『大逆転裁判』開発者インタビューpart2
弁護士として法廷で真実を追求していく法廷バトルゲーム『逆転裁判』の新プロジェクト、『大逆転裁判』。本作では、19世紀末の日本と倫敦で奮闘する、成歩堂龍ノ介の成長が描かれる。ここでは、ついに発売された本作の開発者インタビューを2回に分けてお届け! インタビューを読みながらゲームを遊べば、さらに楽しめること間違いなし!
<インタビューpart1>
『大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-』開発者インタビューpart1
コンポーザー 北川保昌氏
アートディレクター 塗和也氏
ディレクター 巧舟氏
プロデューサー 小島慎太郎氏
龍ノ介誕生秘話
――龍ノ介は龍一のご先祖ですが、共通点など意識された部分はありますか?
塗和也氏(以下、塗)先祖ってどこまで似せるかが難しいんですけど、あくまで龍ノ介というオリジナルキャラクターとしての特徴をまず考えたんです。そこに、龍一とのつながりを感じさせる要素を、バランスよく入れるように注意しました。ただ、今回は時代感というのがいちばん重要だったので、髪型が何より苦労しました。
小嶋慎太郎氏(以下、小嶋)本作では、時代感を大切にしているんですよね。
塗 髪型のシルエットがツンツンしてると、ワックス等でセットした、現代的な学生に見えてしまい、違和感が出てしまうんです。なので、昔っぽく見える髪型の範囲内でシルエットをどこまで出せるか試行錯誤して、この時代の主だった髪型の七三分けや丸刈り、短髪を中心に50パターン以上描きました。
巧舟氏(以下、巧) 学生服のデザインも、かなり苦労したよね。
塗 学生服は時代感も出るので、僕のほうから提案しました。ただ、ふつうの学生服だと地味なので、時代感を損なわない範囲で背中や裾にアクセントをつけています。
巧 初期だと腕輪とか刀とかもなかったよね。
塗 日本刀は無茶振り的な感じで着けてみたら、巧さん的に「ありかも」となりまして、その流れで手甲も着けました。また、弁護士バッジはこの時代にはまだなかったので、時代や学生服にも合う腕章にしました。
――苦労の末に誕生した龍ノ介ですが、テーマ曲は、どのようにして作られたのでしょう。
川保昌氏(以下、北川) 龍ノ介はほんのり和のテイストを入れつつ、主人公のカッコイイ感を全面に出して盛り上げました。
――対するホームズの曲もカッコイイですね。
北川 彼はバイオリンを弾くので、バイオリンをメロディーに持ってきて、タップシューズの音でちょこまか動く感じを出してみました。
――ホームズは、キャラクターのデザインのほうはいかがでしたか?
塗 ホームズは、原作でも躁鬱という設定があるんです。なので、最初は力が抜けて、ちょっと病んだ雰囲気の、クセのあるホームズばかり描いてたんです。でも、ふつうにカッコイイほうがいいと言われまして、いまの流れになりました。服装はパッと見でホームズとわかるように、鹿撃ち帽やパイプ、コートのシルエットといった伝統的な部分はアレンジしつつ取り入れています。
巧 やはり、ホームズさんといえば鹿撃ち帽で。僕も何度か買おうかと思ったんですけど、これが似合う人はなかなかいないんです(笑)。
――着こなすのは難しそうですね(笑)。頭のゴーグルは探偵グッズ的なものですか?
