『都市伝説解体センター』開発者インタビュー。集英社のマンガ編集者直伝テク、海外ドラマ風な関係性描写、“ムカつくかわいい“マスコット……? で新時代の推理ミステリーを目指す【BitSummit Drift】

by小林白菜

『都市伝説解体センター』開発者インタビュー。集英社のマンガ編集者直伝テク、海外ドラマ風な関係性描写、“ムカつくかわいい“マスコット……? で新時代の推理ミステリーを目指す【BitSummit Drift】
 集英社ゲームズが販売、墓場文庫が開発中のNintendo Switch、PC(Steam)向けミステリーアドベンチャーゲーム『都市伝説解体センター』。

 墓場文庫に所属するグラフィッカー・デザイナーのハフハフ・おでーん氏と、集英社ゲームズで本作のプロデューサーを担当している林真理氏へ、京都・みやこめっせで開催された“BitSummit Drift(ビットサミット ドリフト)”の期間に実施したインタビューをお届けします。

 なお、
『都市伝説解体センター』は先日行われた”Nintendo Direct ソフトメーカーラインナップ+Indie World 2024.8.27”で、2025年2月発売となることが発表されたばかり。いよいよ楽しみです。
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ハフハフ・おでーん

『和階堂真の事件簿』シリーズや 『都市伝説解体センター』を開発する墓場文庫に所属するグラフィッカー・デザイナー。実験的開発ユニット”スカシウマラボ”の一員でもある。好きなものはカレー、麺、パン、プロレス、ダンスミュージック、アメコミ、稲川淳二、80’s。

林真理ハヤシ マコト

集英社ゲームズ・シニアプロデューサー。過去にはディレクター・プロジェクトマネージャー・アートディレクター・3DCGデザイナーなども経験しており、ディライトワークスでインディーゲームのプロデュースを手掛けていたことも。

“第1話からグッと引き込むストーリー”は集英社マンガの編集出身者直伝

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――本作の“都市伝説を解体する”という着想はどこから来たものなのでしょう?

おでーん
 もともと僕たち墓場文庫は『和階堂真の事件簿』という推理ミステリーゲームを作っておりました。今回も得意ジャンルの推理ミステリーを作るとなったとき、もっと“怪しげでおどろおどろしい世界観”のゲームにするというのを開発のテーマにしたんです。

 京極夏彦氏の小説もそうですよね。妖怪が出てきて、その正体はなんなのか? というのを紐解いていくと。京極氏の小説は“憑き物を落とす”ために謎を解くストーリーなんですけど、同じような要領で“都市伝説を解体する”ことで事件の真相を暴いていくという物語にしようと思ったんです。“解体”って一般的には都市伝説に対して使う言葉ではないと思うんですけど……。

――一般的でないからこそ、かえって耳に残りますよね。

おでーん
 はい、あえてミスマッチな組み合わせをタイトルにしました。

 『和階堂真の事件簿』が殺人事件が発生して刑事が出てきて……というタイトルだったので、それとは違うものをやろうというところが企画のスタートだったんです。
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――“解体”と言っても「都市伝説の発生要因をひとつひとつ切り分けた結果、すべて現実に存在する科学で立証できました」みたいなことではなく、オカルトが介在する設定なんですよね?

おでーん
 受け手の捉えかたによる部分でもあると思うのですが、現実的に落とし込めるところももちろんあって、そこが謎を解いていってスッキリするポイントだとは思うんです。「これは現実にあるよね?」、「でも、こっちはいったいなんなんだろう?」みたいに考えたくなる着地と言えると思います。

 “隙間”があるんですよね。『世にも奇妙な物語』だと「あれっ? あれは結局なんだったんだ?」と感じるところを残しつつ終わったりするじゃないですか。『都市伝説解体センター』もストーリーは1話完結ですが「なんかあそこ、ちょっと引っ掛かるなぁ」みたいに、ちょっと奇妙な余韻が残る感覚をあえて取り入れています。

――最新のデモでは、大きな事件の調査に向かう前に“呪いの椅子”というチュートリアル的な短編エピソードが追加されていましたが、アドベンチャーゲームとしてはなかなか類を見ないテンポのよさに驚きました。

おでーん
 チュートリアルで1話ぶんの簡単なおはなしを遊んでもらって「こんな感じで事件を解決していきます」というのを体験してもらいたくて、いろいろな要素をギュッと詰め込んでいます。

 じつはあの冒頭のエピソードは、集英社でマンガの編集をしていた集英社ゲームズの人間から“話の立ち上がりの部分の盛り上げかた”のアドバイスをもらっているんです。設定の説明を自然な流れで盛り込みつつ、どうすれば引き込まれるおはなしになるのか? みたいなところを。
――マンガの第1話で読者の心をグッと掴むノウハウみたいなものが活かされているんですね。

 そうなんです。教えてもらったノウハウをお伝えして、墓場文庫さんに展開を組み立てていただきました。

ドット絵だけど回顧的じゃないアートデザインと、誰もがクリアーできるゲームデザイン。「YouTube世代、TikTok世代にも歩み寄りたい」

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――世界観を構築する上で、『都市伝説解体センター』は“色使い”が唯一無二の印象につながっていると感じます。アートデザイン面でのこだわりについてもお聞きしたいです。

