“カメラの主導権"も重要に
2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催される、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。同イベント初日となる26日に、VR(バーチャルリアリティー)コンテンツ開発者向けの講演が行われた。
登壇したのは、Oculus VR Partner Engineering Specialistの井口健治氏と、Oculus Japan Teamの立ち上げに関わったほかOculus Riftの日本でのエバンジェリストとしても活躍している “GOROman”こと近藤義仁氏。ここでは、“すべては快適な体験のために:Oculusによる実践的VR開発技法”と題した本公演における、快適なVR体験を作り出すための方法と、陥りがちな“罠”の回避方法についてをお伝えする。
■不快なコンテンツを体験するのは、“生牡蠣にあたってしまう”ことと同じ!?
井口氏は、VRでのゲームなどのコンテンツを作るときに、“快適な体験を作ることを第一目的にするべきであると語った。その理由がわかるおもしろい例えとして、井口氏は“生牡蠣にあたる”という表現をした。つまり、生牡蠣にあたった人が二度と牡蠣を食べたくなくなるように、最初にひどく酔ってしまうようなVRコンテンツを体験してしまと、二度とヘッドマウントディスプレイをつけようとは思わなくなってしまうのだそうだ。そのようにユーザーがVRを見限ってしまわないようにするためにも、「酔わないようにする」ことは最優先事項なのだという。
なお、井口氏によると、VRコンテンツの開発に慣れていないと、急に空間を飛び回るような、快適に作ることが難しいタイプのゲームを作ってしまいがちになるそうだ。酔い対策の難易度は題材やゲームシステム次第で大きく異なるので、題材の選定はとくに慎重であるべきとのこと。
■快適な体験をするために重要なこととは
以下からは、井口氏が挙げたVRにおける快適なコンテンツ作りのための手法を挙げていく。
(1)フレームレートを落とさない
描画の滑らかさを現すフレームレートは、Oculas Riftでは90fps、Gear VRでは60fpsとなっている。VRコンテンツのパフォーマンスを向上させて、滑らかな動きになるフレームレートを守ることはとくに重要になるようだ。
また、井口氏はVRにおける酔いの原因と言われていることのひとつとして、“ベクション(Vection、視覚誘導性自己運動感覚)”と呼ばれる現象をあげた。これは、たとえば向かい側の電車が動き出したときに、自分のいる側の電車が動いていないにもかかわらず、足元がぐらっとするような感覚を得ることなのだという。
このベクションはVRでも起こり、“自分が動いているような感覚”があるにも関わらず、三半規管がそれを感じていないというミスマッチがVR酔いの大きな理由と言われているとのこと。ベクションを誘発させないためにも、VRコンテンツを作るうえではおもしろいアイデアをただ採用するのではなく、カメラを急に動かしたくなる衝動を抑えつつ調整しなければならないようだ。
(2)カメラの主導権をプレイヤーから奪わない
この場合のカメラの主導権とは、 “カメラが動けばプレイヤー視点も動く”ことを指す。井口氏は、ロード中でも、タイトル画面でも、カットシーンでも、演出や世界観の都合であっても、プレイヤーからカメラの主導権を奪うべきではないと主張した。
もし、プレイヤーに何かを注目させたいときには、何かを空間内に飛ばして“誘導”するテクニックを使えばいいとのこと。ただし、その視線遊動のテクニックを使っても、プレイヤーが100%注目してくれるとは限らないということにも留意しなければいけないそうだ。
(3)主観か、第三者か
第三者の目線のほうが、主観視点のものよりも、快適なVRコンテンツ作りの難易度は低いのだそうだ。第三者視点であると、カメラは鈍い動きでも問題なくゲームが行えるため、酔いにくいとのこと。
また、主観視点でもあっても酔いにくくする方法はあるという。たとえば、プレイヤーをコクピットに置いたシューティングゲームでは、コクピットの広さが視野の半分程度になっているため、あまり頭を動かす(視点を移動させる)必要が少なく、三半規管の感覚とのズレも少ないのだそうだ。
また、(2)のリストでも掲げたように、歩くときに徐々に加速せずに、一気に最高速度に到達する(等速運動をする)だけでも酔いは軽減できるという。そのほか、舞台を“水平線”のない宇宙空間にすることや、プレイヤー自身があまり動かないコンテンツ内容にするなど、酔いにくくする方法は多様にあるとのこと。