開発現場への貢献や、枠に囚われないゲームデザインが大きな評価対象に
2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催される、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。2日目となる27日、“CEDEC AWARDS 2015”が開催された。
CEDEC AWARDSでは、コンピュータエンターテインメント開発の進歩に顕著な功績のあった技術にフォーカスし、技術面から開発者の功績を称え表彰することで、開発技術の普及・啓蒙と産業の発展を目指している。 今年も、CEDEC AWARDSノミネーション委員会とCEDEC運営委員会が協議して選出した優秀賞が決定。さらに、CEDEC受講者の投票により最優秀賞が発表された。受賞者のコメントを中心にその模様をお届けしよう。
なお、表彰部門は、著述賞、特別賞(ゲーム開発への貢献全般)、エンジニアリング、ビジュアル・アーツ、ゲームデザイン、サウンド、ネットワークの7つとなる。
■著述賞
3Dゲームをおもしろくする技術 実例から解き明かすゲームメカニクス・レベルデザイン・カメラのノウハウ(SBクリエイティブ株式会社 刊)
大野 功二氏
<授賞理由>
本書では3Dゲーム開発、特に実装面に関して具体的なタイトルを挙げ、面白さの理由、実装方法を考察しながら詳細な図入りで解説を行っており、他に類を見ない質と量を持った一冊として仕上がっています。ここで提供された知見は今後も廃れる事なく長年に渡ってゲーム開発に携わる人々の教科書となるでしょう。
<受賞コメント>
日本のゲーム技術は、世界に誇っていいと思います。技術というのは知識と一体です。知識は過去、未来、現在に目を向けて、または世界中に広げていくことで初めて成長と進化があると考えています。その思いでこの本を書き上げました。また、この本を書くにあたり、多くの方にご協力をいただき、家族にも大変迷惑をかけてしまったので、この場を借りて感謝の気持ちを述べたいと思います。ありがとうございました。
■特別賞
西角友宏氏 『スペースインベーダー』(1978年)開発者
岩谷徹氏 『パックマン』(1980年)開発者
<受賞理由>
「スペースインベーダー」「パックマン」はアーケードゲームの黎明期において、当時社会現象ともいえる一大ブームを巻き起こした。
その人気ぶりは我が国にとどまらず世界中に広がり、今なおプレイされ続けているだけではなく、映画、アニメなどでもモチーフに使われるなど、幅広い世代に愛されている。
まさに今日に続くゲーム業界発展の礎を築いたと言えるだろう。
<受賞コメント>
西角友宏氏 :
40年も前、テレビゲームが始まるころに開発したものがまた評価をしていただけたことと、岩谷さんといっしょにこの場に立てたことを、本当にうれしく思っております。
岩谷徹氏:
『パックマン』がゲーム業界に貢献したというのであれば、非常に光栄です。今回は、『パックマン』の開発メンバーの代表として、この名誉ある賞をいただいたと考えております。今後はゲームの教育、研究、開発で、まだまだ世の中にお返ししたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いします。
■エンジニアリング部門
【優秀賞】
・次世代APIの技術的礎(いしずえ)を確立 『Mantle』開発チーム(Advanced Micro Devices, lnc.)
