『NAtURAL DOCtRINE(ナチュラル ドクトリン)』キーマンが語る!
プレイステーション4(以下、PS4)で、新世代のゲーム開発を進めているトップクリエイターに聞く、連載インタビュー企画。今回は、プレイステーション Vita(以下、PS Vita)、プレイステーション3(以下、PS3)、そしてPS4で開発が進められている『NAtURAL DOCtRINE(ナチュラル ドクトリン)』(2014年3月19日発売予定)をピックアップ。本作のプロデューサー・原作を担当している、田中謙介氏にお話をうかがった。
角川ゲームス
『NAtURAL DOCtRINE(ナチュラル ドクトリン)』プロデューサー・原作担当
田中謙介氏
SRPGの新たなスタンダードを目指す
――田中さんがプロデューサー・原作を務める『ナチュラル ドクトリン』とは、どのようなゲームなのでしょうか。
田中 『ナチュラル ドクトリン』は、シミュレーションRPG(以下、SRPG)というジャンルのゲームです。“ドクトリン(原則、教義、教え)”という言葉は、あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、政治や外交、軍事の世界でしはしば使われる「戦略的な基本原則」というような意味も持っています。“ミサイルドクトリン”とか、“ショックドクトリン”とかが有名ですね。
――では、このゲームのタイトルは“自然のドクトリン”という意味なのですね。
田中 そうですね。このゲームの世界には人間やさまざまな亜人種がいて、それぞれの考え方、それぞれのドクトリンがあります。そして、“自然”のドクトリンも存在しています。
――そのような世界を舞台に、SRPGを作ろうと思った理由を教えてください。
田中 SRPGって、ロールプレイングの楽しさやワクワク感という“情”の部分と、シミュレーションゲームの“考える、攻略していく”という知の遊びが組み合わさった、ものすごく素敵なジャンルだと思うんです。とくに、日本のコンシューマーゲームにおいては、すばらしい先達のクリエイターが、本当にすばらしいSRPGを創られています。プレイしていてワクワクするし、どんどん先に進みたくなるし、カンタンには進めないような手ごたえもあるけれど、その苦しみも含めておもしろい。そんなSRPGを、従来のものとそのまま同じシステムではなく、少し進化した、または少し変わった形で作りたいと思ってトライしているのが、この『ナチュラル ドクトリン』なんです。
――これまでのSRPGのよさを取り入れつつ、さらに先を目指す、と。
田中 SRPGのスタンダードになっているタイトルは、システムの面ですごく冒険、挑戦しているものだったり、あるシステムとあるシステムを組み合わせて、さらに高いレベルのものを作り出しているものだったりします。僕らは、そのようなSRPGの違う形のスタンダードの原型になるものに挑戦したい、SRPGの新しいステップを目指したいと思って、チームの仲間たちと『ナチュラル ドクトリン』を一生懸命作っています。もちろん、先達たちのすばらしいゲームに近づくことは難しいことだと思うのですが……一歩でも二歩でも近づけたらいいなと思っています。
――では、新たなスタンダードを目指す『ナチュラル ドクトリン』では、具体的にはどのようなシステムを採用しているのですか?
