いまの時代、遊びと仕事を両立できる大人は少ない。仕事が忙しい、家庭が忙しい、ゲームに飽きた……など、理由はいろいろだ。ある日、テレビをつけていると、人気ドキュメンタリー番組“ガイアの夜明け”でひとりのゲーマーが特集されていた。
競技カードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』(MTG)における日本人初のプロツアー優勝者・黒田正城氏である。肩書きは大手医薬品メーカー・沢井製薬の副部長。
ただの関西の『MTG』好きのおじさんだと思っていた筆者には、衝撃が走った。なぜ、黒田正城氏は仕事と趣味を両立できたのか。聞かなければならない。
「仕事が忙しくて、ゲームする時間がない」
そういう人に読んでほしいインタビューになった。

黒田正城
『マジック:ザ・ギャザリング』における日本人初のプロツアー優勝者。この記事を書いている小川翔太とは旧知の仲。文中は黒田。
『バーチャファイター』好きの黒田少年が300枚のデッキを作るまで
――お久しぶりです! まずはご経歴を……と言いたいところですが、仕事と趣味、どちらの経歴からいきましょうか。
黒田
じゃあ『MTG』のほうからにしましょうか(笑)。始めたのは1997年だったと思います。ログインという雑誌で『MTG』が紹介されていて、「おもしろそうやな」とちょっと思った時期がスタートで。
――ログインの遺伝子がこんなところに……(取材に同席している編集者ミス・ユースケは元ログイン編集部)。
黒田
それと、その頃はマンガの『遊戯王』に“ブルーアイズ”が出てきた時期(※)なんです。同時に攻められて、「やっぱりカードゲームはおもしろいんだ」と、マーケティングに引っ掛かったんですね。
※『遊戯王』:高橋和希氏による人気マンガ。もともとは多彩な闇のゲームで戦う内容だったが、『MTG』をモチーフにした“マジック&ウィザーズ”が作中に登場したことでカードゲーム人気が爆発。ブルーアイズとはご存じ“青眼の白龍”のこと。黒田
たしか高校2年のときやったと思うんです。受験真っ盛りの時期にハマってしまうという、わけのわからないムーブで浪人しました。さすがに浪人中は我慢していたのですが、大学1年から本格的にのめり込んで、そこからいきなり競技『MTG』にどっぷり。
最初はとにかくおもしろすぎて。「世の中にはこんなにおもしろいものがあるのか」と思いながらやってました。それまではずっと『バーチャファイター』勢だったんですけど、まさか(『バーチャファイター』から)離れるなんて夢にも思ってなかった。
ほんとに寝る間も惜しんで遊んだり、授業中にもデッキリストを考えたり、生活の一部が『MTG』になってしまったんですよ。
――格ゲーから移行したということは、対人ゲームの駆け引きなどに魅力を感じたのでしょうか。
黒田
だと思います。あとは世界観。僕、『ファイナルファンタジー』も好きなんですよ。そういう人間からすると、『MTG』の設定はすごくおもしろい。当時はネットもそんなに浸透してなかったので、知らないカードがどれも強く見えてしまった。本来、デッキは60枚程度で組むんですけど、どんどん新しいカードを足すもんですから、デッキが300枚ぐらいになった時期もありました(笑)。
――黒田さんにもそんな時期があったんですね。後の日本人初のプロツアー優勝者とは思えない。
黒田
大学1年生で日本選手権で2位になって、日本代表のような立ち位置にたまたま行けたんですね。でも「勝ちたい」という気持ちがそこまで強かったわけではなくて、ただただおもしろいから続けていたら、そうなってしまった。当時はプロツアーの存在も知らなかったくらいですし。
世界選手権に行ったときに、海外のプレイヤーたちと遊ぶ機会があって、楽しさがもう一段階上がりました。日本に帰ってからも「あんな場所に毎回出たい」という欲求が強くなってきて、大阪で『MTG』のチームに入って練習をするようになりました。
当時は、ネットで強いデッキリストが得られる環境ではなかったので、チームに所属しているかどうかで明確に差があったんです。所属している以上は、組織に貢献しないといけないので、『MTG』をがんばっていたら抜けられなくなって……。好きでやってるからいいんですけど。
――社会人になって、このまま『MTG』を続けるかどうか、悩んだ時期はありましたか?
