
都市伝説がテーマのミステリーアドベンチャー、怒涛のコンボが痛快なデッキ構築ローグライトと来て、『シュレディンガーズ・コール』はやさしさに包まれる感覚のノベルアドベンチャー。ただ、本作はパッと見てすぐに魅力が“わかりやすい”ゲームとは言えません。
けれど、そうしたゲームだからこそ、誰かにとってきっと必要であろう物語が描かれています。ひと足早くエンディングを見届けた筆者に、ほかのどんなゲームや小説や映画とも異なる、切ないけれど温かい余韻をもたらしてくれました。
このレビューでは、直接的なネタバレを避けつつ本作の魅力をお伝えしていきます。とはいえストーリーが重要な作品なので、一応ご注意を。Steamでは第1章の最後まで遊べる体験版も配信されているので、ぜひそちらもあわせてチェックしてみてください。
21ナノ秒後に人類が滅亡する世界で、“死に切れない”想いを抱えた人々に救済を

メアリを必要としている人々との会話に用いるのは、部屋に置かれていたダイヤル式の黒電話。通話の相手は、さまざまな動物の姿をしている、それぞれに未練を抱えた人々。電話でやりとりしているので、“本当の姿はメアリには見えていない”はずの人々です。
死を目前に、生きているとも言い切れない状態の彼らは、重要な記憶が抜け落ち始めています。さまざまな証言を集めて真実を突き止め、その真実をもとに魂を救済するのが、メアリに課せられた使命なのです。
重要そうな情報は、メアリがメモ帳にイラストを交えて書き留めます。また、この奇妙な世界の状態になぜか詳しい黒猫“ハムレット”が重要なアドバイスをくれることもあるのですが、ネコらしく気まぐれで、肝心なときにどこかへ行ってしまっていることも……。


やがて物語が進むにつれて、通話相手が抱える未練は、“記憶を失う前のメアリ”となんらかの形で通じていることがほのめかされていきます。果たして、メアリの過去には何があったのでしょう?
本作の着想には、開発者の“コロナ禍で外出が制限され、誰でもいいから話がしたかったとき、オンラインの通話ツールによって救われた”経験があったと言います。寄る辺のない孤独な時代、たとえ直接会ったことさえない相手だったとしても、互いを思いやって紡がれた言葉には、それぞれの人生をまるごと肯定するような強い力が宿ることもある……。そうした確かな実感が、台詞やストーリーの端々から伝わってきます。
こうしたクセの強い通話相手とは、“関係因子番号”と呼ばれる電話番号に掛けると出会うことになります。“関係因子番号”とは、救うべき対象者となんらかの関わりを持つ人物につながる電話番号。彼らとも話をすることで、対象者の抜け落ちた記憶が補完されたり別視点からの情報が得られ、真実に近づいていきます。


そんな“関係因子番号”の先にいる人たちに対するメアリの対応も、また笑いを誘ってくれました。冷静にツッコんだり、ポーカーフェイスのまま意外とノッたり(笑)。新たな通話相手が登場すると、まずは彼ら自身の興味深い人間性(見た目は“動物”ですが)に心惹かれます。そしていつしか、彼らが引き出してくれるメアリの新しい一面が垣間見えるのも、楽しみのひとつになっていきました。
場面ごとに合った音楽も、通話を盛り上げます。通話相手の動物ごとにテーマ曲のようなものがあり、気が抜けたやりとりをする相手にはこれにふさわしい楽曲が、悲壮な後悔を抱える相手にはその悲しみが伝わってくるような楽曲が割り当てられているのです。
楽曲はストーリーの局面によっても多様に変化。とりわけ、彼らがこの世への未練を断ち切れたときに流れる、その喜びやメアリへの感謝が込められた優しい旋律は、プレイヤーの感情を揺さぶります。

『都市伝説解体センター』とは共通点もありつつ好対照なゲーム体験

通話中は、メアリが手帳に書き記したメモから相手が必要としているキーワードを選ぶことが求められる状況もあったりと、手帳はゲームを通して非常に重要なアイテムとなっています。書き溜められた情報が点と点をつなぐカギとなり、記憶の彼方に消えようとしていた真実が浮き彫りになっていくのです。
選択肢や手帳に記したメモから“その場にふさわしい言葉”を選ぶような状況は何度も生じるのですが、もしふさわしくない言葉を選んでしまっても、いかにもゲームらしいペナルティはありません。


あえて推理の成否にペナルティを設けないことで、誰もが物語の真相に辿り着けることを最優先しているだろう作りは、同じく集英社ゲームズが販売したヒット作『都市伝説解体センター』(制作:墓場文庫)と通じる部分があると感じます。
みずからの推理で真実を導き出す、歯応えのある謎解きを期待する人にとっては、望んでいるようなゲームではないかもしれません。一方で“『都市伝説解体センター』のつぎにプレイすべきアドベンチャーゲーム”を探している人には、ぜひオススメしたいゲームだと言えるでしょう。
『都市伝説解体センター』の推理がおもに“状況”を整理して真実を暴くものであったのに対し、『シュレディンガーズ・コール』の推理は“通話相手の未練のありかを突き止め、その想いに寄り添うための手段”と言えるでしょう。同じ推理でも、そこからもたらされる体験はいい意味で好対照です。


