フィギュアも3Dキャラクターも、大事なのはゴールをイメージするキャラへの愛? デジタルとアナログのキャラクター造形のプロによる対談をリポート【CEDEC 2013】_01

 2013年8月22日、パシフィコ横浜で、ゲーム開発者向けの技術カンファレンス“CEDEC 2013”の2日目が行われた。ここではその中から、“デジタルxアナログ対談 魅力的なキャラクター立体表現ができるまで”の模様をお届けする。

 登壇したのは、フィギュア原型などを手掛ける造形作家の石長櫻子氏(植物少女園)、アトリエシリーズをはじめ、『ゴッドイーター2』、『ロボティクス・ノーツ』、『シェルノサージュ』などで3Dキャラクターの制作を手掛けるフライトユニットの松本浩幸代表、そして立体物の複製などを行うRCベルグで企画開発を担当する望月卓氏。タイトルの通り、デジタル(松本氏)とアナログ(石長、望月両氏)のキャラクターの立体表現のプロによる、こだわりなどが明かされた。

デジタルとアナログ――ゴールとなるイメージを見つける力

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 冒頭ではまず、グッドスマイルカンパニーから発売予定の“初音ミク 深海少女ver.”を例に、石長氏の製作工程が解説された。
 素材には石粉粘土“ニューファンド”を使い、加工には、デザインカッターや彫刻刀、そして竹ひごを削ったものなどを使用。メーカーに写真をメールで送ってチェックしてもらいながら、おおまかな空間構成から始まり、次第に細部へと作り込んでいくそう。

 空間構成を重視しているのは、要素の配置そのものが変わるような大きな変更が効かないからだそうで、順序が前後してしまうが、後半部で松本氏が、(大胆な変形が効くため)「いつまでも触れてしまう」ことをデジタルモデルの制作の問題として挙げていたのと対称的だ。
 実際、ゴールを見失っていつまでも弄ってしまうことがあるそうで、イラストやフィギュア制作の経験者を評価する理由として、こうした作業に慣れている人は、時間をかけて作業をした先のゴールを“見つける”(設定する)力を持っていると述べていた。

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▲アートクレイの石粉粘土“ニューファンド”を使って、元絵からイメージを決めてまずは素体を作っていく。
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▲デジタルと違い大きな変更が効かないので、空間構成を重視。おおまかな配置からスタートし、チェックを重ねながら細かい部分へと移っていく。
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▲形が出来上がっても、まだ完成ではない。パーツ分解と表面処理がとても重要。組み立てて彩色すると原型の出来上がり。(この段のみ別のフィギュアでの資料写真)

イラストレーターの特徴を活かして形にするには「まず仕様に縛られない」

 フライトユニットはイラストタッチのキャラクター表現がよく知られている。ベースとなるイラストレーターの設定画があることも多いわけだが、意外にもそれを立体化していくにあたっては「まず仕様に縛られない」のだという。
 それはキャラクターとしての魅力の点で「設定画は一番イケている絵ではない」とのことで、そのイメージそのものに引き摺られず、三面図などよりも、NGテイクの絵や、完成以前のラフ画から手癖を分析したり、表情パターンなどを落書きレベルでも構わずもらってそのキャラクターの特徴をつかむことを重視しているとのこと。

 その上でまずはそのキャラクターの魅力を詰め込んだモデルを作ってプレゼンし、それをゴールとして共有して進めていくそうで、一見遠回りな感じもするが、「あえてムダなことをやるのもテーマ」と松本氏。
 ゲームメーカーから発注される立場としては、フライトユニットと組めばいいキャラクターができ、いい結果に繋がるということになるのが大事なわけで、そのためには、広報素材に使える画像を出すのに便利なツールを用意してキャラクターの魅力が広報活動で発揮されるのを狙ったりもするというのがスゴい。

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▲ゲームエンジンのUnityを利用したビューワー。モデルとシェーダーを読み込んで表示しているので、回転させたりポーズを呼び出すこともできる。
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▲こういったツールを使い、実機以上の解像度で雑誌の誌面用などの画像データを用意している。完全に編集の行動原理を読まれているが、こういうズバッと決まった高解像度のキャラ絵(しかも背景が乗っていないもの)があると、自然と燃える人種なんです、俺達は。印刷には微妙な解像度の実機スクリーンショットとアートワークしかないことも多いので、イケてる素材があったりすると凝ったレイアウトを頑張っちゃったり、もう載せるところがなくても、インタビューの背景に敷いてゴージャスにしたりする。

 石長氏も、元イラストがある仕事の場合、「資料に近づけよう近づけようとすると頭にある印象と離れてしまうことが多い」そうで、元イラストをパッと見た時の第一印象やイメージ、雰囲気などを大事にしているそう。
 デジタルでもアナログでも、2次元のイラストなどからその魅力を維持して立体化するというのは、単なる“再現”ではない、元イメージのリミックスのようなクリエイティブな感性の働きが必要なのだろう。

作業ではなく、キャラクターを好きになることで立体に命が吹き込まれる

 では、元のイメージからゴールとなる立体のイメージを導いていくのに重要なのは? 石長氏は、松本氏が語っていたのと同様、元イメージ以外の絵も入手してポイントを掴み、そのイラストレーターの仕事や、キャラクターを好きになることで、「一番いい状態」が引き出せるという。
 これは望月氏も同様で、「ガールズ&パンツァー」のフィギュアを企画する前に、まず自分自身が原作を好きになって、戦車模型を作っていたんだとか。そういったところから企画を立てるといいものになると語っていた。

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▲望月氏がディレクションしたガルパンの1/35フィギュア。かわいいんですが、それよりすごいのは……。
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▲このサイズですよこのサイズ……。しかも瞳デカールを貼るために髪がちゃんとパーツになってて外せる。スケールに合わせた調整も必要で、例えば1/8のものをそのまま縮小しても頭が大きくヘルメットのように見えるそう。等身を若干上げたり、彫りが深い部分が皺のように見えないよう凹凸を減らしたりしている。

 ちなみに、元イメージと作家としての個性とのバランスについては、石長氏も望月氏も試行錯誤を繰り返しているとのこと。

 質疑応答では「3Dデザイナーの個性とは何か?」という質問もあった。例えば“ジョジョ立ち”を再現するとして、破綻している部分を修正していくと、誰がやっても似たようなものになっていってしまいがちという問題だ。
 松本氏は「人の気持ちがキャラクターや顔にあらわれる」と述べ、“作業”ではなく「キャラクターを作っているんだ」という思いが違いを生み出すのではないかと回答。石長氏は、同じポーズ、同じ脚でも、自分がどういうラインを出したいかといった部分にこだわりが表れてくると語っていた。

 キャラクターへの愛情がグッとくる立体を生み出す、と言ってしまうと当たり前かもしれないが、デジタルとアナログ、それぞれ異なっているようで、芯となる部分が結構似ているのが興味深い対談だった。(取材、写真、文:ミル☆吉村)

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▲本論にうまく組み込めなかったのだが、ベルグでの複製の工程。
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▲左側が石長氏の商業作品で、右側が植物少女園オリジナルのもの。テイストはかなり違う。
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▲量産品では彩色のことなども考えて彫りの深さなどを調整するという。手で全部彩色するわけではないので、彫りが深いと色を乗せにくくなるからだ。