黒田
そうですね。社会人1年目は「仕事のほうで生き残れないと意味がない」と考えていたので、関わる時間は少し減ったんですが……。
――ですが?
黒田
なぜかそのタイミングでプロツアーで優勝したんです。
――『MTG』側が黒田さんを離してくれなかった。
黒田
当時は仲間たちにデッキを用意してもらって、何から何までお膳立てしてもらっての優勝でした。大会の1週間前に「これでやるんやで」ってデッキを渡されました。本当にデッキが強かった。
そこでの優勝が僕の中ではデカくて。日本人初の優勝というのは、一生抜かれない記録なので、いまでもそれにしがみついてやっていますね。もちろん仲間たちのおかげなんですけど。
結婚&子どもが生まれるタイミングでプロツアー優勝! 賞金で食洗器を買う
――黒田さんが日本人初のプロツアー優勝を果たしたのは、2004年の“プロツアー神戸”ですね。プロツアー優勝時のエピソードも深掘りしたいところなのですが、今回のテーマに沿う形で、泣く泣くですが、本題に入っていきたく。仕事と家庭と趣味、どうやって両立してきたのかを伺っていきたいなと。
黒田
いわゆるふつうの社会人と比べると、ほかの人がやっていることはそぎ落としていると思います。ゴルフですとか、飲みですとか。あとは睡眠時間も削っているかなと。平日は深夜2時に就寝して7時起床です。寝るのがもったいない! 寝るくらいなら『MTG』をやっていたいんですよ。
――本業は企画職ですよね。いろいろお付き合いなどもあるかと思いますが、仕事に支障をきたしませんでした?
黒田
仕事はちゃんとやってます(笑)。
――ですよね。しかしなぜ、趣味も仕事も全力でできるのかと疑問に思います。
黒田
仕事もゲームも、できるだけ楽をしたい。手抜きをしたいわけじゃなくて全部を効率よくやりたいって気持ちはあります。それは練習のスタンスにも出ているかも。
たとえば、このあいだ関西でプロツアーに行くための練習会があって、プロツアーの権利を持っていない人も含めて集まったんですよ。協力してもらう感じで、朝から夜まで練習しました。当然、昼に腹が減ったらメシに行きますけど、内心、この時間がもったいない。メシよりも『MTG』をやりたい。みんなでメシに行くのも好きなんですけどね。

黒田
今度はまた別の日に、関東でプロツアー経験者や権利持ちの16人が集まった合宿がありました。こっちは誰もメシ行こうと言わなかったんですよね。とにかく早く何度も試合をやって、ご飯はスキマ時間で各自が取る感覚。そっちのほうが自分にはフィットするんですよ。強迫観念じゃないけど、経験を積みたい気持ちが優先されます。
――仕事以外の時間はゲームがうまくなるための時間という感じなんですね。ちなみに『MTG』を長く続けてきた中で、ご家族や周りの方など、プレイしない人たちからの反応はいかがですか?
黒田
そりゃあもう、冷ややかなものですよ(笑)。
――笑いながら言っていいことではないような。
黒田
基本的にプロツアーの予選や大会は土日にあります。土日の大会があるから平日の仕事をがんばれる部分もあります。それが、子どもができたことで「土日の2日とも出られへん」となると、一定のレベルをキープできなくなる。子どもがちっちゃいときはゲームとの付き合い方は制限されるし、面倒見なかったら泣かれるし家庭内戦争が起きますから。『MTG』はほどほどにっていう時期もあったことはありました。
――言っちゃいけないことを言ってませんか?
