『ドンキーコング バナンザ』は、2025年7月に発売された3Dアクション。『スーパーマリオ オデッセイ』の開発チームをベースにした制作陣によって制作された、地形やオブジェクト、敵やNPCにいたるまでのほぼ全要素が破壊できる豪快な作品だ。同作は“CEDEC AWARDS 2026”において、エンジニアリング部門、ゲームデザイン部門、ビジュアルアーツ部門で最優秀賞を受賞している。
ボクセル技術がいかに心地よい破壊の感覚を生み出し、キャラクター作成やステージの地形作りにどう活用されたかが語られている。正直筆者もボクセルと言うと3D版ドット絵のようなイメージを持っていたのだが、じつはかなり深い技術だということが学べた。単純にプレイヤー目線で見ても興味深い解説となっている。
“すべてが壊せる世界”を実現するカギとなったボクセル技術
ボクセルはピクセルの3D版とも言え、情報の詰まったボックスが三次元空間に積み上げられたもの。ボックスの中に0と1の数値が割り当てられ、0と1の境界にポリゴンを貼っていくことでメッシュ(ポリゴンの面となる部分)を作ることができる。
ボクセルと言うと『マインクラフト』のようなカクカクした世界をイメージするが、じつのところボクセルでも『ドンキーコング バナンザ』のように滑らかな見た目は作れるという。メッシュを貼るアルゴリズムによって表現を変えられるとのことだ。

グリッドごとに頂点を作り、各頂点を結ぶことでメッシュが作られる。本作では地形などの破壊に合わせてリアルタイムでメッシュを生成することによって、壊されていく地形が表現されている。
ボクセルのデータ構造
ボクセルの形状変化に用いる“密度”
ひとつ目の密度は、ボクセルの中身があるかどうかを示す情報。ドンキーコングのパンチを受けると値が変化し、それに合わせてメッシュが変形していく。
形が完全に残っている部分は密度255となり、破壊状況に応じて数値は減少、値が0になった部分は完全に削り切られたことを意味する。

この密度情報だけでメッシュを生成すると形が丸みを帯びてしまうが、Dual Contouring(デュアル・コンターリング)と呼ばれるアルゴリズムを使い、エッジを出すことで形状をわかりやすくしたという。
何回パンチすれば壊せるかの目安となる“ダメージ”
つぎに解説されたのは、ダメージの値。こちらはあと何回パンチすれば壊れるかがわかるようにするデータだ。パンチを撃ち込むたびに値が増加していき、値に応じてヒビ表現が変化。あと一発で壊せる部分にはわかりやすく丸い破壊痕が残るようになっている。
こちらの表現については、アーティストチームによる講演“『ドンキーコング バナンザ』もっと壊したくなる世界 ~驚きデストラクションと濃厚な絵作り~”でも解説されている。
地形や敵の材質、素材を決めるのがマテリアル情報。砂地かむき出しの岩か、あるいは草が茂った地面か、などの見た目はこの情報によって決まる。
こちらも数値で管理されており、溶岩に氷を投げると溶岩が冷えて岩に変化する、といった材質変化も数値に基づき処理されている。
地面の深さを表現する“濡れ”
本作では地形を破壊し、深く深くへと潜っていくことができる。その深さを表現する情報となるのが、濡れのデータ。地形の内側ほど高い値が設定されており、掘られた地面の湿度を表現できるようになっている。

ボクセル地形を自然に見せるための工夫
まずは、テクスチャをX軸、Y軸、Z軸からフェッチする(読み込む)三軸投影。これを行うことでテクスチャの切れ目が目立たなくなる。
三軸投影は同じテクスチャを3回使用するぶん、GPUの処理負荷が上がってしまう。ここについては、6枚で構成されていたテクスチャをパッキングし、3枚に数を減らすことで処理を軽減しているという。

また、異なる素材の境目ではマテリアルブレンドを行い、直線的な境目ではなくグラデーション的な変化に見せている。
処理軽減やメモリ節約の工夫
地形の破壊によって形状が複雑になればメッシュは分割されるが、地面が平らにならされれば、再び自動で単純化された状態に戻るという。