塗 『逆転』シリーズにはカガク捜査というシステムがあって、その要素を今回も入れたいと。それで宝月茜のサングラスのように、ゲーム性と絡めたアイテムとして設定しました。
――ホームズのマークも気になります。
塗 ホームズ事務所のマークですね。外側は歯車をモチーフにしています。イギリスの産業革命や、スチームパンクの意匠として取り入れました。そして、真ん中はアイリスのマークでもあります。彼女が植物が好きという設定にしたかったので、ふたりのモチーフを足して、この形になりました。
――アイリスが少女というのも衝撃でした。
塗 メインキャラが青年男性ばかりなので、小さい女の子も入れたいなと。
巧 そんなに反対意見もなかったね。ただ、デザインには時間をかけた気がするかな。
塗 初期は、巧さんの中で彼女の性格が固まっていなかった部分もあるかなと(笑)。
巧 最初はおとなしい、少し病弱な感じという設定にしていて、暗い過去もあったりというイメージがあったんです。
塗 なので僕は、最初マッドサイエンティストのイメージも入れつつ描いていました。
巧 そういえば、前髪についてはいろいろ話した記憶があるね。短くするかどうかで。
塗 僕はパッツン系がかわいいなと思って描いていたんですけど。巧さんから、長くしてほしいと。最終的には前髪は黄金比のカーブにしてみたりとか。ほかにもデザイン的には隠し要素を仕込んでいます。前から見るとリボンシルエットだけど、 後ろから見るとメビウスの輪になってたりとか。数学的な意匠で、天才という一面をこっそり表現しています。
巧 それは知らなかった。 そういえばアイリスのテーマ曲も転換期だった気がするね。
北川 アイリスは確かに病弱なイメージって言われていたので、3拍子のゆったりめの曲を作っていたんです。 これは絶対合うと思って持って行ったら、 巧さんが「イメージが変わったんですよ」と。「聞いていないんですけど、それはどんなイメージなんですか」って聞くと、「活発な感じ」って。ビックリしましたよ(笑)。けっきょく、その3拍子の曲はホームズの事務所の曲で採用されて。 一方、 アイリス用には元気な飛び跳ねるような曲を作りました。 彼女は実験をしたりするので、 試験管の薬品がポコポコと泡を立てるような音を入れてみたりとか、 電子音を散りばめてみたり、 エキセントリックな感じにしたんです。 アイリスの曲は各キャラのテーマの中でもお気に入りになりました。 採用しなかった曲には、 シンセサイザーとか電子音を入れているものもありまして。 生音を乗せていきつつも、 エキセントリックなエッセンスを取り入れました。 このシンセサイザーバージョンはDLCに収録されていて、 採用曲と比較できるようになっているのでぜひ聴いてください。
――続いて寿沙都ちゃんについてですが。
小嶋 『大逆転裁判』のヒロインですからね。
塗 大和撫子ということで、 龍ノ介との並びも意識して、 時代感溢れる女学生としてデザインしました。 ただ、 そのまま学生要素だけだと庶民的すぎるので、 着物の高級感で育ちのよさを出そうと。 柄はシンプルすぎると浴衣に見えるし、 色味を増やしすぎても現代の着物みたいに見えるし……。 柄ばかり表に出ても『逆転』のキャラクターとしては違うかもということで、いろいろ苦労しました。
――確かに、 いいところのお嬢さんな着物ですね。彼女の髪型もかなり珍しいような?
塗 ありそうでない髪型といいますか。 じつはふたつの方向から髪が合流していたり、 けっこう複雑な構造です。3Dモデル担当者や、アニメ制作の方に説明するのに苦労しました。
巧 テーマ曲もいい曲になったよね。
北川 あのテーマ曲は、 もうひとりのコンポーザーの前馬くん(前馬宏充氏)が作ったんですけど、 最初は僕が担当でした。 誰が聴いてもこれはヒロインのテーマだと思うような曲を書いたんですけど、 チームの評判があまりよくなくて(笑)。 巧さんいわく、 今回ならではのアイデンティティが欲しいと。 かなり悩んでいたのですが、 ふと前馬くんが作った回想テーマを聴いたら、それがすごくよかった。
巧 事件ごとに、回想用の悲しい曲が1曲ずつあるのですが、そのうちの1曲だったんです。
北川 僕の曲とコンペになりまして、 最終的には完敗しました(笑)。 結果、 彼女に合うすばらしい曲になったと思います。
魅力的なキャラクター
――本作はイケメン揃いですよね。
塗 検事は死神というキーワードから、 自分の好きなダークなモチーフをごちゃ混ぜにしてデザインしたのでお気に入りです。 とくに検事とヴォルテックスは並びを意識しています。
巧 僕は、バンジークス卿の曲が好きですね。これ、法廷の曲を転用したのだったかな?