黒田
……自覚はちょっとあります。なので「土日のうち、片っぽは出させてくれ。もう1日は子どもの面倒を見るから」と妻と交渉して、なんとかお許しをもらって大会に出ていました。子どもが少し大きくなってからは、会場に連れて行ったこともありましたね。
――それをやりたくてもできない世のお父さんは多いと思うんですよ。黒田さんの交渉術が炸裂したわけですね。
黒田
理解してくれたことには本当に感謝しています。(ほかの人は)奥さんとの交渉はなかなか難しいとは思います。これはたまたまなんですが、結婚して子どもができて、もうすぐ生まれるタイミングで、僕がプロツアー初優勝したということもありますね。優勝賞金の一部が食洗機や家の頭金になりました。
――現実的ー! たしかに、目に見えた実利があると、その後のご家族からの見えかたも変わってきそうです。
黒田
はい。もしそのときの優勝がなかったら「カードいつやめるの?」と言われている可能性も高かったはずです。実際、同世代のプレイヤーの中には「休日出勤のふりをして大会に来てます」っていう人もいますし。
――好きなことで充実できているのは、同世代の人からうらやましがられませんか?
黒田
まあ、代わりに(同世代がやるような)ゴルフはしないわけです。好きなことやって、すごくおもしろくて、たまにお小遣いがもらえる。趣味としては最高じゃないですか。いまからゴルフを初めて賞金が得られるようにするというのは、絶対に無理なので。
――なぜそこまでして続けられるのでしょう?
黒田
単純に『MTG』が飛び抜けておもしろいからですよ。永久に極められないし、相手の方が無限に強いし。30年も同じことをやってるんやけど、なぜかやり続けてしまう。
――その強い相手、たとえば海外のチャンピオンと戦うときはどんな気持ちですか?
黒田
単純にうれしいですね。ミーハーです。そうとう昔にジョン・フィンケルという伝説のプレイヤーがいて、大阪でプロツアーがあったとき、なぜか「いっしょにバスケしに行くぞ」という話になって。
――どうしてそんなことに。
黒田
フジケン(『MTG』プレイヤー)もいっしょやった。僕が会場を案内したりして、それはうれしいですよね。あんなこといまは考えられへん。
フランスのオリヴィエっていう殿堂入りしてるプレイヤーとすごく仲よくなって、日本で大会があるときはうちに泊まってたんですよ。「結婚式に来てくれ」と言われてフランスにお祝いに行きました。めっちゃうれしいけど旅費が高いなーって(笑)。

黒田
なかなかあり得ないですよね。海外の結婚式に呼ばれるなんて。『MTG』やっててよかったですよ。いろいろな経験ができた。
――グローバルにコミュニティが広がってますね。
黒田
ちゃんとした海外旅行に行ったことがないんですよ。全部『MTG』絡み。『MTG』がなかったら英語をちゃんとやろうなんて思わなかったでしょうし。
――へぇー、英語もゲームきっかけですか。
黒田
英会話学校の先生がめちゃくちゃかわいかったからというのもあります。
――それは言わなくて大丈夫です。
先輩風は吹かせない。若いプレイヤーたちのチームに少しでも貢献しなければならない
――『MTG』の大会やコミュニティにおいて、年齢的にも権威的にも上位の存在かと思います。実際のコミュニティ内での立ち回りもリーダー的な動きをされますか?
