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『カルドセプト ビギンズ』10年ぶりのシリーズ復活秘話。ゲーム版『クレヨンしんちゃん』のヒットメーカーは、なぜいま『カルドセプト』復活に挑んだのか?【ロングインタビュー】

『カルドセプト ビギンズ』10年ぶりのシリーズ復活秘話。ゲーム版『クレヨンしんちゃん』のヒットメーカーは、なぜいま『カルドセプト』復活に挑んだのか?【ロングインタビュー】
 『カルドセプト』シリーズ10年ぶりの完全新作となる『カルドセプト ビギンズ』がネオスより2026年7月16日にNintendo Switch 2、Nintendo Switch、Steam向けにリリースされることが発表された。
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 10年という長い空白期間を経て『カルドセプト』は、なぜいま、復活を遂げたのか? そして、企画・製作を手掛けたのがなぜ『クレヨンしんちゃん「オラと博士の夏休み」~おわらない七日間の旅〜』、『クレヨンしんちゃん「炭の町のシロ」』のネオスだったのか? 開発のきっかけから、気になるゲームの方向性、さらに細部にわたる徹底したこだわりまで、キーパーソンたちに語ってもらったロングインタビューをお届け。
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長嶋朗氏ながしま あきら

ネオス 『カルドセプト ビギンズ』プロデューサー/クリエイティブディレクター(写真・中央)

春木場將道氏はるきば まさみち

ネオス 『カルドセプト ビギンズ』ディレクター(写真・左)

鈴木英夫氏すずき ひでお

大宮ソフト 取締役社長/『カルドセプト』シリーズディレクター(写真・右)

『クレヨンしんちゃん』から『カルドセプト』へ。社内のシリーズファンが意気投合

――デモ版で序盤をプレイさせていただきましたが、最後まで逆転の可能性がある『カルドセプト』ならではのスリリングな駆け引きがしっかり継承されていて、夢中でプレイしました。

長嶋
 ありがとうございます! ほっとしました。泣きそうなくらい(笑)。

――本当によかったです(笑)。まず、なぜコアな人気を誇る『カルドセプト』の最新作をネオスで手掛けることになったのか? 経緯を教えてください。

長嶋
 2年半ほど前でしょうか、おかげさまで『クレヨンしんちゃん』のゲームシリーズを広く受け入れていただいて、弊社の新たな柱になるようなゲームタイトルを検討していました。

 ネオスは創業時から、既存のIPを活用したデジタルコンテンツの制作を主軸にしています。ゲームはもちろん、幼児向けの知育コンテンツなども、古くはガラケーアプリの時代から手掛けています。

 キャラクターIPだけでなく、”ゲーム性そのもの”が優れたIPもこれまでにたくさん登場していますので、そうした名作をネオスで手掛けられる可能性を長い期間にわたって模索していたんです。その中で「そういえば『カルドセプト』って、なぜしばらく出ていないんだろう?」と思ったのがきっかけでした。

――そこで思い出すくらい、長嶋さん自身もともと『カルドセプト』がお好きだったのですね?

長嶋
 自分の部屋の名作ゲーム棚に並んでいるタイトルのひとつで、大好きな作品でした。僕自身はへたれプレイヤーなので、極めるほどやり込むことはできていないのですが(苦笑)、そのゲームデザインの秀逸さというか、「なぜこれほどおもしろいのか」とその本質を考えたくなるゲームですよね。

 僕はファミコンが出る前からゲームを遊んでいた世代で、ファミ通さんも前身である雑誌
『LOGIN(ログイン)』の付録時代から拝読しているくらいゲーム雑誌も読んできたのですが(笑)。すごく印象に残っているのが、ある時期に読んでいたゲーム雑誌のユーザー人気ランキングで『カルドセプト』がつねに上位にあったことです。「このゲームはいったいどんな名作なんだ?」と。実際に手に取ってみて、本当におもしろくて夢中になったことを覚えています。

 それで、名前が浮かんだとき隣にいた春木場に、「『カルドセプト』ってどうだろう?」と聞いてみたら「いいですね!」と即答が返ってきて。彼もまた大ファンだったんですよ。

春木場
 僕は最初に遊んだのがプレイステーションの『カルドセプト エキスパンション』で、そこから夢中になりました。講談社のコミカライズ版も実家にあります(笑)。思い出深いタイトルでしたし、そこからアナログのボードゲーム開発に関わったりもしてきたので、『カルドセプト』を制作できるチャンスがあるならぜひ挑戦したいと。いけそうなビジョンもすぐに思い浮かびました。
――そうしたおふたりの強い想いもあって、しばらく新作が出ていないのなら、ネオスで制作することはできないか? と考えたわけですね。