北川 これは検事用の曲として、一発OKが出たんです。わかりやすいポジションの方なので、ぴったりハマりました。 見た感じでもバロック感が漂っていますし
巧 逆に難産だったのは、亜双義とか?
北川 亜双義は前馬くんの曲ですね。
巧 確か最初、「温泉っぽい」なんて言ってたよね。
北川 趣のある和風の曲だったので……。
――彼は凛々しい侍のイメージですよね。
巧 しかも龍ノ介と差別化しなくちゃいけないという制約もあって。
北川 亜双義のほうは和の精神を押し出した曲というところで差別化は図っています。
塗 僕的にも彼は熱い大和男児というか、 ふんどしのイメージがあります。
巧 でも尺八とか鳴り出してもまた違うよね。
北川 尺八NGとかありましたね(笑)。琴はいいけど三味線はダメとか、 音が醸し出すイメージがあるので、楽器の選択も考えました。
巧 あと、"開廷"は苦労した気がします。
北川 盛り上げすぎたらダメなんですよね。法廷で最初に鳴る曲なので、 僕としては盛り上げたいんですけど、 その気持ちを抑えつけるっていうくらいの曲にしておかないと。 そこから盛り上がっていくわけですから。
巧 しかも解決した後にもう一度鳴るので、そのときの開放感みたいなものも必要だし。
――ちなみに、 チームでいちばん人気のキャラクターは誰ですか?
塗 バンジークスが圧倒的に人気がありましたね。女性男性陣問わず、カッコイイと評判で。あとは亜双義が人気です。
巧 僕のお気に入りは漱石さんです。 最初はドテラを着ていて、 柄のデザインも詰めたのですが、ドテラごとなくなっちゃいました(笑)。
小嶋 またカワイイんですよね、ワガハイが。
塗 漱石をデザインしたときに足下に猫を描いていたのですが、 そこから膨らませてもらえた感じですね。
――楽曲のお気に入りも教えてください。
巧 "共同推理"の曲です。 推理中は主旋律があるけど、 下画面で寿沙都さんと検討するときは、 主旋律を抜くという演出が気に入っています。 そこから発展して、 龍ノ介の最初のテーマも、 メロディーを抜いてアレンジしてみたり。 まだ弁護士ですらないから、 曲も不完全ということで。
小嶋 時代感がありますしね、この曲。
――では最後に、 塗さんと北川さんから読者へメッセージをお願いします。
塗 新しいプロジェクトということで、 いちから世界観を作り上げたので、 いままでと違った雰囲気になったかと思います。 キャラクターも幅広いバリエーションを用意していますので、 従来のファンの方も、 新規の方にも安心して遊べるものになっていますので、 楽しんでいただけるとうれしいです。
北川 サウンドのほうも、 時代感を汲み取った楽器をチョイスしたりとか、SEのほうもカラクリの音の要素を入れたりして、BGMとSEの両面から『大逆転裁判』という世界観を楽しめるような内容になっています。 またサントラもCD2枚組で67曲という濃い内容で7月15日に発売されますので、ぜひ聴いてください。
大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-
メーカー | カプコン |
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対応機種 | 3DSニンテンドー3DS |
発売日 | 2015年7月9日 |
価格 | 5800円 [税抜]/6264円 [税込(8%)] |
ジャンル | アドベンチャー |
備考 | ダウンロード版は5546円[税抜](5990円[税込])、『特別装丁版』は7300円[税抜](7884円[税込]) ディレクター:巧舟、プロデューサー:小嶋慎太郎 |