黒田
いやいや、そんなことはないですよ。ここしばらくのチーム練習でもお邪魔させてもらっている感覚でした。最近はプロツアーを目指す挑戦者として6年ぶりに競技に復帰した立場だったので。いまは多くの若いプレイヤーたちが活躍していて、僕はただ年齢がいちばん上なだけです。
どうしても(歴が長くて年上の)僕に逆らえない、意見を言えないような空気になりがちですけど、遠慮なく指摘もしてほしいし、いじってもらいたいですね。
――大人だなー。年齢差のあるコミュニティだと、先輩風を吹かせてしまいそうなものですが……。
黒田
現役バリバリの子たちからしたら、僕は情報や知識が不足しているので、そんな僕を迎えてくれているのは、むしろ感謝でしかありません。ありがたいですよ。
――「自分はこうしたい」という欲求はありつつも、周囲も含めた総合的な成果を求めて、合わせるときは合わせる。そんな感じでしょうか。
黒田
それはもちろんそうですね。いっしょに練習するメンバーの中で、自分がいちばん時間をかけられるかと言ったら、やっぱりそうじゃない。貢献度として考えてもそうですね。練習が始まったら、全員21時にDiscordに集まって、24時まではみっちりやりましょう。25時まではフィードバックやりましょうというスタイルなんですけど、そこでどれだけアウトプットできるかだと思うんですよね。30年間『MTG』をやってきて、ここまで根詰めて練習したのは、先日のやつが初だったかもしれません。
ある意味、天才的な人がおって、恩恵に預かったところはあると思うんです。そりゃこんだけやったら勝つわーという感覚でしたし、プロツアーが終わって帰ってきて、時計見て「そろそろ練習行かなあかんわ。……あ、ないわ」って。そこまで集中してやりました。
――それなりに社会で立場のある人が、ここに来て過去最高を更新するぐらいゲームに打ち込めるって、なかなかないように思えます。
黒田
今回のプロツアーは6年ぶりですからね。それ以外は手を抜いていたわけではなくて、(プロツアーの)権利がもらえそうな大会は全部出ているわけです。でも、勝ていなかった。6年周期とすると、つぎ自分の年齢はいくつや? って。ここであかんかったらラストプロツアーかなと思うところもあったんです。だから、やるだけやろうかなと。
ありがたいことに、いまは公式の解説者としても呼んでもらって『MTG』に関わっています。プロ野球選手が引退して、解説者に回る感じのおもしろおじさん枠。もう「昔は強かったおじさんでいいか」と思うこともあります。
――そういう立場を楽しみつつも、まだ上に行きたいという意識もありますか?
黒田
そりゃもちろん。やるからには上を目指したいですよ。ただ、どの役割だったとしても、多くの人におもしろいゲームと出会ってもらって、ひとりでも多くの人に遊んでもらいたいという気持ちがある。知ってます? 『MTG』ってバケモノみたいにおもしろいんですよ。

黒田
試合の解説をするときも、トップレベルの層は相手にしてないです。現役のプレイヤーに向けてしゃべっているつもりはなくて、放送中に高度な読み合いを解説しても、あまり意味はないと。偶然、番組を見た人に「おもしろそうなことやってんな」って思ってもらいたい。それこそ、自分がログインで『MTG』を見たときみたいに。
――なるべく広く、それこそ下の世代を意識している感じでしょうか。
黒田
僕より上の世代は少ないですからね。もちろんいますけど、本気で上を狙う人は多くはないかなあ。2021年くらいから、大会の参加はスマホでやるようになって、履歴が公開されてるんですよ。僕、2100個くらい大会に出てるらしくて。
――2100……? すみません、多すぎてピンと来ない読者も多いと思うのですが……。
黒田
ほかの人は100とか200くらいかな。
――おかしいでしょ。
黒田
出てなくても解説やったりしてるので、現場にはそれ以上にいます。
――解説関連の話で言うと、平日の仕事を終えた金曜の深夜から土曜の朝まで公式大会を解説をやって、そのまま土曜日の朝からショップの大会に参加していたそうですね。
黒田
大会があるんだもん! 出たいじゃないですか! 解説をしたせいで大会に出られなくなったら本末転倒です。僕はやっぱりいつまでもプレイヤーなので。遊んでいたいですよ。
――だって、お仕事は忙しいですよね。
黒田
そこそこですよ。そこそこ。仕事は仕事でけっこうおもしろくて、不満なくやってます。
仕事や家庭があったらゲームをやめる。それがまともな人間
――ご自身は仕事、家庭、趣味の両立を果たされましたが、一般的には、家庭や仕事を理由に趣味から離れていく人のほうが多いと思うんです。黒田さんには、そういう人はどのように見えていますか?