長嶋
 すぐにご連絡をしてみようと、社内で話が進みました。しかし、大宮ソフトさんとコンタクトを取る方法が当初はわからず、過去の書籍などをチェックして、ジャムズワークスの武重さんという方がキーマンであると突き止めたんです。

 それで武重さんのSNSを知人がフォローしていたので、その知人経由でつないでいただき……後押しをいただいて、ようやく大宮ソフトさんともお会いすることができました。
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――本日は、いま話題に上がったジャムズワークスの武重さんも、こっそりと同席されていますが、ジャムズワークスさんと『カルドセプト』との関わりについても改めて教えていただけますか?

武重
 もう30年以上前になりますが、『カルドセプト エキスパンション』のときからシリーズの権利管理やプロデュースを担当させていただいております。今回のように「新作を作りたい」というご相談をいただいた際の、窓口役でもあります。

長嶋
 武重さんとは、ライセンスや座組みのこと、「新しい『カルドセプト』をどのような作品にしていきたいか」など、2ヵ月ほどじっくりと検討を重ねた上で、大宮ソフトさんとのやりとりが始まりました。

――なるほど、ありがとうございます。大宮ソフトの鈴木さんは「『カルドセプト』をいま作りたい」と言われてどのように感じたのでしょう?

鈴木
 オファー自体は『カルドセプト リボルト』が2016年に出て以降も、何度かご相談をいただく機会がありました。その中のひとつがネオスさんだったのですが、“『カルドセプト』愛”は格別でしたね。長嶋さんはもちろん、開発現場の方も詳しく知ってくださっていて、「熱いな!」と。

 通常、こうしたオファーでは「『カルドセプト』は完成されているから、過去作のまま変えないほうがビジネス的にも安牌だ」という話になりがちなんです。「あの味わいを変えちゃいけない」と。

 でも、大宮ソフトとしてはつねに「新作を出すなら新しくしていかなきゃいけない」と考えています。その点、長嶋さんたちからは“眼差し”というか、切実な想いを感じました。ネオスさんの場合、“変えない部分”はもちろんあるのですが、「こういうところは変えていきたい」という踏み込んだ提案をいただけたのが印象深かったです。“変えるべきところ・ 変えないべきところ“のバランスが、最初からすごくハッキリしていました。

――ネオスさんの“熱意”と“『カルドセプト』を変える意志”が実現の決め手になったのですね?

鈴木
 もちろんタイミングのような要素もありますが、プロジェクトを進める中でのテンポ感も心地よかったです。大きな組織だと承認に時間がかかることもありますが、ネオスさんは「ぜひやりましょう。すぐに始めましょう!」という非常にスムーズなスピード感でした(笑)。

長嶋
 弊社はゲーム開発会社としての歴史はまだ浅いのですが、ノウハウが少ないぶん逆に前例を理由に企画を否定するようなこともなくて、会社が一丸となって「みんながおもしろいというならやってみよう」と即断即決できる強みがあります。今回も武重さんにご相談する前には社内コンセンサスは得ていたので、開発期間やコストも含めて固まった状態でご提案することができました。

――開発をグランディングが担当して、キャラクターデザインを松浦聖氏が手掛けるなどの座組みはどのように決まっていったのでしょう?

長嶋
 本作においては当初からビジュアル、世界観、ストーリー、キャラクターを刷新したいという強い思いがあったので、迷わずにグランディングさん、松浦さんにお声がけしました。というのも、国内だけでなく広く海外にも本作の魅力を届けたいと考えたとき、日本人が描く西洋ファンタジーのままでは、”日本人にはわからない違和感”というか、現地の方にどこか”偽物っぽさ”を感じさせてしまうのではないか、という懸念があったんです。

 それならば思い切って、日本人ならではの解釈と感性で”無国籍なファンタジー世界”を新たに創り出すべきだと考えました。最終的には独自言語も作成するなど細部にいたるまでこだわっています。

 グランディングの社長である二木幸生さんは、セガ在籍時に『
パンツァードラグーン』などで独自の世界観を作り上げてきた方ですし、ボードゲームやカードゲームの開発実績も豊富でしたので、非常に心強いパートナーになると考えていました。実際にご相談に伺ったところ、スタッフのみなさんも見事に『カルドセプト』の熟練プレイヤーだらけで(笑)、すぐに快諾をいただけました。ちなみにグランディングさんの事務所はネオスからすごく近くて、徒歩圏なんです。
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――それは心強いパートナーですね。もう一方のキーマンである松浦聖氏の起用についてはいかがでしょう?