ゲームとしての構成要素をピックアップするのであれば、本作は“テキスト主体のノベルゲーム+推理アドベンチャー”と言うことができます。しかし、既存のゲームの造りに囚われず“特別な感情が生まれる体験”を開発チームが話し合いながら模索したという本作において、本質は別のところにあるように感じます。
映像演出の面で言えば、ノベルゲームにおいておなじみなのは“立ち絵+背景+テキストウィンドウ”という画面構成。『シュレディンガーズ・コール』では、通話外と通話中でそれぞれ基本となる画面構成こそありますが、要所要所でアングルや見せかたが変化。そのたくみな演出がやりとりに絶妙な緩急を与え、通話相手の切実な想いを、より緊迫感のあるものへと昇華しています。


通話相手の心の奥底に踏み込むときのザワザワした気持ちにさせられる表現や、回想シーンに用いられる手描き風に描かれる幻想的な表現も見どころ。ただ、あまりに表現・演出の引き出しが多く、開発における作業量をふと想像するとゾッとしてしまいます……。
メアリが存在している空間はゲームを通してたったひとつの部屋であり、白黒を基調としたシックな印象が際立っていますが、前述のBGMにおける多様さも相まって、本作が画面演出を駆使して見せてくれる表情は、驚くほど多彩なのです。

プレイヤーの選択でゲーム全体のテーマが“まるっきり変わる”特異な構造

アドベンチャーゲームのシステムの根幹と言える主体的な“選択”の要素。『シュレディンガーズ・コール』は、ここにも既存の枠組みにとらわれないアイデアを多数盛り込んでいます。なかでも“選択”を通じて人と人との“寄り添い”をより深く感じさせる手法の数々には、とくに目を見張るものがありました。ここで言う“寄り添い”とは、“メアリと通話相手”の関係ではもちろんのこと、“プレイヤーとメアリ”においても当てはまるのです。
ストーリーを進めていて強く印象に残るのは、メアリの想いを表したひとつの文章が切り分けられ、それぞれが選択肢のように提示される見せかた。どの部分を選んだとしても、ストーリー展開は変わりません。けれど、多くのプレイヤーは無意識のうちに、その言葉を通話相手に伝えるときに“どの言葉がいちばん大切なのか”を考えて、該当する部分を選択するのではないでしょうか?

選択によって“ゲーム側の反応が変化する様を楽しむ”のはアドベンチャーゲームの醍醐味のひとつです。けれど、本作はそこにすら囚われず、プレイヤーが「対話相手を思いやろうとするとき、どんな言葉に重きを置くべきか?」という自身の感性と向き合う体験をもたらそうとしているようなのです。
その上で、“変化をともなう選択”においても、プレイヤーと登場人物たちとの“言葉にまつわる関係値”をより密接にするための工夫が凝らされています。各章の冒頭部にて、メアリに対してというよりもプレイヤーに問い掛けるような形で出される“人生観”を問う二択の選択肢は、最たるもののひとつ。

前述のように、通話相手が抱える未練は“記憶を失う前のメアリ”にも通じています。つまり、プレイヤーが示した人生観は、メアリにも繋がり、そして通話相手にも共通する価値観となるのです。このプレイヤーを含む三者の関係性こそが、重要なポイント。
各章冒頭の二択でどちらを選んだとしても、通話相手とメアリの物語は、プレイヤーが選んだ価値観のもとに整合性を保って進行していきます。これはつまり、ゲーム全体で語られるテーマの一端が、プレイヤーの価値観に寄り添う形で、まるっきり様変わりしているということなのです。

大局的に見ればストーリーは一本道ですが、そこで重きを置いて語られる人生観は、プレイヤーの主体的な“選択”にともなって大きく変化する――。この構造は、『シュレディンガーズ・コール』が目指した体験を特徴付ける、極めて特殊な仕組みと言えるでしょう。
こうしたさまざまな手法が積み重なって、本作をプレイした思い出は、プレイヤーひとりひとりにとって固有性の高いものとなるのです。とある場面で登場する「これは、私の人生。」という言葉が、実感をともなって胸に響きます。
“言葉”と“優しさ”について改めて考えたくなるゲーム

通話内容を振り返ってメモ帳に書き記す、ハムレットと話すなど、通話以外の行動を取っているときは、何かするたびこまめにオートセーブが入る本作。一方で、誰かと通話している最中は、それがある程度長いやりとりであったとしても“受話器を取ってから、受話器を下ろすまで”オートセーブは入りません。
誰かと言葉をかわすこと、そしてその中で相手の感情に寄り添うべく、ふさわしい言葉を懸命に探すこと。多少ゲームとしては不便であっても、メアリのそうした利他的な懸命さを、途切れさせることなく一連の流れとして体験してもらうことで、その“重み”を出来る限りプレイヤーにも共有してもらいたいという、強い信念を感じたポイントでした。

そして通話相手を救い、満たされた気持ちで最期を迎えてほしいという想いはメアリからプレイヤーにも伝わり、それら本作の体験のすべてが、満ち足りた余韻をもたらす。
“言葉”は簡単に人を傷付けるけれど、同じ“言葉”が誰かの人生に救いをもたらすこともきっとある。誰かにやさしく寄り添おうとしたことが、巡りめぐって寄り添った側にも幸せを運んでくれることだってあるかもしれない。本作が広くプレイされることで、世界中の“優しさ”の総量が、ちょっとだけでも増えたらいいなと思ったのでした。