田中 従来流通しているシステムのまま、ストーリーやキャラクターを変えたタイトルでは、もちろんありません。ゲームの進めかた、戦場の捉えかた、戦術の組み立てかたを含めて、SRPGとして少し新しい取り組みができればいいな、と思っています。たとえば視点については、TPS(三人称視点シューティング)視点と、2種類の俯瞰視点を切り換えてプレイするというシステムを採用しています。戦闘はターン制ですが、空間的にも時系列的にも、ちょっと新しい仕掛けを準備しています。
――多彩なクリエイターの皆さんが開発に参加されていることも、本作の特徴ですよね。たとえば、キャラクターデザインは、アニメーションスタジオufotableの碇谷 敦さんが担当されていますが。
田中 SRPGは、登場するユニットも魅力のひとつですよね。『ナチュラル ドクトリン』の戦場の空間は、ある種のジオラマゲームのような雰囲気になってるんです。昔、欧米のホビー好きな人が作っていたような。しっかりとしたジオラマの中にフィギュアを置いて、物差しで距離を測って、弓矢が当たるかどうかの判定を行うような。そんなジオラマを、そのままコンシューマーゲームに持ってきた作りにしています。その中にいるユニットに、キャラクターの息吹というかエネルギーを与えたくて、ufotableの近藤さん(※ufotable代表の近藤 光氏)にキャラクターデザインについて相談したところ、碇谷さんをご紹介いただいたんです。
――碇谷さんは、どのようにキャラクターをデザインしていったのでしょうか。
田中 碇谷さんは、アニメーションの世界ではとても有名な方ですが、キャラクターを組み立てることに対してすごく真剣な情熱を注いでくれる方です。たとえば、僕らが「(キャラクターが持っている)右手の剣の形、ここだけ変えてくれませんか」と言うと、碇谷さんは「わかりました」と言って、全部描き直しちゃう。剣だけ変えるのでは、碇谷さんの世界の中でのバランスが失われるんですよね。それぐらい、キャラクターに命を吹き込むことに真剣な方です。『ナチュラル ドクトリン』のジオラマフィギュアの世界に生きる、生き生きとしたキャラクターをイメージさせることができたのは、碇谷さんのおかげだと思っていますし、相談に乗ってくださったufotableの近藤さんたちにも、とても感謝してます。
――そのジオラマの世界を彩る音楽は、朝倉紀行さんが手掛けていらっしゃいますね。
田中 朝倉さんは、テレビドラマの劇伴などで活躍されてる方なんですけど、以前から「ファンタジーのゲームの世界で作ってみたい」とおっしゃっていて。そのとき考えていた『ナチュラル ドクトリン』の世界観をちょっとお話したら、「ぜひ、やりたいぞ!」と言ってくださったんです。いまでも覚えているエピソードなんですが……このプロジェクトを立ち上げるとき、安田(※角川ゲームス代表取締役社長 安田善巳氏)から「ゲーム曲を、プロトタイプとして挙げてくれないか」というリクエストがあって、朝倉さんに制作をお願いした時に、「じゃあちょっと、その世界観、目指すところをテキストで書いてくれないか」と言われて。それで私は夜中の2時ぐらいに、テキストでガーッと「こういう世界です!」書いて送ったんですね。舞台がこうなってて、こういう世界感で、若さ、野望、政治、戦い、恐怖、死、そして希望の光が~みたいな、後で見るとかなり恥ずかしい散文みたいな長文を書いたんです(笑)。そのときはテンションが高いので、ものすごい勢いで書いてるんですが、朝見ると、「なんていう文章を人に送っているんだ……」っていう、正体不明の文章なんですけど。それを読んでくれた朝倉さんが、「よくわかった! やってみる」かなり短い時間でプロトタイプの素敵な曲を作ってくれて、安田に聴いてもらうと「この世界観、すごく魅力的なんじゃない。ぜひやってみたら」と言ってくれて。その曲は、『ナチュラル ドクトリン』のキーのテーマになりました。
――『ナチュラル ドクトリン』のプロジェクトスタートの決め手となった曲、ということですね。
田中 碇谷さんも、近藤さんも、朝倉さんも、僕を中心にというより、『ナチュラル ドクトリン』という世界を中心に集まってくれたんです。皆さんのプロのクリエイティブの力を集結させて、独特な空間と世界を作りたいと思っています。それから、今回、作品創りの主力として大きなパートナーになってくださっている、ディレクターの飯さんについてもお話しさせてください。
――飯さんは『パタポン』などでディレクターを務めた方ですね。
田中 飯さんも、すごくこだわりのある職人のディレクターです。本作の主力オブ主力のメンバーです。強いこだわりと情熱をもって制作にあたったので、『ナチュラル ドクトリン』の打ち合わせをしていると、私も飯さんも、「ここはぜったいに譲れない」とお互いだんだん声か大きくなり、みんなが心配するんです。おもしろい世界を作ろう、いま世の中にない何かを作ろうと、お互い「ギャー!」って言い合うんですけど、15分後には笑い合って、同じ方向に進んでたりするんですよね。角川ゲームスのスタッフからは、「ちょっとおかしな人たちですね」って言われてるんてすけど(笑)。飯さんとその仲間たちが紡ぎあげてくれる“ゲーム”……『ナチュラル ドクトリン』は、そういうさまざまな職人、物作りの人たちが集まって、それぞれの引き出しを出して作っている。プロジェクト立ち上げ時に思い描いた、新しい到達点にいたっているかというと、それはまだわかりませんが、そういうところに一歩でも二歩でも近付いて仕上げたものをお送りしたいと思っています。
時と場所を選ばずに、SRPGの世界を楽しむ
――本格SRPGである『ナチュラル ドクトリン』を、PS Vita、PS3、PS4という3つのプラットフォームでリリースしようと思った理由を教えてください。
田中 シミュレーションゲームないしはSRPGが好きな、すべてのプレイステーションユーザーに手に取ってもらえたらいいなと思いまして。PS Vita、PS3、そして最新のPS4。すべてのプラットフォームについて、それぞれの持ち味を活かした楽しみかたをしていただけたらいいなと思って、がんばって準備しています。
――異機種間でのクロスプレイやクロスセーブには対応しているのでしょうか?