長嶋
 松浦さんの起用については、企画を始めた時点で決めていました。じつは、以前から「ファンタジーモノに挑戦できるなら松浦さんで」と心に秘めていたくらい、松浦さんが描く世界観やビジュアルに強く惹かれていました。

 面識はなかったのですが、松浦さんもまたご連絡してすぐに意気投合しました。「きっとこんな人なんだろうな」と想像していた通りの方で、お互い過去に影響を受けてきたクリエイティブなどの共通点も多く、通じるものがありました。

鈴木
 松浦さんは、国内だけではなく地域を問わず引き込まれるであろう普遍的な“固有の魅力”を持ったクリエイターさんだなと、我々もすごくいい印象を持ちました。ただ、松浦さんは個性が色濃く出る作風の方なので、カードイラストの物量が膨大な『カルドセプト』の仕事をお願いしても大丈夫なのだろうか、という心配はありました。

――分担で複数の方にお願いした場合、作風の違いがハッキリ出るであろうことを考えると、大部分をおひとりに負担してもらうことになりそうなのが懸念点だったと。

鈴木
 始めはストーリーのキャラクターだけ担当していただく形になるのかな? と想像していたのですが、実際は凄まじい馬力をお持ちの方で、そのアウトプットのボリュームには驚かされました。

長嶋
 ボリュームの心配もそうですが、過去作のアートスタイルやイラストレーター様へのリスペクトも当然持っていましたので、すべてを刷新すべきか迷っていた時期もありましたが、松浦さんがカードイラストもすべて引き受けてくださることになり、その筆の速さもあって、松浦さんのデザインで統一されたブレのない世界観を実現できました。とても新鮮なルックになり、作品の方向性に大きな柱が立てられたと思います。

――音楽は、『クレヨンしんちゃん』のゲームシリーズに引き続き、坂本英城氏が率いるノイジークロークが担当していますね。

長嶋
 ノイジークロークさんには、ゲーム事業を始めたばかりの右も左もわからないころから相談に乗っていただいてきました。『クレヨンしんちゃん』のシリーズでもすばらしいサウンドを提供いただきましたので、今回もぜひ力をお借りしたいと思い、坂本さんには、構想の初期の段階から「つぎは管弦楽でいきます!」と宣言していました。

――ここまでのお話を踏まえると、もともと長嶋さんたちが思い描いていた理想的な座組みは、ほぼ100%実現できたと言えそうですね。

長嶋
 そうですね。

春木場
 最初に描いたビジョンのまま進められたイメージです。

長嶋
 春木場からすれば、「雑談で話していたことがそのまま企画書になり、そのイメージ通りに開発が進んだ」という感覚だったと思います。

春木場
 はい。まさに……(笑)。
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「初心者向けか? ガチ“セプター”向けか?」「改革か? 保守か?」

――『カルドセプト ビギンズ』は、海外プレイヤーに対してゲームの魅力を広く伝える狙いも大きいとのことですが、そもそも海外におけるこれまでの『カルドセプト』シリーズの知名度や評価はどのようなものだったのでしょうか?

武重
 海外では、北米を中心にプレイステーション2の『カルドセプト セカンド エキスパンション』(2003年)、Xbox 360の『カルドセプト サーガ』(2008年)、ニンテンドー3DSの『カルドセプト リボルト』(2017年)の3作をリリースしています。
※リリース年はすべて英語版のもの。
鈴木
 海外のコアゲーマーの中には熱烈に支持してくれた方もいらっしゃって、ゲームの内容として受け入れられる素地はあるんだという手応えは毎回あります。ただ、幅広いプレイヤーさんに知ってもらえたと言える知名度にはいたっていないのが現状です。

武重
 ゲームメディアのレビューでも高いスコアを付けていただき、本作の特徴をわかりやすく言い表したフレーズとして“Magic: The Gathering meets Monopoly.”という言葉がよく使われていました。正直、“知る人ぞ知る名作”みたいな立ち位置であることは間違いありません。しかし、現在も英語圏のコミュニティサイトが20年近く熱心に運営されており、つい一昨年にも管理者の方が日本にいらっしゃって対戦会に参加しているんです。

 「この熱量をもっと広めるためにはどうしたらいいのか?」と考えていた中で、オンライン環境がより身近になったことやボードゲームの人気が上がってきたことなどの時流も含めて、いいタイミングでご提案をいただいたのが『カルドセプト ビギンズ』でした。
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――先ほどお聞きしたアートスタイルの一新も、その“『カルドセプト』の魅力をもっと広める”ためのものだったということですが、ゲームとしてもさまざまな調整が施されているように感じました。このあたりにもいろいろと葛藤があったのではないかと想像します。