黒田
それがまともな人間です。すばらしいですよ。僕は仕事と趣味を両立できたかもしれませんが、家庭については自信はないですからね。妻にも苦労をかけましたし、もう少し趣味の頻度を下げていれば、家からも評価されてたかも(笑)。
――これ以上は突っ込まないようにしますね。
黒田
僕の場合は、あまりにも『MTG』が好きすぎたんですよ。あと、初期の段階でプロツアーで結果が出たというのも関係があるかもしれません。
――黒田さんの場合は、そのタイミングで「仕事と趣味は両立できるのか」ではなく「仕事も趣味も両立させるんだ」という前提にマインドに切り替わったのでしょうか。そこに家庭も。
黒田
うーん……家庭はちょっと自信を持てないですけど……。
――お子さんをふたり育てられてるじゃないですか!
黒田
ここでかっこよく言い切ったら、あとで(妻に記事を見られたとき)「何言ってんだ!」と怒られる可能性は高いです。まあまあ、家族の理解のおかげだなあとは思いますよ。
――そう言えば、お子さんはお父さんの『MTG』活動のことは知ってるんですか?
黒田
昔から知ってますね。下の子が高校生くらいのときかな。友だちのあいだで『MTGアリーナ』が流行った時期があって、ソッコーで僕のことがバレました。ふつうに遊ぶと負けへんらしくて「遺伝子や!」って文句言われてたみたいです。
プレイヤーとしてのみならず大会で解説を行うなど、界隈では有名人の黒田さん。
――『MTG』を教えたりしないんですか?
黒田
いやー、どうでしょうね。家で僕を見てるから考える系のゲームが好きみたいですけど、本人次第じゃないですか? カードの資産はかなりありますけど。そういえば最近は親子限定大会とかもあるらしいですね。
――それに黒田さんが出たらズルでしょ。
黒田
相手のお子さんが泣いちゃうかもしれない。
『MTG』は超大作RPGみたいなもの。クリアーしてないからやめない
――『MTG』以外のカードゲームはやらないんですか?
黒田
よく誘われますし、どれもよくできてるなーとは思うんですけど、時間が分散されちゃうじゃないですか。だったら『MTG』一本のほうがいいな。結局戻ってます。
シンプルに『MTG』がいちばんおもしろいと思うんですよね。探求心もあるのかもしれないですけど、とにかく無限に時間を使いたいゲームなので、ほかのことをやってる暇がない。
――試しに遊ぶことはありますか?
黒田
前に甥っ子が『ポケモンカードゲーム』を持ってきたんですよ。「おじちゃん、こういうの強いんでしょ。遊んで」って。ルールを教えてもらいながらやったら、ようできてるわ、これはたしかに流行るわと思いましたよ。
それから「デッキ見してみ。エネルギー17枚も入れたら回らへんで」と教えたりしてね。
――英才教育だ。
黒田
ずっと『MTG』やってるから、ある程度はほかにも対応できますね。“ドラフト(※)”ではセットが変わるたびにカードを覚えないといけないけど、基本の部分は秘伝のタレみたいなものなんです。長年の積み重ねだから歳取ってるほうが圧倒的に有利だと思っていて。
※ドラフト:あらかじめ用意したデッキではなく、ブースターパックを開封してその場でデッキを組んで対戦する形式のこと。――知識の総量はベテランの方が多いわけですもんね。
黒田
『MTG』プレイヤーの平均年齢は35歳か40歳いかないくらいだったと思います。離脱しないから徐々に上がっちゃう。一時離れても全然戻ってこれるゲームというのがいいところですよね。自転車に3年乗らなくてもまた乗れるじゃないですか。それといっしょです。仕事や子育てでできなくなっても帰ってくる人はすごく多いですよ。そしたら「まだやってるんですか!?」って聞かれるんですけど。
――いったんやめて復帰して……という人はけっこういらっしゃいますが、黒田さんはずっと第一線級ですよね。長いキャリアの中で、『MTG』との付き合い方を変えたりとか、微調整されているのでしょうか。