とあるエリアを切り取って見ても、ボクセルが存在できる空間のグリッド数は1億を超える。ただし、そのうち中身があるボクセルは7%しかない。そのため、中身のないボクセルに関してはメモリを確保しない最適化が行われている。
加えて、本作ではボクセルの破壊、つまりデータ変更が頻繁に起きる。そのため、使用メモリの削減に加えてキャッシュ効率やデータ構造更新コストなどにも配慮する必要があった。
これらの課題をクリアーする方法として、データをチャンク(塊)単位で管理する手法が取られた。8×8×8のボクセルをひと塊として管理し、チャンク内のボクセルがすべて空ならメモリを確保しないといった処理を行う。この方法はメモリの使用効率こそ低いが、データの更新コストは抑えられるとのことだ。

これに関連し、ROMサイズの削減についても工夫が行われている。ロードを高速化するために、ボクセル地形は一体化した地形をROMから読み込むようにしているが、そのまま保存するとサイズは巨大になる。
これを解決すべく、空になっているチャンクは1ビットの情報として持ち、中身がある部分はそのまま圧縮。結果、圧縮前は915MBあったデータが8MBにまで圧縮されたという。テクスチャ込みでも37MBと、大幅な削減が行われている。
破壊の手応えはいかにして作られたか
ボクセル地形の破壊
同じ素材であっても、掘り進んでいる最中、壁を貫通しない破壊では破片が手前に飛び、壁を貫通して破壊する場合は破片が奥に飛んでいくといった変化があり、破壊の達成感や気持ちよさを高めている。

また、ドンキーコングが発するボイスも破壊の状況によって変化。ヒビを入れる段階では短めのボイスとともにパンチをくり出すが、破壊し切る最後の一撃では力の入った唸り声に切り替わっている。
スポーツ観戦などにおいても、音が興奮に与える影響は大きい。実際のプレイでもプレイ動画を見る場合でも、同じ場面を音のあるなしで比較してみればその違いは明白。
地形が砕ける音とともに、ドンキーコングの声も破壊の臨場感を高めてくれる要素と言えるだろう。

素材によるエフェクトの違いも、砂や岩から果物まで幅広いマテリアルが登場する本作では重要だ。
素材ごとに硬さや含まれる水分の量をイメージさせる破片やサウンドが発生するのはもちろん、2種類のマテリアルの境目ではそれぞれの量を反映した複合エフェクトも生成される。

マテリアルの種類が多いぶん、それぞれにエフェクトを用意するとなると気になるのはその量産手段。本作には800以上のマテリアルが存在するが、破壊エフェクトは“質感×テクスチャ”の計算によって生み出されている。
質感は粒の大きさや形、挙動をテンプレート化したもので、ゴロゴロ、サラサラ、べちょべちょなど9種類が存在。このくくりにおいては、氷やイチゴ、ロケット石などは同じグループに属する。
その質感にボクセルのテクスチャを掛け合わせることで、膨大な数のマテリアルにそれぞれ固有の破壊エフェクトを持たせることができたという。

装飾物の破壊
この作り込まれた世界があるからこそ、「これが壊せるの!?」という驚きが生まれるわけだ。
装飾物の壊れかたも画一的ではなく、街灯や木箱などの大きなものはパンチで破壊でき、小さな草花などは地面の破壊に応じて壊れるといった違いがある。

装飾物は壊れると同時に破片モデルに切り替わり壊れエフェクトが再生されるが、装飾物は2000種類以上が存在。こちらも量産手段が確立されており、“破片モデル×挙動”で壊れエフェクトが作り出される。
破片モデルは、Houdini(3DCGソフト)を使って装飾物のモデルを自動分割して制作される。中身の詰まった破片にするか、空洞にするか、あるいはパーツ単位で分離させるか、といった設定は個別で指定できるという。

そうして制作された破片モデルに、軽い、重い、薄いといった8種類の挙動テンプレートを組み合わせることで、それぞれの壊れエフェクトが作られる。2000種のうち、98%は自動生成で対応できたとのことだ。
破壊によって変化する世界
例として挙げられたのは、吹雪が吹き荒れるフィールドでかまくらに入ると吹雪のエフェクトが止むが、かまくらを破壊すると再び吹雪の影響を受けるようになる、という場面。

屋内に入ったことを検知して挙動を変えるだけであれば、屋内に判定を配置するだけで話は済むだろう。しかし破壊によって同じ場所でも挙動が変化するとなると、位置ではなく周囲の環境がどうなっているかを判定する必要がある。
本作で用いられたのは、キューブマップという手法。ドンキーコングを中心に、上下・左右・前後の6方向を判定し、周囲がどれだけ地形に遮られているかを検知する。

