「後で買う」なら今買った方がいいですよ……。

[海外ゲームニュース]元小島プロダクションのライアン・ペイトンと、1万人の出資者が起こした奇跡_01

 CamouflajとLoganが、開発中の新作『Republique』をPCとMac版の開発を行うことを発表した。

 本作は、『メタルギア ソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』や『Halo 4』の開発に関わったライアン・ペイトン氏が独立して開発中のタイトル。ゲームの詳細な内容はファミ通appがライアンに直接取材してきた記事を見ていただくとして、かつてなくハイクオリティなiOSゲームとしてのリリースを目指していたところ、今回新たにPCとMacが対応プラットフォームとして加わった。PC版/Mac版は単なる移植ではなく、新たなゲームプレイや操作方法を考慮した専用のバージョンになるという。

 本作はクラウドファンディング(一般の人が出資する)サービスのKickStarterを利用して出資者を求めているのだが、KickStarterは当初設定した目標をクリアーしないと実際に出資が行われない。2500人以上の出資者を集めてはいたのだが、目標の50万ドルには遠く、残り日数から考えるとやや厳しい状態だった。今回のPC版とMac版の対応発表により、まずは10万ドルをクリアー。このまま一気に前進することを期待したい。

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 というのも記者は60ドル出資していたんですが、スマートフォンはAndroidしか持ってないんですよね……。つまりこれまでは、リリースされても実際は遊べないのに、ライアンの語る構想に共感して出資していたワケ。今回PC版が追加されたので、先程PC版もゲットするために10ドル追加で出資完了。

 ここにKickStarterのいいところと悪いところが出ている。クラウドファンディングのいいところは、多くの共感を集めさえすれば、高いスーツを着て今晩のワインのことを考えている大手パブリッシャーのヒトを無理やり説得しなくてもいいことだ。
 「マルチプレイがないとダメなんじゃないの? つけようよ」とか言われて「はい……。(えぇぇ、このゲームに無理やりフッツーのマルチくっつけるとかサイテーでしょ。開発費食うし)」と苦笑いする必要もないし、「俺はコレが作りたいんだ!」と思っているモノに「マイナーすぎるから、それよりももっと多くの人にウケるようなものをだね」とお説教されることもない。

 たとえばティム・シェーファーとロン・ギルバートの進めているプロジェクト。ふたりともアメリカで超有名な開発者だが、最新バリバリのFPSとかを作るタイプではない。そして彼らがやりたいのは、自分たちの輝けるルーツであるアドベンチャーゲームをふたたび手掛けることなのだ。
 しかし大手パブリッシャーに、“俺ことティム・シェーファーとロンのアドベンチャーゲーム”の企画書を持って行って通るだろうか? 下手したら自分よりひと回り若いマーケティング屋に「おじさんさぁ、これ、100万本売れんの?」と言われてしまうだろう(そして多分、今の市場で100万本を狙うタイトルはティム・シェーファーとロン・ギルバートには向いていない)。
 そこでKickStarterだ。集まってきたのは8万7000人のファンで、合計出資額は333万ドル。50ドルのゲームは50ドルでしか売れないが、KickStarterはあくまで出資であり、出資額ごとにいろんなおまけがつく。もしかしたら「ティムとロンとランチを食べられて、原画もらえて、アーティストに自画像を描いてもらえて、ゲーム本体その他もろもろもついてきて1万ドル? 超安いじゃん! 俺のヒーローに投資で儲けた金を払うぜ!」と飛びつく超金持ちのファンがいるかもしれないし、「俺はゲーム本体しかいらないけど、ティムとロンのためなら、この1000ドルは惜しくないぜ……」と業界の大物が払ってくれるかもしれない。

 ブライアン・ファーゴ率いるinXileの『Wasteland 2』もそうだ。かつてオリジナルの『Fallout』など多くの伝説的なゲームに関わったブライアン・ファーゴだが、ベセスダ・ソフトワークスと組んだ『Hunted』は決して悪くないゲームではあったものの、残念ながら成功しなかった。次に企画を出しても、もしかしたら通らないかもしれない。今回の企画ならなおさらだ。「終末感漂う荒廃した世界を舞台にした『Wasteland』の続編」と言っても、「おお、あれ!」とわかる人は何人いるだろうか? でも世界でたった6万人のファンが「オイ、これは俺のゲームだ! 昔スンゲー遊んだよ。もう有り金もってけ!」と興奮すれば、293万ドルが集まる(記者も65ドルを出資している)。

 これが100万人を対象にしなきゃいけなくなったら、まずオープンワールドかFPSにでもして、ベセスダの持ち物である『Fallout』との差別化を考えて、もしかしたらマルチプレイを考えて……とやってるうちにプロジェクトが肥大化して、200万本、300万本を考えなければいけないものになってしまう。となれば、ブライアン・ファーゴなりティム・シェーファーたちが持っているパンクさというのはどんどん削られていってしまうのだ。

 KickStarterでは、要は自分の描いたプランに対して十分な出資を集められさえすれば、何でもいい。これは先程言ったように、悪い点でもある。素人騙しもいいところのどうしようもないプロジェクトや、「こんなん本当に実現できんのかよ?」と疑うようなものだって集まるし、一般の人がイメージしにくいものは共感を得づらい。
 『Republique』が陥っている問題はここにある。ライアンは業界では有名だが固定ファンはまだ少なく(小島プロダクションのポッドキャストに出てたけど)、さらに新しすぎるものは共感を集めづらい。「家庭用ゲーム機クラスのものすごいスマートフォンゲーム」というアイデアは実現すればスゴいし、いずれブームになるかもしれないが、現在のスマートフォンゲームの市場は家庭用ゲーム機と比べるとまだカジュアルであり、『Republique』のようなアーティスティックでグラフィックがフォトリアリスティック(写実的)でハードコアというゲームは少ない。「そんなゲームがスマートフォンで? すげぇじゃん!」と理解してくれる人は、多分PCゲーマーであったりXbox 360やプレイステーション3のゲーマーなのだ。さて繰り返しになってしまうが、そのPCに対応したことで伸びてくれればいいのだが……。

 最後に「じゃあ俺も出資するぜ」という人のために方法を簡単に説明しておこう(多分本作に日本語版はないけど)。出資するには、KickStarterのアカウントと、Amazon.comのアカウントのふたつが必要。まずKickStarterのアカウントでログインし、目的のプロジェクトのページから“BACK THIS PROJECT”を押すと、出資用のページに移動する。
 出資は1ドルから可能だが、ゲームを手に入れられる金額は決まっているのでご注意あれ。『Republique』の場合は15ドルでiOS版、15ドルでPC/Mac版をもらえる権利が得られる。両方の場合は20ドル。あとは一定の金額ごとに得られるおまけが加わっていくので、説明をよく読んで選択すべし。記者が選んでいるのは“INTELLIGENTSIA EDITION+”で、これ自体は60ドルだが、国際発送が加わるので10ドルを足している。
 出資額を決めて欲しいプランを選んだら、CONTINUEを押して確定。するとAmazon.comへと移動する。Amazon.comでガイドに従ってクレジットカードでの支払いを確定させれば出資完了となる。KickStarterのページに戻って“YOU'RE A BACKER”と表示されていれば成功だ。というわけで「発売されたら買うかぁ」なんて思っている人がいたら、ぜひ今出資をですね……。