『喧嘩番長6』のディレクターとプロデューサーを直撃!

 週刊ファミ通2015年1月15日増刊号(2014年12月25日発売)に掲載された『喧嘩番長6~ソウル&ブラッド~』開発者インタビューの完全版をお届け。ディレクターの松本氏とプロデューサーの渡辺氏に、本作の制作のウラ話や見どころなどをうかがった。

『喧嘩番長6~ソウル&ブラッド~』あわや一触即発!? 『喧嘩番長』制作への道【完全版】_04
■写真左
松本朋幸氏(『喧嘩番長6』ディレクター)
『喧嘩番長』、『喧嘩番長2 』を制作した、シリーズの生みの親。『喧嘩番長4』では設定とシナリオを担当。

■写真右
渡辺一弘氏(『喧嘩番長6』プロデューサー)
PSP版の『喧嘩番長3』以降のシリーズ作のプロデューサーを担当。シリーズの育ての親と言える存在。

松本氏の説得に数ヵ月! 立ち上げまでの困難な道

――本作では松本さんがディレクター、渡辺さんがプロデューサーですが、おふたりのシリーズとの関わりを教えてください。

渡辺一弘氏(以下、渡辺) プレイステーション2で『1』、『2』を出した後、少し期間が空き、次回作をプレイステーション・ポータブル(以下、PSP)で出すことになり、そのタイミングで、自分が担当することになりまして。

――そのころ松本さんは?

松本朋幸氏(以下、松本) 『2』の後ですよね。骨折していました(笑)。骨折して3ヵ月くらい動けなかったんです。そして復帰したら、ほかの開発会社で新しい『番長』の開発が決まったらしい、と噂で聞いたんです。「マジか!」という状況でしたね。

――事前にお話はなかったんですね。

渡辺 じつは『2』で一度、シリーズ終了の雲行きだったんです。そのタイミングで僕がスパイク(現スパイク・チュンソフト)に入社して、PSPで新作を……ということになりましたが、その時点では『1』、『2』の開発会社や、そこに属していた松本とも面識がなかったんですよ。そして、引き受けた『3』を新たな開発陣で作り、『3』はそこそこ評価をいただいて、続いて『4』を作ることになった際、ちょうど松本が以前の会社を辞めると聞き、「シナリオを書いてくれないか?」と声をかけたんです。ただ、これまでシリーズを作ってきた人間が、ほかの人間が作るものにシナリオを提供するということで、その後たいへんなことになるわけですけど(苦笑)。

松本 そもそも、『2』から『3』に移行するときに、こっちとしては、作ったものを“奪われた”というマイナスの印象しかない。そう思っているものに関わるのはイヤだったんです。

――なんで仕事を受けたんですか?

松本 会社を辞めて、あらためてスパイクに入社する前でしたし、何も仕事がないと困りますから、悔しい思いを残したまま、割り切って『4』の仕事を受けたんです。ただ、僕の中で『喧嘩番長』はもうネタ切れで、シナリオにすごく時間がかかってしまって……。斜に構えていたところがあったから、うまくいくはずがないんですよね。

渡辺 こちらとしては、「なんとかしてよ」としか言えず、双方に頭を下げて、担当してもらいました。松本もメインシナリオを最後まで書き上げてくれて、結果的に『3』よりも評価されたんです。 でも、 彼(松本氏)の中では「もう二度とやるか!」となっているから、 続く『5』のときは、松本もスパイク・チュンソフトに入社していましたが、声をかけることもできませんでしたね。本人のやる気もないし。

――そんな状況が変わったきっかけは?

渡辺 『6』を作るにあたって、前作のチームとスケジュールの折り合いがつかず、PSPからハードが変わるということもあり、再び開発陣も変わることになりました。そのとき、松本は社内で別のプロジェクトを進めていたのですが、新しい『喧嘩番長』をやろうと思ったときに、僕の中の選択肢では、もう彼しかいなかったんですよ。ディレクターを任せられる人間が。ちょうどハードが変わるときに、初代を作った人間がもう1回作り直すというのは、『喧嘩番長』シリーズにとっても、ちょうどいいタイミングでしたからね。そこからは、もうずっと説得ですよ。ほかのプロジェクトをやっているところに、「このタイトルは君しかできないから」と。松本にもこれまでの苦い思いがあるだろうから、じっくり話し合いました。数ヵ月くらいかかったかな。

――説得にかなり時間がかかりましたね。

松本 僕から言わせてもらえば、その前に進めていたプロジェクトを最後までやりたかったんです。ただ、口説いてもらえるというのは、ある意味うれしいことなんです。自分にまだ需要があるということですから。うれしいんですけど、過去のわだかまりがあるし、ほかの作品をやっていたというのもあって、なかなか安請け合いはできない状況だったんです。

渡辺 途中で引き抜くのはよくないんですが、『番長』を続けるにはそうするしかないと思ったので、一進一退をくり返しながら、話し合いをしていましたね。会社の席はそんなに遠くないんですが、そのころは、あいだに深い溝がありました(笑)。その話し合いで数ヵ月。時間はかかったけど、わだかまりを解消するという面でも、やってよかった。大人なので、殴り合いにはならなかったですけど、その寸前まではいってましたから。