ただ壊せるだけでなく、壊したらどうなるか、という疑問にしっかりと応えていくことで壊す楽しさは増していく。「これを壊してこうなるなら、あれを壊したら?」と、つぎの破壊につながる好奇心を呼び起こしてくれるわけだ。
キャラクター表現に応用されるボクセル技術
キャラクターに用いられるボクセルは地形のそれよりも単位が小さくなっており、より細かな破壊表現を行えるようになっている。
目や牙といったパーツはボクセルではなく、装飾パーツで作られている。地面に生える草花と同様、これらの装飾は身体のボクセルが壊れるのに応じて破壊される。

本作のNPCは、結晶のような不思議な見た目をしている。パンチを当てれば粉々に砕くこともできるが、NPCによっては矢印のように変形して道を示したり、ゴールドをもらうと木のように伸びたり、あるいはパンチを避けるように形を変えるなど、ボクセルによる変形を活かしたユニークなものが数多く存在している。

NPCを粉砕できてしまうのはなかなかに豪快な仕様だが、実際、アクションゲームでは「このキャラを攻撃したらどうなるんだ?」という好奇心は刺激されるもの。
それに対してしっかりと反応を用意し、かつNPCがすぐに復活することで後ろめたさなしに楽しめるような仕組みにしているのもナイスだ。
地形作りのワークフロー
レベルデザインの段階では、レベルエディタ上で直方体や球といったプリミティブ(原始的)な形状を配置し、その形状情報からボクセルが生成される。
プリミティブな形状だけで表現が難しい場合は、ポリゴンモデルからボクセルに変換したパーツも用いられるという。
このとき、エディタ上で素材を指定すればゲーム内でボクセルの材質も変化。ざっくりとした見た目や破壊したときの反応なども変化する。

レベルデザインが行われた段階では、むき出しのボクセルが素材に応じた色とテクスチャの違いを見せる程度で、あくまで仮といった見た目。ここにさまざまな情報量を加え、密度を高めていくのがアートのフローだ。
本作ではさまざまな場所に動物をモチーフにした地形があり、巨大なダチョウの首をかたどった柱なども存在。これもレベルデザインの段階ではややデコボコした柱だが、そこからボクセルで形状を整え、素材の見た目を決め、さらに装飾モデルを加えていく。

こういった特徴的なモデルに関しては、3DCGソフトのMayaでポリゴンモデルを作成し、それをHoudiniでボクセルに変換。そのボクセルをもとにメッシュが作成される。
岩や砂、草といったボクセルの素材は、設定された時点ではいずれも同じ見た目をしている。しかし実際のゲームでは、同じ岩でもステージごとにテクスチャが異なり、その印象は大きく変わる。この違いを作り上げるのもアートの仕事だ。

形を整え、素材の設定を行った後は、表面を彩る装飾を配置していく。
ダチョウの柱にある目やクチバシのパーツなど、特徴的なものはモデル単位で手動配置するが、苔や小さな草、石畳などはエディタ上に置いたパスなどに沿って、自動で配置を行う。
地形の作成フローについては、レベルデザインとアートの講演でそれぞれ詳細な解説が行われている。どちらも記事化しているので、より細かい部分を知りたい人は目を通してみてほしい。
“すべてが壊せる世界”の中心にあるのはボクセル
冒頭でも述べたが、本講演を見る前はボクセルと言えば角ばった3D世界、という程度のイメージしか持っていなかった。しかしそんな単純なものではなく、3次元空間に情報を詰め込むことで、想像していたよりもはるかに多くの表現を可能にする技術だった。
とくに、部分的な破壊や素材の違いを活かした破壊表現の変化、そしてキャラクターのユニークな表現などは、ゲームのおもしろさを深めるうえでは非常に役立つ印象だ。『ドンキーコング バナンザ』に続き本技術を活用するタイトルが出てくるのか、今後も楽しみになる。
すべてが壊せる世界、となるとバグもかなり出るのではないかと思う人も多いだろうが、ここに関してはデバッグに関する講演“『ドンキーコング バナンザ』の破壊を推進するQA ~楽しく安心な破壊体験のために~”で解説が行われている。デバッグの自動化やスーパープレイによるバグの洗い出しなど、こちらも興味深い内容となっているので要チェックだ。














