『ドラゴンクエストX』で、MMOというジャンルを本当にメジャーにしたい

 スクウェア・エニックスから『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』(以下、『DQX』)のWindows OS版(以下、PC版)が2013年9月26日に発売されることが発表され、業界に大きな衝撃を与えた(⇒関連記事はこちら)。あの国民的RPGがPC版でも発売されるにいたった真意とは?スクウェア・エニックスのエグゼクティブ・プロデューサーを務める三宅有氏とプロデューサーの齊藤陽介氏に訊いた。
※このインタビューは、週刊ファミ通2013年7月25日増刊号(2013年7月11日発売)で掲載した記事の完全版となります。

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『DQX』エグゼクティブ・プロデューサー 三宅有氏(左)
『DQX』 プロデューサー 齊藤陽介氏(右)

PC版のリリースは当初からの流れだった

――今回の『DQX』PC版発売決定のアナウンスには驚きました。

齊藤 驚かれた方も多かったと思いますが、『DQX』の開発がスタートした当初から、「PC版もリリースしよう」という想定で動いていたんです。いちばん大きな理由としては、ネットワークにつながっているプラットフォームというときに、極めてシンプルに「やっぱりPCでしょう」という発想がありました。あとは、いまは一家に1台PCがあるような時代ですし、『ドラゴンクエスト』で育った世代は、PCに対しては当たり前のように触れているので、あまり違和感はないだろうとの判断もありましたね。その点、堀井(雄二)さんもPCで出すことに抵抗はなかったと思います。

三宅 『DQ』シリーズは、いちばん普及しているハードでリリースするという方針からすると、PCは合致していますね(笑)。

齊藤 ひと言でPCと言っても、いろいろ種類があるんですよ。OSのバージョンもピンキリですし、どんなソフトが入っているかによっても微妙に影響を受ける。現在、ベータテストを実施中ですが、思わぬ問題が持ち上がってきていたりもしています。お客様の使用環境を最大限に網羅するというのは、開発もたいへんなのですが、『DQX』のお客様の幅を広げるという意味では、ありがたい話ですし、ぜひともクリアーしていきたいです。

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三宅 シリーズ全体の話をさせていただきますと、『DQVIII』、『DQIX』、『DQX』とシリーズを重ねていく中で、パッケージソフトを作ってひとつのプラットフォーム独占で提供するというビジネスモデルが難しくなってきていたんです。お客様のプレイスタイルや好みが細分化されて、ひとつのハードに決められないという状況になってきた。もうひとつは、本編でふさわしいものを作るための開発コストを回収できるビジネススキームが、従来までのビジネスモデルだときびしくなっているという時代の流れもありました。売り切りのパッケージソフトだけではない、新しいビジネスモデルを構築しないといけない。それで、『DQX』はMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)でいくとなったときに、月額課金でやろう、ということになりました。まずはどなたでも安心して遊べる家庭用ゲーム機を主軸に置いて、その後で徐々にプラットフォームを増やしていこうという方針だったんです。

齊藤 ちょうど、MiiverseがPCやスマートフォンで閲覧可能になったりして、家庭用ゲーム機のサービスにおいても、クロスプラットフォームというのは、時代の流れになってきていると思います。その点、任天堂さんもご理解があって、『DQX』では、Wii版、Wii U版とPC版を同じサーバーにすることをご快諾いただきました。別サーバーにすると、“すぐにいっしょに遊べる”というコンセプトから外れることになるので、それだけは絶対に避けたいということは、開発スタッフの希望でした。

三宅 今回のPC版に関しては、時期を見極めていたというところはあります。ひと昔前だったら、PCでゲームを遊ぶことはすごくハードルが高かったと思うのですが、徐々に、家庭にあるふつうのノートPCで、フリー・トゥ・プレイやブラウザゲームなどを遊ぶようになってきた。もちろん、『DQX』もふつうのノートPCで動くように開発してきましたので、「いまならば」という感じですね。そういった意味では、『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)のPC版が出たときの状況とは、少し意味合いが違うと思います。いまの時点では技術的に難しいのですが、将来的にはクラウドということもあるでしょうし、スマートフォンでの展開もありえるでしょう。いろいろな好みやライフスタイルのユーザーの皆様が、“同じ世界で遊ぶ”というのを最終目標にしていて、PC版はその途中経過ではあります。

――発表されてみて、ユーザーの方からのリアクションはどのような感じですか?

