妥協しない制作体制を構築
2012年1月26日にニンテンドー3DSで発売された『バイオハザード リベレーションズ』。同作のプロデューサーである川田将央氏の自己紹介から講義は始まった。
「シリーズ1作目のような“怖い”バイオをもう一度作りたい」、そんな想いから始まったという『バイオハザード リベレーションズ』のプロジェクト。社内の『バイオ5』のスタッフが数多く関わり、チームに一貫していたのは、携帯ゲーム機向けだからといって妥協しないことだったという。
制作を大きく支えたのは、MT Framework Mobileと呼ばれるゲームエンジンだ。MT Frameworkとは、カプコンが自社のソフト開発のために使用しているゲームエンジンで、MT Framework Mobileは携帯ゲーム機向け専用のエンジンということになる。今回、『バイオハザード リベレーションズ』は、外部の制作会社に制作委託という形を取り、協調作業によってゲームを作っていった。その際、外部にもMT Framework Mobileを提供し、開発環境に統一を図ったというのだ。カプコンが責任を取るべきパートは積極的に制作に関わっていき、高い品質を保った効率的な開発ができたという。
制作中にチームが目をつけたのはライティング。ニンテンドー3DSの光源計算は非常に性能が高く、GPUによる処理も行えるため、負荷も低い、と川田氏。小さなボディながら、リッチな計算ができているとアピールした。ゲーム中では、複数の光源によってさまざまな光の演出が行われている。本作をプレイするときに、ライティングを気にかけてみると、またおもしろいだろう。
日本人の知恵を活かす
ゲームエンジンによって開発の効率化が図られる中で、そこから一歩先に進むために、日本人の知恵が大いに活かされたという。
その知恵のひとつは“幕の内弁当”。幕の内弁当はじつにバラエティーに富む。さまざまな要素が“適切に”詰め込まれ、パッケージングされている。いろいろなものを食べたいという人を満足させられる“凝縮の技術”は、日本人が得意とするところだと川田氏は言う。レイドモードに代表される、遊びの幅の広さを、川田氏は幕の内弁当とたとえたのだろう。
もうひとつは二毛作だ。二毛作とは、おなじ耕地で1年のうちに2種類の異なる作物を栽培すること。思い起こせば、『バイオハザード リベレーションズ』が発売される約半年前の2011年6月2日に『バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D』がリリースされている。この2作品は、基礎技術の研究は同じところからスタートしていたのだ。
基礎技術が固まった後、『バイオハザード リベレーションズ』のほうはシナリオを凝った作りにするということで、一度スタッフを『バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D』のほうへ集約。シナリオを作っているあいだに、『バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D』で技術的なノウハウを手に入れた。さらには、『バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D』に『バイオハザード リベレーションズ』の体験版を入れたことで、発売前にユーザーから直接的なフィードバックも得られ、『バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D』での不満点も併せてかなりの部分を修正できたという。
二毛作は、プロデューサーからの見地では非常にうまくいったが、タイトなスケジュールだったためか「開発の視線は冷たかった(笑)」と川田氏。制作期間などは見直す必要はあるが、非常に開発がうまくいった好例ではないかと語った。
これまでは、ゲーム開発の効率化と言えばゲームエンジンや管理ツールについて語られることが多かった。今回の制作事例は、共通の基礎技術から異なる作品を短期間でリリースできる秘策とも言える。今後のカプコンの開発力に注目だろう。