長嶋
 その話をするには、本作の開発に関わった人間は“2種類に分けられる”という話から始めなければいけません。先ほど、僕と春木場が『カルドセプト』好きだったという話はしましたが、おもしろいことに『カルドセプト』の魅力だと感じていた”要素”はふたりで違っていたんです。僕は、オンライン上で見知らぬプレイヤーとコミュニケーションを取るのが少し苦手なので、『カルドセプト』でも、ひとり用のストーリーモードをコツコツと進めるのが楽しいタイプなんです。

――自分も『カルドセプト セカンド エキスパンション』ではひとりで黙々とカードやメダル(作品内に実装されていた、いまで言う“実績”や“トロフィー”に近い機能)集めを楽しんでいたので、すごくわかります。

長嶋
 春木場は真逆なんです。対人での勝負とそこでのコミュニケーションが好きで、むしろストーリーモードはなくても構わないと言うくらい(笑)。

 グランディングさんのスタッフも大半が春木場寄りでした。開発中、ガチガチに強さを追い求める彼ら“熟練プレイヤー”たちのことを、敬意を込めて“セプター”と呼んでいました。
※セプター……『カルドセプト』作中での“カルドセプト使い”、転じてシリーズのプレイヤーの呼称。
――「セプターたちはこうしたほうがいいって言っているんだけど……」みたいな(笑)。

長嶋
 そうなんです。セプターたちからは“より複雑な駆け引き”や“やり込み要素のボリューム”を求める意見が多く出ましたが、それが行き過ぎると、僕みたいなタイプにはハードルが高くなってしまう。

 いままでプレイする機会がなかった潜在的な新規ファンも呼び込みたいので、マニアックになりすぎず、かつ、いまの時代に求められるバランスはどこか、非常に熱く議論を交わしました。

――“セプター”側である春木場さんの視点ではいかがでしたか?

春木場
 10年前と比べ、いまはオンラインで手軽に“みんなで遊ぶ”環境が整っています。本作はその層にリーチする絶好のチャンスだと考えました。

 いま長嶋から話があった通り、僕らも闇雲に複雑にしたいわけではないんです(笑)。僕たちのような“コアなファンが求める方向性”と、“ご時世に合わせた最適化”の塩梅は、随時開発現場やデザインチームとすり合わせていきました。結果としてすごくいいチャレンジになったと思っています。

長嶋
 いまだからそう言えるけど、最初のころは、ぜんぜんまとまらなかったよね……。

一同 あはははは(笑)。

長嶋
 どこまで新しくするか? どのくらいボリュームを増やすか? 大宮ソフトさんも交えて、とにかく議題がモリモリでしたね。

鈴木
 自分でも「あれっ?」と思ったのは、最初の段階では「新しい『カルドセプト』に変えていきましょう」、「挑戦的なご提案、大歓迎です」という立場だったのですが、具体的なディテールの部分を詰めるところで「それは我々が過去に“デメリットがある”と判断して捨てた案なんですよね」と。割と保守的な立ち回りをせざるを得ない状況が少なくなかったことですね。

 「こういう経緯があったんです」というのはお伝えしつつも、それを最終的に採用するかどうかはネオスさんたちに委ねていました。

長嶋
 「じゃあやってみます!」と進めていくうちに、「なるほど、かつて却下されたのにはこういう理由があったのか」と身をもって理解し、元の仕様に戻すこともありました。刷新しようと試みても、実際にディテールを詰めていくと「やはり元の仕様がベストじゃないか?」という結論にいたるケースはいくつもありましたね。

春木場
 ただ、仕様を元に戻すといっても、そのままではいまのユーザーには複雑すぎますから、わかりやすさと、情報の整理との兼ね合いのバランスはかなり詰めて考えました。

長嶋
 UI(ユーザーインターフェース)から、ゲームバランスやルールにいたるまで。大きく変えることを検討した部分が、けっきょくのところ原点に立ち返ることも多かったです。
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――『カルドセプト』がいかに完成されたゲームデザインの上に成り立っているかを象徴するようなエピソードですね。

長嶋
 それでも、今回、歴代のゲームデザインを手掛けてきた神宮孝行さんにも開発に参加していただいたのですが、僕らがやりたいことをどれも柔軟に受け入れてくださったので、いろいろと調整を加える際にすごくご相談しやすかったです。

――『カルドセプト』の生みの親と言える方となると、やはりシリーズを“変えること”にはきびしい一面もあったのでしょうか?

