シナリオ運びのうまさが光る
今回紹介する『嘘発見人 万目今日助』は、嘘をつく者とそれを見破る者の関係性、そしてその裏に渦巻くさまざまな感情をテーマにした、全7章の推理アドベンチャーゲームです。プレイヤーは、表情分析による感情の特定を得意とする万目今日助の視点で、彼が関わるふたつの事案の顛末を追うことができます。事案のひとつは、とある商店街で多くの死傷者を出した通り魔事件の重要参考人尋問。逃走中の犯人の手掛かりを引き出すため、顔なじみの県警刑事と協力して捜査を進めます。もうひとつは、今日助の研究所に直接依頼された身辺調査。母の再婚相手に噂されるDV疑惑の真相を確かめてほしい、という女子大生からの依頼に答えるため、再婚相手男性と彼の前妻に話を聞きにいくことになります。
今日助の調査は、ひたすら対象人物と面会&会話し、その際に表情として表れた感情をもとに、推理を巡らせる……のくり返しです(※具体的な手順は後述)。格闘や追跡劇などの派手なシーンがあるわけでもなく、物語が進んでも絵的な変化に乏しいこともあり、ゲーム展開はかなり淡々としています。いかにも推理アドベンチャーっぽい通り魔事件のほうはまだしも、再婚相手の調査はあまりに地味……と思いながら最初のうちは進めていたのですが、ふたりの人物の調査結果の矛盾が判明したあたりから、「これ、どうなるんだ!?」と、すっかり惹きこまれてしまいました。さらに、ずっと紳士的な態度で調査対象に接してきた今日助が、終盤にきてまさかの!! という展開には大いにスカッとさせられました。これはひとえに、作者がこだわったというシナリオ運びのうまさでしょう。今日助のキャラクターが、単に有能な嘘発見人にとどまらず、内面に深い闇を抱えた人物として描かれている点への興味も含めて、続編作(第2話)のリリースが待たれます。
[おもな登場人物]
表情観察と真偽分析シーケンスが大きな特徴となっているこの作品。それぞれの選択肢で正解するとスコアが加算されるのはいかにもゲーム的ですが、たとえ間違えても、今日助の心の中で「いや、それは違うな」と打ち消され、正解を選んだ体でストーリーが進行します。とりあえず、ノーヒント&セーブ地点からのやり直しなしで最後まで進めて、今日助の思考とどの程度シンクロできたかをスコアで確認……程度に考えておいたほうがいいかもしれません。正直、何度もくり返して遊べるゲーム性ではありませんが、ジリジリする心理戦が好きな人であれば“満足度の高いワンプレイ”を楽しめるでしょう。
余談ですが、本作と前後して、“人狼ゲーム”を初めてプレイする機会を得ました。テレビ番組化もされているので、知っている方も多いと思いますが、“人狼ゲーム”は、人狼サイドは無害な人間になりすまして村人を襲撃し続け、村人サイドは人狼を特定して一刻も早く吊し上げることを目的とした、心理戦要素の強いパーティーゲームです。私はいきなり処刑されて、早々に離脱したものの(泣)、人狼の大胆不敵な嘘のつきかたや、村人が多くの犠牲を払いながらも徐々に嘘を暴いていく過程を中立視点でじっくり楽しむことができました。あるひとつの事象にさまざまな嘘が折り重なることで、パズルのようなゲーム性を帯びてくる……ということに特化している点は『嘘発見人 万目今日助』も同じです。“嘘エンターテインメント”に興味のある方は、ぜひプレイしてみてください。PC用ダウンロード版は、PLAYISMで好評配信中です!