おでーん
 僕たちはピクセルアート……要するにドット絵ですよね。ファミコンの時代から脈々と受け継がれている技術を使って画作りをしているんですけど、意図的に色数を極端に絞っています。これは前作『和階堂真の事件簿』も同様です。

 少ない色数でインパクトのあるものを出す。そのために『都市伝説解体センター』は基本“4色”で作っているんです。そこにバリエーションでいくつか色数を足しているのですが、それでも10色程度です。

 いまのゲームってどんな色でも使えて、リアルな質感を表現できるじゃないですか。そんな中だからこそドット絵でしか表現できないこともあると思っています。色味を見ただけで「『都市伝説解体センター』だよね」と思ってもらえるような色味にしたいというのは、考えて作ってきました。

 墓場文庫さんの色の使いかたはとても“グラフィックデザイン的”だと思うんですよね。あとドット絵の動かしかたも持ち味だと思っています。現代のショートアニメっぽい演出の仕方が取り入れられていて、ファミコンのころを回顧するようなドット絵ではないんですよね。

――あざみのコミカルな泣き顔のアニメーションとか、かわいらしさ・キャッチーさのバランスが“いま風”だと感じます。

 いまみんなが観ているアニメの延長線上にある、いまの人たちがスッと理解しやすい表現なのかなと思います。
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――ゲームシステムにおいては、前作と意識的に差別化した部分はありますか?

おでーん
 『和階堂真の事件簿』はかなり簡単だったと思うんです。『都市伝説解体センター』はよりゲームっぽく、この世界の中で調査をしたり、推理・考察が体験できるシステムを取り入れています。

 『和階堂真の事件簿』は1時間で誰でもクリアーできるというのをコンセプトに作っていたんです。そのうち“誰でもクリアーできる”というのは僕らが『都市伝説解体センター』でも引き続き目指しているところです。

 それはゲーム的な難しさ、煩雑さを極力減らして、よりカジュアルにいろいろな層に遊んでもらいたいと思ってのことです。YouTube世代、TikTok世代の方はあまりゲームをしないという現実に対してこちらから歩み寄りたい、という想いもあっての方針ですね。

 前作はミステリーとしてのシナリオを楽しんでもらうという部分が大きかったと思うのですが、今回は謎を解いていくところをゲームとしてしっかり遊んでもらいたいというところがあります。ちょっと考えて、プレイヤーが自分で答えを出さなきゃいけなかったり、人に話しかけたり調べたりして自分で情報を引き出したりといった部分はバージョンアップしています。
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――その上で、本作も多くの人がクリアーできるというのは重要なポイントなんですね。

 プレイヤー自身に考えてもらうところは増えましたが、がんばっていただければ、謎解きが難しくてエンディングまでクリアーできないということはほとんどないと思います。

――今回プレイした範囲でも“自分で解いてる感”がちゃんとありつつ、誘導は非常に丁寧だった印象です。ダミーの選択肢が「そんな馬鹿な」と笑えつつ正解からは除外できるものになっていたり(笑)。

 何度も同じ間違いをしているとそこにバツ印が付いたり、選択肢そのものが消えたりと、ゲームに慣れていない方でも最後までたどり着けるよう、システム面でもサポートになる作りになっています。
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登場人物たちの関係性の変化にも注目。あざみとジャスミンはやがて強い信頼で結ばれたバディに……?

――本作は登場人物たちも非常に個性が立っていて魅力的だと思います。

おでーん
 メインキャラクターは3人いるのですが、まず主人公の福来あざみはプレイヤーの分身なので、プレイヤー同様にこの世界のことをなにも知りません。純粋に善行をしたいと思っている“いい人”。そんな天使のようなあざみに対する“悪魔”と言いますか(笑)、この世界の邪(よこしま)なところを担っているのが“都市伝説解体センター”のセンター長である廻屋渉(めぐりや あゆむ)です。

 今回プレイしていただいた範囲でもわかると思うのですが、あざみは廻屋に巻き込まれて働かされるんですよね(笑)。ああいう感じで、廻屋は都市伝説にのめり込むあまり周囲の人を利用することも厭わないズルさがあって、純粋なあざみちゃんと対になるようなキャラクターです。頭がよくて、すべてを少し高いところから見通しているような。
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おでーん
 あともうひとりが、あざみとバディになるジャスミンです。彼女はサポート役ではあるんですけど、あざみと違ってアクティブで、ちょっと無頼なところもある。あと“気だるげなギャル”みたいなところもありますね。

 それぞれ違うキャラクター、違う立ち位置の3人がひとつの調査のために協力していくというのはこのゲームの見どころのひとつだと思います。
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 廻屋に無理難題を押し付けられてあざみが困っているところをジャスミンが助けてくれる、みたいな(笑)。序盤こそジャスミンのあざみへの扱いはちょっと雑っぽいんですけど、だんだんふたりの絆が深まっていって、後半では信頼関係ができたいいバディになっていく……この過程も注目してほしいです。