三宅 この前の発表は、あくまで『DQX』の番組の生放送中でのアナウンスだったので、番組をご覧になった『DQX』のお客様のあいだでおもに情報が拡散しているという感じで、私たちが今回Windowsでターゲットにしているお客様にはまだ十分には情報が届いていない状況だと思います。実際に体験していただける機会として、今回ベータテストを始めたのですが、受け入れ体制などはまだまだこれからの部分もありまして、ここから9月に向けて、徐々に露出の機会を増やしていけたらと思っています。

齊藤 PC版を希望されていたお客様からの反応はすごくよかったですね。あとは、プレゼンテーションのやりかたもあったのかもしれませんが、Surface PROでデモプレイを披露したことで、「あれだけ小型のPCだったら外でも遊べる!」と思われた方も多かったみたいです。

――出張にWiiを持ち歩くくらい、『DQX』には熱心なファンが多いですからね。

齊藤 いまのところは、WiiやWii Uでいま遊んでいるお客様の「PCならこういうふうに遊べるんだ」という反応のほうが大きいですね。まだ遊んでいない方たちに対してのアプローチはこれからです。

――PC版を遊んでほしい層に対しての展開はこれから?

三宅 そうですね。PCゲームユーザーの嗜好を踏まえて、“情報を知ってからすぐに遊べる”という準備が整い告知したいと思っています。

――3990円[税込]という価格にも驚きました。

三宅 お客様にも、価格は「安い」と言っていただけてうれしかったです。何と言っても『DQX』は1年前に出たソフトなので、どういうふうにお客様が反応されるか、ドキドキしていたんですよ。

――課金の形態を変えないのも、ひとつの決断ですね。ともすると、PC版は料金体系を変えるという判断もあったかと思うのですが。

齊藤 もしニーズがあれば、ゲームの進行には関係のないおしゃれ装備や乗り物系などを有料で提供する……といったことはありかと思いますが、そういったところにこだわらない人には、30日間1000円で遊び放題というところは崩したくなかったんです。たくさんの方に安心して遊んでいただきたいですね。

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▲Windows版『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』は、2013年9月26日発売予定。価格は通常版が3990円[税込]、さまざまな特典が同梱された『スペシャルパック』が9800円[税込]となっている。月額1000円[税込]の利用料金のみで遊び放題だ。

居心地のいい場所としてファンに親しんでもらいたい

――PC版のリリースによって、サービスをさらに充実させていくこともお考えですか?

齊藤 利用してくださる方が増えれば、という前提ですが、ずっと言い続けている“セカンドパッケージ”も含めて、開発体制の強化や運営の強化は、継続して取り組んでいきます。お客様に満足していただけるようにがんばります。

三宅 PC版で初めて『DQX』を遊ばれるお客様にもご満足いただきたいと思っているので、しっかりと取り組んでいきたいですね。PC版の発売と同タイミングで、新しく入ってくるお客様に対する仕掛けも考えています。いずれにせよ、Wii版のサービス開始当初と比べると、これまで遊んでいただいた多数のプレイヤーの皆様のご意見が反映されていますので、いまから始めるほうが、ゲームバランスや仕様など、随分と遊びやすくなっていると思います。

――PC版のリリースで、ファンのあいだには、「チートやボットなどの不正利用が増えるのでは?」といった懸念も出ていますが……。

齊藤 そこは、これまで以上に本気で戦います。

三宅 運営の姿勢としては、不正利用は絶対に許しません。ビジネス云々は関係なしに、毅然とした態度で取り組んでいきます。

齊藤 RMT対策に関しては定期的に状況をお客様に公表しています。一方で、『DQX』に関しては、ほかのMMOよりも初心者が多いので、ほかのMMOでは明らかに不正行為と認識されているものも、それが善なのか、悪なのか、わからないお客様が多いのも事実です。そこはちゃんと啓蒙していかないといけないな、という認識はあります。そのひとつの取り組みが、自衛策としての“ワンタイムパスワード”だったりします(⇒詳細はこちら)。スタッフとは、「わかりやすい取り組みを定期的に実施していかないといけないね」という話はしています。そこは、PC版で幅広いユーザーさんが入ってくるタイミングでちゃんとやらないといけないと思っていますね。

――PC版に関しては、海外も視野に?

三宅 もちろんです。ただ、海外市場に関しては、『ドラゴンクエスト』らしい運営という点において、国ごとに常識や遊びかたも違うので、『FFXI』のようにワールドワイドでひとつのゲーム、といった方法は取れないと思っています。

齊藤 これは私見ですが、国によってゲームを消費するスピードも違うし、コミュニティーの運営の方法も違う。単純に、季節ごとのイベントも何を楽しんでもらえるかも違いますので、国ごと、地域ごとに運営すべきだと思っています。そう考えて、国ごとにサーバーは別にするように考えています。

――同じMMOとして、スクウェア・エニックスには『FFXI』や『FFXIV』がありますが、どのように棲み分けをされているのですか?