長嶋
 いえ、こちらのアイデアを否定せずに、すごく後押ししてくださいました。僕らが「ここは変えたくない」と感じるポイントもわかっていただいて、まさに仏様みたいな人でした(笑)。

鈴木
 ゲームデザイナーって周囲からも、それこそ“神の如く振る舞ってほしい”みたいな期待をされがちなのですが、神宮さんはとても穏やかで柔軟なタイプなんですよ。要素によっては「どちらでも大丈夫ですよ」みたいに振る舞うことも多くて。

長嶋
 でもたまに「ここはこうしたほうがいいですね」みたいなことをボソッと言われることがあるんですよ。まるで“お告げ”のように(笑)。仕様策定に迷ったときは、この神宮さんの”お告げ”を頼りに判断していたところがあります。

春木場
 過去作のゲームデザインの経験を豊富にお持ちなので、「これは過去作でやりたかったけどうまく行かなかった部分だね」と、その理由もあわせて細かく教えてくださるんです。それが、本作では可能なことなのかどうか検討するうえでの重要な指針になりました。

――そうした“『カルドセプト』らしさ”について、神宮さんの中で言語化されているものがあったのでしょうか?

鈴木
 神宮さん曰く、「複雑さとユルさが絶妙なバランスでまとまっていること」が『カルドセプト』の魅力のひとつだと考えているようです。

 ボードゲームって運の要素が大きいので、そこまで勝ち負けにこだわりすぎず、みんなでワイワイ楽しめますよね。一方で、カードゲームは勝利のためにそれぞれのカードの能力を加味して作戦を立てる必要があります。この両方の性質を併せ持っていて、カジュアルプレイヤーとガチプレイヤー、いずれも楽しめる側面を持っているのが『カルドセプト』らしさの根源なのかなと。

 ガチのプレイヤーからは「ランダムな要素はもっと減らしたい」という意見も出るのですが、神宮さんは運によって生まれる“ユルさ”も大事にしたいと考えているようです。

――たしかに、何気なく置いた領地が育って、そこに格上の相手が止まって一発逆転……みたいな“ジャイアントキリング”の余地があるのも『カルドセプト』の醍醐味ですよね。

長嶋
 そこも現場の”熟練セプター”たちと意見が分かれた部分でした。僕のような”へたれプレイヤー”でも、理詰めで戦う彼らに一矢報いることができる“偶発的な逆転劇”をどうしても残したかったんです(笑)。

春木場
 議論の末、最終的には「それぞれのプレイスタイルに合わせてカスタマイズできるのが理想だろう」という結論になりました。オンライン対戦で遊ぶ際は、ぜひお好みの設定で楽しんでいただければと思います。
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最大の課題は“時短”と“わかりやすさ”。ヒントは知育アプリと……『笑点』の座布団?

――『カルドセプト』はじっくり遊べるからこそ夢中になれるゲームですが、昨今のトレンドと比べると1試合に掛かる時間は長めかなと思います。本作はどのような方針で調整されたのでしょうか?

長嶋
 時短は最大の課題でした。いかにテンポアップ、時短を実現するか? 鈴木さんや神宮さんも当初から改善したいと考えておられました。

春木場
 『カルドセプト』らしさを残しつつスピードアップを意識しました。内部の計算式を調整し、手持ち魔力に余裕を持たせて総魔力を伸びやすくしたことで、後半戦にかけて一気に決着がつきやすくなっています。スリリングな楽しさはそのままに、プレイ時間は従来の約4分の3程度に短縮することを目指しました。

鈴木
 その“4分の3”という着地が、非常に絶妙なラインで、今回の大きなポイントだったと思います。ふつう、時短をしようとすると演出を短くしたり、ルールを削ったり変えたりしがちなんですが、今回は“プレイ感や重厚さは変えずに、展開だけを早くする”ことに成功していますね。

武重
 そのおかげで、序盤のマップなら20分弱ほどで終わるようになっていますね。

長嶋
 状況や設定で変わることは強調したいですが、全体としてテンポアップは徹底的に追求しました。その一方で、じっくり遊べる『カルドセプト』特有の骨太感も大切に残しています。

――時短を意識している一方で、演出面ではより手に汗握るものに強化されてますよね?