黒田
変わったかどうかはわからないですけど、『MTG』は超大作RPGみたいなもんと思ってるんですよ。ものすごくストーリーが長くて、まだ終わってない。我々は『FF』をやり続けてお母ちゃんから怒られて、みたいな世代ですよね。いっしょですよ。やめろって言われても、いまいいところだからやめられへんよって。
――じゃあ、ずーっとつぎのセーブポイントを探し続けてる状態なんですか。
黒田
そうです。学校から帰ってきたら自然にファミコンつけますよね。何か強迫観念があるものじゃなくて、続きをやるのがふつうなんですよ。

黒田
20年くらい前かな、『Magic Online』が登場しました。『MTG』をネットで遊ぶPCゲーム。これほんまに夢のツールで、家から出なくてもいい。起きたらここ(PC)でできる。ヤバかったですよ。そのときは外でネットはほぼできなかったけど、そうこうしてたらスマホで遊べる『MTGアリーナ』が出て、夢かないました。こういう転換期は関わり方も変わりました。よりどっぷりの方向なんですけど。
――世間の人が期待する答えの真逆かもしれない。結局、ここまで成果を出されているわけですから、お母様も「ゲームをやめなさい」と言えないですよね。
黒田
「いつやめんねん」はずっと言われてました。それが、プロツアーで優勝したらピタッと。ネットで公開される記事を見るようになって、「今回は惜しかったね」とか言われるようになりました。
――ゲームを続けるために、とてもシンプルな答えですね。成果を上げることは大事。大企業の副部長だから人生でも結果を出しているから子育ては間違っていなかった。
会社では上司と部下の理想的な関係
――テレビ番組への出演で黒田さんの仕事が世間にバレましたが、黒田さんが『MTG』をやっていることは社内にバレているんでしょうか。
黒田
バレてはいますね。隠していたわけではないんですけど、言いふらすことでもない。知っている人は知っている、くらいです。『MTGアリーナ』のスマホ版がリリースされたタイミングで、部下のふたりが知らないうちに始めてたんですよ。
ひとりが神妙な顔してやってきて「黒田さん……マーガリンって何すか?」「マリガンやろ。マーガリンではないなあ」なんてこともありました。意外と「じつは僕もやってます」という子が出てきたりしますし、上下関係なくゲームの話ができる。むしろ部下たちが僕をいじってくるんですよ。
――めちゃくちゃいい関係ですね。我々はゲーム業界なので偉い人ともゲームの話をしますが、一般企業でその上下関係は理想的では。
黒田
まあ、こっちも努めてゆるめにしているので、たまにいじられますね。僕の顔がデザインされたスリーブがあるんですが、欲しがった部下がいたからプレゼントしたんですよ。ある日、キャビネットに貼ってありました。誰やー! 容疑者は2~3人しかおらんやろー!
――いい職場すぎる。たとえば『MTG』の現場でも、黒田さんはふつうにしてたら少し怖いと思うのですが、そうならない。総合的なブランディングですよね。
黒田
朗らかおじさんでいられるようにがんばってますから。機嫌よくやるのがいちばん大事。
――黒田さんには絶対に戻ってくるOB感というか、安心感があります。
黒田
昔はそうじゃなかったんです。負けでイラつくことも多かったですし、「土地を15枚も引いた。おれは下手ではない。運が悪かっただけ」と、とにかく言い訳を寄せ集めていた時代もありました。そうなると、おもんないんですよ。『MTG』という最高のゲームなのに、おもんない。
そんとき、たまたま大阪で見たあるプレイヤーが、負けても「あー事故っちゃった!」ってゲラゲラ笑ってたんですよね。それがかっこよく見えて。あくまでゲームだし、命を取られるわけでもないからイラつくのはやめようと思いました。
――スッと考え方を変えられるのってすごくないですか?