――あぁ~、いいですね……。

おでーん
 コンセプトにしているのがチームものの海外ドラマのような掛け合いや連帯感なんです。頭脳担当がいて、体力担当がいて、みたいな。

――序盤の時点で、ジャスミンは態度こそ投げやりなんだけど、あざみにフォローの言葉を掛けてくれる一面もあり、ほっこりしました。

おでーん
 “姉御肌”的な女の子ですよね。

 気だるそうにしつつも、なんだかんだ言って助けてくれるんですよね。そんなジャスミンが後半では弱みも見せてくれたり。

おでーん
 人間関係の変化も楽しんでいただけたらと思います。
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――ただただ謎を解いて事件を解決、またつぎの謎を解いて事件を解決……みたいな展開ではなくて、それこそマンガ作品のように登場人物の成長物語みたいなものも楽しめる感じなのでしょうか。

おでーん
 そうですね。

 1話ごとの事件の解決は描きつつ、登場人物ごとのストーリーが全編通してあって、大オチに向かって人間関係も変化していくといったドラマが描かれます。「毎週放送されるドラマシリーズみたいなゲーム」にできたらいいなというのも開発を通して意識している部分です。

 まだプレイアブルなものとして出せてはいませんが、1話終わるごとにエンディング的な演出が入ります。“1話ぶんのドラマが終わった感じ”を出した上で、思わせぶりな次回予告があって、つぎのエピソードへ! みたいなこともやっています。

――いいですね~(笑)。

おでーん
 エンディングテーマ曲も作りました。

 昨年公開したPVに使用した歌詞入りのラップの楽曲があるのですが、じつはそれがエンディングで使用される曲なんです。

――そうだったんですね! このゲームのエンディングをラップにするというのも勇気がいる判断だったんじゃないですか?

おでーん
 そうなんですよ(笑)。

 最初に開発チームから上がってきたとき私自身は「えっ、ラップ?」とちょっと疑問符が付いていたんです。でも周囲の人たちは「いいじゃん!」と言っていたので「それならいいのかなぁ」と。

 実際、PVを観てくれたお客さんも皆さん「曲がいい」と言ってくださったので、おじさんの感覚で否定しなくてよかったなぁと、ホッとしました(苦笑)。

リストラの憂き目に遭いながら復活したマスコットの“トシカイくん”。もはや「誰もコントロールできない」実在の怪異!?

――先ほどからずっとそのぬいぐるみが気になっているのですが……?

 彼は“トシカイくん”。“都市伝説解体センター(ゲームタイトルではなく作中の専門機関のほう)”のマスコットキャラクターです。
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――なんでも最初はSteamストアページにも表示されていたもののリストラされてしまったとのことで、ちょっと不憫な子なんでしょうか?

おでーん
 (笑)。

 企画の最初期に「そういう機関のマスコットがいたらおもしろいよね」という話になって生まれたキャラクターだったんです。ところがシナリオを詰めていく中で、一度はだんだんと忘れ去られていきました……。

――あらら(笑)

 徐々に居場所がなくなっていったのですが、「でもトシカイくんって改めて見ると、ちょっとムカつく感じがかわいいよね」と再評価されて、またゲーム内に登場するようになっていったんです。

 ゲーム内に、見付けた都市伝説を読み物として閲覧できる機能があるのですが、そこでの解説役がトシカイくんになり……あとは難しい用語なんかもトシカイくんが説明してくれたりします。一時期は肩身の狭い思いをしていたトシカイくんですが、いまは勝手にX(旧Twitter)アカウントまで始めるほどに、自由にやってくれています。

――トシカイくんが現実世界にも侵食を。

 私もトシカイくんのアカウントがどんなことをつぶやくのかまったく知らないので、急に開発者の方にだる絡みをし始めたりすると「大丈夫かなぁ?」とハラハラしながら眺めています(苦笑)。

おでーん
 トシカイくんだけは開発チームの手も離れているので、誰もコントロールできません。
――なんか、憎らしさのベクトルが“つば九郎”(※)みたいですよね。
※つば九郎……プロ野球チーム・東京ヤクルトスワローズのマスコットキャラクター。露骨にやる気のない姿を見せたり、際どい話題をネタにしたりと自由奔放な姿が野球ファン内外で人気を博している。
おでーん
 そんな感じですね(笑)。

 つば九郎くらいの存在感を示してくれたら大出世ですねぇ。

――『都市伝説解体センター』を楽しみにしている方には、トシカイくんの今後の大暴れにもご期待いただければ、ということで(笑)。最後に、ゲームを楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

おでーん
 このゲームをホラーだと思われている方がけっこういらっしゃるんですけど、もちろん怪異を扱うものの、ガチガチのホラーゲームではありません。「ホラーなら、ちょっと怖いのかな……?」と思っているユーザーさんにも安心して遊んでいただきたいです。

 「ワッ!」と驚かされるようなことはぜんぜんないので、すごくおもしろいミステリー小説を読んでいるような感覚で楽しんでいただけるのではないかと思います。発売を楽しみに待っていていただければうれしいです。
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