春木場
 “観ている人も楽しめる”ことを意識しました。魔力の増減や順位の入れ替わりを視覚的に強調し、盛り上がりどころが誰にでも伝わるようにしています。演出が入ることで、観戦しているスタッフもいっしょに熱狂してくれるようになりました。

武重
 土地のレベルアップ時に拍手音が鳴るなど、“よいことをちゃんと褒めてくれる”演出には僕たちも感心しました。

長嶋
 そこは、僕らが長年手掛けてきた知育アプリのノウハウが活きています。“×”をトラウマにさせず、“〇”をしっかり祝福してポジティブなフィードバックを与える。この文法を『カルドセプト』にも持ち込みました。
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――土地がレベルアップするほどにせり上がっていくのも今回が初めてですよね?

長嶋
 不要論もありましたが、「『笑点』の座布団くらいわかりやすくしたい!」と押し切りました(笑)。パッと見でどこが高レベルか判別できる視認性は、絶対に必要だと考えたからです。

――UIも非常に直感的で、つぎに何をすべきか一目瞭然ですね。

長嶋
 UIは刷新すべきポイントとしてとくに力を入れました。また、“必要なときだけ情報が見られる”デザインを目指し、数値を詳細にチェックしたい人のために“ゴーグルモード”を搭載しました。これによりメイン画面をスッキリさせ、初心者が情報量に圧倒されてしまわないようにしています。
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世界観へのこだわりが凄すぎて、向かった先は……ホームセンター?

――あえて“初代『カルドセプト』へと続く始まりの物語”という設定にしたのはなぜだったのでしょう?

長嶋
 初めて『カルドセプト』をプレイする方が気後れすることなく、往年のファンと同じスタートラインに立てるよう、過去作の続編ではなく、1作目につながるプリクエル(前日譚)という形を取りました。1作目のラスボスであるバルテアスが“カルドセプト”を石板化したいう設定も活かしたかったので、大宮ソフトさんともすり合わせつつ、ここの行間を描くことにしました。

――世界設定の監修については、大宮ソフトさんとしてはいかがだったのでしょう?

鈴木
 いやぁ、伸び伸びとやっていただいたと思いますよ。

一同 (笑)。

鈴木
 「ここは過去作と矛盾しないでしょうか?」みたいな確認を都度してくださったのですが、「きちんと決まっていなかったので、大丈夫です」とお伝えすることが多かったですね。

長嶋
 こだわったのは“カード=石板”という表現です。単なるゲームアイテムではなく、その世界の住人が発掘して使っているもの、という質感を反映したかった。石板どうしが擦れる質感や破片が飛び散る演出など、独自の魅力を提案し、実現していきました。
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――手札に複数枚のカードが並んでいるときの手触り感など、かなりおもしろいものになっていたと感じました。

長嶋
 “実際にこの石板を手に持ったらどんな感じか”を確かめるため、みんなでホームセンターへ行って「これぞ!」と思う石を買い集め、擦れる音や質感を研究しました。ノイジークロークさんにも協力いただき、こだわりのSEを作り上げています。

春木場
 いい大人が会議室に集まってカンカン、シャリシャリと(笑)。

鈴木
 大宮ソフトって、ゲームデザインに関わる部分にはこだわりを持っているんですけど、世界設定とかは苦手と言いますか、「ゲームとしての利便性を考えるとこうだよな」という観点だけでガチガチに作ってしまうところがあるんですよね。

 だからネオスさんから「石板の手触りが……」みたいなことを熱弁されたときは「あぁ、そうですか。じゃあぜひ」と(笑)。我々からは絶対に出てこない発想でしたから。

長嶋
 美術設定にも徹底的にこだわりました。『クレヨンしんちゃん』シリーズでご好評をいただいた“手描き美術”を本作でも採用し、西洋でも東洋でもない、無国籍で独自性のあるファンタジー世界を、コンセプトアートからじっくり時間をかけて構築しました。

武重
 過去の資産にとらわれずチャレンジしていただけたのは我々にとっても新鮮でした。ここから『カルドセプト』の未来が変わるかもしれないと感じられました。

長嶋
 守るべき線引きは大宮ソフトさんに導いていただきつつ、“自分たちだからこそやれるアプローチ”をブレずに貫きました。あとは遊んでくださった方の評価がすべてだと思っています。
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生みの親・神宮孝行氏の“積年の想い”と“新しい血”が混ざって生まれた『カルドセプト』

――ボリューム感やカード枚数についてはいかがでしょう?

長嶋
 規模感としては『初代』から『セカンド』あたりをモデルにしています。

春木場
 人気カードに加え、本作の世界観を象徴する新カードも多数登場します。

――新カードの能力には「ゲーム全体をこういうふうにコントロールしたい」のような、“ゲームデザイン上の意図”みたいなものがあったりするのでしょうか?