■真相の断片を推理するために必要な手掛かり
[1]表情の意味する感情の観察
目の前にいる相手の本音を知る足がかりとなるのが、ふとした瞬間に見せる表情変化。まずは、右に挙げた6パターンのうち、どれと同じだったかを観察し、正確に判断する必要がある。それぞれの表情の、各パーツの特徴をあらかじめ確認しておくことが重要となるのだ。
[2]感情の真偽の分析
その表情が自然に出たものか、意図的に作られたものかは、表情変化の速度や長さ、各パーツの動きの揃い具合などによって判断する。真偽がわかった感情は、それまでの会話の流れや、明らかになっている事実と照らし合わせることで、真実に迫る重要なヒントとなるのだ。
[製作者インタビュー]
重金やから氏(アナバシス代表・シナリオ担当)
──アナバシスのスタッフ構成、開発期間を教えてください。
重金 現在のコアメンバーはひとりで、必要に応じてフリーの方に仕事をしていただいています。『嘘発見人 万目今日助』の制作はプログラム・シナリオを私が担当し、キャラグラフィックはRYO、表情エフェクトは画部フタバさんにやってもらっています。オリジナルのPC版を約1年で制作し、スマートフォン版の移植とシナリオのバージョンアップを3ヵ月程度で行っています。現在、PLAYISM様などで配信しているPC版は、すべてこのバージョンです。
──リアルタイムな表情を判別する……という本作独自のシステムはどのようにして思いついたのでしょうか?
重金 もともと海外ドラマが好きで、『ライ・トゥ・ミー』で表情分析のことを知りいろいろ調べてみたのがきっかけです。表情分析の本を読んだ後は、演技のうまい役者さんの表情の意味するところが、ある程度わかるようになりました。といっても、ポーズをかけたり何度も見返さないと無理だったんですが(笑)、その手順がそのままゲームの原型になっています。
──タイトルになっている“嘘”も、本作の重要なテーマですよね。
重金 犯罪は誰でもする訳ではありませんが、嘘は誰もが何かしらの形でつくものです。そして、法に反しない限りどんな嘘をついても裁かれないのがいまの社会の現実であり、“正義”というものの死角なのかもしれません。そうしたことをいろいろ考えているうちに、人が“人間の闇の部分”と対決する図式の根源に嘘があることに何となく気づいて、テーマとして取り上げてみました。
──実際のストーリーやキャラクター作りの際に参考にしたものは?
重金 ストーリー面では、おもに海外ドラマをお手本にしています。とくに一話完結型のものは無駄なくまとまっていて、日本の作品よりおもしろいですね。展開やテンポは『CSI』シリーズ、ミステリー性では『名探偵モンク』などを参考としつつ、日本の時事的な事件なども盛り込んでいます。キャラクターに関してはドラマをより際立たせるために、漫画的なキャラよりも実在感のある“キャラクター”に近くなってると思います。
──オリジナルゲームをインディーとして発表することのメリット、デメリットをお聞かせください。
重金 もともと表現の自由度はあまり意識していませんが、(独自性に走ることで)間口を狭める可能性がある反面、神経質にならずに作れるのはインディーの強みですね。金銭面では、趣味的なものからどうやって収益を上げられるレベルまで持っていくか、あるいは一切こだわらないのか、という点が大きな課題です。これに関しては、つねに自分の立ち位置を試されていると感じます。
──今作は万目今日助の物語の“第一話”ということで、終盤では彼の謎めいた素性の一端が明かされます。次回作のリリースが待たれますが、構想や制作の現状について可能な範囲で教えてください。
重金 現在、基本のシステム部分を設計している段階です。前作のシンプルなメッセージ選択方式から一歩踏み込んだシステムを実装予定です。ストーリー面は、推理要素を強化したうえであまり難しくなり過ぎず、テンポよく遊べるものにしたいです。今日助たちの物語もさらに加速します。嘘を暴くのは、嘘――次回作では“嘘”が今日助の武器になるかもしれません。
噓発見人 万目今日助
メーカー | アナバシス |
---|---|
対応機種 | iOSiPhone/iPod touch / PCWindows / AndroidAndroid |
発売日 | 配信中 |
価格 | パッケージ版は1000円[税抜](1080円[税込])、ダウンロード版は278円[税抜](300円[税込]) アプリ版はリリース記念キャンペーン期間中は無料 |
ジャンル | アドベンチャー |
備考 | iOS:iPhone/ iPod touch / iPad PC:Windows / Mac |