GDCアワードで最多3部門を受賞した『Monument Valley』

 『Monument Valley』とは、iOS/Android用のパズルアクションゲーム。2015年3月に開催された“GDCアワード”では、“Best Handheld/Mobile Game”、“Innovation Award”、“Best Visual Art”の3部門を受賞した。その大ヒットアプリを制作したクリエイターのDan Gray氏(ustwo studio)は、終始にこやかな笑顔でパネルセッションを行った。Gray氏のセッションのテーマは「誰にでも遊んでもらえるゲームを作るには、どうしたらいいか」というものだ。

豊かな人間関係と楽しい職場作りから生まれた『Monument Valley』 Dan Gray氏のパネルセッションをリポート【BitSummit 2015】_01
▲ustwo studio・Dan Gray氏

 Gray氏の所属するustwo studioはモバイルアプリを制作する会社で、ロンドン、シドニー、スウェーデン、ニューヨークの4ヵ所にスタジオがある。Gray氏によると、開発スタジオには独特の雰囲気があり、そういった部分に惹かれて転職したそうだ。
 『Monument Valley』を制作するにあたって、エレガントで、誰にでも共感できるものを作りたいという思いがあったというGray氏。また、幅広い層に遊んでもらうゲームを作るためには、開発する側のスタッフも多様性があり、豊かなバックグラウンドを持つ人材でなければいけないと語る。
 また、ゲームの概念を考え直すことも重要とのこと。そのため、実在する建築物や音楽のコンセプトアルバム、従来とは異なる体験型のゲームなどを参考にしたそうだ。

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▲『Monument Valley』開発スタッフ
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▲建築物など、さまざまなものから影響を得ているという。

 すべての原点になるのが、本作の主人公“IDA”。コンセプトアートも非常に簡単なもので、わかりやすくなるように開発したという。性別もはっきりわからないようにし、衣装のデザインだけで判別できるようなシンプルさを求めた。わかりやすい特徴などを省くことで、逆に各プレイヤーが自分の考えや経験を“IDA”に重ねやすいようなデザインにしたそうだ。
 ゲームに登場する“カラス人間”も、ストーリーを語るうえで重要な存在。“IDA”と“カラス人間”は、鏡で見たような対照のデザインになっているが、それにはお互いが関連していることを、プレイヤーに伝わりやすくするという狙いがあるそうだ。開発当初は、従来のストーリーテリングやカットシーンを入れる予定だったそうだが、ストーリー要素を入れることで、たとえば電車の中で遊びたいと思う人たちが求める手軽さがなくなってしまう。ストーリー性を求めないプレイヤーに、どうやってストーリーを提供するかを考えたとき、プレイヤーの経験を通じて没入できるような、現在のスタイルに落ち着いたという。

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 “ゲームを遊ばない人に向けて、どのようにゲームを開発していくか”という難題については、簡単で、興味を持ってもらえるような動きのゲームデザインを用意するようにし、数ヵ月かかって開発したものでも、そのゲームに合わなければ、採用しなかったという。また、無料のゲームと区別してもらうために、完成度を追及し、スマートフォンを使う際の日常的な動作をゲーム中に取り込んだそうだ。それらをチェックするために、ふだんゲームを遊ばないような人にテストプレイをしてもらい、モバイル性や操作性を確認したそうだ。

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 開発スタッフにとって、もっとも重要なのは“人間味のあるゲーム”になっているかどうか。それを感じることができるようになるため、ustwo studioでは、社内の内装を加工するなど、スタッフが楽しんで働ける職場づくりに努めているそうだ。年に一度は、全世界の社員がバカンスに出かけ、職場の同僚としてではなく、友だちになれるような環境づくりに重点が置かれているという。Gray氏は、そもそも人間が人間味の溢れるゲームを作るためには、「作る側のスタッフをきちんと人間として扱い、ロボットとして扱うようなことはいっさいしない」ことが必要だと語る。こうしたustwo studioの制作概念のもとに、「運よく数々の賞を受賞することができた」というGray氏。『Monument Valley』が86ヵ国でナンバーワンとなり、総計500万ダウンロードを超えることができたのも、「周囲の多様な人柄のスタッフと働くことと、従来のゲームにはない何かを感じ、原点を求めること、プレイヤー本人の経験をゲーム中で感じられるようなゲームデザインを提供すること」などを重ねたから。Gray氏は、「そうすることで、誰もが遊んでくれるようなゲームが作れるようになると信じている」と語り、講演を締めくくった。
 開発スタッフ間の人間関係やスタジオの環境など、さまざまなものがプラスに働いた結果、誰にでも愛される『Monument Valley』というソフトが生まれたのだろう。講演中、Gray氏がつねに笑顔だったことからも、充実した現在を垣間見られた。

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