春木場
 カード単体というよりゲームバランス全体の調整による部分ですね。どちらかというと新カードは、本作の世界観を表現するにあたって「こういうクリーチャーやアイテムがあったほうがいいよね」という発想から追加した部分が大きいです。

――従来のシリーズで人気だったブック(デッキ)の戦いかたなども、そのまま使えますか?

鈴木
 基本的には通用するものと思っていただいて大丈夫です。カードセットの系統としては『カルドセプト セカンド』なのですが、そこから『リボルト』にいたるまでに積み重なった細部の知見や、グランディングさんの企画チームのこだわりなどが加わって新しい味になっています。とはいえ、基本は『セカンド』がベースですね。
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――“このカードは強すぎたから下方修正”みたいなこともなさそうですよね?

春木場
 そこは神宮さんとも相談しながら進めました。基本の数値は活かしつつも、現代の環境や新しいゲームスピードの中でカードが本来の役割を果たせるよう、一部のパラメーターは再定義しています。あくまで“いまの『カルドセプト』としていちばんおもしろく遊べるバランス”を目指してチューニングしました。

鈴木
 「カードセットが『セカンド』ベースだ」と言うと、大して変わっていないと思われてしまいがちですよね。ベースにあるのは確かなのですが、実際に推したい味というのはチューニングした部分、年月をかけてそこから何度も重ね塗りをして醸し出された部分だというのは強調したいです。

武重
 補足をすると、これまでの『カルドセプト』のカードセットは、3つの系統に分けられるんです。まずセガサターンやプレイステーションで出た『カルドセプト』、『カルドセプト エキスパンション』のいわゆる“ファースト”。つぎに“セカンド”と呼ばれるのがドリームキャスト、プレイステーション2、それからXbox 360の『カルドセプト サーガ』もこの系統に含まれます。そして最後が前作にあたる“リボルト”です。

 “ファースト”のとくにセガサターン版はいまプレイするとかなり荒削りなんです。ひとつの完成形になったのが“セカンド”で、ニンテンドー3DS版『
カルドセプト』もこの系統ですから、かなり長いあいだいろいろな調整が重ねられたことになります。一方、“リボルト”は時短や駆け引きのバランスを含めて先端的なチャレンジを行ったタイトルでした。

 今回の
『ビギンズ』は、初めて触れる人にも楽しんでもらうために考えかたのベースは“セカンド”でありつつ、新たにカードセットを調整していったという流れになります。
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――ベースは“セカンド”ながら、各種調整は“リボルト”以上に突っ込んで行っているような印象を受けますが、そのあたりはいかがですか?

春木場
 手持ちの魔力が増えやすいだとか、終盤でブーストがかかりやすいといったところも含むゲーム全体のバランス調整によって、体感はかなり違ったものになっていると思います。

長嶋
 神宮さんの想いも入った結果だと思っています。ベースは“セカンド”だけど、“リボルト”でやり切れなかったことも含め、いろいろなことを胸の内に秘めていらっしゃるので、それがこの『ビギンズ』には滲み出ているように感じますね。

鈴木
 本当にそう思います。だから「“セカンド”がベース」とだけ言ってしまうと取りこぼしてしまう文脈がすごくたくさんあるような気がします。

武重
 この『ビギンズ』はネオスさんやグランディングさんといっしょにやったからこそ到達できたゲームバランスになったと思っています。先ほど“時短”の話題のときに“内部の計算式を調整した”というお話がありましたが、『リボルト』のとき、“時短”というテーマを実現するために変えたのは“ゲームルール”だったんですよ。

 しかし、『ビギンズ』では、表に出ているルールのほうではなく内部の“計算式”に初めて手を加えました。それができたのは、ネオスさんとグランディングさんがアイデアを出してくれて、神宮さんが「あぁ、その手もありますよね」と練り上げてくれたという経緯があってのことです。やはりこの座組みだからこそ形になったアプローチだったと思います。

鈴木
 『リボルト』はいわゆる“セプターさん向け”の奥深さも追求したタイトルだったので、覚えることも多くて複雑だったんです。そのぶんの楽しさはあるんだけど、初めてプレイする人にはちょっとたいへんであることも理解した上での判断でした。

 今回は“なるべく多くの人に『カルドセプト』のおもしろさをわかりやすく伝える”ことにフォーカスして、過去作の「ここはわかりづらかったな、伝え切れなかったな」といった知見を整理してフィードバックしているのが大きいです。だから「◯◯システム搭載!」みたいなキャッチーなものではないのですが、これまでの知見による変化がじわ~っと効いてくるゲームに仕上がったと思います。