黒田
よほど衝撃的だったんでしょうね。多少やられても不貞腐れることはなくなりました。ただし、最近の経験則でわかったことがあります。こちらの行動を対策される流れを3回連続されるとイライラしますね(笑)。

黒田
若いやつらにOBと思ってもらえるのはちょっとうれしいですよね。だいぶ昔ですけど、10個くらい下の世代の子たちが「よかったらメシ行きません?」って誘ってくれたんで焼肉に行ったんですよ。
うれしそうにしとって、聞いたら「まさか、マンガで見たキャラが目の前で肉食ってるなんて」と言い始めて。僕は何のことかわからなかったけど、『デュエル・マスターズ』のマンガに“黒城凶死郎”という悪役キャラがいて、どうも僕の名前から漢字を取っているらしいと。
知らんかったけどおもしろいですよね。たしかに、見たら僕が日本選手権で使ったカードを使ってるんです。それを部下に話したら絶望した顔で「僕はあのマンガで黒城がいちばん好きなんです。そんな人にボーナスの査定をされるなんて……」って。
――おもしろすぎる。
カードゲームが流行れば『MTG』と黒田正城に恩恵がある
――最近は『MTG』界隈も雰囲気が変わっています。いろいろな方がYouTube等の活動を通して『MTG』のことを広げてくださる流れが増えましたが、これについてはどう見られていますか?
黒田
いいことだと思います。僕の活動では届けられない客層に『MTG』を届けてくれているわけですからね。うれしいですよ。
――そもそもですが、『MTG』が広まってほしいのはなぜですか。
黒田
ひとつは「こんなにおもしろいものがある!」と共感してくれる人が増えるとうれしいから。もうひとつは、プレイヤー数が増えたら上手な人が増えるわけで、それが『MTG』上位層をもっと上に押し上げることにつながるからですね。
――このゲームがもっと流行ったら「俺を楽しませてくれるプレイヤーも増えるだろう」と。ある意味利己的ですごく納得感があります。
黒田
そうそう! それはあります。僕、自分勝手なんですよ(笑)。最近は大阪で、新しいセットが出るたびに“ドラフト道場”ってイベントを任せてもらってるんです。「このセットから初めて『MTG』を遊びました」って人がけっこういてるんですよ。すごいうれしいですよね。まあ、勝っちゃうんですけど。
――逆に最近はインフルエンサー的な活動の一環なのか、『MTG』出身のプレイヤーたちがほかのカードゲームにも携わっています。『MTG』だけを一途にやってきた黒田さんからにはどう見えているのでしょう。
黒田
思うところは何もないというか、とてもいいことですよね。原根健太君は『ディズニーロルカナ』でも活躍していて、ヤソ(八十岡翔太)は『MTG』プレイヤーという枠に留まらず、プロカードゲーマーとして活躍の幅を広げています。
カードゲームというジャンルの遊び方が昔よりもしっかり確立されてきたわけで、これは『MTG』だけでは無理ですからね。昔は“カードゲーム=オタク”のイメージだったと思いますが、そこから変わってきましたよね。とくに『ディズニーロルカナ』では、女性プレイヤーも増えてきましたし。
――カードゲーマー全体が増えると、自然と『MTG』プレイヤーも増えるという考え方もあります。
黒田
それもありますね。実際、『MTG』のおもしろさはダントツですから。
――『MTG』への信頼がすごい。

――最後に聞かせてください。最近、僕の周囲でも『MTG』のおもしろさゆえに、仕事を辞めて『MTG』にオールインした子がいるんです。ただ、以前よりもダラダラと練習している印象があります。こういうのは黒田さんから見てどうなのでしょうか。
黒田
オールインはやめたほうがいいです。いまの日本に『MTG』の競技活動だけで食べていける人がどれだけいるのか。配信の活動を抜きにして、大会成績のみに絞ったら難しいでしょう。
学生時代に、僕をチームに拾ってくれた親分にも言われた言葉があります。

「『MTG』だけで食っていけるという甘い考えは捨てろ」
黒田
当時、チームに入る条件のひとつとして、高校生はダメだったんですね。まずは勉強が最優先。高校を卒業してから入りなさいというルールでした。親分みたいな人と出会ったお陰で、僕自身も正しい考え方を持てたというか、人生のいい土台が作られました。僕がプロツアーで初優勝できたのは、その方が亡くなられてからでしたが、優勝時はチームのシャツを服の下に着ていました。優勝後に親分の家にお邪魔して優勝の報告ができたので、よかったかなと。
――無茶ぶりな質問から何ともいい話に……。本日はありがとうございました。
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