田中 『ナチュラル ドクトリン』では、ストーリーを自分自身で追っていく“シングルモード”と、自分のユーザースキルを活用してほかのプレイヤーと対戦できる“マルチモード”、ふたつの遊びが楽しめます。マルチモードは、クロスプレイが可能です。もちろん、クロスセーブにも対応しています。据え置き機で歯ごたえのあるところを攻略しているときに、外出する時間がきてしまったら、PS Vitaを握って飛び出していただければと思って準備しています。
――PS Vitaダウンロード版と、PS4版がセットになった、期間限定の“おもちだしパック”も発売されますね。
田中 おもちだしパックは、PS4の発売を記念して作った、とてもリーズナブルなパッケージです。家ではPS4でビシッとやり込んで、外にはPS Vitaを持ち出して、シームレスに『ナチュラル ドクトリン』の世界を楽しんでもらえたらうれしいです。
――先ほど、マルチモードはクロスプレイに対応しているとおっしゃっていましたが、詳細を教えていただけますか?
田中 『ナチュラル ドクトリン』にとって、オンラインはすごくキーとなるポイントなんです。「オンラインがキー」なんて、現在はある種当たり前ですので、「は?」と思われるかもしれないんですけれど。SRPGの楽しみかたとして、自分でどんどん攻略していってストーリーを追う、というのはもちろんあるんですけど、それとは別に、オンラインを前提とした強力なマルチモードを楽しんでいただけます。それがこのゲームの魅力の半分を占める、とじつは思っているほどです。オンラインを通して、ほかのユーザーと協力して強力な敵を倒すプレイも楽しめますし、ユーザーどうしで競い合う、お互いに磨いた戦術をぶつけ合う楽しみも実装しています。PS4、PS3、PSVitaと、異機種間でクロスプレイができる、統合的な環境を実現したいと思っています。
PS4が持つパワーと可能性
――PS4の高いスペックは、『ナチュラル ドクトリン』の開発に、どのように貢献していますか?
田中 オンラインを前提としたハード設計は、SRPGの楽しみかたにも、新たな可能性、ステージを作ってくれてるんじゃないかなと思っています。逆に、その圧倒的なマシンパワーのすべてを使い切るのは難しいのですが、『ナチュラル ドクトリン』でも、ジオラマ空間内の動的な被写界深度の演出や、オンラインにおけるSRPGのマルチプレイの楽しさを、PS4のパワーや設計を使いながらお届けできればいいなと思っています。
――グラフィックの表現についてはいかがでしょう?
田中 PS4は、ものすごいマシンパワーがありますから、表現能力は当然豊かです。その表現能力に追随していくためには、リソースへの開発投資が必要なんですけど。きっとこれから、グラフィックがすばらしいタイトルがいくつも出てくると思うのですが、『ナチュラル ドクトリン』はそういう方向ではなく、PS4でもPS3でもPSVitaでも、それぞれの環境の中で、SRPGの世界そのものを楽しめるものとしてお届けしたいと思っています。従来のシステムとはちょっと異なるので、「なんじゃこりゃ?」と思われる方も多いかもしれませんが、そのような、新しい手触りの冒険を「こういったSRPGのアプローチもあるのか」と楽しんでいただければと思います。
――PS4というハードの、どんなところにいちばん可能性を感じますか?
