よりリアルで、ストレートに楽しめるエンターテインメントに
OVA、映画、テレビアニメと多岐にわたって何度も映像化をされてきた士郎正宗原作の『アップルシード』。その最新作となる『アップルシード アルファ』の日本公開が2015年1月17日に迫っている。本作がどのようなコンセプトで制作され、どのような魅力を持っているのか。荒牧伸志監督へのインタビューをお届けしよう。
本作は、世界大戦後の荒廃した世界を舞台に、主人公の女性戦士デュナンとサイボーグのブリアレオスが協力して、人間の理想郷である都市オリュンポスに至るまでを描くSF作品。荒牧伸志監督の手掛ける『アップルシード』関連作というと、『アップルシード』(2004年)その続編の『EX MACHINA -エクスマキナ-』(2007年)がおなじみだが、本作は両作とは直接のストーリー上のつながりはない、いわゆる“リブート”作品となっている。また、士郎正宗氏の原作マンガの一部のシーンをモチーフにしながらも、その前日譚に当たる物語が展開しているのも特徴だ。まずは、なぜ本作を“仕切り直し”という形で制作することになったのかを、荒牧監督に聞いた。
――まずは、『アップルシード アルファ』を制作に至るまでの経緯を教えてください。
荒牧伸志監督(以下、荒牧) 前作『スターシップトゥルーパーズ インベージョン』(2012年)の制作後、つぎに何をやろうかということになったとき「『アップルシード』の続きを作ったらどうか」という話になったんです。僕としては、すでに2作品の劇場版を作っていたため、続きを作ることは考えていませんでした。そこで、切り口を変えておもしろいことができないか……と考えた結果、『アップルシード』の主人公ふたりがオリュンポスに行く前の物語を描くことを思いついたんです。
――新しく物語をスタートしたということは、原作を知らない方、いままでの映像化された『アップルシード』を知らない方にも観てほしいという想いもあったのでしょうか。
荒牧 それもあります。『アップルシード』は非常に複雑な設定を持つ作品なので、心機一転して、シンプルでおもしろい物語を描きたかったんです。そういった意味では、本作で新しく『アップルシード』に触れる方にとっても、すんなり入っていけると思います。
――方で、いままでの『アップルシード』シリーズのファンにとって“知っておくとこんなところが楽しめる”というポイントがありましたら、お教えください。
荒牧 キャラクターは、原作を知っているとより楽しめるポイントですね。主人公のデュナンとブリアレオスの基本的な立ち位置はいままでとそんなに変わっていないのですが、大きな戦争後の世界をもう少しリアルな感触で描きたかったので、二人とも喪失感を抱えた状態から始まります。ほかにも、本作では双角やマシューズといった、原作ファンおなじみのキャラクターがお目見えしますが、彼らはいままでの『アップルシード』の映像作品には登場していなかったですね。原作のキャラクターが、まったく違う役どころで登場しているというのは原作ファンの方にとっても、興味深いところだと思います。また、原作では短いシークエンスであった、“廃墟の中の戦車戦”を膨らませる形で本編に収録しているところも、原作ファンの方にとっては見どころになっているはずです。
――主人公のデュナンとブリアレオスの見た目は、いままでと違っていましたね。
荒牧 いままでは、“アニメルック”なキャラでしたが、本作ではよりリアルな見た目になっています。映像がよりリアルになったのは、荒廃した背景を通して、キャラクターの心情をより深く描けないか、と言うチャレンジです。
――『アップルシード アルファ』はいままでの作品と声優さんも一新されています。主人公ふたりの声について、監督はどのような印象を持たれたのかを教えてください。
荒牧 今回は新しいルックで新しく始める作品なので、“新しい声“を揃えることにしました。デュナンを演じた小松由佳さんは、人としての暖かみ、戦争後の失意などを含め、デュナンが持っている感情の豊かさをしっかりと表現してくれました。アフレコをしていて、「自分のイメージするデュナンができた」という印象です。ブレアレオス役の諏訪部順一さんは、“重い事情があるけれど、人間らしい軽さがある”というバランスを持つ、新しいブレアレオスを熱演されていました。
――コメディリリーフである双角のキャラクターが魅力的でした。監督自身もお気に入りのキャラクターなのでしょうか。
荒牧 双角があんなにおもしろいヤツになるとは思わなかったですね(笑)。始めはもっと悪いヤツだったのですけど、絵コンテを描いていくとどんどんおもしろくなっていって。僕も悪ノリして、死にそうでなかなか死なないようなしつこさを持つキャラクターになりました(笑)。愛着の持てるキャラクターになって楽しかったですね。声優の玄田哲章さんもすばらしい演技を披露してくれました。
