりな周辺機器を足してみたVR活用事例

 もちろん、既存のVRHMDをベースにさまざまな周辺機器を組み合わせて、超スゲェCESデモを作っちゃった例もある。というわけで最後はその活用事例をお届けしよう。

 HTC Viveのデモスペースで体験したのは、スペースフライトアドベンチャー『Elite Dangerous』をHTC Viveを被り、さらにフライトスティックのSaitek X52で操作するというデモ。これは最高だった!
 スターポート(宇宙港)から離陸し、保護圏内から出てフレーム・シフト・ドライブを起動。超高速で別の星系に移動し、別のスターポートにアプローチして、指定されたスロットに着陸するまでを、完全にVR体験として遊ぶことができた。首を振って周囲を見ながら操艦すれば、気分はまさにスペースパイロット。しかもコレ、環境をすべて市販品で実際に揃えられるのがいい(Viveは海外で4月発売。Oculus Rift製品版のサポートについては交渉中)。

 ゲームもちゃんとVR抜きでも文句無しにゴージャスなタイトルなので、輝く宇宙港から離陸するシーケンスだけでも燃えまくる。まぁフライトスティックのどのボタンがなんだったか思い出すのは大変なのだが、宇宙を飛ぶためなら、そこは努力で解決したい。

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 通信業界のエリクソンが自社技術のプレゼンのためにやっていたのは、ショベルカーのコックピットに座り、VRヘッドマウントディスプレイを被って、会場から約1700キロ離れたテキサス州プレイノの駐車場かなんかに置かれた実物のショベルカーを遠隔操作するというデモ。両者は5G回線で接続されており低遅延に連動して動作。「弊社の研究している次世代通信技術ならこんなことも可能になるのです!」というわけだ。
 実際、遅延はショベルカーの動作スピードに吸収されちゃってよくわからないぐらいのレベル(一方、カメラは固定の広角映像を端末側でVR空間に再投影するという方法を取っていた)。それにしても企業向けの業界のデモは金がかかっていて大仕掛でスゴイ。5G回線が一般的になる頃には、VRを使った遠隔操作やレスキューなんかが実現するんだろうか?

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▲接続先はテキサス州プレイノ。会場のネバダ州ラスベガスからは1700キロほどあります。

 サムスンがGear VRのプロモーションのために作ったのは、振動する席で同時にVR体験できるという4Dスタイルのシアター。Oculus VRのブースでGear VRを体験する人はあまりいなかったが、こちらは会場の入り口近くということもあって大盛況。「なんか何十人もいっぱい何かを被って、時折席が揺れてキャーキャー言ってる」というプレゼンの勝利と言えるだろう。

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▲おまけその1: すでにリポートをお届けした、VR自転車エクササイズマシーン“VirZoom”。楽しかったのだが、これをやってから腰か膝をおかしくした気がしないでもない(ハンドルが曲がらず、正面に向かって漕ぎながら身体を横に倒して曲がり、さらにゲーム中の操作のためにVRHMDで逆を向いたりするので、各所の筋が大変なことになるのだ)。
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▲おまけその2: 睡眠追跡も可能な高級ベッドを手掛ける“Sleep Number”のためのデモ。睡眠不足の状態の視界をシミュレートして狭い道を歩かせて落下させ「ほら、睡眠って大事でしょ、だから弊社のベッドで……」とプレゼンする。
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▲おまけその3: “もっともお手軽なVRグラス”を自称するHomido Mini。約1900円。(なおスマートフォンは含まれません)