田中 “ゲームを楽しむ”という純粋でストレートな気持ちを、塊としてギュッと具現化してくれたものが、PS4だと思っています。その塊が、PS4という形でこの世の中に出ること自体が、まずすごくうれしい。元気の源ですよね。僕らも、ゲームを楽しむというエネルギーの一粒になりたいな、と思ってゲームを作っています。エネルギーの核、マーケットの核であるPS4には、大きな可能性が拡がっていると思います。
田中氏が手掛けるもうひとつのタイトル、『艦これ改(仮題)』
――田中さんは、『ナチュラル ドクトリン』のほかに、PS Vitaで『艦これ改(仮題)』の開発も進められていますね。このタイトルが気になっているゲームファンも多いと思いますが……。
田中 正直に申し上げて、我々『艦これ』開発/運営は、ブラウザゲームの『艦これ』の対応のため、年末も正月もクリスマスもなかったんです(笑)。生きてるタイトルなんですね、『艦これ』って。だから、望んでくれている方がいる限りは、この苦しさと楽しさを全力で駆け抜けていくしかないと思っています。提督の皆さん(プレイヤーのこと)が5万人だったときと、50万人だったときと、100万人だったときでは、ゲームの軸は変わりませんが、ほかのいろいろな要素やバランスは少しずつ変化していく部分もあると思います。ですので、『艦これ改(仮題)』も、プロジェクトを起案したときに考えていたものと、いま準備しようと思っているものは、少し変わってきました。
――『艦これ』の形が変わっていくのに合わせて、『艦これ改』の形も変わっていく、と。
田中 『艦これ改』自体はパッケージソフトですから、ある種、“静的”な存在になります。僕たちとしては、『艦これ改』が“静的”であることを、いい意味で活かしていきたいと試行錯誤しています。アニメの『艦これ』の準備も進んでいて、『艦これ改』と合わせて、いい流れができると思います。難題いっぱいなんですが(笑)。
――『艦これ改』は、『艦これ』のような基本無料のゲームではなく、お店で買える、パッケージソフトとして展開するのですね。
田中 はい。ブラウザゲームの『艦これ』は、本当にありがたいことに提督の皆さんにご支援をいただいていて、現状サービスを続けていられます。『艦これ改』は、パッケージに対してお金を払ってくださった方にお渡しするものなので、『艦これ』とは立ち位置が違いますが、その温度感を一歩ずつ確かめながら形にしたいと思っています。
――いつごろ遊べるのか、気になりますが……。
田中 今後の発表をお待ちください。ブラウザ版とそこはかとなく共通項もありますので、ブラウザ版をプレイされている方も、作りかたやチームは違いますが『ナチュラル ドクトリン』を手にとっていただいた方も、楽しみにお持ちいただければと思います。
――『ナチュラル ドクトリン』の発売も、『艦これ改』の続報も、楽しみにしています。それでは最後に、ゲームファンにひと言お願いします。
田中 『ナチュラル ドクトリン』には、このプロジェクトに参加してくれたスタッフみんなの想いが詰まっています。そういった想いのひとかけらでも、皆さんに届いたらうれしいですし、今後のゲームの楽しみかたや、いろんなことのヒントやきっかけになったらいいなと思います。『ナチュラル ドクトリン』の存在を通して、「俺だったら、SRPGはこう作るな!」と、つぎの形のSRPGが出てきたら、本当にそれは楽しみなことですし、自分もその新しい形のSRPGをたくさんやりたいですね。いろんな人が、新しいSRPGを模索してくれるひとつの取っ掛りになれたらうれしいです。いままでのSRPGとちょっと手触りの違う『ナチュラル ドクトリン』、ご興味のある方は、ぜひ手にとっていただければと思います。