――本作に登場するアイリス、オルソン、タロスはオリジナルキャラクターとのことですが、何か名前の由来やモデルはあるのでしょうか。
荒牧 アイリスは最後まで観ると、原作ファンであればニヤリとできるキャラクターになっています。オルソンは、原作にチラッと登場するモブキャラクターから付けた名前です。タロスはギリシア神話のポセイドンの息子のトリトンをイメージしたところがありますね。
――メインテーマに中田ヤスタカ(CAPSULE)氏を起用した理由を教えてください。
荒牧 中田さんの楽曲はPerfumeからずっと聞いていました。いままで『アップルシード』で使用していたロックやテクノ音楽の延長としてハマるのではないかと考えて、今回お願いしたんです。中田さんに『アップルシード』のファンであるとおっしゃっていただいたのはうれしかったですね。
――世界設定、メカ、物語に『未来少年コナン』や『天空の城ラピュタ』を思い出させるところがありました。作品に影響を与えた作品はありますでしょうか。
荒牧 はっきりとオマージュをしているわけではありませんでしたが、終盤の展開は、『未来少年コナン』を意識したところがあるのかもしれません。終盤のシーンで気付く人は「なるほど」と思われるかもしれませんが、詳しく話すとネタバレになってしまうので、“倒しかたにヒントがある”とだけ言っておきます。また、宮崎駿さんの作品は全部大好きで、僕にとっては先生であり“教科書”なんです。というのも、僕は映像の作りかたを学校で勉強したことなどはまったくなくて、自主アニメを制作するときに、当時の『アニメージュ』のおまけについていた、『未来少年コナン』の絵コンテを観て「こういうふうに描くんだな」と知ったんです。
――“影”の描写や、荒廃したタイムズ・スクエアなどの風景が印象に残りました。映像や物語についてこだわったポイントがあれば教えてください。
荒牧 戦争が終わった後の登場人物の心情を見せたいと考えていました。進む道に行きづまった感じ、砂の乾いた感じ、着ている服の感じなどをリアルに見せたかったんです。その分作業量が大幅に増えることになったので、どこまでできるかというところはチャレンジでしたね。
また、物語は登場人物が「生きにくい」と感じながらも、希望を見つけていくというものになっています。脚本を手がけたマリアンヌ・クラヴジックさんには僕のほうから細かいプロットとスケッチを送り、何度かやりとりをしてエンターテインメント性とメッセージ性が両立した物語が完成しました。
――映画を楽しみにしている読者に向けて、メッセージをお願いします。
荒牧 『アップルシード アルファ』はストレートに観ることができるエンターテインメント作品であり、何も前情報がなくてもまっさらな気持ちで楽しめます。原作を彷彿とさせるシーンもふんだんに入っており、いろいろな観かたができます。ぜひ大きいスクリーンで楽しんでください。また、映画が終わっても席を立たず、エンドロール後までしっかりと見届けると、何かいいことがあるかもしれませんよ。
『アップルシード アルファ』は2015年1月17日公開。来場者特典として“ガンメタルクリアファイル” がもらえるほか、映像に連動して座席が動いたり、風が吹くなどの新しい映像体験ができる“4DX”の上映が行われるので、こちらも公式サイトでチェックしておこう。
※特典は数に限りがありますので、なくなり次第終了となります。
■『アップルシード アルファ』スタッフ(敬称略)
原作:士郎 正宗『攻殻機動隊』
監督:荒牧 伸志『アップルシード』シリーズ、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』、『キャプテンハーロック』
メインテーマ:Depth(vocal dub mix feat. Toshiko Koshijima)中田ヤスタカ(CAPSULE)『スター・トレック イントゥ・ダークネス』
キャラクターデザイン:山田 正樹『アップルシード』シリーズ
脚本:マリアンヌ・クラヴジック『ゴッド・オブ・ウォー』(ゲーム)英国アカデミー賞受賞
制作:SOLA DIGITAL ARTS『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』
サウンドトラック:unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN
配給:アニプレックス
CAST:小松由佳/諏訪部順一/悠木碧/高橋広樹/名塚佳織/東地宏樹/玄田哲章/堀勝之祐
2015年1月17日 新宿バルト9ほか全国公開