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齊藤 あまり考えていないです(笑)。私がいろいろなMMOを見てきた中で、『DQX』は初めてMMOを遊ぶ入り口として最適のタイトルだと思っています。『FFXI』には、脈々とした歴史の中で、誰がどう考えても勝てないような豊富な量のコンテンツがあり、『FFXIV』には、ユーザーインターフェース(UI)ひとつとっても、コアゲーマーに訴求できるものがある。そんな中で『DQX』のUIは、パッと見で情報量が少ないぶん、ファーストタッチの使い勝手がいい。ざっくりとそういった棲み分けになるかと。実際、私は『ドラゴンクエスト』こそが日本において、MMOというジャンルをさらにメジャーなものにできる最後のブランドだと思っています。そのときに、横に大きく広げていこうと思ったら、PCというプラットフォームはベストチョイスだったのではないかと思っています。

三宅 いまやPCは、いちばん手軽に試していただけるプラットフォームですよね。ゲーム機だと、どうしても能動的に「ゲームを遊ぶんだ!」という態度が求められるのですが、PCだと「ちょっと暇なときに遊んでみるか」という軽い気持ちでプレイできる。お客様が気軽に遊べるという意味で、PC版は当然の展開でした。

――なるほど。最終的に『DQX』 が目指している方向を教えていただけますか?

齊藤 最終的には、『ドラゴンクエスト』好きな人が集まる場所にできればいいなと思っています。新しいお話が追加されて、ボスを倒して……という追加のシナリオが入るのは、当然今後も必要なのですが、そればかりでなく、『ドラゴンクエスト』が好きな人たちが居心地のいい場所として続けていけることを目指しています。そして、何よりも大切なのは、継続すること。今後、シリーズは『DQXI』、『DQXII』と続いていくでしょう。でも、それと並行して『DQX』も続いてほしい。『DQX』の中で、『DQXI』、『DQXII』の話ができる世界を作りたい。『DQX』は、10年でも20年でも継続させたいと思っています。

三宅 PC版の発表時に、藤澤(藤澤仁氏・『DQX』ディレクター)が言っていましたが、これまでのシリーズって、4~5年に1回しか遊べなかったんですね。それに対し、“いつでも毎日遊べる『ドラゴンクエスト』”を提供したい。それこそが、そもそも『DQX』でやりたいことなんです。いつでも新しい『ドラゴンクエスト』本編が楽しめるという場を維持していくことは、大事だと思っています。プレイ人口的には、まだまだいままでのナンバリングタイトルの規模まで達していないので、そこまで持っていくようにがんばりたいです。

齊藤 1 作目のファミコン版『ドラゴンクエスト』は、出荷本数が150万本だったんですね。しかも発売後すぐにヒットしたわけではなく、ジワジワと売れていき、最終的にはRPGというジャンルを国内に浸透させたわけです。『DQX』でも、1作目のような広がりかたを目標にしたいと思っています。さきほど言ったように『DQX』では、MMOというジャンルを本当にメジャーにするという目標を立てているのですが、150万本がひとつの基準になるのではないかと考えています。

――PC版のリリースで、『DQX』 もさらに盛り上がりそうですね。

齊藤 『DQX』は、「こんなに当事者たちが遊んでいるシリーズタイトルはないんじゃないかな?」と思うくらい、開発スタッフが遊んでいるゲームです。堀井さんも、シリーズでいちばん長い時間を遊んでいるタイトルなんじゃないですかね? そういった意味でも、これから始めようと思っていらっしゃる方は、ぜひ安心して遊んでいただきたいです。真っ向からオンラインと銘打ったために、食わず嫌いの方もいるかと思うのですが、騙されたと思って遊んでみてください。けっして、後悔はさせませんから!

 ただいまスクウェア・エニックスでは、Windows版『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』のベータテストを実施中だ。ベータテストフェーズ1.0は、2013年7月10日をもって終了したが、来たる2013年7月26日から、フェーズ1.1が開始予定となっている。気になる人は、フェーズ1.1の開始を待って、プレイしてみることをオススメしたい。ベータテストは、ベンチマークを実施することで登録可能になる(⇒ベンチマークソフトのダウンロードはこちらから)。