松本 怒鳴り合いとかはありましたね。

渡辺 そして、「やると決めたんだからやろうぜ」という状況になって、やっとモノができてきた、というのが現状です。

松本 かなりカットしましたね(笑)。

渡辺 もう思い出したくない(笑)。

生みの親と育ての親で異なる『喧嘩番長』像

――作り始めてからも、順調に進んだとは言えなかったようですね。

渡辺 作り始める段階になってわかったのが、お互いの持っている『喧嘩番長』のイメージの違いです。僕は『3』以降をベースに話をしますが、松本は『1』と『2』をベースに話をする。そこで少しずつズレが出てきて。それを埋めるのに、また時間がかかりました。PSPのシリーズは、社内でディレクターを立てていなかったので、プロデューサーの僕が、仕様に対しても決めていました。でも松本は、“仕様はディレクターが決める”というスタンス。最終的に、コンセプトに関わる大きな部分以外は松本に任せる、というところに落ち着くまで時間がかかりました。

松本 長かったですね。お互いの境界線が行ったり来たりという状態がずっと続いていて、それがものすごいストレスでした。現在はお互いを理解したからこそ話せていますが、1年前だったら、こんな話もできないレベルでした。すぐに、「はぁ?(怒)」みたいになって(笑)。

渡辺 でも、長く相手を見ていると、譲れない部分がわかってくるんです。それで、お互いの役割を決めた後は、リスペクトする気持ちが強くなってきました。山あり谷ありでしたが、できあがってきているものは、シリーズでいちばんいいものになっています。ここまでたどり着けて、本当によかったです。

――プロデューサーとディレクターが、ここまで揉めるのは珍しいですね。

渡辺 『喧嘩番長』自体がわだかまりの種になっているわけですから、きっちりとケンカをして解決しないと話が進まないんです。解決して「やりましょう」となるまでが数ヵ月、「やりましょう」となってから、さらに数ヵ月。計半年くらいはごちゃごちゃしていました。事情を知っている近しい人には、迷惑をかけたと思っています。彼はこのタイトルで表に出てきたし、僕もそれを受け継いで、続けさせてもらっている。お互いの『喧嘩番長』に対する思い入れの強さが、譲れなかった原因なんだろうなと。

松本 お互いに、ゼロか1かという性格だと思うんですよ。グレーがなくて、白か黒かをしっかりつけたがる。

渡辺 プロデューサーとしては本来、ぼんやりとでも進んでもらわないと困るんです。だけど彼は、僕がこれまで出会った中で、いちばん白黒を付けたがる人間なんです。そういう人に対して、ぼんやり進めていると、どこかでまた白か黒かになる。少し進めて、それがわかったので、「ビシっと決めましょう」となったんです。

『喧嘩番長6~ソウル&ブラッド~』あわや一触即発!? 『喧嘩番長』制作への道【完全版】_03

カッコよくなった『番長』を もう一度バカゲーに戻す

――そろそろ作品の中身についての話をお願いします(笑)。

渡辺 もちろんコンセプトに関わる大きな部分は相談して決めますが、手触りや遊びの基本は松本に任せています。

――松本さんにとっては、我が子が久々に帰ってきた、という感じですね。

松本 そうですね。取られていた子が(笑)。

渡辺 (笑)。彼が生んで、僕が引き取って育てていたけど、小学校を卒業するときに、また産みの親が現れた、という感じですね。そこで、この子(『6』)をどうしようと考えた結果、この子のために協力して、きちんとした教育方針を立てようということになったんです。

――ここでコンセプトが決まったわけですね。

松本 とはいえ、別の人に育てられて、人格が変わっちゃっているから、戸惑いましたね。

渡辺 その子を愛せるのかってこと?

松本 まさにそれで、「どうしようかな」っていうのが最初ですよね。PSPシリーズもよくできていたので、それを超えるものを作るのは簡単じゃない。だから、超えるには、もう1回バカゲーにするしかないと。もともと『喧嘩番長』はバカゲーを作りたくて始めたんです。でも、バカからスタートして、どんどんカッコよくなっていった。だから、僕のカラーを出すなら、もう1回バカに戻すしかないなと。

渡辺 でも、このゲーム、実際はバカゲーじゃないですよ。システムもストーリーも大真面目に作っていますから。ただ、バカなことが前作以上にできますよ、というだけで。

松本 ここも認識の違いなんですよ。僕の中では、バカ要素が増えれば増えるほど、バカゲーというくくりになるので、箱庭ゲームの中に見ている人が笑えるようなバカ要素を、どれだけ入れられるかを大切にして作るんです。で、本作ではわりとそれができたと思っています。ただ、ストーリーは王道で、いままででいちばんマジメですね。

渡辺 シリーズでいちばんイケメンの主人公ですけど、ストーリーは松本節で『1』、『2』のような、暑苦しくて男くさい感じになっています。その話に沿って進めるだけでも、しっかり楽しめるように作ってくれたので、「あとは好きにしてください」と、やりたいことをやってもらっています。