メディアアーティスト・真鍋氏の功績が一目瞭然
2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催されている、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ここでは、8月27日に行われた真鍋大度氏(ライゾマティクス)による基調講演“Data Art and Entertainment”をリポートする。
メディアアーティストとして知られる真鍋氏は、ほかにもプログラマーやDJなどの顔を持ち、“Perfume”のライブ演出などを担当している。その仕事ぶりは、TBSの『情熱大陸』やNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で取り上げられるほどの気鋭のクリエイターだ。
基調講演では、とくにデータのビジュアル化といった観点から、これまで真鍋氏が実際に行ってきた数々のプロジェクトを紹介してくれた。ここからは順を追ってそれらのプログラムを紹介しよう。
【2015年8月28日 13:00】
一部内容を修正しました。
■Sonic Floor/Sony Building(2007年)
前者は、床のタイルをなぞるとセンサーが反応し、動きに合わせて光と音が生成されるという仕組み。後者は、ソニービルの階段にあったもので、こちらも段ごとにセンサーを設置。昇降するたびにサイドのランプが点滅し、音も出るというものだ。
これらの蓄積されたデータは、後でデータマイニング(大量のデータを解析し、相関関係やパターンを探り出す技術)として解析したそうだ。
■LoveSong Generator(2013年)
六本木の森美術館に展示されたもので、ビッグデータを解析し、話しかけた言葉を歌にしてくれる。約65000曲が蓄積されていて、曲やフレーズを探し出して、“それっぽい曲”を自動に作ってくれる。著作権問題を避けるために、特定の歌や歌手を想定させるフレーズが出ないようになっている。五・七・五のように、リズムも調節してくれるそうだ。ちなみに、歌声は歌手のやくしまるえつこさん。
■Traders
仮想の株式市況をリアルタイムで可視化した作品。3次元の映像がぐるぐると回ったり、取引成立で光ったりと、近未来的な市況を見ることができる。刻一刻と変化していく株式市場が、まるで広大な銀河のごとく表現されている。銘柄を指定してのミニゲームもあるそうだ。
■NHK Professional
前述した『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演したときの模様。番組中、「プロフェッショナルとは?」という質問に答えることなくかわした真鍋氏が、番組の最後に行ったパフォーマンス。サイトでは、番組同様、真鍋氏の過去の実際の発言などを解析し、真鍋氏らしい“プロフェッショナル”な答えを聞くことができる。
真鍋氏と言えば、やはりPerfumeか!
Perfumeのメディアアートを演出している真鍋氏。ここからはPerfumeに関するプログラムが立て続けに紹介された。実験的、先鋭的、衝撃的なプロジェクトが満載。
■未来のミュージアム COMIC GENERATOR(2013年)
劇場版映画『ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』の主題歌となったPerfumeのシングル『未来のミュージアム』と連動したスペシャルサイト(現在は閉鎖されている)。4コマ漫画のフキダシにいろいろな文を書き込むと、最後のコマは自動生成され、“大喜利”的なオチとなることも。SNSとも連動している。
■Perfume World(2014年)
仮想空間“Perfume World”を構築していくというプロジェクト。この空間にはPerfumeのアバターが生活していて、実際の活動やユーザーとのやり取りから、活動や状態が決定する仕組みだ。ライブの演出をするために実装したプロジェクトで、収集したデータをライブに活かしている。
■Perfume“Global Site Project”(2013年)
Perfumeの世界デビューを記念して、“ファンとクリエイターの手によって、世界へ羽ばたく”というコンセプトで企画されたプロジェクト。Perfumeのモーション・キャプチャー・データや楽曲、サンプルコードなどが提供され、クリエイターらによるさまざまな映像が公開された。その数、600以上! これはいわゆる“MAD動画”にヒントを得たもので、真鍋氏曰く「著作権的な問題をクリアーして二次創作を楽しんでもらうために、Perfumeの公式プロジェクトとしてデータを提供した。ビックなアーティストのモーキャプデータ、楽曲データを緩いライセンスで配布出来たのは革命的。」
1st World Tourでのライブでは、二次創作で作られた映像をバックに、本物のPerfumeが踊るという演出を演出振付家のMIKIKO氏が手がけた。
■Perfume STORY at SXSW(2015年)
今年アメリカで開催された“SXSW”に出演したPerfumeが披露した『STORY』のパフォーマンス。半透明のスクリーンを使ったこのパフォーマンスでは、3人のダンスと3DCGが見事に融合し、文句なく「カッコいい!」と叫びたくなるステージ。会場全体を3Dスキャンしたそうだ。この動画は期間限定で公開されていたようなので、お見せできないのが残念。
■Sound of Honda/Ayrton Senna 1989(1989年)
F1ドライバーの故アイルトン・セナの走行データを、光と音で再現したプロジェクト。1989年の鈴鹿サーキットで出した当時の世界最速ラップを、記録されていた走行データをもとにデジタル化。演出はもちろん、鈴鹿サーキットを実際に使って行われた。
■REMEMBER OUR STADIUM(2014年)
国立競技場を場内から撮影して、その写真をつなぎ合わせて、3次元の国立競技場を記録するというプロジェクト。また、カール・ルイスやセルゲイ・ブブカ、サッカー日本代表の木村和司といった、国立競技場で名シーンを演じた選手たちを光の動きで再現。選手の動きに、1フレームずつ人形を使って動きを合わせてのモーション・キャプチャーを実施した。
こうしてさまざまなタイプのプロジェクトを紹介してきた基調講演も、あっという間に終了の時間に。最後に真鍋氏は、ここ数年のあいだに、こうしたデータ主導のプロジェクトは、インターネットなどの通信や技術の環境が進歩することによって、リアルタイムで実現するようになるのではないかという、将来の展望を語った。今回のプロジェクトの多くは、大量のデータの蓄積や“データマイニング”が必要なものだが、いずれ、それらが容易に実現可能なインフラ環境が整えば、リアルと虚構の境目がなきがごとしとなるのかもしれない。