長嶋
 開発中はこういうことを延々と話し合っていたので、熱かったですよ! 大宮ソフトさん、神宮さん、ジャムズワークスさんの長年の想いがひとつひとつの仕様の決定に込められていますからね。

――そこにネオスやグランディングの新しい血も混ざることで、“いまだから到達できた新しい『カルドセプト』”と言える味わいになったんじゃないかと、まだ遊んだのは序盤のみながら思います。

長嶋
 そうなっていたらうれしいです。

鈴木
 今回、セガサターン版(復刻版)も合わせてプレイしていただけることで、「比べてみたら『カルドセプト』ってシリーズを重ねる中でものすごく変わっていたんだな」と感じてもらえたらいいですよね。大宮ソフトとしては、“1作目の時点では『カルドセプト』というものをぜんぜん理解できていなかったことがバレてしまう”ことにもなるわけですけど(苦笑)。

――えっ! 復刻版ですか?

長嶋
 あ、鈴木さんに先に言われちゃった(笑)。これだけ大きくイメージを刷新すると、「オリジナルの『カルドセプト』は遊べないのか」といった声もいっぱい出るかと思いまして、そうした往年のファンの皆様に向けて、元祖セガサターン版の復刻版『カルドセプト ザ ファースト』を同梱したパッケージを販売します(※)。

 最初と最新の『カルドセプト』がひとつに入った豪華特典版です。『ビギンズ』は1作目につながる前日譚となっていますので、両タイトルを楽しんでいただけたらと思っています。
※Nintendo Switch用『カルドセプト ザ ファースト』は、単体でも2026年7月30日に発売予定。通常版(パッケージ版とダウンロード版)は4950円[税込]、特装版(パッケージ版のみ)は8800円[税込]。[IMAGE]
こちらは『Nintendo Switch 2 Edition 特装版』。Nintendo Switch『カルドセプト ザ ファースト』パッケージ版やコンプリートカードブック、サウンドトラックCD&ダウンロードコードが同梱している。価格は14080円[税込]。『Nintendo Switch 特装版』も発売される。価格は12980円[税込]。

気楽に、ユルく、多くの人に楽しんでほしい

――ちなみにNintendo Switch版とSteam版ってクロスプレイには対応しているんでしょうか?

春木場
 残念ながら現時点ではまだクロスプレイには対応しておらず、それぞれのプラットフォームごとに独立した対戦環境を楽しんでいただく形になります。

長嶋
 将来的な可能性は模索しつつも、まずは確実にユーザーのニーズに応えていく方針です。多くの方に遊んでいただき、認めていただけたら、さらに展開を広げていきたいです。

――発売後のDLCなどの展開は予定していますか?

長嶋
 計画中ではありますが、まだ詳細までは確定していません。現状は早期購入特典などによる追加コンテンツを予定しています。

春木場
 特典に関しても、持っていると有利になるような“ゲームバランスに直接影響を与えるもの”ではありませんので、そこはご安心ください。

――リアルボードゲーム化の期待も高まりそうですね。

長嶋
 ぜひ、やりたいと皆で話しています(笑)。ご期待の声があればお応えしたいですね。

――期待しております! 最後になりますが、10年ぶりの『カルドセプト』完全新作ということで、シリーズの“時代を超えて届けたい魅力”はどんなところにあるのか、 お聞かせください。

春木場
 個人的にも思い出深い作品ですし、ボードゲームとカードゲームを組み合わせたゲーム性としては金字塔的なタイトルだと思っています。それをいまの時代に合った形で、初めて手に取っていただける方も、これまでのファンの方も、満足できるものになるようスタッフ一同がんばりました。「ハマれるゲームだな」と思っていただけたらうれしいです。

長嶋
 僕は、みんなでじっくりと作り上げた世界観やキャラクターに注目してほしいですね。シナリオにも時間をかけました。独自のファンタジー世界を描くためには、しっかりとした舞台設定や細部のディテールまで誤魔化さず、嘘をつかずに準備しないといけないのでたいへんでしたが、やれることは全部やり切ったと思っています。皆さんに喜んでいただけるものになっていれば報われます。

鈴木
 神宮さんの言葉にもありました通り、ユルく楽しめる部分とガチの部分を併せ持っているのが『カルドセプト』の魅力のひとつです。『ビギンズ』はルックの部分からポップで明るいゲームに仕上がっていて、単純に“複雑で難しいだけのゲーム”と思われがちなシリーズのイメージを変えるきっかけになるタイトルだと感じています。気楽に、まずはユルく、多くの方に楽しんでいただけるとうれしいですね。
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