・ゲーミングプラットフォームの新たな在り方を提示 クラウドプラットフォーム開発チーム(シンラ・テクノロジー・インク)
・先進技術を柔らかで独創的なコンテンツに昇華 『え~でる すなば』開発チーム(株式会社セガ・インタラクティブ)
・アルタイムグラフィクス技術のパイオニア 五反田 義治氏(株式会社トライエース)
【最優秀賞】
コンテンツ開発環境の標準として開発現場へ多大なる貢献 『VisualStudio』開発チーム(マイクロソフト)
<受賞理由>
開発環境の標準としてその技術コンセプトは開発スタイルのありかたそのものに大きな影響を及ぼし続けてきた。プログラム開発現場への長年にわたる多大な貢献を評価。
<受賞コメント>
VisualStudioは、すべての開発者が、あらゆるアプリケーションを開発できる、そういう姿を目指して開発を続けています。数千人規模で開発をしていますし、PCの中でだけでなくクラウド上で動くものなど、さまざまな形態で発展をしています。より多くの人に、より快適な環境で、機能強化もできるように進めていきたいと思っておりますので、ぜひVisualStudioを使っていただければうれしいです。
<受賞経緯(CEDEC 2015プログラムワーキンググループの各分野プロデューサーより)>
VisualStudio開発チームは、圧倒的な数の票を集めてのご受賞でした。開発者の方々が技術的な恩恵を受けているかがわかった結果なのだと思います。今後とも、素晴らしい開発環境をご提供していただくことを期待しています。
■ ビジュアルアーツ部門
【優秀賞】
・MUSIONの3Dホログラム技術を利用し、現実とゲームの融合をダイナミックに演出 清水 誠一郎氏(フリーランス)
・ゲーム技術によるVFX映像への新しいアプローチを実現 『寄生獣』VFX制作チーム(株式会社白組)
・シンプルな表現の上に成り立つゲームグラフィックのわかりやすさ 『Minecraft』開発チーム(Mojang AB)
・リアルタイムで変化する高度なライティング技術 『The Tomorrow Children(トゥモロー チルドレン)』開発チーム(有限会社キュー・ゲームス、SCE JAPANスタジオ)
【最優秀賞】
・ギルティギアシリーズにおけるアニメ調の表現 『GUILTY GEAR Xrd -SIGN-』開発チーム(アークシステムワークス株式会社)
<受賞理由>
セルアニメ調表現を描画のみならずアニメーションなど細部に至るまで追求し、ついにリアルタイムもここまできたかと唸らせる品質。そのうえでゲームプレイ感覚を損なわせずにまとめあげた点を評価。
<受賞コメント>
まさかここに立てるとは思っていなかったので驚いています。アカデミー賞の授賞式を見て、役者を目指してもいないのに「いつも自分もあのような場所に立ちたい」と思っていました。その夢がこのような形で実現できてうれしく思います。
僕たちチームは“時代に合わせていこう”というよりは、“特技を伸ばしていこう”とがんばって来たところがあります。この賞を受賞できたのは、チームのみんな、支えてくれているスタッフのおかげでです。
<受賞経緯>
今回は多様なジャンルからのノミネートでした。その中でも、ゲームのグラフィックという枠を超えて、すべてのジャンルにおけるアニメ表現との差別化を図れていた、それらを超えるものであったということが受賞の理由のひとつだと思います。
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■ゲームデザイン部門
【優秀賞】
・ユーザーの期待に応えるゲームデザインと運営手法 吉田 直樹 氏(株式会社スクウェア・エニックス)
・対戦ゲームコミュニティ活性化の土壌の構築 『三国志大戦』開発チーム(株式会社セガ・インタラクティブ)
・ユーザーに挑戦を挑むゲームデザイン 『Q』開発チーム(株式会社リイカ)
・キャラクター主導のスマホアプリゲームの開発と運営 『スクールガールストライカーズ』開発・運営チーム(株式会社スクウェア・エニックス)
【最優秀賞】
・「ねこ」の魅力を最大限に活かすためのゲームデザイン「ねこあつめ」開発チーム(株式会社ヒットポイント)
<授賞理由>
ねこの観察という題材を最大限に生かし、従来の枠に囚われないゲームシステムと、SNSを活用した投稿機能で、普段ゲームをしない層まで広く浸透させた。
<受賞コメント>
『ねこあつめ』は、猫好きの人のためのニッチな作品になると考えていたのですが、これほど多くの人に遊んでいただけて、うれしい限りです。これからも、多くの方に楽しんでいただけるゲームを作っていきたいと考えていますので、よろしくお願いします。
<受賞経緯>
ゲームデザインという分野は、本当にさまざまな要素がからみあっており、ひと言では言い表せないものです。アイデアを出し、企画に落とし込み、システムを設計して、運営施策をユーザーに提供して、改善していく。このような多岐にわたるゲームデザインにおいて、選考はとても難しく、そして選ぶほうが楽しくなる作品ばかりでした。多様なデザインのゲームが世に出て、ユーザさんに受け入れられ、ゲーム業界で大きな立ち位置にいることは、これからゲームデザイナーを目指す若い方に、自身の技術やアイデアを形にして「ここに立とう」と奮起させるものでもあります。
また、この『ねこあつめ』のように「ずるいぞ、このコンセプトは!」と笑顔で祝辞を述べられるゲームはなかなかありません。改めて、おめでとうございます。